放射線を、ぶっ放す!

いただいていたご質問内容からおもむろに派生していた、「原子の構造」の話の続きですね。


前回は、最後の余白で申し訳程度に「質量数」というものについて語っていました。


またまた極々簡単におさらいしておきますと、原子というのは、原子番号と同じ数の陽子と、(原子によって決まっているもののいくつ存在するかはランダムである(原子ごとにまちまち))それとほぼ同じ大きさの中性子とが中心で「コア」を形成し(これを専門用語で原子核と呼びます)、その周りを陽子と同じ数の電子がビュンビュン飛び回り、原子全体では陽子と電子の数がイコールなので電気的には偏りがないプラマイゼロの形になっている……というお話でした。


で、「質量数」というのは、いわば原子の体重なわけですが、電子は他の2つと比べて極めて小さいのでこいつは完全に無視した「陽子の数+中性子の数」のことを指すという話なわけですね。

つまり、「陽子1・中性子0(+電子1だけど関係ない)」である水素の質量数は1、「陽子20・中性子20」であるカルシウムの質量数は40、「陽子26・中性子30」である鉄の質量数は56などなど、陽子と中性子を足し算するだけの極めて簡単な概念だといえましょう。

 

それだけなら話は簡単なのですが、ところがしかし、前々回見ていた周期表では、似たような原子の体重を表す数値である「原子量」として、ほぼ質量数に近い数字だったものの、整数ではない小数の値が示されていました。

例えば水素であれば「1.00798」、カルシウムであれば「40.078」、鉄であれば「55.845」といった具合ですね(もちろんこんな数字は流石に覚えているわけではなく、ただ周期表をチェックしてみただけですが)。


果たしてこの微妙な端数は一体何なのか…?


それが、実をいうと、「中性子の数が違う、いわば兄弟原子が存在するから」というのがその理由だったのです…!

 

前回触れていた通り、「陽子の数が異なる」パターン、これは、そもそも陽子の数が「その物質が何者であるか」を決める重要要素であるため、陽子の数が変わったら最早そいつ自身ではなくなるといえ、そもそも身の回りでそんなに大それた反応が起こることはありません。

一方、「電子の数が異なるパターン」、これは逆に電子みたいに普段からフラッフラしている野郎が出て行ったり入って来たりするのはあまりにも日常茶飯事で、こういう奴らは「イオン」と呼ばれるのでした。


そして今回のこの「中性子の数が異なるパターン」、これは実は、イオンほどではないにせよ、(陽子と違い、数が変わっても原子全体の電気バランスを崩すことはないからか)普通に見られるもので、先ほどは「中性子の数が違う兄弟原子」などと表しましたが、専門用語でこれは「同位体」と呼ばれるものになっています。


何となく聞いたことがある気もしないでもないのではないかと思うのですが、同位体というのは結局、「中性子の数が違う=体重の異なる原子」だということができるわけですね!

 

具体的に見てみましょう。

一番小さな原子である水素は、「陽子1・中性子0」だと書いていました。

もちろんこれが最も安定で、この世に最も多く存在する水素原子の形なので、こう書くのは何ら間違っていないともいえるのですが、実は、この世の中には中性子の数が異なる兄弟原子、すなわち同位体もごく少数ながら存在するのです。


元々存在しないものが減ることはあり得ないので、水素の場合「普通より多い」パターンしかないものの、もちろん他の原子の場合中性子の数は減ることもあるわけですがそれはともかく、水素の場合、「陽子1・中性子1」の、いわば質量数2=体重2倍の水素も存在しまして、これは、重水素と呼ばれています。

 

ja.wikipedia.org
こちらは、体重が2倍であること以外目立った違いはなく(とはいえ↑のWikipedia記事にもある通り、融点や沸点が普通の水素よりも高かったり、化学反応のしやすさが異なったりといった微妙な違いはありますが)、あくまでも「水素」であることに違いはないヤツでして、何気に、普段、気付かれることなく我々の身の回りにもこっそり存在している輩なのです。


具体的には↑のウィ記事にある通り、この地球上には、普通の水素が99.985%、重水素が0.015%の割合で存在することが知られています。


「0.015%の割合」というとまぁもちろんかなり小さい気もするわけですがしかし、分子の個数というのは甚大ですから、例えばこないだの記事(↓)を再チェックしてみると…

con-cats.hatenablog.com

大粒の水滴1滴(30マイクロリットル)には、水分子が「1垓(がい)個」(「京(けい)」の次の単位)あるという概算結果でしたから、水分子1つには水素原子が2つあるため、わずか1滴の水にも、「1垓 × 0.0015% × 2」=3000兆個もの重水素が含まれていることになるんですね!


