少しずつ溜まっていた他の衛生ネタに戻っていこうと思っていましたが、前回のバクテリア記事で張られていたリンクに、「まぁせっかくならこれも見ておこうかな」と思えるものがあったため、今回はそちらを見てみようかなと思います。
それが、記事タイトルにもしました、薬剤耐性について!
これはまぁ読んで字のごとく、例えばこの記事で取り上げられている抗生物質(Antibiotic)というものは細菌を死滅させることができる薬なわけですけど、生物というのは凄いもので、ごくごく一部、薬をかけられたら、死ぬ前に上手いこと自分の遺伝子を変化させることでその抗生物質に耐えられるようになる菌というものが発生し、ある意味進化で選ばれていくがごとく、世代を経るごとにその薬が全然効かなくなっていく……ということが普通に起こるものでして、言うまでもなく耐性菌は「薬に耐性がある=薬が効かない=病気を治せない!」ということで、これは非常に危険なんですね。
まさにバイオハザードの世界になりかねないものなわけですが、これはやはり、微生物というのは1世代が速く(例えば大腸菌は、理想的な条件だと20分で1回分裂します)、また遺伝子DNAの構造も単純で、少しの変化がすぐに性質として現れやすい形になっている…というのがその主ない理由で、近年よく聞く「ウイルスの変異型が出た」というのもそれに近しい話がある感じですね。
そんな耐性菌について、何をどう気を付ければよいのか、今回も世界最先端の医療機関、クリーブランド・クリニックのHEALTH LIBRARY記事を参考にさせていただきましょう。
抗生物質耐性(Antibiotic Resistance)
抗生物質耐性とは、細菌が、以前は効果的に治療できた抗生物質に抵抗するように変化することです。これにより、特定の細菌感染症の治療が困難になります。抗生物質の過剰使用や誤用が、抗生物質耐性を引き起こします。医師が必要だと認めた場合にのみ抗生物質を服用することが、この世界的な健康問題に対処するための有効策となり得ます。
抗生物質耐性とは何?
抗生物質耐性とは、細菌が変化して抗生物質が効かなくなったり、増殖が止まらなくなったりする性質のことです。その結果、細菌感染症の治療は極めて困難になってしまいます。
抗生物質耐性は抗微生物薬剤耐性の一種です。真菌、寄生虫、およびウイルスも薬剤耐性を獲得する可能性があります。
人間の体が抗生物質耐性を獲得するわけではありません―細菌が獲得するのです。抗生物質耐性が生じると、特定の細菌に有効な抗生物質が少なくなってしまいます。他の抗生物質が効くことも多いのですが、できるだけ多くの治療法を用意しておくことが重要なのです。また、重篤な感染症に対しては、できるだけ早く効果的な治療を開始することが肝心です。医療従事者が抗生物質耐性の感染症治療薬を見つけるのに時間がかかってしまうと、結果はより重篤になる可能性があります。
抗生物質耐性は、病気に罹っている人の治療の選択肢を減らしてしまうため危険です。また、効果的な治療を遅らせてしまう可能性もあります。その結果、以下のような事態に直面することがあるかもしれません:
- 重症化、長期化、または死亡のリスクの増加
- 重篤な薬の副作用
- 入院期間の延長
- 受診回数が増える
- 医療費の増加
公衆衛生の専門家や政策立案者が、抗生物質耐性に対する解決策に取り組んでいます。しかし、簡単な解決策はなく、効果的な変化を起こすためには多くの人々の協力が必要です。抗生物質耐性について学ぶことは、ご自身や周りの大切な方々、そして直接出会うことはないその他多くの人たちを守るための行動を起こす助けにつながってくれることでしょう。
何が抗生物質耐性を引き起こすの?
