ここ何回かネタにしている大腸菌の話の一環で、前回はやつらのエサ代について見ていましたが、そういえばもう1つ、プラスミドをもった大腸菌を飼うのに必須な抗生物質・アンピシリンのことを忘れてましたね。
ただこちらも使うのは微量なので、まず間違いなくこれを入れても1回のミニプレで1円もかからないままには違いないと思いますけど、一応チェックしておきましょう。
もちろんアンピシリンも試薬会社から買っていますが、印象的な話として、学生時代に所属していた研究室では、なんとこの実験に使うアンピシリンを、明治製菓から購入していました。
いかにも抗生物質が入っていそうな小さなバイアル瓶が6瓶入りとかだったように記憶してますけど、セット販売されてるパッケージも明治っぽい、ちょっとお菓子みたいな感じの箱(まぁそこまでじゃないけど、黄色っぽい箱で、多少きのこの山感がありましたね(笑))で、「えぇ~、実験試薬なのに、何だかとってもお菓子っぽくて、いとをかし~」とか思っていたことを今でも覚えています。
ちなみにアンピシリンは化合物名で、製品名はビクシリンになりますが、調べたらまさに、記憶に新しい、当時のままのあのバイアル瓶の画像もありました。
(まぁ記憶にあるも何も、この手のバイアル瓶は全部この形状ですけどね。)
「注射用ビクシリン」、初めて見たときはお菓子みたいな箱だし何ぞこれと思ったものの、先輩の学生とかにアンピシリンのことだよと聞いて、おぉ~明治がそんな事業もしていたとは!…と驚いたものです。
こちらおいくら万円か、検索してみたら、末端価格が載っているページも見当たりました。
なんと、1グラムで、396円!
安ぅい!!
まぁたった1グラムぽっきりの粉で400円は冷静に考えると高い気もしますが、実験試薬の相場的にはこんなのは格安といえましょう。
ちなみに、明治製菓は、僕が学生時代はパッケージにも堂々と「明治製菓」と書かれていてお菓子っぽさが更に増していた記憶がありますが、いつの間にかこの部門はMeiji Seikaファルマに名前が変わっていたんですね。
まぁいずれにせよ、アンピシリンは、200 mg/mL濃度(先ほどの1グラム入りの瓶の場合、5ミリリットルの水に溶かす)のストック溶液を1/1000倍に薄めて使うような感じなので、2 mLの液体培地を用いるミニプレップ1回分の場合、使うのはストック溶液を2 μL=0.4 mgのアンピシリンなので、1グラム約400円=1ミリグラム約0.4円→その0.4倍ですから、1回のミニプレで消費するのは0.16円分のアンピシリン!
地味に、培地分で0.832円ぐらいだったので、まさかのまさか、合計するとほぼぴったり1円!
計算したことなかったですが、ミニプレ1回、1サンプルあたりちょうど1円かかっていたとは、面白いというか驚きの安さですね。
でもまぁこれは大腸菌のエサ代だけで、他にも、ミニプレで使う試薬(P1, P2, N3とか)も必要ですし、何より一番高いのはやっぱりカラムになりますが、こちらは、注文履歴を見直してみたら250本入りで125ドルとかそのぐらいだったので、1本0.5ドル=約50円で、まぁやっぱエサ代なんてどうでもいいぐらいに、こいつが高い感じですねぇ。
あとは菌を飼うチューブ、これは、学生時代日本の研究室ではガラスの試験管を洗って滅菌して再利用とかもしていましたが(割とリッチなラボに所属していましたけど、リッチだけに、パートの研究補助のおばちゃんとかを雇っていたので、そういう洗い物や滅菌処理とかをお願いしていた感じです)、よくいわれるようにアメリカは人件費の方が高くつくといわれることもあり、今はもっぱら使い捨てのプラスチックチューブを使っています。
(まぁ、ガラス器具を洗って再利用している研究室もありますけどね。ただ、節約うんぬんよりも、洗いが不十分だったときのサンプルの混入なんかが不安で、個人的にはやっぱりディスポ(使い捨て=disposableで、業界人の間ではよくディスポと呼ばれます)のチューブの方が好きです。)
こんなやつですね。
ポリスチレンとポリプロピレンで見た目もちょっと違いますが、まぁ僕は単純にそのとき安かった方を使っています(例によって試薬会社の値付けは適当で、どっちが安いかはたまに変わる感じです)。
リンク先の一般顧客用の値段はかなり高いですが、今注文履歴を見たら、契約価格は1000本で150ドルぐらい(これも、年々値上がりしていますが)だったので、1本15円とかそこらで、エサ代よりもむしろ飼うために必要なショバ代の方がかかってる感じでしたね(笑)。
あぁあと、培地の組成とその値段については前回見ていましたが、それは液体培地であり、プレートを作る場合は、さらに寒天が必要になります。
ちなみに、寒天も、学生時代の研究室は試薬用の寒天…代表的なものとしてトリプトンと同じBactoブランドのBacto Agarなんかではなく、普通に市販されている寒天を買っていたように記憶しています(学生時代は試薬注文責任者じゃなかったので、どこのやつだったかまでは定かではありませんが)。
むむっ、しかし、粉寒天は、食塩と違い、意外と高いっすね!
