男は女の出来損ないだった…?

前回の記事では、フェニルケトン尿症やアルカプトン尿症(黒尿症)といった遺伝子疾患の例から、病気として発症しやすい遺伝子・しにくい遺伝子というのは普通にある感じになっているのです……ということをツラツラと説明していました。

その中で、性染色体の例を挙げ、

「男性は沢山の遺伝子が乗ったX染色体を、母親由来の1本しか持たない……要は『補償(スペア)が存在しない』ので、X染色体上の遺伝子異常に弱いということ……

 筋ジスや色覚異常が男性に傑出して多いのは、それが理由なんですね」


…ということを書き、また他にも、


「遺伝子から合成されるタンパク質(酵素)の量で、その酵素がどれぐらい機能するかが決まる……

 例えば、お酒分解酵素は、一番分かりやすい違いとして正常型の『強いタイプ』と、アミノ酸が1つ変わって機能が落ちた変異型・『弱いタイプ』という2種類の遺伝子があることが知られているけれど、父・母それぞれから『強・強』を受け継いだらお酒には圧倒的に強いし、『強・弱』ならそこそこ(日本人はこれが一番多いはず)、『弱・弱』だと、お酒が全く飲めなくなるということで、これはひとえに、『体内で作られる正常な酵素の量」に応じているわけですね」


…といったことにも触れていました。

 

ここで鋭い方ですと……

「なるほど……って待てよ、そんなら、『男の持つY染色体は、X染色体に乗っている遺伝子がほとんど全く乗っていない』って話っちゅうことだったから、X染色体から合成されるタンパク質というのはどれも、『女は男の2倍作られる』ってことなの?」


…と思われる方がいらっしゃるかもしれません。

 

実際、X染色体上には約800個もの遺伝子(生きる上で色々な反応に関わる大切な酵素(のレシピ))が乗っており、一方Y染色体には、精子形成など「オス」の機能に関わるごく限られた、約60個程度の遺伝子しか乗っていないことが知られています。

 

そうすると、「そのX染色体から作られる800種類のタンパク質の量の違いが、男女の違いを決めているのかな?」と思われるかもしれませんが、実はこれは全くそうではなく、非常に面白いことに、女性は発生の途中で、

「2本あるどちらか一方のX染色体が、機能しなくなる」

ようになっているのです。

 

これを「X染色体の不活化(または不活性化)」と呼んでおり、何てことはない、女性は2倍の量のタンパク質を持っているわけではなく、その不活化のおかげで、男女とも細胞から作られる(X染色体由来の)タンパク質の量は概ね同じになっているのでした。


というかむしろ、男性は女性にはないY染色体からもタンパク質が作られるので、むしろ男性の方が体内で作られているタンパク質の種類は多いということになりますね。


…とはいえもちろん、細胞の持つ全遺伝子がいつでもどこでも全て発現(=タンパク質の合成スイッチがON)されているわけではありませんし、例えば女性ホルモンを作る遺伝子なんかは卵巣のみでONになっているなど、必ずしも「個体全体の持つタンパク質の豊富さが、男性の方が多い」とは限らないように思います。

(実際、「男性のみ発現」「女性のみ発現」のどちらが多いのか僕は知らないので、具体的にどちらとは言えませんが、Y染色体がない分を補う差はあるかもしれない、って話ですね。)

 

さらにいえばそもそも遺伝子が多いほど優れているわけでは決してなく、前回の記事で「Y染色体はカス」とか書いていましたけど、実はこれはそれほど誇張した話ではないものでして、現在の学説では、

Y染色体は、X染色体が退化してできたものである」

…という理論が主流となっています。

 

これは僕が高校の頃、これまで何度も自慢のように話に出している極めて授業が面白かった生物の先生が授業で話してくれたことなのですが、性染色体というのはそもそも本来どちらもしっかり遺伝子の乗ったX染色体だったのですが、それが進化の過程、何らかの原因でぶっ壊れてカスのようなものになったのにたまたま残ってしまったものがY染色体だと考えられている…

(というか、Y染色体の発生過程が、一度X染色体としてできたものがなぜか途中でぶっ壊されてできる……みたいな面白い学説だった気もしますが、豆知識として紹介してくれた学説の細部は忘れてしまったものの、いずれにせよ「Y染色体はX染色体が壊れてできた失敗作」って感じですね(笑))

