物を見るとは

前回はビタミンAの素(もと)となるカロテノイドの構造なんかに触れていましたが、こいつらが実際、現実世界でどうやって働いているのかを、ごくごく簡単に、高校生物の範囲内ぐらいの話で見ていくとしましょう。

何度も書いている通り、ビタミンAすなわちレチノールは光や色の認識に働いていますが、これに限らずほぼ全てのビタミン・ミネラルがそうであるように、複雑な機能を発揮する上での主役というか重要な部分は、おなじみタンパク質が担っています。

ビタミンやミネラルといった低分子は、あくまでも補助的な役割で、タンパク質が上手く機能するのを助けているという具合ですね(…と、補助とはいっても、なければタンパク質が正しく機能できない、必須因子ではありますが)。

その、視覚で働くタンパク質は何者かといいますと、以前、伴性遺伝の話から派生して、色覚異常についてチラッと語っていたこの記事でも触れていた、オプシンと呼ばれるやつになります。

オプシンには複数の微妙に違うもの(一部のアミノ酸が異なる)が知られており、それらは「感度特化」と「色特化」の2種類の細胞を形成するのですが、その辺を詳しく見ていく前に、全体的な目の構造について触れておくとしましょう。

イメージ検索しても、イマイチこれというのがなかったので、英語記事にも手を広げて見たところ、とてもいい図が見つかりました。

BCM FAMILIES FOUNDATION(赤緑色覚異常ファミリー基金という、重度の色覚以上の方をサポートするための非営利団体)の解説サイトが、とても分かりやすかったのでこちらからの引用です。

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https://www.blueconemonochromacy.org/how-the-eye-functions/より

中学理科でも触れた記憶のある重要部位の英単語も抑えられて一石二鳥でしょう。

本題とは関係ないですが一応触れておくと…

Cornea=角膜(目の保護)

Pupil=瞳孔(光の量を調節)

Lens=水晶体(英単語そのまま、カメラでいうレンズとしての役割)

Iris=虹彩(瞳孔同様、光の量を調節。瞳孔がいわゆる黒目で、虹彩がその周りのいわゆる「瞳の色」部分)

Ciliary body (CB)=毛様体(レンズの厚さを変えることで、ピント調節)

Retina網膜(光を神経信号に変える、クッソ重要な部位)

Optic nerve=視神経(神経信号=電気信号を脳へと届ける)

Cones and Rods=錐体細胞桿体細胞!今回の話の主役

…ってな具合ですね。

結局、今回の主役ビタミンAが埋め込まれたタンパク質は視細胞(2種類)を形成していますが、これらは網膜に埋め込まれているというかビッシリ並んでおり、受け取った光を神経へと伝えて、脳が「光をキャッチ!」と認識する役割をもっている、というのがまとめな感じですね。

繰り返しですが、物を物として認識するというのは結局光を認識しているということに過ぎないので、我々は目の前にある物体を見ているようで、実は太陽や照明に照らされて、反射した光(その物体というより、「その物体から反射された光」)を見ているに過ぎないと言い換えることができましょう。
(もちろん、それ自身が光を放っているモニターとかディスプレイは「そのものを見ている」ともいえますが、発光するわけではないものは、まず光源ありきで、そこから反射してきた光を見ているだけである、ってなわけですね。
 当たり前ですが、真っ暗な部屋だと、そこにどんな物体が存在していようと、我々はその物体を認識することができません!)


いうまでもなく、生命活動で一番重要なもの(まぁ呼吸とかそういう、ないと死につながるものは別格で除くとして、なくても生きることはできるものの内、ですね)がこの光認識たる視覚であるということは、恐らく異論のある方はいらっしゃらないのではないかと思います。

全体の図を見ることから始めたので、大きい方から順に見ていくとしましょう。

(もう上で何度か触れていましたけど)光を受け取るのに働いているのは、眼球のほぼ一番奥にあたる部分・網膜ですが、これを拡大して見ると視細胞が並んでおり、こいつはその形から2種類に大別されます。

1つがロッド型で、ロッドというとゲームとかで杖のイメージが強いですが、まぁこれは単なる棒、棍棒みたいな四角い形で、日本語では桿体(かんたい)細胞と呼ばれています。

そしてもう1つがコーン型で、これはもう小学生でも分かるでしょう、三角コーンみたいな形であり、日本語では錐体(すいたい)細胞と呼ばれています。

先ほど「感度特化」「色特化」などと書きましたが、桿体細胞が感度特化、錐体細胞が色の認識特化の細胞として働いていることが知られています(「錐体細胞はコーンconeだからカラーcolor」と語呂で覚えるよう教わった気がしますが、まぁ何となくいつの間にか覚わる感じですかね)。

