ミニサイズを大きくしよう

前回ラストで「ソーマチンの話を進めましょう」とか書いていましたが、そういえばミニプレに関してもう一つ書こうと思ってたことがあったのを忘れていました。

まぁ全く大した話じゃないんですけど、ずっと「大腸菌からプラスミドDNAを回収する実験は、ミニプレップと呼ばれています」などと書いていたんですけど、「するってぇとあれかい、デカプレもあるのかい?」と思われるかもしれないわけですが、デカプレップは……ありまぁす。

…ってまぁ言い方的に、デカプレというのはないということでもあるんですけど(どっちだよ(笑))、単に名前が違うってことですね。

そう、ミニプレのミニはミニサイズのミニでしたが、これを大型化した手法は、デカプレップではなく、ミディプレップ、それからマキシプレップと呼ばれているものになります!

そして、僕が学生の頃は確かマキシが最大サイズだったように記憶してるんですけど(何せ名前もMaxiなわけですし……って、MaxiはMaximum=最大の略語かと思ってたら、最も信頼できる辞書の1つMerriam-Websterには「特大 (extra large)」という意味しかなかったですね。一応、Cambridge Dictionaryには「most」として、関連語にmaximumも載っていましたが、いずれにせよ必ずしも最大とは限らない用法もあるってことで、こいつがマックスでなくても問題はないようです)、その後、色々生命科学系の技術も発展してより多量のプラスミドを回収する需要も高まったのか、今ではマキシの上にメガプレップギガプレップという、分かりやすくデカい名前の手法も存在&キットが販売されています。

(これなら、更に大型が開発されても、テラプレップ・ペタプレップ・エクサプレップ・ゼタプレップ・ヨタプレップ…と、まだまだ使える名前があってナイスな名付けといえましょう。
 しかし、SI接頭辞って、10の24乗のヨタまでしか存在しないんですね。まぁそれ以上が必要になる場面もあんまりないとはいえ、使う場面もなくはないのであっても良さそうなもんですけど……と思いきや、まさかの、既に27と30乗までは提案済みで、27乗/マイナス27乗が、ロンナ(R、ronna)とロント(r、ronto)、30乗/マイナス30乗が、クエッカ(Q、quecca)とクエット(q、quecto)で、2022年には正式な用語として採用される可能性があるみたいですね(参考:SI接頭辞 - Wikipedia)。

 正直、ギガまではめっちゃ強そうなのに、テラになると途端にそうでもなくなり、ペタ以降は最早正直何か小物感すら漂う印象があったものの(別にそんなことないかもしれませんけど(笑))、ロンナ・クエッカは、悪かぁないじゃないですか!(これも、別にそうかぁ?ってもんかもしれませんが(笑))
 残るアルファベットでまだ全く使われていないのは、B、I(でも、iは1と紛らわしいので、使われることはないでしょう)、J、L(これも、小文字が1と同じなのでなし)、O(ゼロと同じ以下略)、S、U(マイクロをuで表すことがあるからなし)、V、W、Xと、大分絞られてきました。
 個人的にはBとSあたりがカッコ良さ気な単語もありそうだし…と思ったら、小文字のbは数字の6と同じすぎてアウツ、Sも、よく考えたら大文字と小文字に差がないので、紛らわしいため却下…と考えると、これはもう、我らがJしかないじゃあないですか!
 次の33乗/マイナス33乗は、J/jを推したい限りですね(…って、21乗シリーズのZettaとzeptoは、大文字と小文字の区別がないのに採用されてるし、大文字小文字の差がないことはあんまり関係ないかもしれませんね(しかも、zは2に似てるともいえるのに採用されてるわけですし))。)


…って、どうでもいいSI接頭辞の話で長くなりました。

まぁ、デカプレップについては特に語ることもないのでちょうどいいでしょう。

そのミディプレップ以降の手法ですが、手順は基本的にミニプレップと同じです。

ミニプレの具体的手順についてはこの記事で見ていましたが、めちゃくちゃ簡単にまとめると…

  1. 大腸菌を培養
  2. 遠心(スピン)して増えた菌を回収
  3. 菌体をP1で懸濁
  4. アルカリバッファーP2で菌を溶かす
  5. 酸性バッファーN3で中和
  6. スピンして、用済みの菌カスを底に落として除く
  7. 特殊なフィルターのついたカラムに、遠心上清のプラスミド溶液を通す
  8. カラムを洗浄(プラスミドはカラムに結合したまま)
  9. 溶出バッファーでプラスミドをカラムから離して回収

