必須アミノ酸!

アミノ酸を大まかな性質ごとに分けて紹介していたのが前回の記事でしたが、前回の話はあくまで化学的な性質に着目したものにすぎず、より日常生活的に身近だと思われる栄養学的にはまた全然、丸っきり違う話にもなるのです……ということにまずは触れていくといたしましょう。

 

例えば、側鎖部分に炭素と水素しかない、正直化学的には何の特徴もないつまらんクソザコ分子などと書いていた脂肪族アミノ酸……こいつらは、栄養学や健康食品に興味がある方ならどこかで目にしたことがあるであろう、BCAAと呼ばれるやつらもいまして、以下の大塚製薬の特集記事なんかにもある通り……

 

www.otsuka.co.jp

…筋肉のエネルギー源・運動パフォーマンスを向上させる栄養素として、めちゃくちゃ重要だといわれているものなんですね。


そもそもその「BCAA」というのは「Branched Chain Amino Acid」(分岐鎖アミノ酸)の略で、せっかくなので前回もお借りしたアミノ酸の構造のまとめ図を再度掲載させていただきましょう、具体的にはバリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)の3つがそれにあたるわけですが……

 

https://courses.lumenlearning.com/wm-biology1/chapter/reading-amino-acids/より


…構造図を見れば明らかな通り、ズバリ、側鎖の炭素原子Cが、一筆書き上には存在せず、枝分かれしている構造になっている…というのが「ブランチ・チェーン」という名前そのものに表れているわけですね。


そして筋肉維持に重要であるのに加え、大塚製薬の記事タイトルにもあった通り、こちらは「必須アミノ酸」と呼ばれるグループの一員にもなっています。


その「必須アミノ酸」と、そうではない方、そのまんま「非必須アミノ酸」と呼ばれますが、これもまた栄養学的…というかこれは生理学的という方が適切かもしれませんが、こちらも何となくどこかでよく聞く話のひとつかもしれません。

 

これの分類については、そもそも僕は生化学・分子生物学専攻なのであまり重要ではないというかやや専門外なので積極的に覚える必要もなかったということがあるんですけど、小学生の頃からこういう記憶系は常に語呂に頼ってばっちり覚えてきた僕にしては珍しく、語呂合わせの力は一切借りず、もっと何というかイメージとともにちゃんと考えながら導き出せるようにした感じです。

(もうそこまで難しい受験をするわけでもない、大学生になって学んだことだったからかもしれませんが。)


具体的には、人間の必須アミノ酸はちょうど半分に近い9種になるわけですが、検索したら出てきた以下のオーソモレキュラー栄養医学研究所の記事が非常に分かりやすくまたしっかりまとまっていたので参考サイトとしてまずは以下のリンクを参考用に貼っておくといたしましょう……

 

www.orthomolecular.jp

…ズバリ、必須アミノ酸は以下の9種になる感じですね!(上記記事とは、微妙に順番を変えましたが…)

 

イメージとしては、まず「炭素骨格自体を変えるのは結構難しいので、枝分かれのあるやつは、自分では作らずに栄養として摂るようにしている=必須である」という感じで、例の炭化水素のみでつまらん組からは、まさに先ほど見ていたBCAAの3種(Val, Leu, Ile)が必須組……

(逆に、あまりにも単純すぎるグリシンとアラニンは、こんなもんは自分でも楽に合成(他のアミノ酸から変換)できるから、必須ではないわけですね)

そして「OH持ち」からも1つで、BCAA同様大きい方が必須=スレオニンThr……


さらに「硫黄S持ち」も当然1つはないと自分でゼロから合成するのは難しいので「S持ち組」からも一人登場して、これは意外なことにより大きくて反応性の高いCysではなく、開始コドンとして使われるメチオニンMet……

(まぁ開始コドンで絶対重要ですし、Metが必須というのはイメージが沸きやすい気もします)


そしてここが意外なことに、酸性アミノ酸(とその中和フォーム)は、ひとつも必須じゃないんですね!


まぁ、実際のアミノ酸生合成経路を全部記憶してるわけじゃないですけど、例えばエタノール代謝の結果アルデヒドを経て酢酸になるということは以前の「楽しい有機化学」シリーズの初期に見ていた通りですが(↓)…

con-cats.hatenablog.com

 

…これはズバリ、「アルコール(-OH)というのは、カルボン酸(-COOH)に自分の体内で容易に変換可能」だということを意味していますから、多分、アミノ酸も「-OH」持ちがいれば、酸性アミノ酸すなわち-COOH持ちに変換することもそんなに難しくなく、自前で合成可能なのでしょう……なんてイメージで「酸性アミノ酸は必須ではない」と納得している感じですね。


