固めるテンプルとおじさん構文

前回は、菌を培養するときになぜ固めるテンプルを使うかについて触れていました。

まぁ実際使うのは固めるテンプルじゃなくて寒天ですけど、培地をあえて固体にする目的というか意味について見ていたって感じですね。

ふと「固めるテンプル」って名前が浮かんだのであえて使いましたが、そういえばあれ、どういう仕組みなんだろ?とおもむろに気になってきました。

料理らしい料理もしないし、生まれてから一度も天ぷらを作ったことがないので実際に使ったことはないんですけど、なぜか存在だけは誰でも知っている、排水に流してはいけない天ぷら油とかを固めて捨てるためのアレですね。

検索したら、「突撃実験室」というウェブサイトの「固めるテンプルの謎」という記事がヒットしてきました。

こちら、1997年1月開設の、あまりにも歴史のあるサイトで、デザインや構成も圧倒的に前世紀感あふれる古き良きインターネッツって感じで、何だか懐かしさを覚えてしまいましたね。

あまりにも古すぎて、ページの文字コードが対応していないのか、リンクカードではタイトルが文字化けしている…!

www.exp.org
www.exp.orgとか、カッコ良すぎるドメイン名で笑いましたが、まぁドメインとかもあんまり詳しくないんでよく分かんないですけど、今はもうこんな短くて簡潔なるURL、大金をはたいても取れないでしょうね…。

まだまだ発展前のインターネット時代ならではのものに思えますが、そういえば以前ドリンクについて触れていた記事(思い出のドリンク(その6・特に何の思い入れもない、失われし古の飲料))で、ソフトドリンク・アーカイブというこれまた歴史を感じる素晴らしいドメイン名をもつサイトを見ていたこともありましたけど、そちらは開設が1996年とさらに早いものの、まさかの最新更新が先月という現役バリバリのサイトであったので、最終更新が2005年で終わっている突撃実験室の方がレガシーポイントは高いといえましょう。


とりあえず固めるテンプルですが、まぁ化学の知識が多少備わった大人になって考えてみるに、「油脂の固化……けん化かな?」とか思ったものの(けん化については、詳しくはほとんど触れてませんでしたが、一応脂肪について見ていたこの記事で一度見ていました)…かつ、当然突撃実験室管理人の方も一瞬そう考えられていたものの、どうやらこいつの本体はけん化用のアルカリ性物質ではなく、単なる脂肪酸なんですね。

まさにちょうど先ほどの脂肪の記事で見ていた通り、脂肪酸は二重結合の数などで融点が変わり、中にはとても融点の高い脂肪酸もありますから、固めるテンプルではそういうのを油に加えることで、油全体の融点を上げてやろう(=液体が固体になる温度を上げる)という仕組みのようです。

脂肪酸(突撃実験室では牛脂で自前実験をしていますが、実際の固めるテンプルは天然の植物系脂肪酸のようです)なら、アルカリとは違って危険性も、また直接鍋に入れるからこそ気になる毒性とかも0ですし、これは実に見事な製品だったということですね。


まぁ固めるテンプルはともかく、この突撃実験室、記事自体は本当に面白かったですが、上述の通りやはり随所に歴史を感じる部分もあり、例えばトップページの最上部「Topics」項目にある、既にリンクが切れている掲示板のリンク…

気軽に笑い飛ばす掲示板     ボケたらツッコミましょう(義務

…みたいなノリなんかが、う~ん、昔のネットっぽい!と思えて、何だか温かい気持ちになりました。

バカにしてるわけでは決してないし、嫌な気持ちになるとかでも全くないんですけど、この類のノリに感じてしまう古さというか時代というかは、一体何なんでしょうね…?

まぁ上のやつとかはまだマシで、語尾に(爆)とか(木亥火暴)とか、(オ(←こんな感じだったかは忘れましたが、多分(おいおい)と自分でつっこんでる感じの省略型か、あるいは自分の発言に「お?言うねぇ」とセルフ煽り的なニュアンスを出しているんだと思いますが)とかを付けるやつ、面白い人が効果的に使うといい感じに文章の軽妙さ&面白さを出せることが全くなくはないものの、大抵の場合、第三者が読んだらとても残念なことになってる場面が多いといえる、それこそ核爆弾級に扱いの難しい表現が、特にインターネット黎明期にはよく見られた気がするなぁ…って記憶があります。

