病気になりやすい・なりにくいの違いは?

ここ最近唐突に深入りし始めていたアミノ酸代謝経路について、前回は芳香族アミノ酸(あの、いかにも有機化学っぽい六角形リング付きの化合物のことですね、「芳香族」というのは)であるフェニルアラニンチロシンが、アセチルCoAへと変換される道のりを、たった1つの酵素がダメになるだけで発症する代表的な遺伝子疾患に着目しながら触れていました。

この辺の話に関して、

「病気になるのはなんでその酵素(今回見ていた例でいえば、最初の酵素と4番目の酵素で発症する、フェニルケトン尿症とアルカプトン尿症)だけなん?

 他の酵素がダメになって病気になる人は、おらんの?」

…と思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、これはまぁ一口に「他の酵素は病気につながらない」と断言できる話ではないですけど、色々な要因で、「病気として発症・発覚しやすい酵素(遺伝子)・しにくい遺伝子がある」ってのはまぁあるように思えます。

 

要は、遺伝子ってのは何度も書いています通り、DNAの文字列の並び(A, C, G, Tの4文字)にすぎませんから、遺伝病ってのはDNAの文字列が変わってしまったり、欠けたり余計なものが入ったりで「情報が変わってしまう」のが原因なわけですけれども、まず前提として大きな遺伝子の方が変異が入りやすいというのはありますね。

 

(特に説明不要かと思いますが、DNA(や、それが作るタンパク質も)の文字列が変わってしまうことを、専門用語では「変異が入る」と言います。)

 

最も有名な遺伝病の一つとして挙げられるのはやはり筋ジストロフィーですが、以前、ずーっと前の分子生物学入門シリーズでも触れたことがありましたけど、この疾患につながるのは「ジストロフィン」という遺伝子の異常であり、ジストロフィンは何と約220万塩基(塩基=DNAの文字数ですね)もの長さですから、そらそんだけ尋常じゃない長さ(文庫本1冊の文字数が10万文字程度らしいので、本当に普通の活字として印刷するだけで、本20冊以上に相当!!)の情報があれば、どこかにエラーが入ってしまうのも無理からぬことといえますから、「特に重要な部位の文字が変わってしまった」という場合、ジストロフィンが上手く合成されずに不足してしまい、成長とともに筋肉が壊れやすく維持できなくなっていってしまう……という病気につながるわけです。

 

まぁ前回見ていたフェニ・チロ代謝経路に関わる酵素の実際の大きさまではチェックしていませんけど、この例に限らず、

「大きい酵素を作る遺伝子ほど、変異が入りやすい」

…というのは自然の摂理として当然ですから、「この遺伝子に異常があることで発症する遺伝子疾患は、世界中でよく見られる」という、「遺伝子ごとの違い」は当然存在するものだといえましょう。

 

また、先ほど「重要な部位の…」と書きましたが、酵素の機能に「極めて重要な部位」ってのがどの程度存在するのかも当然、その辺の話に関わってくる形ですね。

 

例えば以前、タンパク質分解酵素としてトリプシンなんかを見ていたときに触れていた話だったと思いますが…

 

(どの辺で触れていたのか検索する時間もなかったので、PDBの今月の分子のリンクを再度お借りしましょう(↓))

 

numon.pdbj.org

 

…リシン・アルギニンのお尻側を切断する機能を持つこの酵素は、上記記事の後半にある通り、分子の中ほどに存在するセリン・ヒスチジンアスパラギン酸という3つのアミノ酸がちょうど隣り合う位置に存在しており、これらが共同で働くことでタンパク質をスパッと切断可能なわけですけど、逆にいえば、この3つのアミノ酸のどれか1つでも他のに変わってしまったら、この酵素の機能はほぼ完全に失われてしまうわけですね。

 

酵素によって「どこがどのぐらい重要」かは異なるので、繊細な酵素ほどちょっとした違いで機能を失うこともありますし、逆に図太い酵素はちょっとぐらいどうでもいい領域に変異が入っても問題なく機能できる……なんてこともありますから、病気になりやすい遺伝子・なりにくい遺伝子があるのは、そこからも言える話だと思います。

 

まぁ似たような話になりますけど、「酵素の機能自体が、どれだけ落ちたら致命的か」ってのもあるといえましょう。


元々体内で大量に合成されている酵素が、あんまり重要じゃない部位に変異が入って90%の機能に落ちたとしても、実質生命活動に必要な機能は十分維持できているという形になれば、その変異は目に見える症状としては全く現れないわけですね。

 

その視点でいえば、「遺伝病には男性に発症するものが多い」のが自明の理として納得できる話になっていると思います。

 

まぁこれも以前、筋ジスの話をしたときにチラッと書いていた話ですけど、人間(というか有性生殖をする全ての生物ですが)は全く同じ遺伝子セットを、父由来・母由来から1セットずつ、合計2つ持っているわけですが、唯一の例外が「性染色体」と呼ばれる遺伝子の集まりで、女性はX染色体と呼ばれる大きなものを2本持っているものの、男性は、母親から受け継いだX染色体と、もう一つ父親由来のものはY染色体という非常に小さいカスのような、X染色体に乗っている色々な遺伝子が失われた状態のものを保有している形になっています。

 

