必須である理由

前回は、唐突に最後、生物のテストあるあるな問題を出すことで、偉そうに一人で悦に入っていました(別に悦には入ってなかったですけど(笑))。


そんなわけで、そちらの答え合わせから参りましょう。

 

問題に必要な、フェニルアラニンチロシン代謝経路マップの再掲からですね。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/アミノ酸の代謝分解#フェニルアラニン、チロシンより

フェニルケトン尿症は、(1)の酵素に異常が、またアルカプトン尿症は(4)の酵素に異常が生じることで発症する疾患となっている。

この場合、フェニルアラニンを含まない食事をすることで症状が見られなくなるのは、以下のいずれか。

 

(a) フェニルケトン尿症の患者・アルカプトン尿症の患者の両方

(b) フェニルケトン尿症の患者のみ

(c) アルカプトン尿症の患者のみ

(d) その食事ではどちらも改善が見られない

 

…という問題だったわけですが、まぁこれは大変簡単で単純な話だといえましょう。

 

フェニルアラニンを含まない食事」を食べることで、(1)の酵素の異常で、フェニルアラニン(およびそれが自動的に反応して生じる、ケトン体他の誘導体)の蓄積が原因で発症するフェニルケトン尿症は発症しなくなるわけですが……

しかし、「フェニルアラニンを含まない食事」は「フェニルアラニンを含まない」だけであり、その他のアミノ酸は普通に含まれる食事ですから、チロシンは含まれることになるため、チロシンは普通に代謝されていきホモゲンチジン酸にまで変換されますので、(4)の酵素に異常がある人は、ホモゲンチジン酸が次の物質に変換されず、過剰に蓄積してしまいアルカプトン尿症が発症してしまいますから、問題の答はズバリ (b) ってことですね。

 

とはいえ、時間ないときに適当に書いたものだったこともあり、この問題はちょっと不備があった形でして、「フェニルアラニンを含まない食事」というのは、実は厳密にはそれでは療法としては適切ではない形になっています。

 

というのも、フェニルアラニンというのは、ちょうど前回もリンクを貼りました以前の記事(↓)で見ていた通り……

 

con-cats.hatenablog.com

 

必須アミノ酸と言われるもので、これが完全に含まれない食事だと、それはそれで人間は生きることができないため、正しい食事にはなっていない形といえるんですね。

 

(とはいえまぁ、↑の問題では「健康的な生活ができるか?」ではなく「症状が見られなくなるのは?」であったため、一応問題を撤回しなければいけないほどの不備ではなかった、と開き直ろうかと思います(笑)。)

 

ちなみに「フェニルアラニンを含まない食事」は実際にフェニルケトン尿症の患者に向けて使われる食事であり、以下のウィ記事にある通り……

 

ja.wikipedia.org

 

フェニルアラニンを含まない特殊な栄養ミルクと、フェニルアラニンのもととなる蛋白質を含む一般の食事とを、厳密な計算のもと過不足なく摂取する

…この疾患は特に幼少期の発達に大きな影響を与えることから、乳幼児の食事管理が極めて大切であり、フェニルアラニンを含まないミルク、そしてもちろん必須アミノ酸であるフェニルアラニンを最低限確保すべく、計算された量のフェニルアラニン(のもととなる物質……具体的に何なのか分かりませんが(笑))も一緒に摂取するという形で対処されている形になっているわけです。

 

なお、同ウィ記事に、

2015年7月1日に「指定難病」に指定された

…ともある通り、この病気の根治は未だに達成されていないと思いますが、遺伝病はやはり、もちろんその機能が失われている酵素を補えば解決なわけですけど、全身くまない細胞に酵素を送るって、どうやってやればえぇねん、という話で、やっぱり結構難しいんですね。

 

また、先ほどの必須アミノ酸記事でも触れていた話ですが、チロシンは非必須アミノ酸なわけですが、これはなぜかというと……もう明らかといえましょう、↑のウィ記事にもズバリあったので、入力の手間を省くべく(笑)、引用させていただきましょう…

