青い花の同人誌『That Type of Girl』日本語訳その22:劇こそまさにうってつけ・あきことあきら

前回は歴史に残る偉大なる女性たち、山川捨松さん・永井しげさん・津田うめさんのストーリーを垣間見させていただきましたが、今回はまるっと鹿鳴館の解説!

久々にセクションタイトルの解説をいただいていたので、まずはそちらから参りましょう。


-----Frankさんによる今回の章のタイトル解説・訳-----

"The play's the thing": こちらもシェイクスピアによる『ハムレット』第二幕・第二場の台詞由来である。標準的な日本語訳を探し、それを利用されたい。

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 (王の良心をつかむには、)「劇こそまさにうってつけ」ってやつですね。

鹿鳴館は、(青い花で断片的に触れたはずなのに)登場人物の名前すら全く知らないレベルなので、どんな話なのか楽しみです!

Wikipediaにあった、在りし日の鹿鳴館の写真を今回の記事のトップ絵に使わせていただきましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/鹿鳴館より

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That Type of Girl(そっち系のひと)
志村貴子青い花』に関する考察

著/フランク・へッカー 訳/紺助

 

(翻訳第22回:126ページから132ページまで)

劇こそまさにうってつけ

青い花』の英語版第三巻で三島由紀夫による1956年の戯曲『鹿鳴館』が使われているのは、志村貴子が演劇を漫画の要素として利用するのを好んでいることを示す、最も良い例であろう。戯曲の出来事およびキャラクターと、漫画の出来事およびキャラクターとの相互作用は、この巻がシリーズの中で最も優れていることに寄与していると私は考えている。

 『青い花』の中で示されているのは戯曲のごく一部であり、やや断片的なものである。志村は、少なくとも戯曲の基本的な大筋と主要な登場人物について知っている読者層を想定して描いていると思われる。戯曲を読んだことがない人のために、以下にあらすじを要約していこう:

 【第一幕】1886年11月3日の天皇誕生日に、政府高官である影山悠敏伯爵の屋敷にある茶室に貴族の女性たちが集まり、天皇に敬意を表して開催された観兵式が行われるのを見物している。(この最初の場面は、漫画でも最初に描かれている(『青い花』(4) pp. 53-55/SBF, 2:233-35)。)影山の妻・朝子(『青い花』の舞台では井汲京子が演じている)も一緒に参加する。結婚によって貴族になった元芸者である朝子は、その新しい地位に違和感を覚え、これまで人前に出ることはなかった*1

 この内の一人の女性が、自分の娘の顕子(『甘い花』では奥平あきらが演じている)とその恋人久雄に関して、朝子に助言を求めてきた。久雄は自由民権運動を支持しており、顕子は久雄がその夜の鹿鳴館での舞踏会を妨害し、影山伯爵の暗殺を試みるのではないかと恐れているとのことである。久雄の名を聞いて酷く動揺した朝子は、協力することを承諾し、女性たちが去った後、久雄と面会することにした*2

 朝子は久雄に、自分は、久雄を引き取った自由党のリーダーである清原永之輔のかつての恋人であり、久雄の母親であることを打ち明ける。久雄は、清原家の嫡子と比較して自分をぞんざいに扱ってきた父親への恨みを吐き出し、影山ではなく清原を殺すつもりであることを明かすのであった*3

 【第二幕】久雄が去った後、朝子は清原(『青い花』では上田良子が演じている)に連絡を取り、茶室で落ち合うこととした。朝子は舞踏会を妨害する計画を知っていることを告げ、計画の中止を促す。清原は抵抗するも、朝子が自ら私室を離れ自分も舞踏会に参加するつもりだと告げると、承諾する*4

 影山伯爵とその側近の飛田が登場すると、清原は立ち去る。朝子の耳に入ってきた二人の会話から、影山は舞踏会の妨害計画を知っており、飛田を仲介にして、影山こそが久雄による清原殺害計画の首謀者そのものであったことが判明する。血を好む飛田は、影山が自分に暗殺の仕事を任せてくれなかったことを抗議する*5

 朝子は身を現し、影山に今夜舞踏会への妨害はないことを宣言し、飛田が去った後、影山に自身が出席することを告げる。そして、影山に、久雄が父親殺害計画をやめるよう説得することを促し、自分は友人の娘を助けたいだけだと説明する。影山は、舞踏会への乱入がないことを条件に承諾する。朝子が出て行った後、彼は朝子の女中頭である草乃を捕まえ、無理やり抱き込む*6

 【第三幕】舞踏会を控えた鹿鳴館の二階で、顕子と久雄は、久雄を舞踏会に連れてくるのは朝子の命令だということを話している。二人はキスをし、その後、朝子は部屋に入り、部屋の装飾をする職人たちに指示を出しながら忙しくしている。一方、好意をもってして草乃を誘惑した影山は、草乃から朝子が久雄の母親であり清原の元恋人であることを聞き出す*7

 朝子と少し話をした後、影山は飛田を探し出し、計画が変更となったことを伝える:清原が舞踏会妨害の計画を中止したため、飛田が自ら妨害するよう変更するということだ。影山は草乃に、朝子の名で清原を鹿鳴館におびき寄せるよう指示する*8