…って感じですね。

基本的に、培養する大腸菌の量が多くなって規模が大きくなるだけで、ほぼ同じことを大スケールでやるだけになります。

ただ、理由は分かりませんが、ミディプレップ以降では、5番の中和ステップで、バッファーP3と呼ばれる、ミニプレで使うN3とは微妙に違う溶液を使います(こないだも載せましたが、バッファー一覧はこのページなど参考)。

…って、今QiagenのPlasmid精製キット一覧のマニュアルを見てみたら、何気に、ミニプレでもP3を使うようになってますね…。

まぁでも、Qiaprep Spin Miniprep Kitという、最もよく使われてるミニプレキットのマニュアルではやっぱりN3ですし、両者は微妙に違うカラムを使っているようなので(前者は遠心できませんが、後者の方は遠心できるタイプのカラムなので素早い実験が可能であり、便利で汎用されています)、よくやられるスピンカラムを使ったミニプレではN3を使う方がいいかと思います。

細かいバッファーの違いはともかく、大きな違いは、カラムのサイズですね。

こちらQiagenの商品ページ(↓)にあるように、(当たり前すぎますけど)スケールが大きくなるごとに、カラムのサイズも大きくなっていきます。

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https://www.qiagen.com/jp/product-categories/discovery-and-translational-research/dna-rna-purification/dna-purification/plasmid-dna/より

ギガプレップは、たったの5回分で、お値段6万1000円!なかなか値が張りやがりますね。

ちなみに僕はミディとマキシまでしか使ったことがないですけど、ちょうどさっきチラッと書きましたがこのシリーズではカラムに通したプラスミド溶液を遠心で落とすことができず、重力によって1滴ずつ「ポタ、ポタ…」と落ちていくのを待つしかないので、クッソ時間がかかって面倒くさいです。

上記商品ページの情報によると、最大サイズのギガプレップだと、全工程で5-6時間もかかるようで(大抵、「こんなに短時間でできます!」という宣伝のため、最速で動いたときに出せるタイムアタック的な時間が載ってますから、実際は6時間以上かかることでしょう。複数サンプルを同時に処理する場合はなおのことですね)、かなりの時間がかかる実験ですね。

ただもちろん、サイズが大きくなるにつれ、尋常じゃない量のプラスミドが一気に収穫可能です。

Wikipediaにも、英語版のみですがプラスミドプレップのページがあり、具体的な目安回収量の数字が載ってましたね(まぁ、上記商品ページにも同じデータはありますが)。

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https://en.wikipedia.org/wiki/Plasmid_preparationより

この通り、最大のギガプレップでは、大腸菌をまさかの5リットルぐらい培養して(この場合、プラスチックチューブではなく、巨大な三角フラスコを使います)、最終的に10ミリグラムぐらいのプラスミドDNAがゲットできるようです。

いや10 mgって…少なすぎぃ!と思われるかもしれませんが、ホコリレベルの分子が10ミリグラムって、結構ヤバイ量ですからね…。

ミニプレップでは多くても20マイクログラムですから、ミニプレップ500回分のDNAが回収できると考えると、6時間&キットの消耗品だけで1万円以上かける価値は十分あるといえるように思います。

僕はそこまで大量のDNAが必要になる実験はやらないですが、例えばX線結晶構造解析をされてる研究室とかですと、そのぐらいのDNAがいくつも必要になることも(条件検討とかでも大量に必要となりますし)、もしかしたらあるのかもしれません。


あとは参考情報として、「マキシプレップよりもっと大量でかつキレイなプラスミドDNAが得られるものに、CsCl(塩化セシウムセシクロと呼ぶことが多い)超遠心という手法が、特にカラムを使った便利なプラスミドプレップが開発される前の時代、古典的にはよくやられていました」ということも書こうと思っていましたが、流石に10 mgのDNAが得られるとなると、ギガプレップの方が圧倒的な量が取れますね…。
(しかもQiagenによると、量のみならず、ギガプレの方がセシクロ超遠心よりDNAの純度(質)も高いとのことですし…)

なので、これはもう前世紀の遺物ということで、まぁどうでもいいでしょう。

セシクロ自体も割と高い化学物質ですし、何より、慎重な手捌きと繊細な作業とが要求される、ギガプレ以上に時間のかかる面倒な実験なので(僕も学生時代やったことがありますが、40000 rpm(=1分間に4万回転!)とかの超高速で遠心するので、厳密にバランスを取らなきゃいけない(回転させるものを、回転軸を境にきっかり同じ重さになるよう配置する)とか、遠心したあと、揺らさないように慎重にチューブを運び、紫外線照射して、目的のDNAバンド(セシクロ溶液中に存在)を、注射針をぶっ挿してチューブの横から回収…みたいな、割と神経使う作業が待ってます。まぁどんなことやってるかの詳しい説明はともかく、決まったものを加えてくだけでほぼ脳死でできるミニプレ等のキットとはまるで違う感じで、もうやりたくないですねぇ)、実際恐らくもうほとんどやられていないのではないかと思います。

