さらなる補足:逆向いてるやつは要らない子…?

前回の追加質問への補足記事を受けて、「いやもうホンマに申し訳ない…。ど素人の、しょうもない疑問に付き合ってもろて、ブログの進行を中断させてしまってることは事実なわけやさかい…」という恐縮コメントとともに、追って疑問点の補足をいただいていました。

いやぁ~、本当に、マジで進行を気にしなきゃいけないようなブログネタなんぞ一切展開されていませんし、むしろ永久に質疑応答を続けていたいぐらいなので(笑)、逆に「頼むっ!ガンガン質問をしつづけてくれぇぇー!」と願ってやまない感じです。

というわけで早速、補足質問に触れさせていただきましょう。


補足Q.  いや、解説してもらった話は、概ね分かっちょるはず…!二本鎖とか逆読み不可とかは、ちゃんと理解できちゅーはずなんやけんど……何か根本的な部分がわかっちょらんというか、そもそも考え方が間違うちゅー感じなんやろうか?

例えば……そう!コドン&アミノ酸!!

二本鎖の、左から読んだコドンが表すアミノ酸と、右から(別の方の鎖を)読んだコドンが表すアミノ酸は、違うものになるじゃろ??それは、問題ないんやか?

例えば、例の9塩基DNA…

5'-TTAGGGCAT-3'
3'-AATCCCGTA-5'

これだけ見ても、このコドンから作られるアミノ酸は、上を読めば「LGH」、下を読めば「MP停止」となるわけよね??(ちなみにコドン暗号は調べた笑)

これを「同じと考える」といわれてしまうと感じるこの違和感…おかしいじゃろか?

いや、何かが大きく間違うとる(見落としとる)んじゃろうが…それは何ぞや?

 

A. なるほど~、その辺がつっかかりポイントでしたか…!

確か、既に何度か似たような疑問をいただいていつつ、他の話で保留になってたりでハッキリと書いたことがないままになってた点だったような気もしますが、これは結局、もちろんコドンとして読まれるならば逆の鎖からは全く別のタンパク質が生まれますけど、そもそもそっちは読まれることがない、って話に尽きる感じですね。

何度か書いている通り、最終目的ブツであるタンパク質を作るためには、DNA→RNA→タンパク質という変換工程が必要なんですけど、遺伝子スイッチつまりプロモーター領域が、ORF(=開始コドンから停止コドンまでの、一番重要なアミノ酸の並び順を指定している、いわばレシピ領域)の上流に存在しない限り、その最初のステップ、DNA→RNAの変換が行われないんですね。

まぁ9塩基の例は、どっち側にもプロモーターなんて存在しない形になっていたのでこれはちょっと悪い例だったかもしれないんですけど、まぁあれは簡単な概念理解用のチュートリアルDNAみたいなもんということで、開始コドンATGがある側がタンパク質合成に使われる鎖とみなして考えてみましょう、という感じのものでした(でもやっぱり混乱を招き得る感じなので、良くなかったですね)。

ちゃんとしたものを見るべく、実際のpET-15bの例に改めて目を向けてみると、lacI、AmpR、そして自分のお好みの遺伝子を入れる部位、全てちゃんとORFの上流にプロモーターがあって、ここをスタート地点として、まずDNAがRNAに変換される(=転写される)ようになってるわけですね。

この転写(RNAポリメラーゼによるRNA合成)ステップで、どちらの鎖が選ばれるかが決まるわけです。

もう一方の鎖(lacIなら反時計回りの鎖、AmpRなら時計回りの鎖、そして遺伝子導入部位も、時計回りの鎖)は、RNAポリメラーゼに選ばれない側なので、そっちの配列がRNAに変換されることはありませんから、「コドンが違うのでは…」とか心配する意味が全くなく、そもそもDNAから先に進むことがない(進む資格がない)から、タンパク質なんて作られようがない、って形になっているわけです。


…って、言葉の使い方について、かなり細かい点になりますけど、この辺めっちゃややこしいというか「雰囲気で察してくれ」的な感じで適当に書いてますが、正確にいうと、RNAポリメラーゼに選ばれる(というか使われる)のは逆向きの鋳型鎖の方ともいえるので、どっちが「選ばれる方」なのかは、捉え方次第といえてしまうかもしれませんね。

つまり、T7 RNAポリメラーゼの例でいうと、以前貼った図を再掲しますが、T7プロモーター=「TAATA…TATAG」の、GからRNA合成(転写)が始まるわけですけど…