性染色体以外の普通の染色体(「常染色体」と呼ばれますが、まぁ用語はどうでもいいでしょう)は男女とも同サイズなので、例えば父親由来の「ホモゲンチジン酸 1,2-ジオキシゲナーゼ」(これに異常があると、ホモゲンチジン酸を次の分子に変換できずに蓄積されてしまい、アルカプトン尿症になるのでした)の遺伝子にちょっと変異が入っていて10%ぐらいの力しか出せない形のものを受け継いでしまったとしても、母親由来の遺伝子が正常であれば、100%の力を発揮する酵素が十分量合成できて、生きていく上では全く問題ない可能性もあるわけです。


(あくまで「例」なので、アルカプトン尿症がどの程度の異常で発症になるかは僕は知らないですが…)

 

しかし、性染色体の場合、男性は母親由来の「X染色体」しか持たないので(Y染色体は上述の通り、「カス」ってのもあながち冗談ではなく、X染色体に乗っている遺伝子がほとんどなくなっている、非常に小さな染色体なので)、X染色体に乗っている遺伝子は、母親から異常なものを受け継いでしまうと、それがモロに、ダイレクトに自分自身の酵素合成力となってしまいますから(改めて、父親由来のY染色体は、元々X染色体の遺伝子のほとんどを欠いているため)……

…例えば母親由来のジストロフィン遺伝子に異常が入っており、10%ぐらいの機能しかないジストロフィンしか作り出せないとなると、もうそれがその男の子の持つ全てであり、要は「補償(スペア)が存在しない」ってことなんですね。

 

(なお、その異常遺伝子を持つ母親自身は、自分はX染色体を2つもっているので、正常な方のX染色体から十分な量のジストロフィンを合成できるので問題ない形になっています。)

 

実際にジストロフィンはX染色体上に乗っている遺伝子であり、したがって筋ジスは男の子にしか発症しない病気になっているという話でした。

 

(もちろん「X染色体両方が異常ジストロフィン遺伝子」なら女性も発症するわけですが、それは当然、「(その女性の)父親からもらうX染色体も異常だった」ということになるわけですけど、その場合、その男性は筋ジスを発症していることになり、子供を産めないことが多いため、普通は女性が異常遺伝子をセットで保有することはありえないわけです。)

 

他にも、色覚異常も男性特有の疾患ですけど、これもまさにX染色体上に存在する遺伝子(オプシン)の異常で発症するものだということは、これもずっと前の、「光・物を見るとは」みたいな記事で触れたことがある話ですね(↓)。

 

con-cats.hatenablog.com

 

話を「(正常な)遺伝子の量」の方に戻すと、病気はハッキリした症状として「現れる・現れない」の二択に分かれがちですけど(もちろんこれも、実際細かく見れば、より強く健康/症状には出ないけど、実は弱くて病気の一歩手前……みたいな違いもあるはずではありますが)、他にもっとグラデーションのあるものとして、お酒の強さなんかにも適用できる話ですね。

 

まぁこれも以前どっかの記事で書いていた話のはずですけど、お酒の強さは一般的に「アルデヒド脱水素酵素・2型」(脱水素酵素は「デヒドロゲナーゼ」でしたが、これは漢字で呼ばれることが多いですね)の強さに依るとされているわけですけれども、これも、遺伝子の一部に変異が入って機能が弱くなったものを、父由来・母由来の2つの染色体からどの程度作ることができるか…が、最終的な自分のお酒の強さにつながっているものだといえましょう。

 

検索したら、詳しい変異についてはこの記事で触れたことがありましたが…

 

con-cats.hatenablog.com

 

…まぁ「グラデーション」ができるほど様々な変異が知られているわけではないものの、ハッキリと知られてはいないだけで実際は細かいDNA塩基の違いで機能が微妙に違う変異もあるでしょうから、どの程度の強さの遺伝子を両親から受け継ぐかで、お酒の強さは決まるわけですね。

まぁこの辺は↑の記事でも書いていたので、その辺にしておきましょう。

 

あとはもちろん、特に代謝経路マップでいうと、仮に…

「どこかの酵素が機能せずに、本来その酵素で変わる予定だった物質が変換されない」

…という状況になったとしても、その物質をどこか別の生体反応で用いる酵素なりがあれば「過剰な蓄積」にはなりませんし、さらに言えば蓄積することで毒性が発生するかどうかもその物質次第といえますから、そういう意味でも「フェニルケトン尿症やアルカプトン尿症は、色々な不幸が重なったうえで発症してしまう遺伝子疾患であった」ということができそうですね。

フェニルアラニンやホモゲンチジン酸が他では分解されず、しかも過剰蓄積で毒性を示すものだった、そもそもこれらの酵素は変異が入りやすいとか、変異で機能を失いやすいとかそういう性質があった……などなど)

 

といった所で、ふと浮かんだ想定質問に答えてみたらかなりの長さになりました。

 

アミノ酸経路の続きは、またしても次回以降に先送りとさせていただきましょう。

 

またしても特に画像がなかったので、そういえば件の「ホモゲンチジン酸」、名前だけで構造は全く見たことがなかったので、今回はその「ホモ原始人さん」にご登場いただこうかと思います(笑)。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/ホモゲンチジン酸より

案外普通な低分子化合物で、「2-(2,5-ジヒドロキシフェニル)酢酸」という立派な正式名称があるのに謎な慣用名が使われている可哀想なやつかもしれませんけど(笑)、まぁ学生的には覚えやすくてありがたいものといえるかもしれませんね(笑)。

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