チロシンは非必須アミノ酸であるが、これはフェニルアラニンから生合成できるためである(フェニルアラニン必須アミノ酸)。

…ということで、普通に↑の経路を見ればわかる通り、フェニルアラニンを摂取すれば(もちろんフェニルケトン尿症の患者さんではそこが走らないものの、この酵素が正常なら)、そのままチロシンに変換されるからでして、チロシンを一切摂取しなくても、必須アミノ酸であるフェニルアラニンさえちゃんと摂っていれば、自前でチロシンを合成できるから、ってのがその理由なんですね。

 

そんなわけで、20種類のアミノ酸には「必須アミノ酸・非必須アミノ酸」という違いがあるわけですけど、基本的に「非必須アミノ酸は、(最初の画像をお借りしたウィ記事に掲載されている)アミノ酸代謝経路で、別のアミノ酸から変換されるもの」だった、って話なわけでした。

 

これまで見てきたアミノ酸経路は、他にロイシンとリシンがありましたが、これは他のアミノ酸とはほぼ関係がないやつらで……

(これらは糖新生グルコースの再合成経路に乗らない「ケト原性」アミノ酸だったわけですが、もし他のアミノ酸から変換され得るなら、そこから糖新生に入れるはずなわけですしね)

…ということで、もちろんこいつらは必須アミノ酸ですし、また、ロイシンからもリシンからも生まれるアミノ酸は特にない(まぁリシンはグルタミン酸が副産物として生まれますが、グルタミン酸はまた後で、他のアミノ酸からも変換されるものとしても出てくるので(しかも、今回貼ったチロシンも、チロシン自身が変わる次の反応で即グルタミン酸が生まれてますしね)、別にリシンがなくてもグルタミン酸は完全に非必須アミノ酸になっている形です。

 

…なんて所で、今回は次のアミノ酸経路を見ていこうと思っていたのですが、例によってあまりにも時間がない日が続いているため、この辺で一区切りとさせていただこうかと思います。

 

新しい画像は特になかったので、そんなネタを載せるのも不適切かもしれませんが、せっかくの知見として、「黒尿症」としても知られる方の「アルカプトン尿症」がどのような色になるのか、僕自身高校生物で話を聞いていただけで見たことはなかったので、写真で見てみるとしました。

 

腎臓の国際学会機関であるKidney Internationalが発行している学術雑誌に、ちょうど写真があったので、お借りさせていただきましょう。

https://www.kidney-international.org/article/S0085-2538(19)31312-2/fulltextより

もしかしたらこの雑誌は大学図書館からアクセスしないと見られないかもしれませんが、まぁ画像1枚のみの引用なら問題ないといえましょう。

 

フィギュアレジェンドにある通り、(a)が正常な尿の色、そして(b)が、放出後、しばらく放置することで、空気に触れて黒く変色した、アルカプトン尿症患者の尿の色ですね。

 

アルカプトン尿症の症状も詳しく知らなかったんですけど、↓のウィ記事によると…

 

ja.wikipedia.org

 

…幼児期は、先ほど見ていたフェニルケトン尿症とは全く逆で、「尿が黒くなる」以外の実害はないということで、これは深刻さが少なくてナイスといえましょう。

ただし、大人になるとその蓄積が色々な症状となって現れてしまうということで、やはり「色がつく」というだけの疾患ではないということですね。


こちらの治療法は、ホモゲンチジン酸の蓄積を避けるべく、一つ前の分子になることを妨害するために、(3)の酵素の阻害剤を投与するという方法があるようですけど、まだ検討段階のようで、これも根治が難しい疾患のようです。

 

前回も書いていた通り、日本では極めて稀な症例ではあるようですけど(一方、フェニルケトン尿症は、「新生児約8万人に1人の割合で起こる」とのことです)、いい治療法が開発されることを願いたい限りです。

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