アルコールには即効性もあるのが強み

前回の記事では、真の最強消毒薬として、グルタラールという、アルデヒドの一種である分子に触れていました。

 

これに関して、「最強ゆーても、何でも溶かす硫酸とかの方が強いんとちゃいますのん?」という気ももしかしたらするかもしれないんですけれども、もちろん人間にとってはフェノールとか硫酸とか強い酸というのが体にかかった場合、肌は焼けただれてしまいますが、微生物の中には、例えば好酸性細菌とかそういう、「酸性条件をむしろ好んで生育することができる」みたいなとんでもねぇやつもいますから、必ずしも人間にとって強い薬品が微生物にとっても強いとは限らないわけですね。

 

もっとも、そんな細菌はそんなにどこでもいるわけではないですし、実際硫酸の中に「カビが生えてしまった!」なんてことは、少なくとも僕は見たことがないですけど、まぁ人体どころかプラスチックといったモノすら腐食してしまいがちなあまりに強い化学薬品は、殺菌消毒材としても使いにくくて不適だと、そういう面も多分にあるんだといえましょう。

 

(こないだ見ていた各種素材の耐性表(↓)にもあった通り…

axel.as-1.co.jp

…硫酸は多くのプラスチック素材で「×」のように、モノすら壊してしまうわけですね。)

 

(とはいえもちろん、グルタラールも地味に気化したガスが人体にとってはかなり有害など、負の側面もあるわけですが、何事も功罪両方を考慮して判断を下してきたのが人類であり、グルタラールの場合、デメリットを鑑みた場合でも最も得られるメリットが大きいと判断されて、最強の消毒薬の称号を得ている…と、そういう話なんだと思います。)

 

…と、グルタラールについてはあまり一般的でもないのでともかく、より一般的な消毒用エタノールについて、最後にちょっとした脱線ネタに触れようと思っていたのですが……

 

…何気に消毒用エタについても、割と最近(と思ったら、これまた4か月以上も前のネタになっていました……時間が経つの、早すぎぃ!)見ていた、こちらの記事(↓)で…

 

con-cats.hatenablog.com

 

…何気に「100%エタノールは、面白いことに全然殺菌作用がないのです」みたいな、今回おまけネタとして触れてみようと思っていたことは、既にこの記事で触れちゃっていましたね。

 

(ちなみに何からここに逸れたんだっけ…と思ったら、大元も大元、「basic」という英語スラングから「塩基性・pH」という話になり、そっから水に溶けるうんぬん含め液体の話になった時の脱線ネタでした。)

 

とはいえ今回もちょっとあまりにも時間がなかったので、もう一つ強引にネタを広げさせていただくと、アンさんのご質問にもありました「洗剤で手を洗えば、菌は必ず死ぬのか?」という点、これに関してちょっと補足をしてみましょう。

 

どなたでも経験のあることとして、注射するときに消毒用エタノールを含ませた脱脂綿なんかで針を刺す予定の辺りをトントンと擦って「あ~スッとする~」と、恐怖の注射の直前の一瞬の快楽があると思うのですが、正味あの一瞬のスーっとする行為、あれホンマに意味あるんか…?と思われる方もいらっしゃるのではないかと思います。

 

まぁ結論からいうと、世界中で今でも必ず行われていることからも分かる通り、当たり前ですが単なる「スッとして気持ちぃー」というだけの儀式ではなく、これはガチで本当に意味がある行為なんですね。

 

その辺の知見というかデータについて、検索してみたら、久々登場の超有能Q&Aサイト・StackExchange(まさかの、SEにはバイオロジー板なんてものまであったんですねぇ~。プログラミングや、言語ぐらいだと思ってました)の記事で、書籍から抜粋された表が掲載されていたので、こちらをお借りさせていただきましょう。

 

biology.stackexchange.com

 

https://biology.stackexchange.com/questions/39931/why-is-70-ethanol-preferred-for-aseptic-techniquesより


この質問スレは、「なぜ70%エタノールが無菌的な手法として好まれているのか?」というもので、回答としては「実験的に色々試した結果、その濃度が最も広い抗菌スペクトルを示したから」という経験則が基本になるわけですけど、それとともに、「即効性もあるから」という回答の補足情報として、この表が引用されていた形ですね。