一方塩基性アミノ酸はリシンKが必須で、実はもう少し大きい塩基性アミノ酸であるアルギニンRも「幼少期は必須」という感じで「準必須アミノ酸」として挙げられることも多いため、実はそれを加えれば「必須アミノ酸はちょうど半分」となってより覚えやすいわけですが、人間は大人になったらアルギニンは合成できるようになるため(おそらくリシンから…と思いきや、全然別の生合成経路由来のようでした)、「必須」からは転落する形になっています。


その辺の話は印象深いので、もういつの間にか「K必須、Rは幼少期のみ」と覚えてしまっている感じですけど、まぁアルギニンは「アルジニン」とも表記されますし(英語の場合「アージニン」が一番近いですが)、児童の「児」が絡んでるっぽいのでこちらが幼少期のみ…って思い出せる感じですかね…?

(結局ちょっと語呂頼りですが(笑)、まぁこれはもう何か覚えちゃってる枠ですね)


いずれにせよ塩基性アミノ酸はどちらも合成しづらいもので必須・半必須、さらに言えばもうひとつの塩基性アミノ酸…であると同時にかなり難解なリング構造を持つヒスチジンHisも、あんなに難しい構造のアミノ酸を自分で作るのは困難を極めるのは自明ですから、Hisも必須ですね。

 

そして残りのリングアミノ酸は、一番ヘビー級のトリプトファンTrpはもうどう考えても「自前で合成するより、栄養として摂取する方がお手軽」と思えますからこれも必須、最後普通のベンゼン環を持つフェニルアラニンPheと、それに-OHが足されたチロシンTyrは、まぁ僕が神様だったら「大きい方を必須にして、小さい方はそれを分解すればいいね」などと考えてTyrを必須にしそうにも思えますが、これは意外なことにPheの方が必須アミノ酸なんですね。

 

ここはまぁ、「まぁフェニルアラニンって、一番最初にコドンが判明した重要アミノ酸だしな」みたいな、本質とは全然関係ない部分で「Pheの方が偉い、こっちが必須だ」と覚えてる感じでしょうか(笑)。

 

そんなわけで、以上9+1種類が、必須アミノ酸と呼ばれるものでした。

必須として登場しなかった残り半分は、「非必須アミノ酸」と呼ばれるほう所属なわけですね、当然。


ちなみにそもそもの「必須」「非必須」ですが、これは最初に書いておくべきだった気もするんですけど、「必須アミノ酸」ってのはあくまで「体内で自前で合成できないので、食事として摂取する必要がある」ものであり、逆に非必須は「体内で他のアミノ酸なりから自分で合成できる」ものになるわけですけど、あくまで「自分で合成できる」だけであり、「なくてもいい」では決してないことに注意が必要といえましょう。


よく聞く話として、「逆に、非必須アミノ酸は、進化的に『絶対に不足しないよう、自分自身で体内で合成できる道を選んだ』ものであると考えれば、『食品から摂ればいいや』と外部に丸投げされたやつらより、よっぽど重要であるとも考えられる」ともいえますから、「非必須」などという「重要ではない」という印象を与えるネーミングは良くないのではないか?…みたいな話は、今でもしばしば議論されているイメージがありますね。

 

いずれにせよ、タンパク質は20種類のアミノ酸でできており、どれが欠けても体を作るのに不調が生じますから、どれも極めて重要で、しっかり摂取する必要があるのは間違いないんですけど、一応非必須アミノ酸は、不足したら他のアミノ酸とかから自前で作ることができる、って形になっているという話でした。

(一方、必須アミノ酸は、残念ながら人間は体内で合成できないので、他の生物が作ってくれたものを食品として摂らなければいけない、ってことですね。)

 

今回はアミノ酸を一通り見終えたのを踏まえて、ちょろっとだけ話に出していた「各アミノ酸の存在比」を見ていこうと思っていたのですが、必須・非必須だけで結構いい分量になった&また時間切れとなってしまったので、そちらは次回持ち越しとさせていただきましょう。

 

アイキャッチ画像は、最初のアミノ酸の構造一覧画像は前回使っていたため、まぁなんとなく違う画像の方が新鮮ですし別のものをこさえるとしますと、当初「何の特徴もないグループにいるクソザコアミノ酸」と暴言を吐いてしまったBCAAへの罪滅ぼしとして(笑)、BCAAはサプリでもかなり人気の、栄養学的には引っ張りだこの売れっ子なのです…ということを示すべく、BCAAで検索したら出てくる、大量に並ぶサプリ画像を使わせていただくといたしましょう。

 

https://www.google.com/search?q=BCAAより


Google検索結果は1億件以上で、「BCAA」とデカデカとアピールされたサプリが目白押しですね……流石はBCAAさん、君こそ必須なアミノ酸界の星だ!

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