人類にとって史上初めて、インターネットという常時双方向の対不特定多数コミュニケーションが可能になった時代特有の高揚感みたいなのが全員にあったのでしょうか、「インターネッツの文章はこうでなきゃ!」的な空気は確実にあったように思いますが、個人的には、当時の時点でも、「あんまり洗練された表現ではないなぁ」なんて思っていたものです (オ


…ってまぁそれは自分がたまたまその手のを見なくなっただけで、今でもコミュニティによってはそんな感じのノリが使われていたり、逆に今みんなが面白がって使っている表現が、時を経たら同じように寒ぅ~い空気をもたらしてしまう口調になったりもするのかもしれないんですけどね。

でも、僕なんぞは匿名掲示板系は割かし好きでまとめサイトとかしばしば見させてもらってますけど、今のネットユーザーに好んで使われている表現、例えば「草」とか、まぁ具体的にこれというのもパッと他には挙がりませんがいわゆる語録と呼ばれてる表現とか、そういうのはたまに自分でも使うぐらいに面白い、汎用性があって洗練されてる表現に思えますねぇ(まぁ面白い表現というより、使ってる人たちが面白い人というだけなのかもしれませんけどね)。

昔ネットを席巻していた表現は「面白いな、真似したいな」とはあまり思えなかったけれど、今の時代のは面白いと思えるし実際真似して使ってるわけで、これは表現そのものが洗練されているということに他ならないでしょう……って、あれ?これ、もしかしたら、自分が若くなくなって、ボリューム層である同世代と思しき人たちが好んで使ってるから面白く感じてるだけ…みたいな、ぶっちゃけ自分が老化してるだけだったり…??


ちょうど、まさしく似たようなトピックがタイムリーにごく最近話題になっていたんで、今回固めるテンプルの記事を見てちょっくらこれに触れてみようと思ったんですが、あまりにも何というか何とも筆舌に尽くしがたい、いわゆるおじさん構文、これは中々の恐怖でしたね。

「おじさん構文」自体はもう結構長いこと話題になっていましたが、この辺(↓)が最近槍玉に挙げられていたラーメン評論家の方のブログに関する、世間の反応のまとめでしょうか。

togetter.com

togetter.com

件のブログ記事にはしっかり(爆)が使われていて笑っちゃいましたが(まぁマジで笑えるポイントというか問題はそれだけじゃないですけど)、僕が恐怖を感じたのは評論家の方のこの文章そのものというより、まとめられている中に同様の反応をしている方もいましたが、「これ、気付かぬ内に自分がそうなってないとは決していえなくて、読んでて笑えはするけど、実際怖いよなぁ…」というものですね。

(…って、いかにも「いや今はまだ大丈夫なんだけどさ…」という体(てい)で話を進めてますけど、既にそうなってる可能性もあるのが真の恐怖で、日々長文を垂れ流している以上、正直ちょっと怖くなっちゃいましたね。
 ただ、評論家の方のブログ内容がやべぇのは分かるし、おじさん構文にならないように…というかおじさん構文の本質は結局自己満足というか謎の自分上げ&自分押しだと思うので、その辺はなるべくそういうのが前面に出ないよう割と気をつけているつもりではあるため、まぁ片足突っ込みかけてるけどギリセーフってことにしておこう、と思ってるわけですが、そういう「自分はセーフ」という慢心こそがおじさん構文化の第一歩であり……(以下不安の無限ループ))


ちなみにヌードル亭麺吉というのは、掲示板ネタが好きな僕としては珍しく全く知らなかったんですけど有名なコピペのようで、ラーメン評論家の人たちを揶揄して有志が作った架空(人工)の文章らしいですが、これ作った人はマジでセンスがありますねぇ!

多分、意図して「読ませるウザ文」を作るのは結構難しいので、ヌードル亭麺吉のコピペ自体はみんなに愛されていることからも、作った方の才能は計り知れないものがあるといえましょう。


あと、何だかんだ最近おじさん構文といわれてるこの類のものは、何気に昭和軽薄体という名で、割ともう結構前から確立されてる文体だった、ってのも新しい知見ですね。

そう、評論家の方の実際のブログもそうですが、あの手の文章が本当に面白い・好きと感じる方も結構な割合でいらっしゃるようなので、その意味で「キッツ…」と思う人が外野からいちいちやいのやいの、少なくとも本人に直接苦言を呈すのも、もしかしたら良くないのかも…というか、あぁ良い悪いというよりもむしろ、それはもしかしたら自分にも置き換えられる話になってるのかもしれないな、なんてことも思えました。