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…先ほど「選ばれる」としたのは図でいう上側の鎖で、1番のGから始まって、GGGGAAUUGUG…というRNAが合成されていくことになるわけですけど、作られるのはあくまでRNA鎖(緑色)なので、オレンジ色のDNAの鎖に着目すれば、ある意味上の鎖は全く使われておらず、実際に選ばれているというか使われている/読まれているのは、下にある逆向き鎖だ、ともいえるんですよね。

そう考えるとどちらも重要な鎖というか、ある意味より重要というか必要とされてるのは逆向きの鋳型鎖ともいえるわけですが、プラスミドマップ上での矢印は、RNAが実際に合成されていく方向に描かれているので、上の自作図のRNA合成が進む方向は、pET-15bマップでいうと、反時計回りに対応している、という感じですね。

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改めて参考:pET-15b公式マップ(T7はマップ上の黒塗り矢印)

まぁ「選ばれる鎖」というのをどう取るかというだけの単なる表現の好みに過ぎない話ですが、一応、RNAポリメラーゼが読んで、ペアとなるヌクレオチドをつないでいく方の鎖を「鋳型鎖」、一方合成されるRNAと同じ配列になる方を「暗号鎖」などと呼んでいる感じです。
(つまり先ほども見ていた通り、暗号鎖は、一見重要なようで、RNAポリメラーゼによる転写反応では実はむしろいなくてもいいぐらいのやつ(転写バブル構造で、はがされるだけの存在だから)、ってことなんですね。
 逆に、「選ばれない方」とされていた鋳型鎖は、要らない子どころか実際にRNA合成の目印(どの塩基を取り込むかの目印)として働いているのはこっちだった、って感じでした。最終的に鋳型鎖側の配列そのものが新しい物質として産み出されたり使われたりすることはないけれど、RNA合成の参照先として仕事をしてくれている、ってことですね。)


要る要らないはともかく、とりあえず話の理解で重要なのは、pET-15bにおいて、このT7付近では、時計回りが鋳型鎖、反時計回りが暗号鎖になってるわけですけど、いうまでもなくプラスミド全体がそうなのではなく、場所によって鋳型鎖・暗号鎖はどっちがどっちなのかは全く変わるものだ、ってことだといえましょう。
(これまたいうまでもなく、矢印の向きが逆の、例えばlacIでは時計回りが暗号鎖、反時計回りが鋳型鎖となっているということです。)


ちなみに、鋳型鎖が使われることは絶対にないのかというと、これはもちろん、プロモーター他、DNA→RNA→タンパク質の工程を全て進めるのに必要な要素を上流(鋳型鎖にとっての上流、暗号鎖からみれば下流ですが)に差し込めば、逆向きに並んでるコドンからタンパク質を作ることも可能にはなります。

…が、それでできたタンパク質に何か意味があるかっていうとまずないでしょうし、そんなことする意味はほぼないって話ですね。
(また改めて、プロモーターなど必要なものが必要な場所に存在しない場合は、タンパク質に変換されることはありません。)


一応、実際の生物の染色体で、ある遺伝子にとっての鋳型鎖が、たまたま別の遺伝子にとっての暗号鎖になってる例はないかな、と気になったので、ちょっくら調べてみるとしましょうか。

大腸菌のゲノムは単純すぎるので多分ない気がするけど、逆にヒトゲノムだと複雑すぎて探すのも面倒そうなので、ちょうど中間ぐらいの、全ゲノムが解明されているけどそこまで複雑すぎない、酵母ゲノムを見てみました。

以前、もうずっと前ですがゲノムブラウザーの記事ではNCBIのビューアを見ていましたので、今回はUCSC(カリフォルニア大学サンタクルーズ校)のビューアを使ってみるとしましょう。

酵母ゲノムにアクセスすると、酵母酵母の学名は、S. cerevisiae)には17本の染色体があるようですが…

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https://genome.ucsc.edu/cgi-bin/hgTracks?chromInfoPage=&hgsid=1190912837_2tfal6G45U1t0EaMUT4tUCKTaLXgより

 

まぁ最も小さいものの1つ、第1番染色体を見てみますか。

ChrIをクリックすると…

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1番染色体全長マップ

1番染色体に乗っている遺伝子が全て、ズラ~っと一望できる感じですね!