細菌は時間の経過とともに自然に薬に対して耐性を持つようになります。しかし、以下を含む特定の要因が、そのプロセスを早める可能性があります:
- 抗生物質の使い過ぎ。必要ない時に抗生物質を服用することは、抗生物質耐性を助長します。例えば、喉の痛みの原因のほとんどはウイルスです。抗生物質は効きません。抗生物質の服用は、かかりつけの医師が必要だと言って処方した時だけにすることが大切です。
- 抗生物質の誤用。細菌は常に増殖する機会を窺っています。抗生物質を1回またはそれ以上飲み忘れたり、治療を早すぎるタイミングで中止してしまったり、他人の薬を使ったりすると、細菌は繁殖を始めます。細菌は、増殖するにつれて変化し得ます(突然変異)。変異した細菌は、薬に対してますます耐性を持つようになっていきます。抗生物質は、治療に抵抗するような変異をしていない細菌は殺すことができますが、耐性菌は残してしまうのです。
- 自然耐性。時折、細菌の遺伝子構成(DNA)が自然に変化、すなわち変異することがあります。抗生物質はこの新しく変化した細菌を認識することができず、本来可能だったはずの標的に定めることができなくなってしまうわけです。あるいは、細菌が薬の効果をなくす能力を獲得してしまう変異もあります。
- 伝播性の耐性。伝染性の薬剤耐性菌感染症を他人にうつしてしまうことがあります。うつされた人は今、抗生物質が効かない感染症に罹ってしまったことになります。通常は、効果的な治療法が存在しています。しかし、時間が経つにつれ、耐性菌はより治療が難しくなってしまうかもしれないのです。
抗生物質耐性感染症のリスクが最も高いのはどんな人?
抗生物質耐性感染症は誰にでも発症する可能性があります。しかし、健康状態や生活環境によって、よりリスクが高いグループも存在します。この危険な感染症に罹りやすい人には、以下が含まれます:
- 赤ちゃん、特に早産の場合
- 65歳以上の方
- ホームレス状態にある方、または人が密に混み合った環境で生活している方
- 免疫力が低下している方
- 抗生物質を長期服用している方
なぜ抗生物質耐性が問題なの?
抗生物質耐性が懸念されるのは、医療従事者が病気になったときに治療に使う選択肢をなくしてしまうからです。特定の細菌が特定の薬に耐性を持ち得る場合、医療従事者は、患者さんを回復させる手助けとなる、他の薬を見つける必要があります。そしてこれは必ずしも容易なことではありません。しかし、抗生物質耐性がなぜ重要なことのかを十分に理解するためには、それが世界規模で私たち全員にどのような影響を及ぼすのかを知ることが役に立ちましょう。
抗生物質耐性は世界的な公衆衛生問題です。つまり、全ての人に影響を及ぼす可能性があるということですから、あなた自身にも影響を及ぼす可能性があるのです。しかし、個々の人間が抗生物質に耐性を持つようになるわけではありません。特定の種類の細菌が耐性を示すようになってしまうのがポイントなのです。
というのも、私たち人間が細菌感染症の治療に抗生物質を使用するにつれ、その細菌が適応し始めてしまうから、というのがその理由です。サプライズ・パーティーが好きな友人を思い浮かべてみてください。最初の内は、あなた自身やグループの誰かを簡単に驚かせることができるでしょう。しかし、しばらくすると、受け手はその友人の計画を察知し、サプライズがいつ起こるかを鋭く感じ取るようになってしまいます。そのため、その友人はサプライズを実現させるために本当に努力しなければならないわけです―そして、やがては全くできなくなってしまうかもしれません。
細菌もそれと似たようなものなのです。抗生物質で細菌を「驚かせ」ば驚かすほど、細菌は抗生物質に対して賢くなります。細菌はそれを察知することができ、不意打ちが嫌いです。なので、抗生物質をかわす(抗生物質の効果に抵抗する)方法を見つけるわけです。
だからといって、人間の体が抗生物質に対して耐性を示すようになっているわけではありません。あくまでも、世の中に遍く存在する細菌(いつかは私たち自身の体に影響を及ぼすかもしれません)が、かつてのように抗生物質に簡単に騙されなくなったということなのです。そうなると、医療従事者は、特定の感染症を治療するために、他の抗生物質を探す努力をしなければならなくなってしまうわけです。
最も命に関わる抗生物質耐性菌はどれ?
