「ピュアなDNAをゲットしたい―」…そんな声にお応えして見始めていた「誰でもできるDNA精製実験」のコーナー(一言もそんな声は届いてませんが(笑))、実験室では今でもよく使われる手法として、「フェノクロ・エタ沈」という手技を紹介してくれている動画(の内、ちょうど前半にあたる、フェノクロステップ)を前回の記事では見ていました。
まぁフェノクロ処理は、毒劇物であるフェノール&クロロホルムを使うため家庭では中々できないわけですけど、これは「DNAの綺麗さ」(=「これを行えばDNAが輝く!」みたいな、分子の美しさとかそういうわけではなく、「他の分子の混入が少ない」という意味の綺麗さ、いわば「純粋さ」、より専門用語っぽくいえば「精製度」という意味ですけどね)を高めるためのいわばオプション手順という形なので、最悪やらなくても実はDNAは得られます。
(実際、キッズ科学教室では省略されていることがほとんどです。その場合は、フェノクロの代わりに食器用液体洗剤なんかを使ってる感じでした。)
一方、後半のDNAを可視化するステップ、「エタノール沈殿」の方は、これは必須と言いますか、まぁ実験の目的そのものという感じですね。
キッズ科学教室なんかでも、薬局で売っている無水エタノールなんかを活用して「エタ沈」を行うことで、DNAを目に見える形にしているわけです。
そんなわけで今回は続きとして、前回、途中まで見ていたAbnova社によるYoutube動画「DNA Extraction by Phenol Chloroform(フェノール・クロロホルムによるDNA抽出)」をまた、スクショを撮りつつ参考にさせていただくといたしましょう。
この動画も、タイトルは「フェノクロ」しかないのにちゃんとエタ沈までやってくれているわけですが、むしろエタ沈の方が「DNA抽出においては重要では?」とも思えたものの、いやでもやっぱり、細胞からDNAを抽出することそれ自体はフェノールの力で、タンパク質のみならず細胞膜も破壊することで細胞の中から取り出しているとも言えますから、もしかしたらフェノクロの方がより重要ともいえるかもしれませんね。
ある意味、エタ沈は「DNAの濃縮」に過ぎないので、「DNAを見る」というキッズ体験教室では必須ではあるものの、実験によってはむしろこちらがオプション手順だったといえるかもしれず、動画タイトルもそれを意識しているのかな、って気もしてきました。
まぁそんな言葉尻はともかく、フェノクロ・エタ沈は基本的にセットで必ずやられるぐらいに、密接につながったというか相性のいい手技(=フェノクロして、エタ沈しないことはまずない)なのは間違いない感じですね。
(……あぁ、こないだ書いていた、「カラムを使う」場合はエタ沈ではなくカラムの力を借りることもあるとは言えますが…。)
早速続きに参りましょう。
クロロホルム処理を終え、遠心後の上層(=水の層、DNAはこちらに溶け続けています)を新しいチューブに移し終えた後からですね。
(…と思ったら、クロロホルム処理に関しても「もう1度繰り返す」と03:00辺りで表示されていましたが、流石にどんなに汚いサンプルで始めても、この実験で使ってる1.5 mLの小さなチューブで実施するレベルの量なら、
「やり過ぎ。時間も試薬コストも無駄だし、フェノクロ・クロロホルム処理はやる度に少なからずDNAサンプルもロスするから(上層の全てを新しいチューブに持っていくことは不可能なため)、DNAも無駄に減っていくだけ。
意味がなさすぎるので、絶対に不要だと思う。」
…と個人的には思えてしまいますけど、まぁ企業が何か大切なDNAを精製する際は、コストは無視して徹底的に綺麗にすることを目標とする…なんてこともあるかもしれないので、何度も繰り返しやるのもありかもしれませんが……とは思えるものの、まぁ絶対不要に思えます。
(前回書いていた通り、クロロホルム単独処理ステップ自体そもそも不要だと思いますしね、実際僕は長年やってません。)
とりあえず、まぁ何回やったにせよ、フェノクロ(あるいはクロホ単独)処理して、遠心して分離した二層の上層を新しいチューブに移したところからの再開ですね。
9. 塩を加える
Add one tenth volume of 3 M NaOAc
