ウェスタンについて簡単に…

前回ウェスタン・ブロッティングの名前の由来について触れたところで、あんまり面白いとも思えませんが、続いてはこの検出手法の詳細を見てみるとしましょう。

サザン(DNAの検出)、ノーザン(RNAの検出)、ウェスタン(タンパク質の検出)と、似たようなテクニックでやられる技法があるとも書いていましたが、実際、実験の流れとしてはどれもほっとんど同じです。

これも前回ラストにチラッとだけ書きましたが、ごく簡単に手順を要約すると、

(1) 手持ちのサンプル(大抵、血液サンプルとか、細胞や菌体を懸濁した液とか色々なものが含まれるもので、この中に、見たい分子が存在するかを確認するわけですね)を、ゲルの中に流して、電気の力で大きさごとに分ける(ゲル電気泳動

(2) ゲルの中では分子は割と自由に動けてしまうので、その泳動で分けられた場所にサンプルを固定するために、特殊な膜(メンブレン)にサンプルを移す!(このステップが、いわゆるブロッティング

(3) メンブレンに固定されたサンプルに、「そのサンプルを認識して結合する分子」(ウェスタンなら抗体)をぶっかけてやる

(4) 抗体が結合したかを、検出試薬をぶっかけて、目で見てチェック!

…という流れになります。


相変わらず文字だけでは分かりにくいので、図を見てみるとしましょう。

ウェスタンのページにはちょうどいい概念図がなかったので、ノーザンのページから引っ張ってきました。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ノーザンブロッティングより

RNA」が「タンパク質」、結合させるのがオタマジャクシみたいな分子じゃなくてY字型の「抗体」である点を除き、ほぼ全く同じ流れになります。

まず、左上にSampleとありますが、これが先ほど書いた、血液とか、細胞懸濁液とか、そういう今調べたいサンプル(検体のこと)ですね。

そこから続いてRNA Extraction(RNA抽出)とありますが、まぁこれは、見たいサンプルから、不要な成分を除去するステップになります。

もちろん、よりキレイな物質を使えば結果もキレイになるので、なるべくゲルに流す前にサンプルをキレイにした方がいいとはいえますが、特にタンパク質の場合は、細胞を破砕した液(破砕方法は、超音波処理とか、他にも物理的にすり鉢みたいなので破壊するなど色々あります)そのまま使うこともあるぐらいです(DNAやRNAと違って、タンパク質を簡単に効果的に抽出する技術は、あまり有効なものがないため)。

まぁその辺は用いるサンプルや実験に応じて、ってことで、ここで深追いする話でもないでしょう。

サンプルを用意したら、Electrophoresis(電気泳動)ですね(先ほどの、ステップ(1))。

先ほどの図ではゲルが黄色い四角で、その中にサンプル由来のバンドが何本か描かれていますが(この図の実験では、3種類のサンプルをテストしている感じですね)、実際は、ゲルは透明ですし、バンドも、この時点では目に見えません(分かりやすく、イメージを図に示しているだけ)。

バンドを見るためには、ゲルを染色してやる必要がありますが(DNAやRNAなら、以前紹介したエチブロなどで染められるし、タンパク質の場合は、クーマシー・ブリリアント・ブルーというなんともカッチョいい名前の色素で染めることが多いです)、ブロッティングをする場合は、検出したいものはもっと後で見ることになるので(DNAやタンパク質がゲルの中に大量に存在するのは明らかなのでこの時点で染色する意味はなく、知りたいのは、「特定の気になるタンパク質が存在するか?」ということだから)、この時点での染色はしません。

ただ、何もないとゲルの向きや「どの辺にどのぐらいのサイズの分子が存在するか?」といったことが分からないので、(以前DNAのゲルでも出てきましたが)サイズマーカーというものを脇に流すことがほとんどです(というか、必ず流します。この実験例の図では省略されていますが…)。

タンパク質のサイズマーカー(見た目が「ハシゴ」状になるので、ladder(ラダー)と呼ぶことが多いです)も各社から販売されており、僕が割とよく使ってるのは、天下のThermo Fisherの、色つきラダーです。

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https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/protein-biology/protein-gel-electrophoresis/protein-standards-ladders/prestained-protein-standards.htmlより

ゲルを染めなくても、最初っから色素が結合したタンパク質が混ざっているので、「緑のバンドの位置は大きさが50のタンパク質がいる所だな」のように、泳動中に目視で確認できて大変便利なのです。


で、ある程度分離が進むまで泳動が終わったら、このゲルに存在する分子を、メンブレンに移すわけですね(ステップ(2))。

いわゆるブロッティングのステップですが、これも電気の力を使うだけの単純なものになります。

ステップ(1)ではゲルの上から下にサンプルを流したわけですけど、このステップ(2)では、ゲルとメンブレンを重ねて、いわば立体的に、ゲルに存在する分子をハンコで打ち付けるように、メンブレンへと移しこんでやるわけですね。

