女性はモザイクだった…?

前回の記事では、男女の違いの例として性染色体を取り上げ(まぁ「違いの例」というか、それが「男女の違いの全て」ともいえるわけですけど)、

「女性はX染色体を2本持つが、実は2本あるどちらか一方のX染色体は、機能しなくなっている」


「その結果、X染色体を1本しか持たない男性(男は性染色体として、XYの2本持ち)と、作られるタンパク質の量は同じになる(X染色体が2本あるからといって、2倍のタンパク質が作られることはない)」


「なお、Y染色体はX染色体がぶっ壊れて出来たカスみたいなものであり、そもそも男は女の出来損ないのようなもんなのである」

 

…などということを書いていました。

 

まぁ最後の点は正直、あんまり自虐しても、「それを笑えるネタだと思ってる時点で、お前は本当は『男は女の出来損ないだ』なんて思ってねぇだろ」みたいな面倒くさい話にもつながりかねないのでともかく(じゃあ何度も書くなよ(笑))……


この話を聞いて、鋭い方の中には、これまた、

「え?じゃあ、あの話はどういうことなの?矛盾してない…?」

…と、ここ数回していた話の中から謎に思う部分を感じられていた方もいらっしゃったのではないかと思います。

 

どういう謎・不思議さかといいますと、ズバリ、


色覚異常はX染色体上に載っているオプシンという遺伝子の異常で引き起こされる。

 女性はX染色体を2本持っているから、1つが異常でももう1本がスペアとしてあるおかげで大丈夫だけど、男性はX染色体を1本しか持たないから、異常オプシンの乗ったX染色体を受け継いでしまったらその時点で色覚異常となってしまう。

 なので、色覚異常は圧倒的に男性に多い症例となっているのである」


…という話について……

 

「いやいや、『女性はX染色体を2本持っているけど、1つは不活性化される』って話なら、1本しか持ってないのと同じことじゃん!

 それじゃあスペアになってなくない?!」

 

…という非常に真っ当な疑問点ですね。

 

これに関しては、「上手いこと、正常な方の遺伝子のみが使われる仕組みになっているのです」みたいな形になっていれば話は単純だったのですが、残念ながらそうではなく……

(まぁ、そんな仕組みがあったとして、「どうやって正常な遺伝子を判断するのか?」「X染色体には800を超える遺伝子があるんだから、父由来・母由来、どちらのX染色体にも異常な遺伝子があった場合、どっちを優先するのさ?」みたいな話になりますから、全然単純ではないんですけどね)

…これはズバリ、何とまさかの、「どちらが不活化されて機能しなくなるかは、完全にランダムに決まる」という形になっています。

 

まぁそれだけでは「色覚異常が女性に出づらい」話の理由は全く見えてこないと思うんですけど、それに関して極めて分かりやすく、また簡潔にまとめてくれていた記事が、↓の、生命科学系の出版物でよく目にする気がする秀潤社が発行している「細胞工学」という雑誌の特集ページで目に付きました。

 

www.nig.ac.jp

 

(脱線ですが、秀潤社は、学研と合併して「学研メディカル秀潤社」を経て、今はGakkenになっていたんですね(↓))

 

gakken-mesh.co.jp

 

まぁ、上記解説記事が本当に分かりやすく伝えてくれているため、「お読みいただければ解決でしょう」と丸投げしてもいいレベルなのですが、せっかくなので画像をお借りして、概略を軽くおさらいさせていただくといたしましょう。

 

https://www.nig.ac.jp/color/barrierfree/barrierfree1-6.htmlより


…まず、何はさておき、先ほど書いていた通り、

女性の2本あるX染色体(父由来・母由来)の内、1本はランダムに不活化される

という話だったわけですけど、当たり前ですが(いや別に全く当たり前ではないかもですが)「ランダムに」と言っても、「今日はお父さんのX、明日はお母さんのXを使おう」みたいな形では決してなく、一つの細胞に着目すれば、「どちらのX染色体を使うか」は永久に決まっている……というのがポイントでしょうか。

 

要は、まぁここが中々イメージするのも難しい所かもしれませんけれども、我々生物は細胞が大量に集まってできたものであり、細かくミクロの世界で見れば、細胞を1つの単位として活動しており、「各細胞がどちらを選ぶかが、ランダム」になっているわけですね。

 

ちょうど画像の一番左・女性のイラストをご覧いただければ分かる通り、この画像では「父由来のX染色体が機能している部分」を黒い網掛けに、「母由来のX染色体が機能している部分」をそのままの肌色で表示していますが、まさにこのように、「肩のこの部分の細胞は父由来のX細胞、首のこの部分の細胞は母由来のX細胞…」という感じで、本当に完全にランダムに分かれている形になっています。

 

