前回、糖アルコールについて見る中で、甘味料の話になっていました。
そんなわけで、今回は甘味料についてまとめてみましょう。
甘味料といえば、やはり一番に思いつく違いというかグループ分けは、天然甘味料か人工甘味料か、という違いになると思います。
基本的に、今までこの「糖についてとうとうと語る」シリーズで見てきた分子は、全て天然にも存在するものになります。
一方、もう一つ大きな区分としては、糖か、糖ではないかという観点からもグループ分けが可能ですが(=糖質系か、非糖質系か)、基本的に人工甘味料は非糖質系のものがメインとなる形ですね。
要は、糖は生物(多くの場合、植物でしょう)に作ってもらってそれをいただくのが一番楽だから、我々人間は「糖じゃないけど、砂糖なんかよりずっと甘いもの」を目指して自力で作りますよ、という感じだといえましょう。
ということでまずは、より大きなグループとなっている、糖質/非糖質という観点をメインに、甘味料をまとめてみるとしましょうか。
(というか、Wikipediaがそうなってるので、それを真似しているだけともいえますけどね(笑))
【糖質系甘味料】
・糖類
→砂糖を代表とした、誰しもが「甘いもの」と聞いて最初に思い浮かべる、糖。
単糖・二糖・オリゴ糖、今まで色々なものを見てきましたが(多糖は甘くないため、ここには含まれないものの)、そいつらですね。
・糖アルコール
→ちょうど前回見ていた「糖アルコール」、前回触れたロッテも、Zeroチョコの商品ページで「糖質だけど糖類じゃないよ」と散々アピールしていた通り、区分上は「糖類」ではないので(だけど、「糖質ではある」というややこしさ(笑))、一応上の糖グループとは分けてカテゴライズされるやつらですね。
【非糖質系甘味料】
・天然甘味料
→化学的に、分子レベルで見た場合「糖」というグループには含まれないけど、甘いものとして知られており、食品に使われることもある、自然に存在するもの。
また後で触れる予定ですが、分子レベルの構造で見ると結局糖がくっついた感じの形になっていますし、実際大した種類もないので、勢力的には大分弱いグループといえそうです。
・合成甘味料
→賢い人類が、糖より甘く、糖より太らない夢の物質を求めて人工的に作り出したのがこいつらですね。
まぁ、夢の物質だけあって食品・飲料などで汎用されていますが、かなり悪名高く、嫌われ者分子ともいえてしまう、一筋縄ではいかないやつらといえるかもしれません。
それぞれの項目については後ほど改めてもっと詳しく見ていきたいですが、まずはタイトルにもした、世界一甘いもの、今回はこれに着目してみるとしましょう。
世界一甘いものとは…?
全然関係ない話になりますけど、個人的に好きなのが、ダウンタウン松ちゃんのネタで、プリン早食い対決のコーナーか何かでの言葉…(検索したらヒットした松ちゃんの名言ページを参考)
ゲストと松本による「プリンを制限時間内に何個食えるか!」対決後…
松本「アマい!アマ過ぎるわっ!!口の中メッチャ甘いっ!!」
ゲスト「いやぁ〜甘いっスね〜」
浜田「ハハハハハ!お前らアホやろ」
松本「いや甘すぎるって!!ファースト・コンタクトでビックリしたわ!」
浜田「何を言うとんねん」
松本「俺の中学の時の考え方より甘いわ・・・」
…ってのがめっちゃ笑えて今でも強く印象に残ってるんですけど、まぁ松ちゃんに限らず中坊の浅はかな思考ほど甘いもんもこの世にはないといえるものの、話はそうではなく(なら出すなよ(笑))、もちろん物質として甘いものは何やねん、って話ですね。
その「世界一甘い物質」は、上記甘味料のグループのどこに含まれる物質かというと、これはもう誰がどう考えても明らかですね、合成甘味料、つまり、人間が作った化学物質になります。
その名も、ラグドゥネーム!
…って、Wikipediaページ名はラグドゥネームなのに、トップ画像ではルグズナムとなってますが、これは別名…ではなく、単なる「別読み」ですね。
lugdunameで、何でルグズナムなんだよ、フランス語読みかよ!と思ったら、元々合成されたのがフランスのリヨン大学で、この名前自体もリヨンのラテン語古名であるLugdunumにちなんで名付けられたとのことで、むしろフランス語読みに近いルグズナムの方がより正しい読み方といえるのかもしれませんね(個人的には、ラグジュアリー感のあるラグドゥネームの方が似合ってる気もしますが)。
例によってクッソつまんない構造の話にも一応着目しておくと、中央の炭素から窒素が3つつながっている部分(1つは二重結合で)は、DNAのA, C, G, TのGであるグアニンが分解して得られる分子、グアニジンと呼ばれるもので、強力なタンパク質変性剤として生化学分野でよく使われています(僕も、グアニジン塩酸塩みたいな形で、しばしば実際の研究でお世話になっています)。
が、まぁそんなのはどうでもいいのでそれはそれとして、ラグドゥネームの構造、端から…
N≡C-の二トリル基、ベンゼン環、そしてグアニジンとつながり、その上には酢酸(カルボキシ基-COOH)がついて、隣にはベンゼン環に酸素2つと炭素がさらにリングになった感じでくっついているもの(ベンゾジオキソールと呼ばれますが、これだけはなじみがないというか未登場物質ですね)…という感じでつながってできた物質であり、それぞれのパーツは特別珍しいものでもないのに、こんなのが世界一甘いってんだから不思議なものです。
どれぐらい甘いのかといいますと、砂糖の甘さを100としたら、まさかの、30000000!
