(続き)病気と遺伝について:遺伝子って変わるの?

前回、長くなりすぎて収まりきらなかったご質問への回答を続けてみようと思います。

改めて、いただいた質問の、途中になってた部分から再掲しておきましょう。

Q. そもそも、遺伝子って、(病気のものでも)もってても発症しないこともあるんでしょ?(←筋ジス患者の母親とか。)それでも、子に病気が遺伝してしまう場合もあるって話だったけど、それって、絶対に遺伝だってわかるのか?親からの遺伝以外で変異したかもしれない可能性はゼロ?DNAを調べればわかるとかそのレベル?

さらに、「どの遺伝子がこうだからこれがうまく作用しなくて結果そんな症状になる」みたいな原因が解明されてない病気とかもあると思うんだけど、その場合でも、遺伝によるものかどうかとか、わかるのか?

書いてて自分でもややこしくなってきてしまったが、疑問点を大まかにまとめると、以下の2点…
「親からの遺伝以外の遺伝子の変異は遺伝病なのか?」
「親からの遺伝によるものでない病気の場合は(原因でなく結果としてでも)遺伝子は全く関係ないのか?」


⇒まず、メンデルの優性(顕性)の法則により、えんどう豆でいうと、丸(A)とシワ(a)の遺伝子を1つずつもっていたら(遺伝子型Aa)必ず丸になるのと同じで、正常型と異常型の遺伝子を1つずつもっている場合、その遺伝子型をもつ本人は発病しない、というのはその通りですね。
(筋ジス(DMD)の場合など。ただし、これはあくまで遺伝子次第で、正常型と異常型の遺伝子を1つずつもっていた場合、正常と異常の中間の性質を示すものも存在します(たびたび登場の、お酒分解酵素ALDH2とかがまさにですね)。)

ちなみに、正常型と異常型の両方をもっているけど、自分自身は正常な表現型を示す人を保因者と呼びます。

男の子はX染色体を1本しかもたない(そして、それは必ず、母親由来。父親からはY染色体を受け継ぐから)ため、特にDMDなどの伴性遺伝の例でよく見かける用語ですが、保因者の母親からは、1/2の確率で異常型の遺伝子を受け継いだ男の子が生まれるわけですね。

ただし、別に母親に限らず、性染色体ではない、別の染色体上で異常型遺伝子が知られているものであれば、父親も保因者になり得ます。

例えばフェニルケトン尿症は12番染色体に乗っているフェニルアラニン水素化酵素PAH)という遺伝子が両方異常型だと発症することが知られていますが、父親も母親も保因者だった場合に限り、1/4の確率で子供が両親ともから異常型遺伝子を受け継ぎ、発症してしまうという形ですね。
(正常型をP、異常型をpと書くと、父Pp × 母Ppで、子供の遺伝子型は、P父P母、P父p母、P母p父、p父p母(このパターンで発症)のどれかになるから。)

父親母親どちらかが保因者でも、もうどちらか一方が正常型のみをもつならば、子供がフェニルケトン尿症を発症することはありません。

この場合、子供が「保因者になる」確率が1/2ですね(父Pp × 母PPで、子供はPPかPpが1:1になる)。


…というのが原則ですが、前回書いた通り、遺伝子は、生きている限り、常に変異してしまう可能性を秘めています。

だから、正常型の遺伝子しかもたない両親から異常型の遺伝子を持つ子供が生まれる可能性も、普通にあり得るんですね。

…あり得ますが、それはごく小さい確率なので、親が保因者だった場合は、普通に考えて、子供は親の異常型遺伝子を受け継いで発病に至ったという可能性の方が高いといえましょう。

ただし、例えばDMDですと、これは超巨大遺伝子で、突然変異が入る確率がかなり高いですから、母親が保因者ではなかったのに子が発症というパターンも大いに考えられます。