結局、自分の好きな人の文章も、もちろん自分自身の書く言葉も、誰かにとって「キッツ…」となってる可能性はあるというかむしろそれは絶対に避けられないことだと思うので、あんまり「自分の価値観が絶対だ」と思うのも同じ穴の狢かもしれませんね、というまぁ結局単なる自戒的な話ですね。


ただ、僕は駄文をブログで垂れ流してるだけ(本職は研究なので、自分個人の感情や意見やユーモアを出すことがほぼない)ですが、創作を生業としている方にとっては、これは結構死活問題というか、より恐怖を感じる点なのかなぁ、なんてことも感じました。

ぶっちゃけ創作なんて突き詰めれば自己満足でしかないわけで、もし自分の作ったものが大多数の人にとっておじさん構文的なものに映っていたらどうしよう…もしかしたらもう既に…??
……と、才能の枯渇はどんな天才にも避けられない問題であるからこそ、これはちょっともう考えないようにするしかないポイントかもしれませんね。

例えば以前この記事とかで触れていた通り、僕はお笑いではダウンタウン松ちゃんがやっぱり史上No.1に面白いと思ってますけど、たまに話題になってて見ることのある松ちゃんの最近のツイートとか、正直、マジであんまり面白くないですもんね…。

まぁ「いやもう別に笑かそうとか面白いことをつぶやこうとか、そういうことしとるわけちゃうねん」と松ちゃんからしたら思われる話なのかもしれませんが、正直言葉のチョイスとかが、流石におじさん構文とはいわないまでもそんなにセンスを感じるものでもないことが多く、(僕は最近のは全然見れてませんが)TVでのコメントとかも流石に全盛期よりは大分落ちてるという話も聞きますしねぇ…。

…と、別に唐突に松ちゃんのことを悪くいいたかったわけではなく、松ちゃんほどのお笑い王でもやっぱりそうなるわけで…という、「老化は誰にでもある」「センスはやっぱり必ず衰えていく」的な、そういうことを決して忘れないようにしていきたいなという自戒を込めた話、という感じでした。

まぁ、「今はまだ大丈夫」と思ってる時点で、ほぼ確実に、永久に「今はまだ大丈夫、へーきへーき」と思い続けるんだろうな…とはうっすら感じるわけですけどね(笑)。

 

…と、おじさん構文のせいで完全に話が逸れちゃいました。

予定していたご質問続きはもうスペースがないので次回にまわすとして、前回の記事に関して追加でちょろっといただいていた小クエスチョンだけ取り上げさせてもらって今回はおしまいとしましょう。

Q1. 大腸菌を液体で飼うことの例え話として、「塩水にコーヒーの粉を入れたら拾えない」というのはまぁなんとなく伝わったが、大腸菌ってのも水に溶けちゃうってイメージでえぇのんか?

A1.  大腸菌は、水に溶けはしないですが、魚みたいに目に見える大きさの個体じゃないので、ほぼ水中に溶けてるのと同義ですね。

実際は魚と同じで、大腸菌も水中を漂っているだけ(それを水に溶けているとはいわない)なんですけど、やつらはあまりにも小さいため、金魚すくいのポイみたいなので特定の1匹をすくう、みたいなことはできないので、これはもう「水に溶けた砂糖が、1粒だけを拾うことは最早不可能」なのと全く同じ構図だといえましょう。

じゃあどうやって回収するのかというと、これはもう以前触れていた通り、遠心機で高速回転して、遠心力でチューブの底に落とすという感じですね。

もちろん特定の1匹だけのピックアップは無理なので、集団全体の菌を落とす(集める)ことになります。


Q2. あーなるほど、1つの細胞が分裂して大きくなっていったものが1つの塊(コロニー)、ってことだったんか。分裂したり、別の菌とくっついたりしながら大きくなって繁殖するって勝手に思ってたけん、「動けないのにくっつけないのでは?」って思ってしもうとった感じやね。
 ちなみに、液体で増やしてから最終的に寒天を入れて固体にしても、菌は拾えるようになるんけ?  (コーヒーだと無理っしょや?)


