やっぱりお酒は最強

前回は、街で見かける消毒ポンプについて、「洗い流さないのに、大いに意味がある優れものなのです」などということをつらつらと書いていました。

 

また、アンさんよりいただいていたご質問には、「洗剤で手を洗えば、必ず菌は死にますか?」という点があり、「平凡な石鹸では、洗い流す効果はもちろんあるものの、積極的に菌を殺す効果がないこともままあります」的なことにも触れていた形ですね。

 

とはいえこれもちょっと話を分かりやすくするために大げさに書いたとでも言いますか、実際セッケン=界面活性剤にはタンパク質分子の構造を大きく変える力がありますから、普通の石鹸であっさり死ぬ菌もちゃんと存在している形にはなっています。

 

とはいえ×2、界面活性剤だけでは破壊できない菌・ウイルスがいるのもまた間違いなく(そもそも「界面活性剤」もグループ名ですから、一口に「界面活性剤」といっても個別に色々な分子が存在するため、界活グループも一枚岩ではないわけですが)、のみならずむしろ、殺菌を意図する各種薬剤分子でも、実は「この菌は殺せる・でもこの菌には効果なし」という効果の違いが存在するんですね。

 

その辺の効果の有無については長年の公衆衛生学の発展で、人類はもう、既知の多くの薬剤と対菌作用データをほぼ完全に解明しており、それをまとめたものを、「抗菌スペクトル」などと呼んでいます。

 

(※なお、「抗菌スペクトル」という呼び方が一番一般的に思いますが、実際は「殺菌作用」についてまとめたものと考えても差し支えないと思います。

 その辺の微妙な用語の違いは、正直被っている部分が大きいともいえますし、一応定義としては違うわけですけど……

(参考:↓の富士フイルムのまとめ記事など。

sp-jp.fujifilm.com

…「なぜ富士フイルムが除菌記事を?」と思われるかもしれませんが、これはもう何度か触れたことがあったように、Fujiはそのイメージングで培った技術から分子生物学実験で使う試薬なんかも積極的に開発しており、バイオの分野にも造詣の深い素晴らしい企業だからなんですね!)


…上記解説記事にある通り、「殺菌」が最も強い効果で読んで字のごとく菌を殺して無毒化することであり、一方「除菌」は、法律上「殺菌」という言葉は医薬品以外に用いることができないそうで、その他の一般製品において類似の意味で用いられることの多い言葉であり、そして「抗菌」は「菌が増殖できない場を作る」という意味で用いられる用語のことで、記事では「直接的に菌を殺す意図の言葉ではありません」とあるものの、少なくとも「抗菌スペクトル」でまとめられるものでは殺菌作用を示すものも含まれていますから、まぁあくまでこの辺は慣例・法律上の使い分けがされているだけで、科学的に厳密な違いがあるわけではないと思う…というのが僕個人のスタンスですね。

 なので、割と適当に、文の流れで一番しっくりくる音の言葉を選ぶなど、一連の記事中ではこの辺の用語はめちゃくちゃな使い方であることが多い点にご注意ください、という但し書きを添えておこうと思います。)

 

大した話でもない補足で長くなりましたが、「抗菌スペクトル」で検索したら、各種薬剤の有効性をまとめた表が沢山ヒットしてきました。


色分けされてより見やすい表・より多くの微生物についてまとめた表…など色々あれど、白黒でかなり見づらかったものの補足説明含めて非常に丁寧にまとめられていると思えた、こちら福岡県薬剤師会の抗菌スペクトル表(ほぼA4サイズ1ページにまとめられたPDFファイル↓)を参考としてお借りさせていただきましょう。

 

https://www.fpa.or.jp/library/old/infomation/shoudokuyaku/ichiran/syoudokuyakuichiran.pdfより


…って、情報が豊富なだけあってかなりごちゃっとしていますし、画像では正直見づらいかもしれないので細かい点は原典のPDFをご参照いただければ幸いですが、上から「人体にも、器具・環境にも使える」「人体にのみ使える」「環境にのみ使える」という各薬剤が並べれており、左右の広がりには各種菌類・ウイルス類、および細かい「使える部位」と、あとは補足事項が一番右側に並んでいる形ですが……