ちなみにゲル自体は、まぁ大体スマホぐらいの大きさで(もちろん色んな大きさがありますけど)、厚さは1 mmとかのペラペラなので、簡単にメンブレンへと移してやることが可能です。
メンブレンは、紙と布の間みたいな素材で、まぁ普通にペラペラの薄いシートみたいな感じでしょうか。図では赤くなっていますが、当然そんな色はついておらず、白いシートです。)

ブロッティングする理由は、先ほども書きましたけど、ゲルの中だと分子が勝手に移動してしまう(分子は小さいので、放っておくとゲルの中を拡散してしまいます)ので、その場所に固定してやるために、メンブレンに移してガッチリホールドしてもらうわけですね。


ブロッティングが終わったら、満を持して、「自分の気になる(検出したい)分子のみを認識して結合するもの」をメンブレンにぶちかけてあげて、気になる分子にマークをつける、という工程ですね(先ほどのステップ(3))。

DNAやRNAの場合は、核酸分子はA⇔T(またはU)、C⇔Gで手をつないで二本鎖を形成しますから、ちょうど見たい分子の相棒の鎖を使うことになります(例えば、5'-・・・ACCCGTTTAACCGGTT・・・-3'という配列をもつDNAを検出したいなら、5'-AACCGGTTAAACGGGT-3'というDNAを使えばOK、といった具合)。
Wikipediaの図では、「Labeled probes」となっていますが、これは日本語で「ラベルしたプローブ」という意味で(そのまんまですけど)、目で見て分かるように蛍光色素とかをつなげた(=ラベルした)、一本鎖DNAであることが多いです。
 特定のDNAやRNAを釣り上げるということで、「探り針」という意味のプローブという呼び方で呼ばれている感じですね。
 ちなみにDNAは元々二本鎖で存在していますが、サザンブロットのときは、それぞれが一本鎖に別れるような条件でメンブレンに移してやります。
 なので、サンプルDNAはメンブレンの上では相棒鎖とは離れた状態で固定されているので、プローブは目的のDNAと結合することができるんですね。)


一方タンパク質の場合は、見たいタンパク質に結合する抗体を使います。

こちらはこないだも出てきましたし、もう説明不要ですね。

面白いことに(まぁそんなに面白くはないですが)、ELISAのときと同様、ウェスタンでも、検出するときには抗体を2回かましてやることが多いです(っていうかほぼ必ずそうします)。

理由は、まさにこないだのELISAの記事で書いた通りで、検出感度の上昇が期待できる点、そしてそれ以上に、「発光ラベル分子付き」の抗体を何個も用意する必要がないというメリットによるものですね。

つまり、最初にぶっかける抗体(一次抗体)は、調べたい特定のタンパク質を認識する抗体なわけですが、これは実験ごと(見たい対象物質ごと)に用意する必要があります。

そして、それをいちいち発光分子でラベルしていたら、ラベルも無料ではありませんから、無駄な費用がかかってしまうわけです。

しかし、先述の通り、「一次抗体を認識する抗体」を使えば、抗体の形は(何を認識する抗体であっても)それを作った動物によってほとんど同じなので(詳しくいうと、Y字型の先端がそれぞれの認識する物質によって違うだけで、Y字の根元の部分は、どの抗体であっても、動物ごとに共通の形をもっているという感じです)、例えば一次抗体を全部ラットの作ったもので揃えておけば、値の張る「ラベル付きの抗体」は、「ラットの作った抗体を認識する抗体」を用意するだけで全ての実験で使いまわせるようになる、ってわけですね。

そんなわけで、ウェスタンでは、「ラベルなしの一次抗体」と、「特定の動物の作った一次抗体を認識する、ラベル付きの二次抗体」の2つを用いて、二度手間ですが抗体反応は2回行うのがスタンダードとなっているという感じになります。


二次抗体まで反応させたら、あとは二次抗体に付いているラベル(発光色素)を発色させて、検出装置で見てみるだけですね。

何にも面白くないですが、こんな感じのが、典型的なウェスタンの結果ですね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ウェスタンブロッティングより

こちらWikipediaから引っ張ってきた図は(何度か以前の記事で触れたこともあった)「光るタンパク質」ことGFPを検出したウェスタンのようですが、レーン1がサイズマーカー(GFPは含まれないので、ここでは何も検出されない)、レーン2-4でそれぞれ別のサンプルをテストしているようで、この結果から、サンプル2と4にはGFPが存在しており、サンプル3にはGFPが存在していない(か、あっても検出限界以下の存在量)…ということが分かった感じですね。