 

まぁ英語の表ではありますが大した話でもなく、左から、体積パーセント濃度(上から順に、100~20)、重量パーセント濃度エタノールは水より軽いため、重量比でいうと、より「低濃度」になる。100~16)が並び、その横は「10~50秒までの、微生物をエタノールにさらした時間」、さらに「1分から60分」まで右側につながっているだけの表ですけど……

ズバリ、最も一般的な「70% (v/v)」のエタノールは、10秒さらした時点で微生物の増殖が「-」、つまり完全に殺すことに成功したということで、まぁせっかくならそれより短いスパンでどうなのかも見てみて欲しかったところですが、注射のときに腕を拭く際は、まぁ数秒ぬぐった後乾くまでを考えたら10秒ぐらい経過していますし、問題なく常在菌の類の死滅には成功している感じといえるわけですね。

 

とはいえもちろん、下手したら何億匹といる皮膚の上の常在菌を完全に100%、ゼロになるまで殺しているかの保証はないわけですけど…

(無論、エタノールには抗菌効果もあるので、すぐに菌がまた増えることはないものの、実際、空気中、あるいはどんなものであれ物質表面には、常在菌は本当に無尽蔵に存在していますから、特に水分を含んで不潔なもの(肌着とか、それこそエタノールで拭いていない自分の体の他の部分とか)に触れると、すぐにまた菌が付着してくるのも間違いなく、普通の環境で「完全無菌」を保つことなど不可能にも等しいといえるわけですけれども…)

…実用上、注射針程度のごく小さい面積のものが体内に侵入する際に問題視される量の生菌は確実に除去できるので、あのホンの一瞬で何の意味があるのか不明な「アルコールシュッでヒンヤリ快感の儀式」は、極めて大いなる意味があるものなのです…という、そんなお話でした。

(逆にいうと、エタノールで拭かないと、人間の体表面には本当に大量の常在菌が存在しているので、「皮膚」という有能なバリアを破って体内にそのまんま入られたら、感染症を引き起こすリスクも十分にあり得るわけですね。

 健康な免疫を維持している人ならほぼ大丈夫に思えるものの、たった10秒で行える簡単なリスク爆下げ行為をしない意味がなさすぎるので、注射の際は必ずエタノールで消毒を行う形だといえましょう。)

 

ちなみにエタノールによる消毒の作用機序(=エタノールの何がどうやって菌を殺しているのか?)としては、↑でリンクを引っ張っていた回でも引用していたこちらの記事(↓)や…

www.chinoshiosya.com

 

…あとはここ最近何度もお世話になっていた抗菌スペクトル表の「作用機序」欄にもあった通り…

絶妙な配合のエタノールと水分子のおかげで、エタ・水のクラスター分子が膜透過、溶菌、タンパク変性、原形質阻害、代謝機構阻害などを通して物理的に菌体を破壊し、また、揮発性の高い物質であるエタノールが蒸発する際に、生命活動に必須な水を奪ってくれる(微生物というカスどもでも、この地球上で生きている全てのものはやっぱり、「水」が生きる上で最も重要なんですね。地球は水の星です)というおまけ付きで、あらゆる特性が殺菌に向いている素晴らしい消毒薬だというのは、既にここ最近何度も指を酸っぱくして書いていた話ですね。

 

…と、今回は事実上「10秒以内に菌の殺戮完了!」というそんなデータを見ただけのしょうもない回でしたが……

…しかし、この表を見ると、95%、あるいは60%エタノールでも、一般的な「7エタ」と遜色ない効果を発揮していることが見て取れますし、多少でも水の力を借りれば、あとはあまりにも薄まりすぎない限り基本的には適当に作っても非常に効果的だということも確認出来て、お手製で100エタから消毒用エタノールを自作している者としては改めて安心材料が再チェックできて何よりでした(まぁ、こないだ見ていた上記「地の塩社」の記事にも既に書かれていたことでしたけどね)。

 

では、いただいていたこの一連のご質問については一通り見終えたという感じで、次回はまた溜まっている他のご質問を少し遡っていこうかな、と思っています。

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