 

前回、「殺菌消毒ポンプは、主にエタノールが使われていると思いますが…」などと書いていた通り、やはり、最も特筆すべきは消毒用エタノール(上から6番目ですね(…と思いきや、それは薬剤のリストであり、●△×の表示だと、4番目ですが))の有能っぷりだといえましょう。

 

一部のウイルス、具体的にはB型C型肝炎ウイルスは「×:無効」ですが、まぁ基本的に血液感染以外あり得ない肝炎ウイルスが日常生活で接触してくることなどあり得ませんし、施設の入り口で除菌用アイテムとして用意されるものとして、全く不満はない効能だといえましょう。


また、「細菌芽胞」への効果も「×」ですが、これは「胞子」の方が馴染みある表現に思えるものの……ってあぁ、以下のWikipedia記事によると、キノコの胞子との区別がつきにくいので、最近は「芽胞」と呼ぶそうですが……

ja.wikipedia.org

 

…こちらは上記ウィ記事にある通り、細菌がその身を守るために構成する防御力最強の状態なわけですけど、防御力を高めた分、細胞分裂代謝増殖能はほぼゼロの無能に成り下がっているので、エタノールで殺しそびれてもすぐヤベェことになるわけではありませんから、これもまぁ、通常状態に戻る前に普通に手洗いやシャワーなんかで洗い流せば問題ないでしょう……と考えたら、無視していい存在にも思えます。

 

(まぁ「アルコール最強」という結論に持っていきたいだけの、無理やり擁護かもしれないものの(笑))

 

結局、表の特徴説明にもある通り、アルコール(エタノール)というのは極めて広い抗菌スペクトルを誇り、かつ安価、しかも速やかに蒸発しあとに何も残らないので快適、そして人体にそこまで有害ではない(まぁお酒に弱い人もいますけど、基本的に飲んでも代謝して最後は酢酸にまで変換できるという意味で)という点で、飲んで楽しめるのみならず、清潔を保つ上でもこの上なく素晴らしい、人類の友ともいえる液体ではないかと思います。

 

ただし、学生の頃はしばしば手袋なしで直接素手で実験することも多い研究室だったのですが、その際70%エタノールを頻繁に手につけていたんですけど、殺菌能力のみならず(これも特徴の説明欄にある通り)脱脂作用も結構強力で、

「うわっ、スッとして気持ちいいから調子に乗って吹き付けまくってたけど、手がカサカサのみすぼらしい感じになってしまったぞ、案外肌が荒れるんだなぁ!」

…と思えるぐらい、ただスッとするだけではなく本当にちゃんと強い物理・化学作用があるものともいえますし、あとはやっぱり若干燃えやすいというのが、神のようなアルコール類のもつ、大きな欠点といえるかもしれませんね。

 

(また、僕自身そうですが、酒を飲まない人にとっては、飲む方のエタノールは迷惑度の方が高いカス汁ともいえてしまうわけですが(笑))

 

ちなみに、エタノールが「×」となっているのは他にも使用箇所として「創傷面」「粘膜」の欄がありますけど、実際傷口には尋常じゃなく沁みるので使えませんし、同じく粘膜も、沁みるというかアルコール成分が凄まじい勢いで吸収されてしまい、急性アルコール中毒になる可能性も高いですから不適という弱点があるっちゃあるかもしれません。

 

なお、そのすぐ下を見てみると、「ポピドンヨード」、いわゆる「イソジン」が、まさかの「芽胞」も△と一定の効果を見せ、かつ、うがいで使われることからも常識といえますが、傷口や粘膜に対しても使用可能というエタ超えの性質を見せており、記号だけ見たらエタノールより完全に優れているようにも思えるものの、これは必ずしも「エタノールの完全上位互換」ってわけではないのは明らかといえましょう。

 

ズバリ、まぁそこまで不快ではないもののイソジンはニオイがきついですし、それよりなにより茶色い色素が沈着してしまうこと、そして揮発性もないため、ポンプから掌に塗り付けてモミモミ…みたいな便利な使い方には全く適していないんですね!