=1/10の量の、3 mol/L 酢酸ナトリウムを加える
以前一度チラッと書いていた通り、エタ沈というのは、原理的には「塩析」という、「塩濃度が高い溶液中では、高分子であるDNAは溶液に溶けていられず、沈殿する」という仕組みを用いているため、十分な塩濃度にしてやる必要があります。
ここでは、酢酸ナトリウム水溶液(濃度は、1リットルあたり3モル……酢酸ナトリウムの分子量は約82 g/molなので、1リットルに246グラムもの酢酸ナトリウムが溶かされている、かなりの濃度であることが(食塩なんかを考えても)ご想像いただけるかと思います)を用いていますが、エタ沈で使われる塩も色々あって、それぞれ特徴が知られているんですけれども、DNA/RNAの精製で一番一般的に用いられるのがこの「3 M 酢ナト」ってやつですね。
実際僕も毎日レベルで使いまくっています。
他にもうちょっと補足しようかなと思った点もありましたが、今回もまぁとりあえず動画を進めてしまいましょう。
10. エタノールを加える
Add two volume of 100% EtOH
=2倍量の100%エタノールを加える
そして来ました、言うまでもなくエタ沈の主役、100%エタノールを加える感じですね。
これ、「2倍量」となってますが、僕は「2.5倍量」と教わりましたし、パッと調べても多くのマニュアルは「2.5倍量」としていることがほとんどに思えます。
(一応、「2倍」としているものも目に付きましたが…)
塩析を起こすためには高濃度のエタノールの存在も重要であり……これはザックリ言えば、「DNAから水分子を奪う」役割となっています。
大体70%ぐらいの濃度のエタノールが必要と言われており、「2倍量加える」場合、DNAの溶けている水(=フェノクロ処理で得られた上層)が100に対し、エタノールを200加えることになりますから、最終エタノール濃度は200/300で、66.66...%となりますが…
(正確には、水1とエタノール2を混ぜても体積は3になりませんが、でも他に1/10の塩も加えてますしね、それを考慮したら、70%割れは間違いないと思います)
一方、「2.5倍量」加えれば、水100にエタノール250ですから、最終エタノール濃度は250/350=71.43%と、70%超えは確実にしている感じになっています。
実際、(以下で後ほど出てきますが)次のステップで「70%エタノールでのリンス」をするんですけど、初めてエタ沈をやる学生とかが間違えて「最初のステップで、2.5倍量の70%エタノールを加えてしまう(100%エタではなく)」ってミスをやりがちなのですが、この場合、エタノール濃度が小さすぎて、マジで一切DNAは沈殿してきてくれません。
それぐらい、DNAを沈殿させるためにエタノール濃度は大変重要なので、僕は絶対に2.5倍量使う感じですね、補足は後でしようと思っていたのに、唐突に細かすぎる補足になりましたが…。
11. よく混ぜる
The DNA start to precipitate immediately, after mixing
=混ぜたら、DNAは直ちに沈殿し始める
DNAの量にもよりますが、動画のキャプションにもある通り、豊富な量の細胞から始めたこの動画のような場合は、エタノールを加えて転倒混和した瞬間、例の白いモヤモヤが即座に観察される感じです。
前回のフェノクロ1発目でかなりのタンパク質が除かれ、なおもまだ溶液は白く濁っていたぐらい、かなりの量で始めた実験だと思われますから、まぁこのぐらいの量だと、一瞬でDNAが視界に現れると思います。
しかし実際の実験では、ごく微量のDNAを扱うこともあり、むしろ混ぜただけでは視認できないこともある感じです(というかほとんどそう)。
なので、エタ沈では、またまた遠心することで、DNAをチューブの底に沈めるステップが必須となっています(仮に目に見えるぐらいの量があっても、いずれにせよ溶液はもう邪魔で要らないので、DNAは必ず遠心して落としてやる感じですね)。
12. 冷やす
Precipitate DNA up to 1 day at -70℃
=DNAを-70℃で、1日かけて沈殿させる