まぁ「ランダム」とはいえ、何でそんなにかたまってるのさ?…という話にもなるかもしれませんが、それについては……

細胞というのは元々たった1つの細胞だった受精卵が分裂して増えていくもので、その「X染色体の不活性化」は発生の割と初期に起こるものであるため…

(その辺の詳しい話にも触れてみようと思っていたのですが、時間がないのでまた先送りにしようかと思います)

…「父X細胞」が分裂してできた部分と「母X細胞」が分裂してできた部分とは、当然分裂し続けて増えたものは近い位置に陣取ることが多いので、ある程度カタマリとなって存在することになり、結果としてちょうどこの画像のように牛の斑点みたいになっていることが多いんだと思いますが、要はこのランダム性のおかげで、女性は「色覚異常遺伝子の乗ったX染色体」を1本持っていても、

「その異常遺伝子の乗った方の染色体だけが選ばれてしまって、異常型オプシンのみが合成される」

…ことはなく、そしてその結果として、女性は色覚異常にはなりづらいといえるわけですね。

 

まぁその仕組みからも明らかな通り、あくまで「なりづらい」であって「ならない」では決してないのは、現実にも少数女性の色覚異常の方がいることからも明らか…というか矛盾はない感じだといえましょう。


その辺に関するより詳しい話についても上記記事で説明があるわけですが、あぁ画像でも簡単に説明されている感じですね……実際網膜の細胞も、正常・異常のX染色体を1本ずつ持つ女性の場合、「どちらの染色体が機能しているか」はまさに「モザイク状」になっている感じでして…

…小さくて見づらいですが、図のD~Fでその様子が示されていますけれども、上手く2種類の細胞が交りあって存在していることで、完全な色覚異常は回避できることが多いと、そういう話になっているのでした。

(とはいえ、人によっては「全く異常がない人よりは色の区別がしにくい」ということは、当然あるみたいですけどね。)

 

(まぁ、巨視的に見た場合、図の左にある人間大のイラスト的に、「網膜全体がどちらかの親由来の細胞ばかりになるんじゃないの?」って気もちょっとするものの、僕はその辺の発生発達分化的な話に関してはあまり詳しくはないものの、発生の過程で目の細胞ってのは他とはちょっと独立しているとか移動しやすいとかで、他の領域より細かいモザイク状の分布になりやすい……とかがあるのかもしれませんね。

 イラスト左側の様子だけを鵜呑みにすると、ちょうど異常染色体を採用した細胞群が顔の領域に来ちゃったら完全に色覚異常になっちゃいそうな気もしますけど、現実的に女性の色覚異常者は圧倒的に少ないという事実がありますから、そんな「0か1かの博打で、異常型領域を引いたら色覚異常になる」みたいな仕組みではないことは、ほぼ間違いない感じだといえましょう。)

 

これに関して、まぁ完全に同じ話でしかないんですけど、実際に「X染色体のどちらがON/OFFになるかは、ランダムなカタマリとなって現れる」ということが目に見えて分かる非常にクリアな例として、三毛猫が挙げられる感じですね。

 

(ちなみに三毛猫に関しては、ずーっと前、最初に分子生物学入門シリーズに入ったとき、遺伝ネタで触れていたわけですけど(↓)……

 

con-cats.hatenablog.com


…何気にこの時は「X染色体の伴性遺伝」の例として挙げただけで、話がややこしくなるからか時間がなかったからか、X染色体の不活化については一切全く触れていなかった感じでした。

 まぁ今回新ネタとして触れられるということで、むしろちょうど良かったです(もしすでに語っていたら、今回の記事は何だったんだ……となるので(笑))。)

 

こちらも有名な話ですし、分かりやすく解説してくれている記事が見つかりました。

生物多様性保全を使命とされている、大変素晴らしいバイオーム社が掲載してくれていた記事から、また大変分かりやすい画像をお借りすると……

 

biome.co.jp

 

https://biome.co.jp/biome_blog_015/より

 

…まさに、父母から、O遺伝子とo遺伝子(めっちゃ分かりにくいですが、大文字小文字で、大文字ならオレンジ、小文字なら黒になる遺伝子ですね)を1本ずつ受け継いだ場合、OがいるX染色体が使われたらオレンジの毛に、oがいるX染色体が使われたら黒い毛になり、あとS遺伝子は「強制的に白い斑点を体の一部に発生させる」という機能を持つので、それらが組み合わさって合計三色のミケが生まれると、非常に分かりやすい形になっているとともに、

「使われるX染色体は、細胞ごとにランダムで選ばれる」

「そして一度どちらを使うか決めた細胞は、永久に同じ方を使い続ける(三毛猫の模様が日によって変わることはないので)」

ってことがハッキリ見て取れる好例だといえましょう。

 

ということで、何気にもうちょいX染色体の不活化について触れようと思える話があったので、またまたもうちびっとだけ続くのじゃ……とさせていただこうかと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村