前回はお酒=エタノールの「Proof」(度数を表す単位、度数の2倍の数字)の話から、唐突に価格当てクイズなんぞをしており、僕がこないだ実験用に買った5ガロン=約19リットルの200 Proofエタは、70ドル=約1万円だった、という話をしていました。
(ちなみにエタノールは、英語で略記表示する場合、まぁ「EtOH」って書かれることが多いですかね…?
とはいえそれは科学研究で使われがちな言葉で(その略記も、ヒドロキシ基(-OH)を明示した書き方ですしね)、そもそも日常生活では「ethanol」などと呼ぶ機会はまずなく、当然「alcohol」とか、大人の会話であれば、「drink」が酒そのものや酒を飲むことという意味で一番使われますから、まぁdrinkという語は短いですし、これは特にそれ以上省略表記もないように思います。)
そういえば日本ではいくらぐらいなのだろう、と思って、日本でのエタノールや酒税についてまたちょっと調べてみたら、こんなニュース記事を目にしました(↓)。
これはコロナ禍で消毒用アルコールが不足した際の特例措置だったのかもしれませんが、例の、「飲むように売られているお酒に、少量の異物を混入させて飲用不可とし、酒税回避」の裏技、なんと、死んでも絶対に税金をむしりとってくることでおなじみ、国税庁が認めていた技になってたんですねぇ~(笑)
リンクカードにも小さく表示されていますが、国税庁発表の資料に原典のPDFがあったため、お借りしてみましょう。
アルコール濃度が80%のお酒は、まさに消毒用エタノールとほぼ同濃度(むしろ、最高の殺菌消毒効率とされる70%強よりも、ちょっと濃すぎるぐらいですね)なので、これはそのまんま手指や人の触る部分の消毒に使いまわすことが可能なんですけど、これを売る場合、
「酒として飲めるものからは、必ず税金をいただくでぇ~」
…と国税の悪魔がやってくるわけですけど(って、僕は別に税務署に恨みとかはないので、ネタで悪く言わせてもらってるだけですが(笑))、コロナ禍で世界的に本当にそんなことを言っていられなくなった当時、消毒液を遍く民衆に広めてあげるべく、鬼の国税がついに人の心を見せて、「ちゃんと飲めなくするなら、酒税だけは見逃してやる」という特例を作ってくれてたんですねぇ~。
(まぁ、言うほど「人の心」ってほどでもなく、「飲めなくしてるなら、そら酒税取られるいわれはねぇだろ」とも思えますが(笑))
ちなみに先ほど書いた、「消毒用エタノールが効果的な濃度」…いわゆる抗菌スペクトルというものはかなりしっかり研究されていまして、こちら、地の塩社の解説記事(↓)に具体的な数値とともにかなり詳しい紹介がされていましたので、引用させていただきましょう。
殺菌(除菌・消毒)に使用されるエタノール(アルコール)の殺菌効果の至適濃度範囲(有効範囲)は、下記の通りとされています。
日本薬局方(局方): 76.9~81.4 v/v%
米国薬局方 USP-NF : 68.5~71.5 v/v%
WHO(World Healthcare Organization)ガイドライン: 60~80 v/v%
しかし、これらの至適濃度は、2000年以前の実験データに基づいて決められたものが多く、試験方法・エタノールと菌やウイルス種との混合比率や作用時間など条件が異なるため、有効的に比較できるものではありませんでした。
(途中略)
さらに、アルコール(エタノール)は、高濃度溶液中でエタノール分子は、水素結合+疎水結合によりポリマー様構造を形成し、水分子と会合することにより、大きな疎水性表面を持つクラスターを形成していることが報告されています。
この構造は、77v/v%(70w/w%)で究極の状態になるため、この濃度での殺菌力が最も高くなると考えられています。
参考文献: 西 信之、最田 優「ウィスキーの中のクラスター化学と工業 47」(1994年)
この理由により、
85v/v%(80w/w%)以上のアルコール(エタノール)濃度では、殺菌力が低下します。
…へぇ~、僕は70%エタノールが殺菌力最強と習ったので、まぁ蒸発分とか考えて75%とかで作ることも多いのですが…
(普通密閉容器に保存するので蒸発はしませんけど、古いスプレーとかだと、微妙に漏れてるっぽいやつもあるので(笑)。そんな容器に保存していいのか知りませんが、まぁ一応殺菌効果は問題なく発揮できているように思えるので、ヨシとしたい所です)
…分子の取る構造的に、77(v/v)%が最強という研究結果もあるんですねぇ~。
ちなみに、100%エタノールの殺菌力が極めて低いのは常識で、手指につけた場合、より「スッ」として爽快なのは100エタなんですけど(7エタは、やっぱり微妙に乾きが悪いので、爽快感は若干劣りますし、肌につければ確実に違いは分かるレベルです)、殺菌消毒用には絶対に70-80%エタノールを使わなければいけないんですね。
(まさに、その「微妙な乾きの悪さ」が、菌やウイルスの構造を壊すのに一役買っている、って感じですね。具体的には、引用記事中にあった、分子クラスターの力によるものですが。)
しかし、この手の「飲用のお酒を、消毒用に使いまわす」という話を聞く度、個人的には、
「いやお酒って生物の醗酵の力で作られるんだし、何ぼ80%ゆーても(むしろ80%だからこそ、残りの20%に)、結構糖分とか不純物入ってるんとちゃいますのん?