…と、「超低温でDNAを冷やす」というこのステップ、ご丁寧にこの動画でも字幕で挟まれていましたけど、何気にこのステップはエタ沈という手法が初めて開発された頃の過去の遺物であり、今では全く意味がないことが分かっています。
しかし、世界中で脈々と受け継がれた「伝統的なやり方」は根強いもので、今でも遠心前に絶対に冷やす人をよく見かけますが、これは意味がないばかりか、下手したら逆に、沈殿効率を落とすなんてことも実験的に知られているようなので、避けるべきステップだといえましょう。
気になったので「やらないステップ」なのに取り上げましたが、その辺の補足もまた後ほど、追ってしようかなと思っています。
13. 遠心してDNAを沈殿させる
Centrifuge at 13000 rpm for 30 minutes at 4℃
=1万3000 (回転/分) で、4℃に冷やしながら30分間遠心する
そしてまたまた高速遠心です。
これも、まぁ長く遠心する分には別に問題ないですけど、必ずしも30分回す必要もなく、特にあれだけ大量のDNAを使っていたこの実験なら、10分も回せばほぼ完全にDNAは白い沈殿となって回収可能です。
まぁこれは長時間回しても特に悪いことはないですが…(電気の無駄以外)。
14. 70%エタノールでリンス
Wash by 70% EtOH
=70%エタノールでウォッシュする
スクショは省きましたが、先ほどの遠心後、DNAはチューブの底に白い沈殿として存在しているので、それが失くなってしまわないよう、慎重に溶液を全部捨て去ります。
(というか、かなり重要な部分ですし沈殿の様子を見せてくれてもいいのに、動画では全く見せてくれないという不親切っぷり……
見せてくれていたらしっかりスクショを撮ったのに、全然見せてくれなかったので怒りの省略とさせていただきました(笑))
で、1stステップのエタノールを捨てたら、70%エタノールでDNA沈殿のリンスを行います。
これは、エタ沈は高塩濃度で行うものなので、塩の残留が極めて多く、この後このDNAを使って行う予定の実験で邪魔となるため行われる「洗浄」ステップであり、まぁ続く実験に関わらず、余計な塩なんて除いた方がいいですから、このリンスは必ず行われます。
既に沈殿となっているのでもう塩は不要で、しかし、水で洗ってしまうとDNAは水に溶け込んでしまいますから、ここでも70%エタノールを用います。
100%エタノールだと、効率的に塩を除けないので、「DNAは溶けないけれど、塩は溶け込んでくれる」というちょうどいい70%濃度が使われる感じです。
(先ほど見ていた通り、実際は1stステップも最終エタノール濃度は70%だったわけですけどね。)
15. 再度遠心する
Centrifuge at 13000 rpm for 10 minutes
=1万3000 (回転/分) で、10分間遠心する
まぁ既にDNAは沈殿しているのでそんなに長々と遠心する必要はないのですが、底からフワッと浮かんでしまっていることもありますから、軽く遠心してまたDNAの白沈を底につけてやる感じですね。
っていうか前回のフェノール処理のときも後で補足として書こうと思ってたんですが、相変わらず企業の作るマニュアルだけあって無駄に冗長なことをヨシとしているのか、このリンスステップで10分も遠心する意味は絶対ありません。
僕は大抵1分ぐらいで終えています、ここでまた10分も回すとか、時間無駄すぎぃ!
16. 乾燥させて、純品DNAゲットだぜ!
Air dry
=風乾させる
遠心後、またエタノール水溶液を捨てたら、(省略しましたがこの場面の少し前にもある通り、ピペットを使って丁寧に除去するのがより良いやり方ですが、ピペットを使っても壁についた液滴とかを完全には除けませんし、ある程度エタノールを除いたら)あとはチューブのフタを開けて、しばらく乾燥させてエタノールを飛ばし(エタノールの沸点は水より大分低いので、割とすぐ飛んでくれます)、無事に、ほぼ完全に純粋なDNAをゲット、って感じですね。
と、ちょうど全行程終えたところでまた完全に時間切れとなりました。
あまりにも細かすぎますが、せっかくなので次回、またちょっと各ステップの補足をつけていこうかなと思います。