A2. まず「1つの細胞が分裂して大きくなる」について、もしかしたら誤解されてるかもしれませんが(この文だけでは判別がつかないので、多分、されてないかもしれませんが)、大腸菌1細胞自体のサイズが大きくなることはなく、分裂して「数が増えていく」だけで、結果、大量の数の菌が集まって「大きいサイズの塊に見える」という点に注意が必要かもしれません(億匹レベルの菌が積み重なって、白いコロニーとして視認できるということ)。

あくまでも大腸菌の生育というのは、数の勝負になる、ってことですね(大きい菌というのはいない)。


一方後半の話ですが、ご質問を見たとき「それは不可能」と一瞬即思ったんですが、ちょっと形を変えれば可能ですね。

まず、液体で増やしたものに寒天をぶち込んだ場合、寒天の性質的に「温めて液体になったものを、冷まして固める」という形になるので、固めるためには一度結構な温度に加熱する必要があります。

なので、その条件(=液状化して、アチアチになってる寒天を加える)で大腸菌は確実に死んでしまうので、「液体培地で増えてる大腸菌に、寒天を入れて固める」は不可能といえましょう。
(仮に固めることが可能でも、大腸菌は液体全体に満遍なく広がって生息しているので、固めたときにゼリー内部に入ってしまった菌はピックアップしづらいですし、全く実用的ではないといえそうです。)


ただ、形を変えれば、液体で飼ってる菌をプレート上で広げて、改めて特定の菌をピックアップするのは可能です。

やり方としては単純で、液体で増やしたものを、プレートにまいて、コンラージ棒なりその他爪楊枝の先なり(線を引くように広げるので、とがってるとプレートを掘っちゃいますし、とがってない側を使う方がやりやすいでしょうか)で広げてやれば、一応またコロニーに分けて特定の菌のみをピックアップすることは可能ですね。

これはシングルコロニーアイソレーション(単コロニー単離)と呼んでおり、実際よくやられている手法です。

ただ、液体培地が完全に濁るほど生育した菌は量が多すぎるので、プレートにまいたら前回見たようなワッサリ生える感じで、シングルコロニーは得られません。

なので、めちゃくちゃ薄めるか(下手したら100万倍とか)、あるいは液体のごくごく一部(小さい一滴)をプレートの上にのせ、先ほどは爪楊枝と書きましたが、やっぱり爪楊枝だとお尻の方を使ってもゼリーを掘っちゃいがちなので、より滑らかな、白金耳と呼ばれる先端がループになった金属の棒を使って、プレート上にジグザグを描く感じで塗り広げる感じですね。

Wikipediaの画像があんまり分かりやすいものじゃなかったので、画像検索して出てきた分かりやすい白金耳画像を、メディサイエンス社より抜粋↓)

f:id:hit-us_con-cats:20211001071711p:plain

https://medi-science.co.jp/inoculating-loopより

白金耳を使った具体的なシングルコロニーアイソレーションとしては、こんな感じのが例として挙げられますね。

f:id:hit-us_con-cats:20211001062751p:plain

https://catalog.takara-bio.co.jp/com/tech_info_detail.php?mode=3&masterid=M100002091&unitid=U100003708より

こちらは大腸菌ではなく酵母の例ですが、どちらも全く同じです。

プレートの外側から内側にかけて菌液をのばしてる感じですけど、1番は菌体が多すぎてコロニーが見られないのでまぁ使いすぎ(菌ののせすぎ)といえますが、他のやつはしっかりコロニーが見られるので、これをつつけば、液体培地から特定の1匹だけをピックアップすることが可能になった、ってことですね(改めて、コロニーは、1つの細胞が増えてきた結果形成されるものです)。

(ただ、菌液をめちゃくちゃ薄めて使ってるので、例えば「間違えて混ぜてしまった、異なるプラスミドをもつ菌から特定のプラスミド保有菌だけを回収したい」ような場合、どのコロニーが目的のやつか、それどころか下手したらこのプレート上に存在するかどうかすらはっきりとは分からない感じなので、実際に拾いたい菌が拾えるまで、何個もつついて試すしかない感じでしょう。)


ちなみにこんな感じで酵母がワッサリ生えたプレートは、大腸菌のプレートだとまぁ臭いんですけど、酵母は「あっ、パンのにおいだ!」と思える、むしろいいニオイで嬉しいですね。

やはりパンを作ってるのは酵母なんだなぁと思える、印象的なシーンといえましょう(もちろん実験で使うだけで、パンもお酒も作りませんが)。

…ということで、次回はまた質問の続きを見ていこうと思います。

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