たった1つがダメになるだけで…

それでは前回に引き続き、今回もアミノ酸代謝経路について、ごくごく簡単に見ていくといたしましょう。

…と、前回の記事では、最後アイキャッチ画像にも使っていました、アミノ酸を糖に変換するために最も重要なステップといえる、「窒素を含むアミノ基 -NH2アミノ酸から外す」反応で働く「分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ」という酵素についてチラッと触れていました。

 

これについてもうちょい触れようかなと思ったネタとして、前回「酵素というのは、特定の分子を別の特定の分子に変換するという、『専門性』があります。より科学的な用語としては、これを『特異性』といいます」なんてことを書いており、実際これも高校生物で習う「一遺伝子一酵素説」なんていう話にも関係してくる話で……

 

ja.wikipedia.org

 

…ってよく考えたらまぁ直接関係はしないかもしれませんけど、酵素(タンパク質)というのは特定の一つの分子に働くものだし、また遺伝子というのは、開始コドンから終止コドンまでのひとつながりのアミノ酸の並びによって指定されるものであり(DNA 3文字が、アミノ酸1文字)、「一つの遺伝子」というのは「一つの酵素」を指定しているものである……なんて話が生命科学の基本的な考え方になっています。

 

そしてそれは基本的には正しいわけですが、もちろん中には例外もあり、一遺伝子一酵素説の場合は、例えば「選択的スプライシング」というもので、遺伝子が途中で切り貼りされる結果、本来の遺伝子DNA配列とは違うタンパク質を作れるようになるなど(それ以外にも、例外の話は↑のウィ記事に記述されていますが)、「そうとは限らない」パターンもありますし…

(でも、歴史的に、まだ遺伝子の正体が何かすら分かっていなかった時代に、「遺伝子は酵素(タンパク質)を指定している」という説が提唱されたのは本当に画期的であり、また全体的な枠組みとして実際に正しい知見であった、という偉大な学説なわけですね)

…同じように、「酵素の特異性」も、必ずしも1つの酵素は完全に1つの分子だけに働きかけるものではない……というのは、前回見ていた「分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ」という名前からも明らかかと思われます。

 

「分枝鎖アミノ酸」は、結構前の「アミノ酸について」見ていたシリーズでも触れたことがありましたが…

 

(この記事とかですね↓

con-cats.hatenablog.com


…もう3か月以上も前って、時間の速さはヤバすぎますが…)

 

…いわゆる「BCAA」ってやつで、まぁこれは普通に枝分かれ構造のある脂肪族アミノ酸のことであり、具体的にはバリン・ロイシン・イソロイシンの3つなわけですけど(3つしかないのに4文字の略称って、何やねんって気もちょっとしますが(笑))、名前からも当然、その「分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ」という酵素は、前回見ていたロイシン以外にも、バリンとイソロイシンからもアミノ基を外して別の分子に移すことが可能になっている……つまり、複数の分子に働きかけることができるわけですね。

 

……というか、↑の記事と同じ頃に見ていた「タンパク質分解酵素」なんかでも、「トリプシンは、リシン・アルギニンの後ろでタンパク質を分解(切断)します」って話でしたし、それを踏まえたらむしろ、「酵素が対象とする分子は、別に全然1つじゃなくね?」って話だったかもしれません(笑)。

 

とはいえ、「分枝鎖アミノ酸トランスアミナーゼ」はバリン・ロイシン・イソロイシン以外のアミノ酸からはアミノ基を離脱させませんし、トリプシンはリシン・アルギニン以外の部位ではタンパク質を分解しませんから、対応するのは「1つの分子のみ」ではないだけであって、何でもかんでも働きかけるわけではなく、「特異性」ってのは普通に存在する感じですね。

 

…って、前回の補足だけでめちゃくちゃ長くなりましたが、まぁ実際具体的な反応についてはもう特に語ることもなさそうな感じなので、せっかくですし他のアミノ酸代謝経路についても触れて参りましょう。

 

これもあった方が分かりやすいので、まずは「糖新生の各アミノ酸の変換先まとめ画像」も改めてお借りし……

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/糖原性アミノ酸より

 

…続いては、まぁこないだはロイシンについて見ていたので、今回はもう1つのケト原性アミノ酸である、リシンについて見てみるとしましょうか。

 

リシンの代謝マップはこんな感じで…

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/アミノ酸の代謝分解#リシンより

…ロイシンよりもさらに複雑ですね!