いや読めねぇよ(笑)、ってレベルの大きさですが、砂糖の約22万~30万倍甘いと見積もられているそうです。
グアニジン…二トリル……そんなの飲んで大丈夫なんかね?という気も正直しますが、流石に、食用としては使われていないようです。
とはいえ、これだけ甘いなら、食用に応用できたらとんでもなく有能なのでは…とも思えますね。
ただ、「30万倍甘いってどういうこと?砂糖30万個を凝縮した極上の甘味が得られるわけ?」って気もするんですけど、まぁ僕は舐めたことがないので想像でしかないですが、多分、こいつを直接舐めても苦いだけではないかと思います。
甘すぎて最早苦いという、何やねんそれ、って話ですが、多分ここでいう30万倍というのはそういうことではないんですよね。
恐らく、「30万倍に薄めたときに、砂糖と同等の甘さが得られる」ということなんだと思います。
つまり、例えば500 mLペットボトルのジュースには50グラムぐらいの砂糖が含まれますが、このラグドゥネームなら(計算のため25万倍計算で)ペットボトルに、わずか0.2ミリグラム、つまり、ちょうど砂糖でいうと一粒ぐらいをペットボトルに入れてやるだけで、真水がコーラぐらい甘くなるという感じですね。
目に見えるか見えないかぐらいの、砂糖の小さな粒たった一粒で激甘ジュースになるとか、まさにヤベぇやつといえましょう。
(でも、正直、案外常識的な範疇ですね。もっと、一粒で東京ドーム10杯分のコーラができる、みたいな感じになるかと思ってました。…って、んなわけないか(笑))
一方、現在地球上に存在する最甘野郎はこのラグドゥネームですが、これは人間が作ったチート物質なので失格&無視しますと、ギネスブックに認定されている、天然に存在する一番甘いものは、ソーマチン(Thaumatin、別読みでタウマチンとも呼ばれるようです)という、まさかの糖ではなくタンパク質とのこと!
www.speeli.com
↑の参考リンクの情報によると、2008年のギネスブックにて、砂糖の1600倍の甘さのある物質としてチャンピオン認定されているようです。
タンパク質というのはアミノ酸が何個もつらなった高分子なので、あまりにでかすぎるためいつものCやOがつながった構造は表示不可能ですが、タンパク質の構造というのは、ちょうど上のリンクカードにも表示されているような、リボンモデルで示されることが多いです(こんなのを見ても、全く何も分かりませんが)。
全く同じ図ですが、リンク先がつぶれてしまったときのために、Wikipediaからもリボンモデルの図を引っ張ってきて、載せておくとしましょう。
ちなみに、このソーマチンは207個のアミノ酸がつながってできたものであり、当然、どういう順番でつなげばいいかのレシピも公開されています。
アミノ酸1文字表記で、こんな感じにつなげてやればOKです!
(このタンパク質を指定する遺伝子は235アミノ酸ですが、1-22と230-235番のアミノ酸は、タンパク質完成後取り除かれる不要な部分であり、ソーマチンとして機能するのに必要にして十分な領域は、23番のA(アラニン)から229番のA(これもアラニン)までの、207アミノ酸という感じになります。)
…ってまぁこんなの見ても自分で作れるわけじゃないのでどうでもいいですが、もしもアミノ酸を1つずつつなぐことができる機械(タンパク質合成機?)が遠い未来、一家庭にひとつとか普及したら、この207個のアミノ酸をつないでやれば、世界で一番甘いタンパク質がご家庭で簡単に手に入れられる、ってことですね。
お酒や糖を分解したり、髪になったり目になったり筋肉になったり、さらにはめちゃくちゃ甘くもなれるだなんて、本当に何から何まで違う性質の様々なものが爆誕してくるタンパク質というのは本当にスゴイですね、という、もう幾度となく書いてきたそういうお話でした。
なお、このソーマチンは、甘さが後からゆっくり来るタイプのようで(激辛か何かかよ(笑))、さらにその感覚も長く続くということで(味は砂糖とは大分違う甘さとのことですが)、面白そうだからいつか食べてみたい限りですね!
ということで、世界一甘い物質だけでいい長さになってしまったので、他の甘味料については次回また見ていくとしましょう。