何かべとつきそうで嫌っていうか、その辺大丈夫なんだろか…?」
…と思えたんですけれども、果たしてこの辺はどうなってるんでしょうか。
気になったので、まさに先ほどの国税庁画像にあった「スピリッツ」……これは蒸留酒全般の名前ですが、これを参考に、酒を飲まない僕でも知っている、世界最高度数を誇るお酒・「スピリタス」の栄養成分表をチェックしてみようじゃあ~りませんか。
「栄養成分表」は、「ファクトシート」なんて言葉があるように、英語だとしばしば「nutrition facts」と書かれますけど、「Spirytus nutrition facts」で検索したら、しっかり出てきてくれましたね!
フィットネス用に栄養成分をまとめてくれるサイトのようですが、こちらの表を見てみると…
…なんと、あらゆる栄養が、ゼロ!
Carbs(炭水化物)も、Fat(脂質)も、Protein(タンパク質)も、その他各種ミネラルやビタミンも、全く完全に0!!
「スピリタス」ってカッコいい名前がついているだけに、何か色んな「飲んで楽しむ」用の、何らかの各種栄養成分が入ってるのかと思いきや、こいつはズバリ、単なる純粋なエタノールにすぎなかったんですねぇ!
…ならもう「エタノール」って名乗れや紛らわしい(笑)
っていうかよぉ考えたら、「蒸留酒」って、まさに理科で習った「蒸留」のように、特定の液体を蒸発させて、別口で冷やして元に戻すという、いわば純粋なものだけを得る作業ですから、そりゃそこまで究極の濃度のエタノールを得られたなら、余計なもんは入れずにそのまんま売り出すわな、とも思えましたね…!
ちなみに先ほどの栄養ファクトシート記事のタイトルにもあった通り、スピリタスは192 Proof=アルコール度数96%なわけですけど、まさに↑の蒸留酒Wiki記事にあった通り、これは、「共沸」と呼ばれる現象で、何回蒸留を繰り返して水を除こうと思っても、どうしても4%程の水分が混じってしまう、蒸留酒の限界濃度とのことでした。
スピリタスは70回以上もの蒸留を繰り返しているようですが…
…先人の努力もむなしく、ここが人類の限界だった、ってことですね。
「え?じゃあ昨日見てた、200 Proofの100%エタノールってのは何者なん?」と思えるかもしれませんが、これは当然製法が違うというのがその理由で、「蒸留」という行程でそれ以上の酒を造るのは無理でも、工業的に合成すれば、昔の人が夢見ていた100%エタノールも余裕で作ることができるって話なわけです。
↓のウィッキー先生によると…
現在の主流はエチレンの水和反応だそうで、厳密に管理すれば100%エタノールを合成するのも容易ですし、エチレンも水も有害物質ではないですから、安全性も保証されているといえる気がします。
栄養に話を戻すと、とはいえ蒸留酒の中にも色がついていたり味のするものもいっぱいあるわけですけど、それらは普通に、蒸留して高濃度のエタノールを得た後、水やその他美味しくなる成分を足している、ってことになるわけですね(※追記:すぐ後で、どうもそうではないらしい…ってことが発覚しましたが…)。
僕はマジでお酒には1ミリも興味がないので全く知らないレベルなんですが、「蒸留酒」の例としては、先ほどのWikiページにあった通り、エタノールほぼそのまんまのどぎついものとしてウォッカ(スピリタスもウォッカの仲間みたいですね)とか、他には、大人っぽい響きのテキーラやウイスキー、日本を代表する蒸留酒である焼酎(「日本酒」は醸造酒ですね)、あとはジンやらコニャックやらラムやら色々ありますが、漫画なんかではよくサバイバルの場面でウイスキーを使って滅菌とかしているものの、ウイスキーは茶色いし、流石に糖分とかが含まれてそうなので、あれはあくまで緊急時の一時しのぎ用途にしておかないと、むしろ金属が錆びたりしてしまうのではないかと……
…と思って念のため検索してみたら、あぁーっと!!