詳細は書かれていませんが、まぁ一次抗体として例えばラットの作ったGFP抗体二次抗体として、これはページ内の説明文にもある通り、HRPという最もよく使われる化学発光試薬用の酵素(HRPは西洋ワサビペルオキシダーゼという謎な名前ですが、まぁ名前などどうでもいいですし、長いので普段はHRPとしか呼ばれません)が結合した、「ラット抗体を認識する抗体(HRP付き)」が使われた、という実験デザインになっていると予想されます。
(もちろん、一次抗体と二次抗体の間には、「結合しなかったものを取り除く」線上(ウォッシュ)ステップも存在して、余計なものは洗い流されています。)

検出には、当然、HRPによって光る発光試薬メンブレンにぶちかけて、特殊なCCDカメラで撮影するという形ですが、一般的にECL試薬と呼ばれるこの検出試薬、ウェスタンは最も日常的にやられる実験の一つで試薬開発も花形なのか、昔は「ナノグラムのタンパク質も検出できます!」という商品を「スゲェ~」といっていたような記憶もありますけど(ナノグラム=0.000000001グラム)、近年めっちゃくちゃ試薬の質も上がり続け、今ではついにアトグラム(0.000000000000000001グラム…もはや大して違いも分かりませんが(笑))レベルのタンパク質も検出できるという謳い文句の商品も発売されています。

例えばこんな(↓)…

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https://www.fishersci.com/shop/products/supersignal-west-atto-ultimate-sensitivity-substrate/PIA38555より

これはかなり新しい商品で、実は今検索するまで知らなかったし使ったこともありませんが、僕がよく使ってるのはフェムトグラムレベルが検出できる、この最新世代より1つレベルが低いやつなんですけど(ナノ=10のマイナス9乗、ピコ=マイナス12乗、フェムト=マイナス15乗、アト=マイナス18乗で、まぁアトはナノより10億倍感度が高い、ってことですね)、それでももう十分なぐらい超高感度です。

そういう高感度な試薬だと、タンパク質が多すぎると真っ黒になって何も見えなくなるレベルではありますが、まぁまさに分子レベルで超微量なもののあるなしを見る上では(というか、どれぐらいあるか?を測定するには)、とても役に立つ試薬となっています。


…と、いきなりこんなことまくし立てられても何のこっちゃよぉ分からん可能性も高かった気がしますが、結局、何か薬剤なり遺伝子なりを生物とか細胞とかに投与して、自分の気になるタンパク質の存在量がどのぐらい増減するのかを確認できるこのウェスタンブロッティングというのは、分子生物学の根幹をなす実験である、ってことですね。

こないだも似たようなことを書きましたが、あくまでウェスタンやノーザンというのは、あらかじめ「特定の分子に着目すること」は決まっていて、その分子の量がどのぐらい変わっているかを検出するだけの実験であり、これをやることで何か新しい物質が見つかるとか、そういう類の手法ではありません。
(くどいですが、僕は初めて習ったとき、「そんな既に知られている分子のあるなしをただ確かめるだけの実験をして、何の意味があるんだ?」と疑問に思ったものでしたが、「薬を投与して、生体内で何が起こるのかを、知られている分子の増減を見ることを通して追っていく」というのも何てことはない、必要にして大切な、生命科学研究の要といえる実験だ、ということなのでした。)


何か結局クドクド長々となっちゃいましたが、まぁとてもよくやられている実験なので、ちょっと紹介してみた感じですね。

あぁあと1つ、大した話でもないですが書こうと思って忘れてました。

抗体についてですが、これは「ELISAで使えるもの」とか「ウェスタン(WB)で使えるもの」とか、色々なものが各社から発売されているので、必要に応じて、自分の実験に合ったものを入手して使う感じですね。

例えばGFP抗体だと、大手抗体会社Abcamで検索してトップに並んでいる2つがこんな感じで…

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https://www.abcam.com/products?keywords=GFPより

Application:という項目で表記されている通り)1つ目の抗体はELISAでもウェスタンでも使えますが(というか他にも様々な用途で使える、有能な抗体ですね)、2つ目は、ウェスタンで使えることしか検証されていない(保証されていない)形ですね。

…まぁ、ELISAは簡単な実験ですし、ウェスタンで使える抗体なら大抵ELISAでも使える気はしますが、どうせ買うなら、ちゃんと応用例で実証されているのを買うのがいいといえましょう。

もちろん、「どの動物が作った抗体か」も抑えておく必要のある重要なポイントですね(この図だと、1つ目がウサギ (Rabbit)、2つ目がニワトリ (Chicken) の作った抗体のようです)。


話が脱線したっきり戻れない事態が多発しているので、徐々に本題に戻っていきたい限りですが、もうちょい「見たい・調べたい分子の検出技術」について軽く触れて、その後またソーマチンの話に戻っていきたい限りです。

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