イソジンを手に塗りたくってそのまんまにしている人がいたら、キチガイでしょう(笑)。清潔感より不快感の方が勝りますね(笑))


また、同じ理由で、器具類に吹きかけて器具の殺菌・公金をするには全く適していない感じであるのも、当然のことといえると思います。

 

とはいえ、何気に抗菌スペクトルそのものとしては本当に、エタノール以上に優秀な物質なので、「風俗では必ずイソジンが使われる」なんて聞いたことがありますけど、それは本当に極めて効果的で意味のある殺菌・感染対策になっている形なわけですね。

 

一方他にも、下の方には次亜塩素酸ナトリウムが挙げられていましたが、こちらも芽胞含め非常に優秀な抗菌スペクトルを示す(エタ・イソジンが倒せない肝炎ウイルスにも完全な効果ありなんですね)大変優れたモノですけど、こちらはこないだ(と思ったらもう半年前でしたが)見ていた(↓)、「ピューラックス」がまさにそのもの(上記表でも、ちゃんと商品名が挙げられていましたが)ですね!

 

con-cats.hatenablog.com

 

とはいえ、ピューラックスは酸化力が強すぎるので人体への使用は不適ですから、こちらは器具類や環境の殺菌抗菌にしか向いていないという弱点もある感じになっています。

でも、モノを殺菌したいときにはうってつけの消毒薬ってことですね。

 

ちなみにエタノールでは全項目「●:有効」だったので特に触れなかったものの、「適応微生物」として、「真菌」っていうのがカビの類ですし、食中毒を起こしがちな大腸菌などは「一般細菌」、そして毒素を作る厄介な、こないだ見ていた黄色ブドウ球菌は「MRSA」と呼ばれる(これは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌」の頭文字を取った名前で、薬剤耐性を獲得してより強くなった黄ブ菌ですね)ものに分類されている通り、我々の日常生活の安全を脅かすカス菌に対して、まさしく全てに有効といえるエタノールは、本当に非常に強力な効果を発揮するものとなっています。

 

なお、新型コロナウイルスも、消毒用エタノールはしっかりと破壊することが報告されている感じですね(↓)。

 

www.mhlw.go.jp

 

また、最後話を戻すと、最初に触れていた「界面活性剤」は、表に挙げられていた上4つがそれにあたる感じですね。

(文字が小さすぎて読めないと思いますが、陽イオン界面活性剤と両性イオン界面活性剤が2つずつ挙げられています。)

しかし、肝心のMRSAにはあまり効果がないなど、やはりこいつらは「殺菌」というよりも基本的に油汚れの除去(ミセル化)を目的としたものといえるかもしれません。


でも、一応一般的な細菌全般の殺菌には効果的といえるようです。

(なお、一般的なセッケンは「陰イオン界面活性剤」となるので、ここで挙げられていた4種は、界面活性剤の中でも広い抗菌スペクトルを誇るものの方かと思います。

 表に挙げられていなかった陰イオン系の界面活性剤は、各薬剤の「特徴」欄で登場してきた際、「洗浄目的」と明記されていることからも、やはり「体や皿表面を物理的にキレイに保つこと」がメインの目的の物質で、菌を殺すためには他の殺菌剤と併用するのが基本なのかな、とも思えます。

 とはいえ、イソジンなんかは「界面活性剤と混合して使うと効力が低下する」とある通り、消毒薬の組み合わせによっては、場合によっては逆効果にもなり得る点に注意といえましょう(もちろん、石鹸水でうがいする人なんているわけないから、あんまり併用することなんてない気もしますけどね(笑))。)

 

しかし改めて、結論としては結局、やっぱり積極的な殺菌にはアルコールが最強で、令和の時代の清潔維持には殺菌消毒用薬剤ポンプの使用が最も推奨されている…というのは前回見ていた通りだといえましょう。


…といった所で、今回のネタも大体この辺で、もう一つ触れようかと思ったちょいネタもありましたが大した話でもなかったので、とりあえず今回はいい分量になったこともあり、この辺で一区切りとさせていただこうかと思います。

にほんブログ村 恋愛ブログ 婚活・結婚活動(本人)へ
にほんブログ村