どの場合でも、「実際に親の遺伝子が子供に伝わった結果の発病なのかどうか」は、親と子それぞれのDNAを調べれば判別可能になります。

DMDの場合、ジストロフィン遺伝子の一部がごっそり抜け落ちてしまう変異が多いですから、詳しい配列まで見なくとも、遺伝子のサイズを見るだけでどのような変異があるかを調べれば十分なことが多く、恐らくそれなりに簡単な診断になっているのではないかと思われます。
(実際にDMD患者さんのDNAを見たことがあるわけではないので、想像ですが。)

以前も書いた通り、DMD患者の内、母親と同じジストロフィン遺伝子の変異をもっているのは6割ほどであり、残り4割は、突然変異によって生じたものである(母親の遺伝子と一致しない)、ということが知られているようなので、必ずしも母親が息子に異常遺伝子を託してしまったというわけではないということに注意する必要があると思います。


ご質問の続き、「原因が解明されてない病気が、遺伝によるものかどうか分かるのか?」は、これはまぁ、「原因が解明されていない」なら流石にどの遺伝子かは分からないですが(それが分かるなら『原因が解明された』になるので)、先天的に発病するものであれば、普通に考えて何かの遺伝子が異常になっているとは考えられるでしょうね。

同じ環境で問題なく生育している人がいる以上、何か問題ある所見を示すのであれば、それはやはりその人の内部=遺伝子に何かおかしな点があると考えるのが普通だと思います。
(生後すぐなら、長年の生活習慣が…ということも考えにくいので。)

1つの遺伝子だけではなく、複数の遺伝子が関与しているかもしれませんが、いずれにせよ、「原因遺伝子は不明だけど、先天的に発症する病気」というのはまだいくらでもありますし、原因遺伝子を発見したら、恐らく発見者の名前が病名に付けられることでしょう。

DMDも、まぁこれは遺伝子の発見ではなく症例を初めて報告した人ですが、デュシェンヌさんによって報告されたものなので、それまでは謎の奇病扱いだったでしょうし、科学の発達で、今後ますます原因不明の病気の原因遺伝子が解明されていくことが期待されます。
(ただ、原因となる遺伝子&異常の部位までがハッキリ分かっても、それが即根治につながるわけではないのは、残念ながらDMD如実に証明してしまっています…。
 しかし、将来、必ず治療法は見つかるように思います。なるべく早く見つかり、多くの人が救われることを願ってやみません。)


最後、ご質問では疑問点のまとめがありましたので、回答の方もまとめて並べておくとしましょう。

「親からの遺伝以外の遺伝子の変異は遺伝病なのか?」

⇒これは、そもそもネーミングがちょっとよくない気もするけど、親からの遺伝以外でも、遺伝子に異常があることで引き起こされる病気は、基本的に遺伝性疾患と呼ばれると思います。


「親からの遺伝によるものでない病気の場合は(原因でなく結果としてでも)遺伝子は全く関係ないのか?」

⇒発病の原因として、遺伝子が直接的には全く関係ない病気も、当然あります。

ウイルスの感染なんかは(当然、かかりやすいかかりにくいなどの若干の個人差はあると思うので、「遺伝0環境100」とまではいえない、というのは前回も書いた通りですが)、病気の原因も、病気にかかった後も、遺伝子が異常だったから発症してしまったとか、治った後でも遺伝子が異常型に書き換わってしまったとか、そういうことはありません。

例えば「人間をハンマーで殴り続けると死ぬ」のと同じように、「ウイルスを大量に体内に取り込んでしまうと発病」であり、これらはどちらも健康が害されていますが、別に遺伝子とは直接的には何も関係ないのです。
(「鉄アレイで1万回全力で殴ったら、相手が死んでしまった!原因は……遺伝子が何か悪さをした…?」とは絶対ならない(んなアホな(笑))のと同じですね。)