価格コム底値で、1 kg、4242円!
まぁでも、やっぱり、試薬として用いる、グレードの高いBacto Agarよりは全然マシでしょう。
こいつ、昔からここまで高かったっけ…?と思える、衝撃の高さですから。
Bactoアガー、454グラムで3万円超、2 kgだと1296ドル=13万円超、さらに10 kgだと63万円超と、お買い得感、一切ナシ!
ちなみに大腸菌を生育するには市販のしょぼい寒天でもいいのですが、酵母を生育する場合、やつらは大腸菌よりも遥かに優れた生物なのでその分ワガママなのか、安い寒天だと育たないこともある(経験済みです。マジで寒天によっては酵母のコロニーが生えてこず、実験が失敗します)ので、高いBacto Agarを使う必要があるんですね。
割と最近Bacto Agarを切らしかけたので買いましたが、いや高すぎでしょ!と衝撃を受けましたねぇ。
トリプトンとかも値上がりしてますが、アガーはマジでおかしくない?ってぐらいに、あたおかレベルで値上がりしている気がします。
ちなみに酵母用の培地は、他にも、こないだ見ていた「栄養マーカー入りのプラスミドをぶち込んで、その栄養だけが欠失した培地で飼うことでプラスミドを取り込んだ酵母細胞だけをセレクションする」という実験があるわけですが、そこで必要になる「各種必須アミノ酸やヌクレオチドだけが除かれた栄養成分」、その名もYeast Nitrogen Base(以下YNB)というのがあって、これも「アッホくさ。やめたら?この実験…」と思えるぐらいに値が張りますね。
ズバリ、100グラムで1万2000円超!(500グラムでも5万7000円以上)
こちらは培地の成分そのものなので、液体培地でもプレート培地でもどちらでも必要ですから、大スケールでの液体培養とかするとガンガンなくなるもので、かなりの金食い虫といえますね。
(でもまぁ、研究なんて、こんなのが可愛くなるぐらいじゃぶじゃぶ資金が必要になるものが他にいくらでもありますけどね…)
ちなみに、例えばURA3マーカーのプラスミドを使う場合は、このYNBに、ウラシル以外の必須アミノ酸&ヌクレオチドを添加して、「-Uraのドロップアウトミックス」というものを(自分で、すり鉢と乳棒でゴリゴリとやったり、回転台にパウダーミックスとビー玉を入れて回す機械とかもあり)作ります。
同様に、もしLEU2マーカーのプラスミドを酵母に入れたい場合は、YNBに、ロイシン以外の必須アミノ酸&ヌクレオチドを加えて「-Leuのドロップアウトミックス」というものを作る、さらに他にも例えばURA3マーカーとTRP1マーカーの2つのプラスミドを同じ酵母に入れたい、なんて場合は、ウラシルとトリプトファン以外を混ぜ混ぜして、「-Ura-Trpのダブルドロップアウトミックス」を作る…という感じで、これ以外にも各種必須アミノ酸がバラで必要になるということですし、作るのもかなり手間です。
(10種類以上に及ぶ酵母の必須アミノ酸を、1つずつ必要量YNBに加えていく感じですね。
改めておさらいですが、例えば「-Ura-Trpのダブルドロップアウトミックス」で作った培地では、「ウラシルを自分で合成できるようになる遺伝子が乗っているプラスミド」と「トリプトファンを自分で合成できるようになる遺伝子が乗っているプラスミド」の2つを保有する酵母細胞のみが育つことができて、どちらかでももたない酵母は生育できないというか、栄養不足で死ぬわけですね。
ということで、ドロップアウトミックス作製時に、間違えて欠失させたいアミノ酸を加えてしまったら、全てがパーになるので注意が必要です!)
かように酵母の培地は手間も費用もかかりますが、それでもやはり研究対象としてあまりにも優れているので、今でも酵母を使った研究は盛んに進められているという感じです。
(ただ、時代の流れ的にも、やっぱり研究は段々ヒト細胞を使った応用的なものが中心になっていくでしょうし、昔より酵母研究の需要が減ってきているのも、Bacto Agarやトリプトンとか微生物用の試薬が高くなっている一因かもしれませんね。)
…と、そんな感じでその他の試薬の価格もちょっと垣間見てみましたが、ミニプレの話の続きにたどり着く前にいい分量になってしまいました。
ちょうど、最近の話に関連してまた微妙に突っかかる点に関してご質問をいくつかいただいており、例によってナイス視点の触れておきたいポイントだったので、次回はまたいただいたコメントについて触れてみる予定です。