…という説を紹介してくれ、続けて先生は……


「だから男ってのは、進化・発生の途中でぶっ壊れてできた、女の出来損ないともいえるわけなのね。

 要は、俺たちはエラーから生まれたカスみたいなもんってことだから、それを自覚して生きていこうな(笑)」


…みたいな話を非常に面白おかしく語ってくれまして、もちろん僕は男子校出身なので女子に媚び売ってるカス先生というわけでもなく、純粋に自虐的なギャグでそこにいるオス全員が爆笑するという和やかな面白トークだったのですが、これは印象的で今でも覚えてますねぇ~。

(とか言って、紹介された話の細部は一部忘れてしまってますけど(笑))

 

ちなみに、これは別に勝手にその先生や僕が面白おかしく語っている話ではなく、実際「進化論的に見てそうだと思われる」という話でして、例えば、ソースとしてはやや弱いですけど、日本語記事でも以下のリンクなんかで、All Aboutで医学系記事を執筆されている西園寺さんというお医者の先生が……

allabout.co.jp

 

なおY染色体は、X染色体が、退化してできたというのが、現在の定説です。
ということは、男性は退化した女性という別の解釈も可能です。

…のように書かれていますね。

 

他にも、まぁ実際の学術的な話は原著論文にあたるのが王道なのでそちらも紹介してみますと(とはいえ時間もないので、今回は中身には深入りしないものの)、パッと検索したものでも、「The degeneration of Y chromosomes(Y染色体の退化)」というタイトルで、「Y染色体は遺伝的に退化したものである」という説を、進化論と結び付けながら提唱した研究事例をいくつか紹介してくれているレビュー記事が見つかりました(↓)。

 

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

 

ということで、まぁ別に女性に媚びを売りたいわけじゃないですけど、実際現実的に見ても「俺たちはエラーから生まれたカスだろ(笑)」って思えることも多いですし(笑)、進化的にもズバリ、「男は女の出来損ないだ」と、その説は僕は大変好きな感じになっています。

 

話を本筋に戻しますと、女性はX染色体を2本持つため、先ほどのAll Aboutの記事でも書かれていた通り、それだけ「多様性を持っている」といえるわけですけれども、とはいえ改めて、「遺伝子を多く保有している」ことが必ずしも一概に「タンパク質が2倍出来てお得・より良い」ということにはならない感じでして、一番有名な話としては、例えば21番染色体が人よりも1本多い状態、いわゆる「21トリソミー(tri=トリプルのトリで、3の意味ですね)」になるとどうなるかといいますと、これはどなたもご存知かもしれません、ダウン症となるんですね。

 

ja.wikipedia.org

 

…まぁ、冷静に考えたらダウン症を「異常」とか「障害」と分類するのはどうなんだろうか、ということもいえるわけですが…

(これは別にポリコレ的な配慮とかそういうことではなく、もっと哲学的な意味でという感じで、他者を異常認定するとか「お前は本当に正常なの?」と思える…とでもいいますか、それこそ「X染色体がぶっ壊れてできた失敗作を持ってるのが俺ら男」という例の考え方から言えば、男は全員出来損ないとも言えますしね)

…とはいえまぁ一般的には「遺伝子疾患」と分類されますし、客観的な試験で判定されるものからは「軽度の知的障害を持つことが特徴」とされている症候群につながるわけですね。

 

…と、話はそこからもう一つ、「X染色体の不活化」ということから誰しもが感じるであろう疑問について触れていこうと思っていたのですが、今回もまた時間が限界ギリギリなため、そちらは次回持ち越しとさせていただこうと思います。

 

今回も特にアイキャッチ用に使えそうな画像がなかったので、まぁその「エラーで生まれたカス」ことY染色体の画像をお借りして、「これのせいで俺らは出来損ないなんだ」と自戒の念を強めておこうと思います(笑)。

https://en.wikipedia.org/wiki/Y_chromosomeより

英語版のウィ記事では、トップに(日本語版記事にはない)染色体の拡大画像があったので、あえてこちらからお借りしましたが、まさに、赤枠の横にあるX染色体より遥かに小さいゴミのような染色体ですね(笑)。

(まぁ別にどの染色体もただの黒いシミなだけで、どれも等しくゴミでしかないっちゃない(拡大する意味もまるでなかった)感じかもしれませんが(笑)。)

 

画像スクショで切り取った部分のすぐ下にあったデータによると、Y染色体の長さは6246万29塩基で、遺伝子の数は63とのことですね。

(ちなみにX染色体は1億5425万9566塩基・遺伝子数は804ということで、やはり遺伝子の数は10倍スコア以上の、圧倒的な差といえましょう。)

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