また、色々な病気で後遺症とかもありますが、これも、基本的には「遺伝子が書き換わってしまった」なんてことはないと思います。

遺伝子DNA自体は病気の前後で何も変わっていないけど、もっと高次元な所で、例えば「肝細胞自体が死んでしまった」とか、「高熱になりすぎて、生殖細胞を作る器官が壊れてしまった」とか、逆にポジティブな方でいえば、「感染したことでそのウイルスの抗体が体内にできたから、もう同じウイルスには二度とかからないぞ」とか、要は、遺伝子よりもっと大きい視点で、モノが破壊されたとか、DNAの設計図(遺伝子)自体は生きてるけれど、それを作るマシーンや工場が失われたとか、免疫ならそのウイルスに対する抗体を作るスイッチが入ったとか、そういう変化があったとはいえますが、遺伝子(DNAの文字情報)自体は変化していません。

基本的には、遺伝子よりもっと高次元の細胞とか器官の機能がやられる(高機能なものは、それだけ壊れやすいですからね)、あるいは、もっとミクロな視点であっても、「DNAに描かれた設計図から、タンパク質が作られる」という流れでいう所の、最上流である設計図自体は変わらないんだけど、それより下流である「遺伝子のスイッチがおかしくなる」とか、さらに下流の「(実際に色々な機能をもって働いている)タンパク質が攻撃される(機能が低下する)」…というのがほとんどでしょう。

遺伝子DNA自体が直接ダメージを受けることは、あまりないように思います。

まぁ「基本的に」とか「あまりない」とか、ぼやかすなよ、断言してくれよ、と思われるかもしれませんが、生命科学なんて特に、ほとんどのことで断言ができないフィールドなんですよね。

ただこの場合は、実は明らかな例外もあって、放射線紫外線は、二重らせんのDNAに、直接ダメージを与えてきます。

強い放射線はDNAを物理的にズタズタに引き裂くほどの力がありますから、これを食らうとどうなるかは、臨界事故の歴史が示している通りといえましょう。

でも、ウイルスを含む感染症や病気みたいなもので、DNAが書き換わるようなことは、仕組み的にも難しいんじゃないかなぁ、って気がします。

もちろん、世の中には、未知の「遺伝子DNAの情報を、都合よく好きなように書き換える」みたいな何かスゴいやつが存在するかもしれませんが、DNAは二本鎖で修復も容易ですし、何だかんだ2つずつありますし、やっぱり、自分がもしウイルスだったとしたら、もっと攻めやすい所を攻めますよね。

仮に遺伝子書き換えに特化した毒薬兵器みたいなのがあったとしても、何十兆もある細胞の、厳重に守られてる核の中にまで侵入して、1つ1つ書き換えるのぉ?そんなの手間かかり過ぎとちゃいますぅ?…って気がしますしね。

まぁでも、生殖細胞に侵入し、生殖細胞のDNAを好きなように書き換えて(生殖細胞には普通の細胞の半分のDNAしかない(全遺伝子一式のみで、予備がない)ので、他の細胞よりは幾分楽でしょう)、本人ではなくその子孫を操るようにする…なんてクッソイヤらしいタイプの攻撃は、まぁもしできるなら結構効果的で、人類の支配(あるいは滅亡)につながるかもしれませんが、流石にそんな高等なやつはいないでしょう。

…いないよね?

……実はもう、どこかに存在して、徐々に侵略を開始していたりして……。


…と最後SFチックな〆にしましたが、基本的には、日常生活の食事や病気で、自分の遺伝子が大きく変わってしまうなんてことは、ほとんどあり得ないと断言して構わないでしょう。

逆にいえば、前述の通り遺伝子DNAは生命活動を送る上で常にエラーが発生していますが、そういうのを修復する機構は普通に備わっているので、少々DNAが攻撃を受けても、遺伝子が変わっちゃうなんてことはないわけです。

むしろ、そういうちょっとした変異が、逆にいい方に作用することだってありますから(突然変異は、進化の推進力の1つです)、「絶対に1文字も変わりたくねぇ~。…何?紫外線浴びたらDNAがダメージ受けるの?こっわ、これからは全身にアルミホイル巻いて暮らさなきゃ…」などと不要に怖がる必要はありません、って感じですね。


とりあえず一通り現段階でまとめられそうな質問はつぶせた気がするので、分子生物学入門編、次回以降、また少し進めていくとしましょう(って、どこに進むのか、まだ何も考えてませんが)。

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