間違いなく、我々は普段から重水素をたくさん口にしているはずだといえましょう。

 

(なお、ずっと前に「重水(=重水素から出来た水。重水素をDで表すと、H2OならぬD2Oってことですね)は甘い」という情報を見た記憶がありましたが、化学系のサイトで情報をまとめてくださっている記事が見つかりました(↓)。

www.chem-station.com
…出典は1962年の論文で、結構しっかり調べられているもののようで面白いですね!ご興味のある方はぜひご覧ください。)


と、「なんでそんな割合で存在してるの?絶対、地球上どこでもそうなの?」という疑問を感じられるかもしれませんが、これはまぁ、

「この世界はそうなっているから。もちろん地域差は若干あるだろうけど、地球全体で平均するとそのぐらいと見積もられる、ってことだね」

…みたいな漠然としたことしかいえないものの、そうするとそもそも「なんで重水素なんてできるのさ?いつ誰がどうやって作った?」ということも気になるわけですけど、これも、もちろん工業的に人間の技術で作ることも可能ではありますが、天然に存在しているもの(0.0015%の割合で、ですね)は、まぁ恐らく宇宙線とか、太陽エネルギーでどうこうとか、そもそも宇宙空間ではとんでもないことが起こっているのはどなたも想像に容易いと思うんですけど、その一環で、凄まじいエネルギーとともに中性子がぶつかってきて、水素原子に中性子が1個追加されることがたまたまあり、そのまま地球にやってきた…みたいな感じではないかと思います。

(そういう小さい確率の積み重ねが、存在比0.0015%というものに落ち着いてる、って感じだといえましょう。)


で、話には続きがあり、「1個中性子が加わることがあるなら、2個加わることはどうなんだ?」…と思われる方がいらっしゃったかもしれませんが、実はこれが面白い話で、なんと、これもあり得るんですね!

既に先ほど見ていた数字では、普通の水素(軽水素と書かれることもありますが、まぁ普通の「水素」ですね)と重水素だけで存在比率100%になっていた通り、天然にはほとんど存在しないのですが、それもそのはず、本来中性子をもたない水素に強引に2つも持たせるのはかなり無理があるので、そんな無理して中性子が押し付けられた原子は不安定だから…というのがその理由の一旦ですけれども、とはいえ時間制限込みではありますがきちんとこの世に存在させることが可能な、中性子を2つもつ三重水素、これは日本語よりもなぜか英語の方が使われるパターンで、トリチウムがそれに当たります!

ja.wikipedia.org

まぁWikipedia記事名は「三重水素」でしたが、普通は「トリチウム」って呼ぶことの方が多い感じですね。


このトリチウム、もちろん「陽子1・中性子2」で質量数3なわけですが、上述の通り不安定な原子であり、安定してこの地球上に永久に存在し続けることができません


「不安定」ということは当然、ぶっ壊れて状態が変わる(=壊れた結果、より安定した物質に変わる)わけですが、この、トリチウムが起こす自己崩壊のことを「β (ベータ) 崩壊」と呼んでおり……

ja.wikipedia.org
この時に何が起こるのかが今回の記事タイトルにも挙げました今回のハイライト……ズバリ、原子がβ崩壊を起こす際、その原子からは放射線が発出されるのです!


放射線については、一度ずっと前、DNAの検出の話あたりで触れたことがありましたが……

con-cats.hatenablog.com
…特にここでも詳しくは語っていなかったものの、流石に日常用語でもどんなものかはどなたもご存知といえましょう、放射線というのは、凄まじいエネルギーで細胞のDNAを破壊などする、目には見えないヤベェやつですけど、せっかくなので今回は↑の記事よりもう少し突っ込んで見てみるといたしましょう。

 

先ほどのβ崩壊ウィキペ記事にあった通り、β崩壊というのは、

中性子 ⇄ 陽子+電子+反電子ニュートリノ

で表される反応(右向きの反応)になります。


で、この式の右辺にある通り、また先ほどの記事冒頭にあったこのイラストでも分かりやすく示されている通り…

https://ja.wikipedia.org/wiki/ベータ崩壊より

…改めて、電子というのは非常に小さいビュンビュン飛び回る粒子なわけですが、何てことはない、β崩壊で発せられる放射線とは、実は高速の電子の弾丸のことだったんですね!