まさかの、ウイスキーにも、いわゆるまともな栄養素は1ミリも存在していなーい!!
マジかよ、じゃああの色は何なんだ…?と思ったら、我らがサントリーの説明によると…
www.suntory.co.jp
樽材に含まれる成分が溶け出たものだそうで、ならそれ相応の栄養があってもよくない?…と思えたものの、まぁ色素分子なんて栄養素ともいえない小分子が多いですから、いわゆる栄養成分に換算されるものではなかった、ってことなんですねぇ。
ということで、長年「ウイスキーで消毒とか、ベトつかんの…?」と僕なんぞはずーっと漫画とかで見る度に思ってたわけですけど、その心配は全く不要だったということなんですね!
そんなわけで、もし遭難した場合、ブラックジャック先生よろしく自分でその辺に落ちてる釣り針とかで自分の傷を縫わなきゃいけない場面が来ることなんかに備えて、ウイスキーは決して飲まずに、しっかり殺菌消毒に用いることができるよう、大切に保管しておきましょう、という話でした。
(いや、そんな自己手術とかせんといかん状況になったら、もう無理だし潔く酒でも飲んで死ぬわ(笑))
(ただ、画像にある通り、ウイスキーは86 proofとかそのぐらい=アルコール度数43%ですから、抗菌スペクトル的には、完全な殺菌力は持たないといういことに注意が必要かもですね。
もちろん、何日も風呂に入ってないみたいな不衛生な状況なら、完全に殺菌はできなくとも、かなり清潔な状態にまでもっていけるほど極めて効果が大きいのが、アルコールを用いた除菌なのは間違いありません)
…ってな所で、次の「水以外の液体」ネタに行こうと思いきや、まさかの、またしてもお酒ネタで一記事埋まった感じになりました。
最初の疑問、「日本でのエタノールの値段」は、消毒用エタノールの売れ筋商品をAmazonで見てみたら…
500 mLの2本セット、「消毒用エタノールIPA」が、ズバリ現在1356円……
こちらは約80%のエタノールしか含まず、しかも「IPA=イソプロ」が少量添加されて飲めなくなっているというのに、1リットルで1356円……
やはり研究用の契約価格で買えるもの(=1リットルあたり500円程度でした…しかも、飲むことも可能!(いや実験室で保管してる試薬なんて、頼まれても飲みませんけどね(笑)))より、大分お高いですねぇ~。
ちょっと気になったので、不可飲処理のされていないであろう、「無水エタノール」ならどうなんだろ?と思って調べてみた所…
同じ健栄製薬の「無水エタノールP」は、500 mLで1093円……1リットルで2186円ってっことになりますが、こちらは99.5%ですし、さっきのと比べてもそこまで高いわけではない…??
むしろ、最後の「P」が何を意味してるのか分かりませんけど、注意書きには「飲んではいけません」と書いてあったため、もしかしたらこれも不可飲処理をされてる商品なんですかね…?
まぁ「無水」なのに100%じゃない時点で、やっぱりイソプロか、その他飲めなくするための他のアルコールが微量(0.5%分)添加されてると考えた方が良さそうですね。
「掃除用」であり、お酒を売っているわけでは決してないので…!
ということで、スピリタスでもあるまいし、水を一切含まない、純粋な飲めるエタノールの入手自体がそもそも難しいといえるのかもしれませんね。
あぁ一応、度数96°のそのスピリタスは、500 mLで…
むーん、2466円!
やはり、「飲める」となると国税の魔の手がヌルリと忍び寄り、酒税がかかってダンチで高くなるといえますから、さっきの掃除用は、「IPA」という明記はなかったけれど、絶対飲んじゃダメなやつといえそうですね!
アル中の方は、ぜひご注意ください、という所で(言わなくてもそんなの飲むわけないとは思うものの(笑))、続きはまた次回とさせていただきましょう。