つまり、桿体細胞は物凄い感度で、わずか1粒の光子ですら認識可能(=完全なる暗闇の中で、光の粒子が1粒飛んでいる(目に入った)だけで、「何か光った!」と認識できる)といわれているぐらいの、超スーパー高性能センサーなのですが、残念ながら色の違いを認識することが苦手です。

一方錐体細胞は、桿体細胞に比べて感度はあまり良くない代わりに、色の違いを判別することができるんですね。色を区別するために、錐体細胞には赤・緑・青の3種類の微妙に異なる性質のものが存在します(詳しくは後述。ちなみに先ほどの図もちゃんと3色になっていましたね)。

上の絵では分かりやすく桿体・錐体が似たような数が描かれていますが、実際は、片目あたり桿体が約1億2000万個、錐体が約600万個存在するといわれているので、圧倒的なレアさもあり、色を見られるという有能さからも、僕は錐体細胞のファンですね(いやファンとかそういう話かよ(笑))。

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https://www.blueconemonochromacy.org/how-the-eye-functions/より

BCMの図はちょっと分かりづらかった(各部の説明がなかった)ので、毎度おなじみWikipediaの図に戻らせていただくとしましょう。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/桿体細胞より

こちらは桿体細胞の拡大模式図ですが、こんなナリをしていながらこれで1つの細胞なわけですけど(ちゃんと細胞に固有の核も存在しています)、重要なのは外部セグメント(Outer segment)と呼ばれる、図でいうと一番上のクシみたいになっている部分、ここに、例のオプシン&ビタミンAが並んでいるわけです(錐体細胞も、形が違うだけで概ね同じ)。

ここで光を受容する上で最重要なタンパク質オプシンに戻りますが、ヒトの場合ですとオプシンには4種類の微妙に違うタイプのやつが知られています。

桿体細胞で使われるオプシンと、錐体細胞で使われるオプシン、こいつは赤・緑・青の3種類を認識するものが別個で存在するので、赤オプシン・緑オプシン・青オプシンの、全部で合計1+3=4つということですね。

それぞれ、得意とする波長の光が異なります。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/フォトプシンより

その名の通り、青オプシンは短波長=青色領域の光を吸収するのが得意で、青い光に反応する、といった仕組みですね(なお、赤オプシンが最も強く吸収する波長は赤色光線とは微妙にずれている(ちょうど緑~黄色領域にあたる)のですが、まぁ他のより赤を吸収するのが得意なので、赤オプシンと呼ばれている形です)。


話が前後するというか飛び飛びで分かりにくい下手な説明ですけど、実際に視細胞で機能するのはオプシンにビタミンAが取り込まれたいわば「完全版オプシン」であり、この完全体オプシンを、桿体細胞の場合ロドプシン錐体細胞の場合はフォトプシンと呼んでいます。
(ちなみに、ロドプシンのロドはロッドのロドではなく(Rhodopsinなのでスペルも違う)、こちらはギリシャ語でrose=バラを意味するrhódonに語源をもつ言葉のようです。
 バラが語源なのは、赤い色素であるビタミンAが結合したロドプシン(こいつ自身も、赤よりやや短い波長の光を主に吸収しているので、赤っぽく見える)が、薄い赤色を呈しているためですね。その色から、日本語では視紅(しこう)とも呼ばれています。)

(またちなみに、流儀によっては完全体オプシンのことは全てロドプシンと呼び、桿体細胞のロドプシンを特にスコトプシン(scotopsin)、錐体細胞ロドプシンをフォトプシン(photopsin)と呼ぶ場合もあり、高校生物では区別をつけずどちらもロドプシンと習ったような記憶もあるので人によってはそっちの方がなじみがある呼び分けかもしれませんが、先ほど最初に挙げた桿体=ロドプシン、錐体=フォトプシンの方が、どちらかといえばより広く使われている用語みたいですね。
 でもまぁ、用語の細かい違いなんてどうでもいいと思います。)

なお、オプシンと結合するのは正確にはビタミンA=レチノールではなく、それが一段階酸化されたアルデヒド型のレチナールになります(広義には、レチナールもビタミンAに含まれるので、これもまぁ間違ってはいないかもしれませんが)。

例によってこんな模式図(↓)を見ても全く何も分からないのですが、こちらがロドプシンの結晶構造・リボンモデルで、ラセンみたいなやつがアミノ酸のつながりを示しており、真ん中には赤く小さいレチナールがガッチリ存在していることが見て取れるのではないかと思います。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ロドプシンより