 

電子の弾丸は、まぁ物理的にはあまりにも小さすぎて体に目に見える傷をつけるわけではないですけど、「電子」なんて言うまでもなく分子レベルの化学反応を引き起こす主役物質なわけで、大量の電子の弾丸が細胞に注がれたらどの程度分子がズタズタにぶっ壊れるかは想像に容易いといえましょう。

 

…まぁ、トリチウムの場合、実は威力が小さすぎて生体へのダメージはほとんどないんですが(実際、トリチウムから発せられる放射線ベータ線は、紙を1枚置くだけで防御可能となっています(ショボすぎ(笑))、しかし、もっと大きい原子が生み出す放射線は普通にもっと強く、例えば実験でもよく使う32P(ピー・サーティーツー、リンの放射性同位体)なんかですと、プラスチックのちゃんとしたシールドを使うことが義務付けられています。

 

いずれにせよβ崩壊により電子が放出されるというのが放射線の正体で、これは面白いポイントなわけですけど、この反応の別の部分、原子の構造の方に戻って目を向けてみますと、先ほどの式を見れば分かる通り、実は元々の余計な中性子は、電気を失うことで陽子に変換されるといえるんですね!


なので、トリチウムがβ崩壊で放射線をぶっ放した後、そこに残る物質は、陽子が2個になったヘリウム(中性子は、元々トリチウムのもっていた2つの内、壊れずに残っている1つがまだあるので、質量数3のヘリウム)になっていると、そういう形になっているのでした。


まぁその辺はちょっと細かすぎるので別にどうでもいいんですけど(もう1つ式にあった「半電子ニュートリノ」とかは、僕も詳しくは分からないですし、正直どうでもいい奴だと思います(笑))、ポイントとしては、

「普通の原子より中性子を多く(あるいは少なく)持つ原子は、不安定なこともある。不安定なヤツは自己崩壊し、放射線を出すこともある」

という感じですね!

 

なお、先ほど「32P」と書いていましたが、この左肩に載っている数字は実は何を隠そう「質量数」のことであり、あえて質量数を添えて書けば、普通の水素は「1H」、重水素は「2H」、トリチウムは「3H」、トリチウムがβ崩壊してできるものは→※追記注:初稿ではこう書いてしまっていましたが、トリチウムの崩壊で生じるのは「陽子2・中性子2」なので、「4He」でした!この「ヘリウム・スリー」は核融合への応用が期待できる、夢のある原子ですね!)「3He」、普通のヘリウム(地球上に圧倒的大多数存在するヘリウム)は陽子2・中性子2の「4He」、放射能をもたない普通のリンは陽子15・中性子16の「31P」…だという感じですね。


ちなみに、重水素2H」やトリチウム放射線をぶっぱした成れの果ての「3He」は、地球上での存在比こそメチャクチャ少ないものの物質的には安定した原子であり、こいつらは放射能をもちません(=自己崩壊することはない)。

逆に「3H」や「32P」は不安定で、既に何度も書いている通り放射線を発射しながら事故崩壊して安定状態に落ち着くため、こいつらは(先ほども既に書いていましたが)「放射性同位体」と呼ばれている形になります。

 

結局の所、中性子の数が違う兄弟原子は「同位体」と呼ばれ、同位体の中にはあまりにも不安定で放射線をぶっぱして安定な形に勝手に変わってしまう「放射性同位体」もいます、というのが本記事のポイント、いわゆる「take home message」だったといえましょう。

(中身が薄いので、あえて「もしご存知なかったら、知識としてお持ち帰りいただきたいポイントが1つはありました」ということを強調したかっただけですが(笑))

 

…と、またしても本題の「原子量は、なぜ小数か?」という点に辿り着く前に、時間切れとなってしまいました。

(まぁ、ぶっちゃけ一言で終わる話なんですけど(笑))、ここ最近はちょっと頓に時間もなく、記事水増しのために(笑)、続きはまた次回改めて触れさせていただこうと思います。

(何となく、放射線についても、もうちょい補足しておきたかった話がある気もしますしね…!)

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