謎のフロン回が続いていますが、前回紹介していたアピステ社がまとめてくださっていたフロンガス類の表から、触れていなかった部分でもうちょい無理やり話を広げられそうだったので、今回はまずそちらを見ていくといたしやしょう。
前回もお借りしましたが、改めて、フロンの表(と元記事リンク)がこちら(↓)ですね。
分類 冷媒番号 オゾン層破壊係数
(ODP)地球温暖化係数
(GWP) ※備考 CFC R12 1 10900 1996年より生産廃止 HCFC R22 0.055 1810 2020年より生産廃止予定
現在、生産量規制中HFC R134a 0 1430 R32 0 675 HFC
混合R407C 0 1770 R410A 0 2090 HFO R1234yf 0 <1 地球温暖化係数が低くフロンの代替物質として普及。
微燃性自然冷媒 R717
(アンモニア)0 1 毒性・臭気あり。 R744
(二酸化炭素)0 1
「元祖フロン」ともいえるR12、そこから1つ塩素を減らしたR22、塩素を完全に除いたR32など、色々なバージョンのフロンガスを見ていましたが、さらに下にはR1234yfという、分類からして異なるものが挙げられていました。
こちら、検索してみたら物質単独の記事に日本語版はなかったのですが、英語版には存在しました……ズバリ、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンという、二重結合をもつ分子だったんですね!
こちら、またしても我らがデュポン社が開発したものとのことで、共同研究先であるHoneywellが販売を行っているとのことですが…
(ちなみに、日本でも扇風機とか加湿器とかそういったホーム&キッチン系の生活家電で目にしたことがある方もいると思いますが、僕はそのまんま「ハニーウェル」って呼んでましたけど、公式では「ハネウェル」表記だったんですね!
…正しい読み方を全く知らなかったので、恥をかく前に知れて何よりでした(笑))
…まさに表にもある通り、地球温暖化係数が1未満、ほぼゼロである夢の次世代(第四世代)フロンガスとのことで、上記ウィ記事によると、2022年時点で、アメリカで作られる自動車の実に90%が、このR1234yfを冷媒として用いているんだそうです。
とはいえ、自動車で「冷やす」といえばラジエーターなんかが浮かびますけど、ラジエーターは冷媒を圧縮膨張するのではなく、単純にクーラント液と呼ばれる冷却水(まさに、「不凍液」と呼ばれる、融点の低さが売りの液体ですね)を用いているようで(参考:セゾン・おとなの自動車保険の解説記事↓)…
…冷媒が使われるのは、何てこたぁない、車でも普通にエアコンのためだそうで、どう考えてもカーエアコンは家庭用エアコンよりも圧倒的に狭い空間を冷やせればそれで良く、そこまでの冷却効率が求められるものでもありませんから、やはり「環境に優しい」だけあって、冷却効率とかは従来のフロンガスよりもちょっと劣る感じだといえそうですね。
(何事も、環境や健康に悪いものの方が美味しいなんてことは往々にしてあるものです(笑)。)
しかし、「地球温暖化に全く悪さをしない」というのは、エコな今の時代に大変好まれる素晴らしいものだといえましょう。
改めて物質の方に着目し直しますと、そもそもの名前「R1234yf」から、実はほぼ完全にどんな構造なのかが察しのつく名前になっていました。
こないだの冷媒記事で見ていた「冷媒番号の命名ルール」を再度チェックしてみると…
- 千の位は二重結合の数で、これが「1」なのでこの分子には二重結合が1つある
- 百の位は炭素の数マイナス1で、これが「2」なのでこの分子は炭素3つのプロパン、そして二重結合が1つあるので、有機化学の命名規則に則って「プロペン」である
- 十の位は水素の数プラス1なので、「3」ということは水素は2つ
- 一の位はフッ素の数なので、「4」ということはフッ素が4つある(化合物で「4」を表すのは「テトラ」)
…という感じで、3つある炭素のどの腕にフッ素が付くかは最後の「yf」という接尾辞で定められているようですけど、調べてもこの詳細は不明だったのでそこだけはともかく、先ほど画像を貼ったテトラフルオロプロペン(数字が、どの炭素にフッ素が付いているかを表す感じですね)、CH2=CF-CF3というのがこいつの正体だったと、有機化学を学んだ高校生でも概ね推測が付くものだった感じです。
そして横に併記されていた、グループ名であるHFOというものですが、「O」と言えば流石に酸素(Oxygen)か?……と一瞬思えたものの酸素もありませんしそんなわけはなく、どうやらこれは「ハイドロフルオロ(ここまでは今までも出て来ましたが)オレフィン」という名前の略だそうで、こちらには無事日本語版ウィ記事も存在しており(↓)……
「オレフィン」は、聞いたことあるようなないような…と思ったら、記事内でリンクが貼られていたのでクリックしてみた所、まさかの「アルケン」に転送されました。
そう、「オレフィン」ってのは、こちらは高校有機化学の最初に学ぶ、「二重結合を持つ化合物の総称」である「アルケン」の、古い呼び方というか慣用名の一種のようで、これまた「聞いたことあるかも」は気のせいで、僕は全く知りませんでしたねぇ~。
また1つ賢くなってしまった……と思いたい所ですが、こんなの知ってても脳のメモリーの無駄使いの極みなので、とっとと忘れた方がいいかもしれません(笑)。
(聞き覚えあるかも…は、多分、「Orphan drug(希少疾病用医薬品)」とかでよく自分の業界でも耳にする、「孤児」を意味する「オルファン(オーファン)」と勘違いしていただけな気がします(笑))
オルファンならぬオレフィンであるR1234yfの話に戻ると、恐らく若干冷却効率は落ちるものの、イマドキの車でも採用されているぐらいもちろん冷却能はバッチリあるもので、それでいて環境にも優しいという素晴らしいものなわけですが、唯一大きな欠点として、アピステ社の表の備考にも書かれている通り、「微燃性」(やや燃えやすい)って点が挙げられるようですね。
ただこれに関しては、最初の英語版ウィ記事にありましたが、開発元のデュポンは「電気火花を用いても着火しなかった。可燃性は全く認められない」と主張しており、ところが一方メルセデス社は「高温のエンジンに噴霧したら発火したんですがそれは…」というレポートを報告し、その後車の安全を重視したいカーメーカーと次世代冷媒を使って欲しいケミカルメーカーとでやいのやいの争いがあったようですけど、最終的には現在ほぼ全ての車で用いられていることからも明らかな通り、「通常の自動車運行条件では、事実上不燃性といってよい」と結論付けられたようで、これは何よりでしたね。
とはいえ、火事になった時に可燃性のガスが存在していると一気に爆発してしまうことも懸念されますから、そういう意味では夢の次世代ガスにもちょっとケチが付いたといいますか、何事も完璧な物質を作るのはやはり難しいものです、っていう気はしてしまうかもしれません。
安全性(生体無毒、不燃・非爆発性)も、さらにはエネルギーの節約というエコの面からより重要といえる冷却効率のどちらも完璧な、第五世代のフロンガスが出てきてくれることを願いたい限りです。
(まぁ、そんなの言うだけなら簡単で、この第四世代の冷媒もどれだけの人が研究してようやく開発に成功したものなのかは想像に容易いですし、仮に新しいものができて採用されるにしても、実際は製品を作るメーカーの方も仕様を変えるのは大変なんだよ、それは製品の値段として上乗せされることになるけどいいの?…という、色々な困難もあるとは思えますが…)
…ってな所で、またしても予定していたネタに入る前に完全に時間切れとなってしまいました。
続きはまた次回……。