世界的に抗生物質耐性感染症による死者が最も多いのは、以下の細菌です:
- 大腸菌(E. coli)
- 黄色ブドウ球菌(S. aureus)
- 肺炎桿菌(K. pneumoniae)
- 肺炎球菌(S. pneumoniae)
- アシネトバクター・バウマニ(A. baumannii)
- 緑膿菌(P. aeruginosa)
スーパーバグ
スーパーバグ(Superbugs)とは、細菌、ウイルス、またはその他の雑菌が、通常それらを殺す薬に適応してしまったものです。スーパーバグは、薬に対して賢くなっています。治療をしたのにもかかわらず、消滅するどころか増殖し続け、感染症を引き起こします。一切の抗生物質が効かない可能性もあります。
スーパーバグの状態にある細菌感染症には、以下が含まれます:
- C.diff(クロストリジオイデス・ディフィシル)
- 薬剤耐性淋菌
- メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA;Methicillin-resistant Staphylococcus aureus)
- 多剤耐性結核菌(MDR-TB;Multi-drug-resistant Myobacterium tuberculosis)
- バンコマイシン耐性腸球菌
人類は抗生物質耐性とどう闘えるの?
世界規模で物事を変えるためには、医療従事者や政策立案者が、それなりの力仕事をしなければなりません。しかしそれは、個々人が無力だということを意味しているわけではないのです。私たち自身ができることも沢山あります。以下がいくつかのポイントです:
- 良い衛生習慣を身につける。感染症から身を守ることは、抗生物質を必要とする細菌感染を避けることにつながります。社会が抗生物質を使えば使うほど、抗生物質耐性の問題はより大きくなり得ます。手洗いは、誰しもができる重要なステップのひとつです。医療従事者が、さらに詳しいアドバイスを提供してくれることでしょう。
- 抗生物質は必要な時だけ服用するようにする。抗生物質はウイルス感染には効きません。しかし時に、細菌感染とウイルス感染の症状は似ていることがあります。そのため、必要ないのに抗生物質が必要だと思うことがあるかもしれません。具合が悪い時は、医療従事者に必要な薬の種類とその理由を相談するようにしてください。
- 医療従事者が勧めるワクチンを接種する。現在、抗生物質耐性感染症の原因となるほとんどの細菌に対するワクチンは存在しません。例外は肺炎球菌ワクチンです。これは、肺炎球菌によって引き起こされる肺炎球菌性疾患を予防してくれます。このワクチンは多くの方々、特に2歳未満の子供と65歳以上の成人にとって極めて重要です。ウイルス感染を予防するワクチン(インフルエンザの予防接種など)を含む、その他のワクチンも重要です。ウイルス感染を避けることで、不必要な抗生物質を必要とする症状を防ぐことが可能となります。
医療従事者は抗生物質耐性菌をどう治療するの?
治療の選択肢は限られていることが多いです。医療従事者は、感染症に効く抗生物質の種類や薬の組み合わせを探しています。例えば、カルバペネム系と呼ばれる薬は、抗生物質耐性菌によく効く抗生物質です。医療従事者は、カルバペネム系抗生物質(メロペネムなど)を注射で投与します。
かかりつけ医が、治療の選択肢や、メリットとリスクについて説明してくれることでしょう。研究者が、抗生物質耐性菌を治療するための、より良い新しい選択肢を探し続けています。その一方で、抗生物質を適切に使用するためのガイドラインに従うことは、既存の薬が効果的な治療法に留まり続けることにつながる一助となり得ます。
抗生物質耐性UTIとは何?
医療従事者は、ほとんどの尿路感染症(UTI)を抗生物質で治療することが可能です。しかし、抗生物質耐性UTIは、一般的に使用されている抗生物質で治療しても治らない尿道、膀胱、または腎臓の感染症となっています。
ほとんどのUTIの原因は大腸菌です。通常、抗生物質でこれらの感染症は治り得ます。しかし、細菌は治療に対する抵抗力を増し続けています。例えば、大腸菌の一部の株は、広域スペクトルβラクタマーゼ(ESBL)と呼ばれる酵素を作ります。この酵素は抗生物質を分解して破壊します。そのため抗生物質が効かなくなり、感染症が悪化して治療が困難になってしまうのです。