 顕子と久雄は駆け落ちして外国へ向かう計画を話している。そこに影山が割り込んできて、久雄が恋愛に溺れて計画を放棄したことを叱責する。そして、久雄に、(朝子が久雄に言ったのとは違い)不法侵入は必ず起こり、久雄の暗殺計画の(名を伏せた)標的が鹿鳴館の外にいることを告げる。影山は久雄に拳銃を渡し、久雄はそれを受け取る*9

 影山は朝子およびその友人たちと合流し、天皇の健勝を祈って乾杯する―しかし、朝子が誤ってグラスを落としてしまうという不吉な出来事が起こる*10

 【第四幕】朝子と影山と貴族たちが各々語り合っているうちに、招待された政府要人たちが舞踏会に到着し始める。この中には、伊藤博文首相、大山巌陸軍大臣とその妻、旧姓・山川捨松(前節参照)、そして海外からの賓客たちといった面々が含まれていた*11

 来賓が舞踏室に入場した後、刀を振り回して装飾品を破壊している男たちがいるという通報が階下から入る。朝子は階段の上に凛として立ちはだかり、その後、影山は静かに飛田に指示し、男たちを撤退させる。一方、久雄は、父が自分と朝子を裏切って計画を進めたと思い、激昂して建物を出て行ってしまう*12

 しばらくして銃声が二発聞こえ、取り乱した清原が入ってきて、久雄が死んだと説明する:清原は、暗闇に隠れていた襲撃者に発砲され、正当防衛のために撃ち返したところ、自分が息子を殺してしまったことを知ったのだ。清原は、久雄がわざと狙いを外したことを察知し、久雄が父への復讐のためにあえて殺されたかったと結論づける*13

 清原は政治を辞めることを宣言し、影山が政敵を排除する目的を達成したことを皮肉を込めて祝福する。そして、鹿鳴館に侵入したのは自分の部下ではないことを朝子に告げ、自分は約束を守ったと申告し(自分を呼び出したのは、朝子が約束を守っていないことを示唆している)、もう二度と会わないと誓って退場する*14

 飛田も去り(舞台演出によれば、「畏まっていそぎ」)、朝子が彼らを慰めようとした後、顕子とその母も去って、朝子と影山は向き合うことになる。影山は、現実の政治の世界を知らないで、人と人との信頼や協力といった「お伽噺(おとぎばなし)」を信じている朝子をなじり、一方朝子は、権力しか知らない、権力しか欲していない彼を非難するのだった*15

 朝子が影山のもとを離れ清原に向かうと宣言し、王妃殿下方の到着が告げられ、朝子と影山が踊る中オーケストラが演奏され、朝子は遠くでピストルの発砲音が聞こえたと感じる。音楽が止まり、影山が朝子にただの花火だと告げると、音楽と踊りは続き、幕が下りる*16

 

顕子とあきら

さて、奥平あきらが清原久雄の恋人・大徳寺顕子を演じた、実際の『鹿鳴館』の上演に触れていこう。

 『鹿鳴館』の登場人物のほとんどがそうであるように、顕子は、日本の貴族の一員である。侯爵夫人である母は、明治初期に制定された日本の貴族ヒエラルキー華族)の中で二番目に高い階級である、侯爵の妻である。

 このように、顕子の社会的地位はあきらよりはるかに高いように思われるが、あきらの祖先の少なくとも何人かは、同じように高貴な生まれであった可能性があることは、注目に値するであろう。奥平姓は、徳川幕府を開いた一連の戦いで徳川家康織田信長と戦った大名、奥平信昌と同じ姓である。徳川は長女を奥平家に嫁がせたので、あきらは日本の歴史上最も影響力のある人物の子孫である可能性がある。

 また、顕子は『鹿鳴館』では最も若い登場人物である。作中で年齢は書かれていないが、16、17歳くらいであろうかと推測でき、これは言い換えるとあきら自身と同じ年齢である。舞台は1886年であるため、あきらが「平成の少女」であるのと同じように、顕子は「明治の少女」であり、新しい時代に生まれ、それ以前の時代を知らない―劇中の他の登場人物とは対照的な存在となる。

 それゆえ、顕子が明治の新しい精神に最も調和している人物であり、伝統的な日本よりも西欧に目を向けている最たる人物であることは、偶然ではない。母親が言うように、「(顕子は)過激なことが好き」なのだ。久雄は、その「過激なこと」の一つであり、「下々の男ではありませんけれど、その人たちの味方」なのである。顕子と久雄の出会いは、見合いではなく、「チャリネの曲馬」のサーカス公演で、母が落としたヨーロッパ製の手提げ鞄を久雄が拾ってくれたことから始まった*17

 この鹿鳴館の夜、顕子は父の許しが得られ次第(あるいは、もし得られたら?)、母の計らいのもと、久雄と朝からヨーロッパ旅行に出かけ、日本を発つ計画を立てる。顕子の母親が夫婦に同行するつもりなのかどうかは不明である。もしそうでなければ、これは顕子にとって、社会的規範との決定的な決裂となることであろう:見合い結婚を拒否し、愛のために結婚するだけでなく、夫でも父親でもない男性と二人きりで旅行するのである。同様に、あきらは、ふみとレズビアンの関係へと入る姿を思い描くことで、現代日本の社会的規範を自ら破ることを考えているのである。

