そういえばウシは英語で何と呼べば…?

前回の記事では駆け足で「生物種による遺伝子(酵素)の違い」を見ていましたが、あまりにも時間がなく、いくつか補足しておきたかった点にも触れずじまいの形になってしまっていたため、今回は完全に前回の内容の続き・補足の話から参りましょう。

 

まずちょいネタから、前回はRNA分解酵素の代表格・RNase Aの中身(酵素=タンパク質=アミノ酸が大量につながったものなわけですが、そのアミノ酸の配列ですね)について、我らが人間様と、実験室で最もよく使われるウシくんの配列とを具体的に比較していたのですが、その「ウシ」について……

 

「ウシは英語でbovineと呼びます」などと書いていましたが、「え?ウシって……カウじゃなかった?」「いや、ブルもウシちゃう?」「何かドラクエの牛っぽいモンスターでオックスって名前のついたヤツいなかったか?」などなど思われたかもしれないんですけど、これは典型的な、日本よりも酪農文化の発達した英語圏ならではの、同じ動物なのに複数の呼び名があるものの代表例ですね。


(ちょうど、逆の例として挙げられるのは、稲作の発達した日本語では、同じ「コメ」を意味するものに「稲」「籾 (もみ)」「米」「ごはん」「しゃり」などなどがある一方、英語では全てriceという一語で表現するのみ(brown riceなどはあれど、それは日本語の牛も同じで、修飾語をつけただけで、言葉としては1つ、ってことですね)というのと同じパターンで、言語と文化が密接に結びついたことを示す好例といえましょう。)

 

ウシの呼称の一覧が、酪農ジャーナル電子版の記事(↓)にしっかりまとめられていました。


このうち一部、単語として独立した表現のみを抜粋引用させていただきましょう。

 

rp.rakuno.ac.jp

ウシ亜科の動物(ウシやスイギュウ、バイソンなど):bovine[ボウヴァイン]

牛(畜産動物としての牛):cattle[キャトゥル]

 

雌牛:cow / cows[カゥ / カゥズ]

雄牛:bull / bulls[ブル / ブルズ]

去勢した雄牛:ox / oxen[オックス / オックスン]

子牛:calf / calves[カーフ / キャヴズ]

 

雄の子牛(食肉用に去勢されたもの):steer[スティーア]

未経産牛:heifer[ヘファー]

 

前回見ていた「ボバイン」は、学術的な用語というより、最も広くウシを指す言葉という感じですね。


また、そこからさらに家畜としての牛を指すものは、「キャトル・ミューティレーション」という、未だに語感の良さの割に結局どういう場面で用いるべき言葉なのか不明すぎる謎フレーズでおなじみ…

(宇宙人が地球人をUFOでさらう行為のことかと僕は思っていたのですが、以下のピクシブ記事(↓)によると、それは「アブダクション」であり、キャトミュはあくまで家畜がさらわれる行為のことなんですね。

 ↓のリンクカードでは画像の肝心の所が切れてしまっていますが、まさにウシくんがUFOに向かって、光とともに「パァ~ッ」と連れ去られるシーンが思い浮かびます(笑))

dic.pixiv.net

…この「キャトル」も広い意味でのウシ全般を指すわけですけど、より普段聞く気がする「カウ」「ブル」「オックス」はそれぞれ「牝牛」「雄牛」「去勢された牡牛」を指すとのことで、性別のみならず、去勢の有無でも違う呼び名があるという感じなんですね。

まさに、英語話者たちの持つ牛への親しさってのは、日本人の米への親しさと同じものがあるといえましょう。


この中ではやはり「カウ」が、「牛」といえば一番に浮かぶ単語だと思いますが、日本語の「牛」で一番に浮かぶのはやっぱり白と黒の乳牛だと思うので、自然に「ウシといえばやっぱり」ってことで連想がつくものといえましょう。


ちなみに↑には挙がっていませんでしたが、「beef」も同じ「牛」に関する単語ですけど、これはもちろん「牛肉」ですね。

ビーフという語自体に雌雄の違いはないようですが、基本的に脂の乗りの違いから、肉としてよく使われるのは雌牛のようです。


…乳も肉もカウ由来ということで、一体お前らは何のために存在しているんだぁオスぎゅうぅ~~!(笑)

 

一方その存在価値が疑われる「ブル」と「オックス」ですが、この区別は、やっぱり何となく「ブル」の方が語感的にも「ブルル~ッ!」と猛々しい感じがするわけですけど、まさにその通りで、ブルが未去勢の、オックスが去勢済みの雄牛ということで、これも覚えやすい気がしますね。


なお、先ほど例として「ドラクエのモンスターに…」と書いていた、DQ3の「マッドオックス」とかDQ4の「オックスベア」といった、「オックス」の名を冠したものには中盤で出てくるかなり雄々しく、結構イヤらしい攻撃をしてくる難敵がいるんですけど(まぁオックスベアは見掛け倒しのザコですが(笑))、こいつら去勢されとったんかよ、ザッコ!(笑)