医療従事者は、UTIの原因菌が耐性菌であることに気付かずに、一般的な抗生物質を処方してしまうかもしれません。抗生物質を1~2日服用すると、気分が良くなり始めることはあり得ます。それは、抗生物質が一部の細菌を殺しているからですが、耐性菌はまだ残っているのです。そのため、現在の薬では完全には回復できなくなってしまうことでしょう。もしその患者さんが抗生物質耐性菌に感染していることがわかれば、担当医は抗生物質を変更する必要があるかもしれません。
良いニュースとしては、抗生物質耐性UTIに効く抗生物質がいくつか存在するということが挙げられます。かかりつけの医療従事者が、ご自身に最適な薬を教えてくれることでしょう。投与量のガイドラインを必ず守り、たとえ気分が良くなってきたとしても、薬は必ず全て飲みきるようにしてください。
クリーブランド・クリニックからのメモ
病気になったとき、まず気になるのは、どんな薬を飲めばよくなるのかということでしょう。ありがたいことに、抗生物質は今なお、多くの細菌感染症に対抗する強力な手段です。抗生物質は症状を改善し、重篤な合併症のリスクを下げてくれます。しかし、時が経つにつれて、長年効き続けてきた薬に対して耐性を持つ細菌が増え続けています。このような状況は恐ろしいものですが、抗生物質耐性について詳しく知ることは、ご自身および周りの大切な方々を守ることにつながりましょう。健康維持の方法については、かかりつけの医療従事者にご相談ください。患者さん独自の医療ニーズに合わせたアドバイスを提供してくれますよ。
そう、耐性菌というのは、人類共通の敵なんですね。
今は抗生物質で楽々殺せる菌も、ふとした遺伝子変異で突然完全耐性を手に入れてしまったら……まさにバイオハザードの世界になりかねないというか、対策のない感染症の怖さはここ数年世界中で嫌と言うほど知らされたことなので、誰しもが想像に容易いことと言えるかもしれません。
今この世に存在している我々が生きている間程度であれば、既存の抗生物質は十分な強さを誇り続けると思いますが、記事内でも何度か強調されていた通り、細菌というのは本当に変異し続けるもので、
「既存の抗生物質が効かなくなる耐性菌が出現」→「効く薬を見つける・開発する」→「その耐性菌は抑えられるけれど、その抗生物質を無効化する新しい耐性菌が出現」→…(以下繰り返し)…
…ということを例えば5兆年とかやれば、恐らくどこかのタイミングで人類の手札出し尽くしによる負けがやって来て、絶対に治せない感染症が地球規模で広まり、さよなら人類……となる可能性の方が高いのかな、という気がします。
…まぁ、多分それよりも地球や宇宙の寿命の方が先に来てしまう気がしますけど(笑)、改めて、「対処のできない微生物」ほど怖いものはありませんから、将来の人類のためにも、なるべく「耐性菌出現のイタチごっこ」に協力してしまわないようにしたい限りですね。
言うまでもなく、抗生物質を使わなければ基本的に一人の人間が耐性菌を産むことに手を貸してしまうことはないわけですが、とはいえしかし、本当に必要な場合は、自分自身を救うために絶対に抗生物質の力を借りるべきだと言えましょう。
抗生物質ほど世界から感染症を減らして人類を救った優れものは存在しないぐらいに素晴らしい薬なので、たった数回の適切な抗生物質使用で耐性菌が出てくる可能性なんてゼロに等しいですし、
「俺はどうなってもいい、人類のために、俺ぁ抗生物質だけは飲まねぇと決めたんだ…」
みたいな拗らせだけは、どうかされないことを願ってやみません(笑)。
…おっと、その辺で終わろうと思いましたが、そういえばこの記事には画像がありませんでした。
まぁ耐性菌は、見た目上普通の細菌と何の違いもないですけど、代表的な細菌である、大腸菌の画像だけペッと貼って今回のアイキャッチにさせていただきましょう。
まぁこれぞまさに大腸菌の顕微鏡図ですけど、この図だと何というかただの棒で、大腸菌の特徴である鞭毛もなくて雑魚そうの極みですし(笑)、もっとおどろおどろしいものはないかな…と探してみたら、我らがCDC(アメリカ疾病予防管理センター)に、これは実際の写真ではなくイメージ図だと思いますが、いいのがありました。
…まぁあんま変わんないかもしれませんけど、大腸菌にはこんな感じでバクテリア鞭毛が生えており、こうして見るといかにもバイ菌で、触っただけで病気になっちゃいそうな、恐ろしい感じですね。
大腸菌は前回説明があったグラム染色で赤っぽく染まるグラム陰性菌なので、色もイメージカラー通りの良いイラストです、流石はCDCと言えましょう。
もちろん腸内で消化に働くいい大腸菌もいるわけですけど、中には病原性のものもあり、そいつらが耐性を獲得してしまったら…という話ですね。
抗生物質のお世話にならないのが一番ですし、記事にあった通り、衛生には十分気をつけたい限りです。