 社会的規範を蔑ろにすることで、顕子は母親や友人たちから非難されることはなく、むしろ支持される。彼らは、「この新しい、すてきな時代」を、ちょうど顕子の母の友人が「何百年ぶりで女たちが日の目を見ることのできたこの時代」と呼ぶように、皆歓迎しているようだ。顕子の母が朝子に久雄との面会を求めたのは、顕子を助けるためであり、この劇の発端となる出来事である。この母親は、『青い花』作中(『青い花』(5) p. 90/SBF, 3:92)で引用されているように、「私は新時代をこの娘が存分に生きてほしいと思っていますの、私が生きられなかった人生を」と語っている*18。同じように、あきらの友人たちも、あきらの「新しい時代」を応援してくれるであろう。あきらは最初、そうはならないのではないかと不安がってはいるけれど…。

 あきらとあきらの演じたキャラクターの類似性の話を続けると、少し捻りがあるものの、名前もよく似ている:顕子の名前は女の子の名前によく使われる「~子」であるのに対し、あきらの名前は(ウィキペディアが正しければ)男性によく使われる名前である(例えば、映画監督の黒澤明など)。志村がこの名前を選んだのは、とりわけ顕子という名と呼応させながら、日本社会が歴史的に女性に課してきた厳格さを、あきらがいかに顕子以上に打ち破っていってくれる可能性があるかを強調するためだったのかもしれない*19

 最終的には結局、顕子の望みは叶わなかった。久雄は死に、朝子にできる最善のことは、顕子に生きることを勧めることだけである:「久雄はあなたのために死んだのではありません。ですからあなたが後をお追いになるのは無駄事です」と*20。この作品には、『青い花』のテーマと同じように、あきらとその仲間たちへのメッセージが込められている:人生の中には男性がいるかもしれない、でも、その男性に自分の存在を依存してはいけない。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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おーもしろい、おもしろい!…と、まさに作中のあーちゃんと同じ反応を示してしまいましたねぇ~。

正直僕は理解力が悪いので、多分舞台などの劇で見たら理解できずに置いてかれて終わるだけな気もしちゃうんですけど(だから、映画や劇やアニメより、自分の気が済むまで戻れる漫画が好きともいえる感じですね。マジで、自分の意思で気軽に戻せない媒体は、「あ、ごめん、ボーっとしてたわ」となって付いていけなくなる気しかしません)、活字で説明されるとバッチリ理解できて、面白いですねぇ~。

これはぜひ読んでみたくなりました(初稿時はまだ手元にないので、引用部は英語本文からの翻訳で、実際の作中の台詞を反映していません。現物を手にし次第、実際の台詞に変更しておく予定です→※更新済みです)。

流石は文豪三島さん!


一方、「あきら」が男性に使われがちな名前という点、こないだの記事(兄・忍の名前うんぬんのやつ)でその旨も触れていましたが、しっかりFrankさん自身、把握されていた感じですね。

逆に、非日本人にとっては、AkikoやらAsakoやらAkiraやらで紛らわしくないのかな…と不安になりますが、例えばロシア文学なんかも、登場人物の名前がややこしすぎるのが脱落する原因ナンバーワンとか言われてますしね、その辺の非母語のキャラが分かりづらい問題は、宿命として仕方ないとも言えるのかもしれません。


ちょうど話も劇から青い花本編に戻ってきた感じでしょうか。

次回も楽しみに読み進めさせていただきましょう。

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*1:Mishima, Rokumeikan, 5–8.

*2:Mishima, Rokumeikan, 9–12.

*3:Mishima, Rokumeikan, 14–16.

*4:Mishima, Rokumeikan, 16–23.

*5:Mishima, Rokumeikan, 23–27.

*6:Mishima, Rokumeikan, 27–31.

*7:Mishima, Rokumeikan, 32–37.

*8:Mishima, Rokumeikan, 37–41.

*9:Mishima, Rokumeikan, 41–45.

*10:Mishima, Rokumeikan, 45–46.

*11:Mishima, Rokumeikan, 46–47.  マミ・ハラノが影山伯爵を首相と呼ぶのは誤りである。Harano, “Anatomy of Mishima’s Most Successful Play,” 1, 11, 17, 36–37, 39, 42, 46–47.

*12:Mishima, Rokumeikan, 48–49.

*13:Mishima, Rokumeikan, 49–50.

*14:Mishima, Rokumeikan, 50–51.

*15:Mishima, Rokumeikan, 51–53.

*16:Mishima, Rokumeikan, 53–54.

*17:Mishima, Rokumeikan, 9–10.

*18:Mishima, Rokumeikan, 8–9.

*19:あきらの名前については、吉屋信子の『屋根裏の二処女』に登場する、吉屋自身をモデルにしたと思われるキャラクター、年下の未熟な女性の名前が「章子」であることも注目に値する。

*20:Mishima, Rokumeikan, 51.