 

実に、11個の酵素が絡む11段階の反応を経て、アセト酢酸・アセチルCoAに変換されるアミノ酸になっている形です。

(と思ったら、1と2は同じ酵素が一手に担うもので、10種類でした。これも「1つの分子のみに働く」わけではない例ですけど、まぁこの酵素もこの2つのみですしね、やはり「特異性」はあるわけです。)

 

こちらは、アミノ基の転移が4番目に行われている形ですけど、やはり一番インパクトが大きいのは一番最初の反応といえるのか、最初はまず「サッカロピンデヒドロゲナーゼ」という酵素の力で、2-オキソグルタル酸(なんでこの記事では頑なにその呼び名を使うのか不明ですが、これはクエン酸回路の「ケ」で登場する「α-ケトグルタル酸」のことでした)がまさかのマルッとくっつくことで、分解どころかむしろ大きくなる反応から始まるわけですけど、出来上がるのは酵素にも名前が冠されている「サッカロピン」という分子になっています。

 

まぁこの代謝経路以外では見ることもない分子ですが、生命科学系の人にはあまりにもおなじみ、酵母の学名はSaccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ的な発音)なので、この名前を見たら、

「あぁ、酵母から単離された分子なんだろうな」

…と推測がつくわけですけど、この酵素に問題があると、リシンを代謝・分解(最初は縮合・合成ですけど)することが一切できなくなるので、ウィ記事の方にも、

リシン分解系の最初の酵素が欠損してサッカロピンが合成されないと、高リシン血症、高リシン尿症となる。

…という記述がありました。

 

何気にこれは重要な話、かつ分子生物学的知見がハッキリと現実に結び付いている話で、一遺伝子一酵素説同様、これまた高校生物でも必ず学ぶ話になっています。

 

…といっても、高校生物では、少なくとも僕の時代はサッカロピンにまで触れることはなく、もっとメジャーなものが取り扱われていました。

 

ちょうど、同じアセチルCoA(アセト酢酸)に変換されるアミノ酸がその「メジャーどころ」の代謝経路なので、上記リシン代謝経路は「長くて複雑ですね!」以上のことはもう特になさそうなので(笑)、とっととそちらの方も見ていくといたしましょう。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/アミノ酸の代謝分解#フェニルアラニン、チロシンより

そう、こちらフェニルアラニンチロシンは、どちらもベンゼン環を持つアミノ酸(というか、フェニルアラニンに-OH基がついたのがチロシン)なんですけど、こちらはまさに、「フェニルアラニンに-OHがついてチロシンになる」という反応から始まる反応の流れになっているわけですが、これは逆にいうと、

フェニルアラニンはこの反応でチロシンにならないと、それ以外に変換される代謝経路が一切存在しない」

…という形になっているのです。

 

これがどういうことかにつながるのかといいますと、まぁ今回は糖新生で触れ始めたアミノ酸代謝のネタでしたけど、アミノ酸は必ずしも糖新生のときのみに変換されるわけではなく、その他非常に様々な生体反応で必要に応じて変換されるもので、むしろ生きていく中で適宜変換されないと体内に過剰に溜まってしまうものにもなっていまして、ズバリ、フェニルアラニンチロシンに変換できないと、尿の中にフェニルアラニン(や、それが勝手に変換されてできる物質……代謝産物ではないので、有効活用されないし、有害)が蓄積してしまう、PKUとも略される、いわゆる「フェニルケトン尿症」という病気につながってしまうんですね。

 

ja.wikipedia.org

 

詳しくは上記ウィ記事に書かれている通りですが、まさに先ほどから書いている通り、この反応を正しく引き起こす「フェニルアラニン 4-モノオキシゲナーゼ」というたった1つの酵素が正しい形で作られないだけで、フェニルケトンは体内で一切正しく代謝できなくなってしまい、尿症を発症してしまう形になっています。

 

また、この「フェニアラ・チロシン代謝経路にはもう一つ代表的な遺伝子疾患がありまして、それが4番目の「ホモゲンチジン酸 1,2-ジオキシゲナーゼ」に異常がある場合で、この場合は「アルカプトン尿症」が発症してしまうことが知られています。

 

ja.wikipedia.org

 

高校生物で、「アルカプトン尿症」と「フェニルケトン尿症」はセットで学ぶ話で、しかも、正直そこまで覚える必要はないんですけど、アルカプトン尿症の原因物質が「ホモゲンチジン酸」という、日本語でのインパクトがあまりにも強すぎる名前なのでついつい憶えてしまうネタになってるんですけど(笑)、まぁそれはともかく、実際笑いごとにしてはいけない、尿がそのホモゲンチジン酸の蓄積のせいで真っ黒になってしまうという難病になっています。

(幸い、上記ウィ記事によると、日本では極めて稀な疾患であるとのことですが…)

 

よくある生物の試験問題として、↑でペタリと貼り付けました「フェニ・チロ」の代謝マップを示して(流石に具体的な物質名は高校生物で覚える必要はないため、具体的な代謝経路の情報は必ず問題文に与えられるはずですが)、

 

フェニルケトン尿症は、(1)の酵素に異常が、またアルカプトン尿症は(4)の酵素に異常が生じることで発症する疾患となっている。

 この場合、フェニルアラニンを含まない食事をすることで症状が見られなくなるのは、以下のいずれか。

(a) フェニルケトン尿症の患者・アルカプトン尿症の患者の両方

(b) フェニルケトン尿症の患者のみ

(c) アルカプトン尿症の患者のみ

(d) その食事ではどちらも改善が見られない」

 

…みたいなのが、よく問われる形ですね。

 

ちょうど時間がなくなってしまったので、次回はその答から再開するといたしましょう。

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