前回は石灰からジェットボックス弁当に話が転がり、せっかくなので熱化学方程式の問題を長々と解いてみるなどしていました。
あ、次の質問に移る前に、前回のご質問であまりにも長くなってしまったため保留していた部分がひとつあったので、まずそこから参りましょう。
それが、「個包装のお菓子なんかに入っている乾燥剤みたいなやつ、開封すると熱くなりますよね?それも恐らく、化学式に熱ですね?笑」という部分ですが、これはまさにその通りなんですけれども、乾燥剤の種類によっては吸湿しても発熱しないものもある感じですね。
僕はその辺の物性化学の専門家ではないですが、高校化学でも、「シリカゲル」については習い、これはケイ素の化合物(ケイ素は英語で「シリコン」なので(元素記号も「Si」です)、シリコンを使ったゲル、って意味なんですね!)、具体的には二酸化ケイ素になりますが……
こちらは、化学反応で水と反応するというわけではなく、物理的に水と結合しやすい性質であることから(なので、上記Wikiページにある通り、シリカゲルのビーズ自体は「SiO2・nH2O」という式で表される物質になっています)、これは例の熱化学方程式で表されるような発熱反応ではありません。
(もっとも、物理的に結合するといっても、ミクロのレベルでは水素結合が形成されるという化学的な反応もなくはないようで、わずかながらの発熱はあるようですが(参考:シリカゲルの発熱量 : もふもふフレア)、前回の生石灰パウダーに水を加えるのと比較したらほぼ体感できないレベルだといえましょう。)
そう、実は生石灰は、例のジェットボックス弁当以外に、乾燥剤としても使われる物質なのです。
これが乾燥剤に使われた場合、一気にたくさんの水をつけたら著しく危険なレベルで発熱しますし、開封しただけでも、湿度が非常に高い場合なんかは外気に存在する水分子がガンガン吸着して、ほのかに熱を帯びるぐらいかもしれませんね。
↓の三菱ガス化学の解説記事によると…
もちろんシリカゲルも幅広く使われてることから明らかな通り、優れた水の吸着力を発揮する物質のようですが、生石灰の水との親和性の高さはガチで、こちらの方が圧倒的に水をガッチリつかまえるし、同じ量でもより長時間効果を発揮するもののようです。
とはいえもちろん、前回見ていた通り、これは水に直接つけてしまうとヤバイ発熱をしますから、取り扱いに注意が必要という弱点があるわけですね。
そこで、天下の三菱様が開発したのが、何となく何かの製品に入っていて目にしたことが多々あるように思える、「エージレス」という乾燥剤のようで、こちらは、生石灰を主成分としながら、水分接触による急激な発熱を抑える物質に仕上がっているということで、これは偉大なる商品ですね!
その仕組みについては当然企業秘密のようで見当たりませんでしたが、別記事(↓)で、温度変化のグラフが公開されていました。
紹介させていただきましょう。
前回具体的に計算していた通り、生石灰と水は、混ぜる量によっては余裕で沸騰を超える勢いで爆裂熱くなるものだったわけですが、実際上のデータでは一瞬で250℃超えを見せているスーパー発熱を見せている一方、エージレス先生の方は、多少発熱はすれど上がって50℃以下という、やけどの危険性すら極めて低い温度上昇に抑えられてるんですね!
ちなみに、「水が250℃って何だよ」と思われるかもしれませんが、水の沸点100℃というのはあくまで1気圧(約1013 hPa)下のことであり、恐らくこの実験は、どこまで温度が上がるかを検証するために、高圧条件(圧力鍋みたいなものを用いて、ですね)で実験を行ったのでしょう。
圧力が高まれば、水は100℃を超えても液体のままでいられるんですね。
(逆に、圧力の低い山の上とかは、90℃とかもっと低くても水は沸騰します。)
例えば、ずーっと前のこの記事(↓)で触れていた、生命科学実験で必ず使う「オートクレーブ」という滅菌釜では…
…圧力を加えることで、水を121℃まで上昇させ、その超高熱をもってして使い終わった細胞や大腸菌なんかを完全にぶち殺す感じになっており、個人的には大変身近な手法となっています。
あぁ、料理をよくやられる方は、圧力釜なんかで、普通に煮込むだけでは絶対に出せない高温の加熱調理をする、なんてことも頻繁にされていらっしゃるかもしれず、それでおなじみかもしれませんね。
(※「いや、オーブンとかだと250℃とかで普通に加熱するやん。別に100℃超えってそんな珍しいことじゃなくない?」と思われるかもしれませんが、オーブンの中では水が完全に(まぁ完全ではなくとも、大部分が)蒸発してしまい、水分が飛んでしまうわけです。
圧力鍋なら、「水分を含んだまま、100℃を優に超える高温を実現できる」形になっており、これは圧力をかけてやらないとできない、特別なことなんですね!)
話が逸れましたが、エージレスはよく見る乾燥剤ですけど、とはいえ前回から見ている通り、これは一度水を吸ったらもう別の物質(消石灰)に変わってしまうので、再利用できないこと……あとはもちろん食べられないというデメリットもあるっちゃああるといえるかもしれません。
一方、シリカゲルは、物理的に水を吸着させるだけなので、天干しするとか、加熱して水を飛ばす(正しいやり方じゃないと危険かもしれませんが)とかすればまた水を吸える状態に戻せる、つまり再利用可能というメリットは大きいといえそうですね。
(また、二酸化ケイ素は割と安定な物質であるため、もちろん食べるメリットも全くないですけど、誤飲してしまってもそこまで危険ではない、というのも大いなるメリットといえましょう)
この話でひとつ思い出したものがありました。
僕が一人暮らしを始めたときに、「あんま布団をマメに干すこともしないかもしれないから…」と心配したのか、母親が布団の下に敷く除湿シートをくれていたのです。
Amazonで検索してみたらまだありました、「再生シグナル」の表示があって分かりやすいのが特徴的だった、アネティスカンパニーの、碁盤目状にシリカゲルの詰まったこちら(↓)が、まさに僕が使ってたやつですね!
Amazonの「除湿シート」での検索結果を見てると、最近のはもっとオシャレなやつもいっぱいありましたけど、まぁこのマジでシリカゲルが各マスに詰まっただけのシートは無骨にも程があるものの(笑)、当然効果の程は抜群で、天日干しして吸湿能力を再生させたばかりの日に眠るときなんかは、マジで体中の水分がシリカゲルに吸われるのか、「ぐわぁ喉が渇く…!」と、カラカラになってよく夜中に起きてしまったものです(笑)。
とはいえ夏の東京の湿度とかヤベェにも程がありますし、基本的にこの商品は湿度を上手く吸ってくれる、大変ナイスな商品でした。
(僕はあんまりエアコンが好きではないので、猛暑の年でも扇風機だけで一度もエアコンを使わず乗り切ったという逸話がある程なのですが、扇風機民のお供かもしれませんね(笑))
…と、次のご質問に行こうと思っていたのですが、触れ忘れていた乾燥剤ネタに触れていたら、今回は(少し短めですが)時間もスペースもなくなってしまいました。
続きのご質問はまた次回見ていこうと思います。