(でも、プラスミド精製ではなく、ウイルス精製なんかだと、まだそういう古典的手法を使ってる研究室もままある気もしますね。)


あぁあともう一つミニプレに関して書こうと思ってた話で、学生時代に所属していた研究室は割とリッチなラボだったんですけど、あるとき、「全自動ミニプレマシーン」というのを購入してくれました。

どんなものかというと、KURABO社のこれ(↓)なんですが…

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https://www.kurabo.co.jp/bio/nucleic/より

(リンク先には簡単な動画もありましたが)大腸菌を培養して、菌体を専用のチューブに入れてマシーンにセットすると、その後ロボットがミニプレ全工程を最後までやってくれて、1時間後ぐらいに、手元には専用チューブに集められたプラスミドDNAが存在しているというあまりにもスゲェ機械で、最大48サンプルまで同時に処理できる、超絶便利装置でした。

(1とか2サンプルならともかく、48本のチューブをミニプレするのはまぁ結構な重労働ですし、比べると衝撃の楽さです。
 しかも、手でやるより、回収できるDNAの量も質も遥かに良いという、「もう人間要らねぇじゃん」というレベルでした。)

まぁ、ちょくちょくロボットのアームが壊れたりで修理業者を呼んだりしていましたけど、間違いなく感動レベルで便利でしたね。

しかし、当時所属していた研究室はリッチで大きな研究室なだけあって、いくつかのグループに分かれていたんですけど(複数の教授・准教授・助教がいる感じ)、あるときの忘年会で同じテーブルに座ってた人たちの間でこの全自動マシーンの話題になって、僕の直属指導教員にあたる先生が、他のグループのスタッフの方たちと「あれは便利だねぇ。今の学生たちはいいねぇ」などと雑談していた折に、僕と他にも一緒のテーブルにいた同グループの学生に向かって「まぁ、俺は使っていいって許可した覚えはねぇけどな…?(笑)」とおっしゃってきて、(マジか…!そういえばあの先生が使ってるところは見たことがなかったな…!)と、「すんません、便利なもので…へへっ」と苦笑いでごまかしてやり過ごしたことを覚えていますねぇ。

まぁその先生も冗談交じりで、実際最後までうちのグループでも使用禁止とはなりませんでしたが、「将来苦労するよ、ああいうのに頼ってると」と、我々学生のことを思ってのお言葉だった感じですね。

もちろん、今はそんなリッチなマシーンはないのでミニプレは手でやってますが(流石にフェノクロ・エタ沈を手でやるような完全古典的手法ではなく、カラムだけは使ってますけど)、まぁぶっちゃけ、なきゃないでそんときはあるものを使ってやるだけなんで、学生時代のあのときは便利なマシーンを使ってロボットにやってもらうのでも別に悪くなかったな、なんて気はしますね(笑)。

ミニプレを手でやって苦労したところで、何が上達するわけでもないので(笑)。


…ということで、ミニプレに関していくつかの余談というか雑談でした。

同じ遺伝子を何度か異なる条件で分析したいときなんかは、結構な量のプラスミドDNAが要ることもあるので、ミディプレまでは僕も割と普段からやってる感じです。

ちなみにミディプレも一応バッファー自作はできますけど、このサイズだと別売りのカラムも普通に高いし、そもそもQiagenの重力に頼るやり方は時間がかかって大変なので、カラムの遠心もできるように開発された、便利な別の会社のキット一式を買って使っています。

ミニプレよりは手間ですが、50ミリリットルの大腸菌を培養して、数百マイクログラムのDNAが得られる感じです。
(ヒト細胞への導入は、大体数マイクログラム~数十マイクログラム(当然、飼ってるシャーレの大きさによる)なので、まぁそれでも何十サンプルもの分析するとすぐなくなっちゃう感じですね。)

ただ、ずっと見ている一連のソーマチン実験では、最後のタンパク質合成ステップでも、大腸菌B株にプラスミドをぶち込んで、1匹でも入ればそれを増やしていけばいいだけなので、DNAは全然量が要りませんから、デカプレップは全く必要ない感じですね。

では、次回はようやくソーマチン実験の次のステップを見ていこうかと思います。

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