左端から右端にかけて、1~23万218番目の塩基まで並んでいる形ですが、青いバーが1つの遺伝子で、ちゃんと、白い矢印で向きも表示されています(小さすぎるバーは、矢印が表示されていませんが)。


もちろん、超拡大すれば、塩基の文字列も表示されます。

こちら一番最初の始まりの部分を拡大した感じですが…

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1塩基の文字が見えるレベルの拡大図

1番染色体は、CCACACCAC…と、ACが目立つ(というかCACの繰り返し)配列で始まっている感じですね。

…と、ゲノムブラウザについてはともかく、下の図が全長表示から3倍拡大した図になりますが…

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ちょっと拡大した酵母1番染色体マップ

むーん、マジで、「異なる遺伝子で同じ部分を逆向きに共有しているもの」は見当たらないどころか、ごく一部分ですらオーバーラップしてる領域は、一切見当たらないものですね!

その後、スライドしてその他の領域を見ても、他の染色体を見ても、上手いこと酵母の遺伝子ってのは全くオーバーラップしていない感じでした。

まぁ酵母はやっぱり単細胞だし単純な生物だからね、こんなザコには遺伝子の重なりもないのでしょう、ってことで、ヒトの染色体ならあるんちゃうかなと思ってヒトゲノムマップも見てみましたが、何気にこいつも酵母と同じく、案外、マジで重なってる遺伝子ってのは見当たりませんでした。


そんなもんだったかなぁ、と改めて情報検索してみたら、ふと、WikipediaOverlapping geneという記事を発見!

見てみると、逆向きではないものの、重なっている遺伝子の例として、ヒトのATP8ATP6という2つが、ORFをシェアしているとのこと…。

早速、ATP8遺伝子をNCBIのGeneで調べ、そこから飛べる簡易ゲノムビューアで染色体を見てみると!

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_011137.1?report=graph&from=8329&to=8597より

おぉ~、確かに、ATP8(下側のバー)のお尻部分と、ATP6(上側のバー)の頭部分が、15アミノ酸ぐらい、同じ領域をシェアしてますね!

しかも、こいつらは1塩基読み枠がずれているので、ATP8はラストCAA-TCC-TAGで「Qグルタミン-Sセリン-停止」でタンパク質が終わりますが、ATP6はATC-CTA-GGC…と「Iイソロイシン-Lロイシン-Gグリシン…」と、見事TAGの停止を回避して、別のアミノ酸がつながっていく感じなんですね!

残念ながら逆向きのオーバーラップではありませんでしたが、こんな感じで、同じDNAでも、違う形で使われることも当然ある、ってことですね。

せっかくなので、逆向きに重なってる遺伝子はないかな…と、もうちょい粘って検索結果を見ていたら目についたのが、日大・中山さん他著の、まさにこれを知りたかったという論文!

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

この論文によると、2~3万程度あるといわれるヒト遺伝子の中で、同じ向きにオーバーラップしているのが949、逆向きにオーバーラップしているのが743種類の遺伝子と、やっぱりかなり少ないんですね!

この論文では数だけで具体的な遺伝子は挙がってませんでしたが、この論文で引用されていた論文を見ると、一応いくつか具体例が挙がっていた……ものの、どれも、ORFがオーバーラップしているわけではなかった(タンパク質を指定しているわけではない、いわばスイッチなどの調節領域がかぶっていただけ)ので、若干インパクトに欠ける感じのものしかありませんでした…。

(例えば、この1番染色体の4534万番塩基付近にあるのが、右向き遺伝子がTOE1という名の遺伝子で、左向き遺伝子がTESK2という名の遺伝子ですが…

f:id:hit-us_con-cats:20211021064008p:plain

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/NC_000001.11?report=graph&from=45339117&to=45344605&app_context=Gene&assm_context=GCF_000001405.39より

 TESK2遺伝子の終わりが停止コドンになっていないのは、ここはもうORFの下流でタンパク質を指定している領域ではないから、というのが理由になります。
 また、矢印入りのバーがいくつもあるのは、微妙に違う形で存在&機能しているタンパク質が知られていて(アミノ酸が一部欠けているなど)、その微妙に違うバージョンが全部表示されているから、ってのが主な理由ですね。

…本当は「同じコドンを、全く逆向きで使ってる例も、この通りあるんですね!」というのを示したかったので、タンパク質に変換されない領域だとややインパクトに欠けちゃう感じですが、まぁ調節領域ではあるものの、逆向きのDNAがそれぞれ意味をもって機能している例もこのようにちゃんとありますよ、って話ですね。)

 

…といった感じで、こんな感じの話で疑問点は大分クリアになったのでは、と思いますが、まだまだスッキリいかない点、ちょっとでもモヤりがありましたら、マジでドシドシご質問お待ちしております。

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