ポイントは、タンパク質であるオプシン部が異なるだけで、ロッドもコーンもどちらの視細胞であっても、補助分子としては同じレチナールを使っているという点ですね。
(役割の違いを生み出しているのは、あくまでもタンパク質=オプシン部分ということ。上述のとおり、微妙にアミノ酸が違うから、性質も微妙に異なるタンパク質が生まれる形です。)

ちなみに、レチナールがどうやって光を認識しているかというと、以前の記事で貼っていた分子構造は「全トランス-レチナール」などと書かれてあったのを覚えている方がいらっしゃるかもしれませんけど(まぁいないと思いますが)…

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https://ja.wikipedia.org/wiki/レチナールより

…まず、オプシンに収納することができるのは、この安定したトランス型(=二重結合の話で出てきた、二重結合を挟んで反対側に水素原子がつながっている形)ではなく、シス型に変換されたものになっています(シス型の方が折れ曲がって小さくなるからですかね?その変換は、例によって、そう変換する機能をもった酵素=タンパク質(イソメラーゼ)が存在しています)。

そして、光を受けると、そのエネルギーによってトランス型に戻り、その構造変化でレチナールはロドプシンと結合することができなくなるため、ロドプシンから外れて、オプシンとトランス型レチナールへと別れます。

この変化を細胞が感知し、「光を受けました」というシグナルとして脳に伝わることで、我々は受けた光を信号として受け取る、という仕組みなんですね、めちゃくちゃざっくり説明すると。

(例えば青オプシンが存在する青色錐体細胞は、青い光だけを吸収してレチナールの構造変化を導き、脳に信号が届く…という形です。
 なお、便宜上「青色錐体細胞」と書きましたが、この細胞は「青い光を吸収」するので、これは「赤と緑が反射」するということですから、見た目的には黄色っぽく見えるはずですね。)


まぁちょっと複雑すぎる(この辺の仕組みまでは高校生物では触れない)ので、深追いはやめておきましょう。

そもそも、正直、そんなメカニズムを知ったところで、だから何なん?って話でしかないですしね。

一応現実的で意味のある話としては、やはり伴性遺伝の、赤・緑オプシン遺伝子はX染色体上に存在しているので、X染色体を1つしかもたない男性ではこれが欠損して色覚異常になることが多い…という点がありますが、これは以前の記事で既に触れていた話ですね。
(なお、最初に出していたBCMは、正確には青錐体一色型色覚(Blue Cone Monochromacy)という名称の通り、青オプシンしか機能していない状況で、色どころか光認識すら弱く、物がとても見えづらいという難病です。
 まだ根治には至っていないので、色覚補正めがねみたいな対症療法的なものでも、何かいいものが開発されることを願ってやみません。)


詳しいメカニズムではなく、小話として面白いかもしれないポイントとしては、オプシンに取り込まれるレチナールはレチノールの酸化型であるというのは上述の通りなんですけど、栄養として得られるビタミンAやβ-カロテンは、基本的にまずレチノールの形になっています。

なので、オプシンに取り込むために、これを酸化してレチナールに変換しなければいけません。

よって、その酸化反応を行うアルコール脱水素酵素が目の中には豊富に存在するため、それが理由で、メタノールを飲んでしまうとこいつも毒性の強いホルムアルデヒドへと速やかに酸化されるため、失明につながる……というあの有名な話の流れになっていたんですね。


最後、この辺の視覚感知器の話を書いていて、小学生の頃見たドラえもんの話を思い出しました。

「モーテン星」という秘密道具の回で、盲点の説明をドラえもんがしてくれるんですけど(博識すぎでしょあの猫型ロボット(笑))、これがまた本当に分かりやすく、子供心にいたく感動したことを覚えています。

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ドラえもん40巻「モーテン星」より(画像はhttps://twitter.com/pekenishi_f/status/1397899178907299842より拝借)

分かりやすすぎる!流石はドラえもん!!

この後ももう少し盲点の説明がありましたが、まぁ仕組みはともかく、実際に体験できるのが何より面白いポイントですね。

(話的には、いわば透明人間になれる秘密道具で、石ころぼうしとかと何が違うんだよ、って気もしましたが(笑)。

…と思ったら、石ころぼうしは存在がないものとして扱われる一方、モーテン星は姿が消えるだけということで、一応使い分けがあったみたいですね。
 リメイク版の映画では、その違いがちゃんと使い分けられているようです。参考:石ころぼうし - Wikipedia

…と、何だかざっくりしたというか正直駆け足で分かりにくい説明になってしまった気もしますが、まぁ光感知&物体の認識には、オプシンとビタミンAの合体したロドプシン(フォトプシン)が多大なる役割を果たしているという話でした。

次回は、次のビタミン(Aの次だからB?)に進めていこうと思います。

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