(「マッドブル」の方がより強そうな気もしますが、まぁでもあの正面向いて鼻息荒く呪文使ってくるカスみたいな敵は「マッドオックス」が似合ってますし、「ブルベアー」だと金融・証券用語の「強気・弱気」になってより変な感じになってしまいますから、やはり堀井雄二さんのネーミングセンスは秀逸だった、って感じですかね(笑))

 

とはいえ、「いる意味なし(笑)」「クソザコ(笑)」と罵った雄牛ですけど、もちろんただ種を与えるだけのためにこの世にいるわけではなく、荷役や農作業なんかでより役に立つのはこいつらの方が多い感じですね。

(闘牛なんかも牡牛の出番でしょうか?詳しくは調べてませんが、あいつらはいかにもブルっぽいですね(笑))

 

ちょうど(上のリストにはなぜかありませんでしたが)、このブルとオックスの合成語のような「bullock」という単語も存在しており、こちらは「去勢された雄の、荷役用の牛」を意味するとのことです。


なお、メス牛の方が価値は高いものの、乳牛としても活躍する♀様を肉にしてしまうのももったいないのか(とはいっても、乳牛と肉牛はそもそも違うものだと思いますけどね)、リストの後半には「雄の子牛(食肉用に去勢されたもの):steer」というものも紹介されていました。


こちらはハンドル操作で日本語でも使われる「ステアリング」なんかの「ステア」と全く同じスペルの単語ですけど、「ステア」が少年牛(しかも去勢済み)、そして「ヘィファー」が少女牛ということで、この辺の単語は僕は全然馴染みがありませんでしたねぇ。

(肉に詳しい人には馴染みのある単語なのかもしれませんね。)


ただ、1つ上にある「calf」は、これは実は生命科学実験でもおなじみでして、これまた酵素の名前で冠されることが多くそれで一番耳馴染みがあるんですけど、アルカリホスファターゼ(Alkaline phosphatase、英語なら「ホスファテース」読み)という、これも生化学実験で極めてよく使われる、「キナーゼ(リン酸化酵素)」の全く逆の、リン酸を対象から取り除く機能をもった酵素(=脱リン酸化酵素)があるのですが、これまたRNase程ではないにせよめちゃくちゃ強い酵素の1つで、あまりにも丈夫なので、実験で混ぜたら中々取り除くのが困難なのです。


歴史的に最も使われてきたのは、大腸菌から取られた「Bacterial Alkaline Phosphatase」、通称「BAP」(日本語で「バップ」呼び)なんですけど、極めて強力で効果的なんですが上述の通り一旦加えてしまうと除去するのが手間で、より簡単に酵素の機能を失わせる(「活性を失わせる」ということで、「失活」と呼ばれます)ためにより便利なものを実験者が必要としていたことから、「ちょっと威力は弱いけど、十分な活性を持ち、しかも熱するだけで失活する」という便利なモノを試薬会社が開発してくれまして、それがコウシCalfの腸(intestine)由来の、「Calf Intestinal Alkaline Phosphatase」、通称CIAPで「シップ」と呼ばれることの多い、これも前回見ていた通り、進化的にちょっとバリエーションの違う酵素なんですね!

 

(参考:我らがタカラバイオの、実験紹介記事↓)

catalog.takara-bio.co.jp


…まぁそんなこと聞かされても何のこっちゃよぉ分からないかもしれませんが、AP処理した後は、次の実験のためにどうしてもAPを失活させたいことが非常に多いんですけれども、ただ反応チューブを加熱させるだけで酵素を破壊することのできるCIAPは大変便利で(逆にBAPの場合、95℃とかに熱しても、冷めたらまた活性が戻ってしまいます)、実験者に大変重宝されており、僕もよく使っている、まさにCalf様々なのです……なんていうこぼれ話でした。

 

一方最後、これも上記リストにはありませんでしたが前回出てきていた学名のBos taurusは、そのまんまアルファベット読み…というかラテン語読みだと「タウルス」なものの、英語だとこれは「トーラス」の方が近かったかもしれませんね。

とはいえ、これまたゲームや漫画などによく出てくるのでおなじみ「ミノタウロス」なんかは「タウロス」読みですし(こちらも、あくまでラテン語表記がMinotaurusで、英語はMinotaurのようですが)、いずれにせよカタカナ表記はどんな単語でも揺れがあるものだ、って感じだといえましょう。

ja.wikipedia.org


…と、今回はもっと酵素の方で補足していきたい話があったものの、まさかのウシくんの話だけでいい分量になったとともに時間切れとなってしまいました。

ちょうど、英語ネタにも触れられたということで、ヨシとさせていただきたい限りです(笑)。


ではその酵素の続き、より生命科学的な内容の方は、また次回にまわさせていただこうと思います。

 

アイキャッチ画像は、「牛」で検索したら出てきた牡牛座のいらすとをお借りさせてもらいました。

そういえば、僕は子供の頃、「おうし座」「おひつじ座」は、完全に丁寧語の「お」がついてるもんだとばかり思っていた記憶が蘇ってきました(笑)。

「何で牛と羊だけ?」とか思っていたものの、これはオスの牡だったんですねぇ、当たり前すぎますが(笑)。

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