金属を読めなかった思い出

ここ最近の記事で、有機物の特に高分子であれば、「それが何物か?」まで頑張れば分析できるという話をしていました。

加熱してみたときのカラメル化反応(糖)とか、タンパク質に反応するニンヒドリン反応とかそういった古典的な呈色反応にはじまり、もし核酸分子(DNA・RNA)と分かったらシークエンシングも可能で、タンパク質だったら、ウェスタンブロッティングで同定したり(といってもこれは未知のものを探るのではなく、ある程度目処がついているときの決め打ちでの「確認」になりますが)、エドマン分解質量分析で配列を知ることも可能になっているという感じですね。

(そういえば前回の記事で、質量分析(マス解析)の弱点みたいなものを書き忘れていましたが、まぁ素晴らしい技術ではあるものの色々不得手な所も当然ありますけど、タンパク質シークエンシング(アミノ酸の配列解析)をする上で最も致命的な弱点はといいますと、この実験は質量を見ているだけのものなので、ロイシンとイソロイシンという、炭素と水素(-CH3など)のつながり方が微妙に違うだけで原子の数が完全に同じ(=分子全体の重さが完全に同じ)アミノ酸は、一切区別がつかない、というのが筆頭に挙げられます。
 まぁ実験の性質上、別に「ロイシンかイソロイシンかのどちらか」であることが分かれば十分なことも多いですし(前回書いた通り、「配列を知る」ことよりも「何のタンパク質か知る」ことができれば、それで十分なことが多いので)、問題ないことも多いんですけどね。
 どうしてもどちらかを知りたい場合は、エドマン分解とかで見る他ない感じです。

 あとは、「未知の分子に対する、いわゆる発見力が低い」という前回もチラッと触れた点や、「機械のコストも、ランニングコストも高い」という世知辛い点なんかも、質量分析の欠点として挙げられますね。)


いずれにせよ、有機化合物、特に生体高分子はそんな感じで、手間はかかっても詳しく分析することが十分可能になっています。

では、それ以外のものはどうなのか?

まぁ正直もう特に触れるほどの話でもないんですけど、例えば無機物ならどうか?…という話になると、これはもう化学の知識を総動員して、色々な物質と反応させてどう反応するか(主に、の変化や溶解度の変化(水に溶けるか、はたまた沈殿となって固体が生まれるか)などを見て、一体その物質が何なのかを逐次判定していくことになります。

これは完全に高校化学の範囲で、代表的な無機物といえばやはり金属になりますが、金属といっても固体ならまぁ見た目や感触とか、磁石にくっつくかとか、重さや電気伝導度だとかである程度判別がつくと思うんですけど、これは紙面で問うのは難しいので、それよりよく受験で問われるのは、イオンとなった金属についてですね。

そもそも金属って印象としていわゆる鉄の塊とかアルミニウム製のフレームとか、固体なイメージが強いと思うんですけど、実際は金属イオンも生体反応で体内に含まれて重要な役割を果たしている、身近な分子といえます。

もちろん、体内に金属片なんてどう考えても存在しないわけで、これは、イオンとして水に溶けているということですね。

最も代表的なのが、やはり人類になじみの深い金属・で、「血をなめると鉄の味がする」という印象はどなたもあると思いますが、これはまさに、血液には鉄イオンが含まれているからなわけです。

具体的にはタンパク質の一種・ヘモグロビンと作用することで、酸素を運ぶために必要なのが鉄イオンなわけですけど、これは当然、血液に固体の鉄の塊があるわけではなく、液体中にイオンとして、つまり水に溶けて存在しているということですね。

(関係ないですが、イカやタコの血液が赤ではなく青っぽい色をしているのもそれなりに有名な話だと思いますけど、その理由は、彼らが酸素の運搬に使っているのは鉄イオンではなく、銅イオンだから、というものになります。
 銅といえば十円玉のイメージかと思いますが、銅イオンというのは結構鮮やかな青色を呈すことが多いので、化学者の人にとっては銅といえば青というイメージがあるのかもしれませんね。
 ちなみに青銅というのは別にそのイメージからの言葉ではなく、これは銅と錫(すず)の合金の名前です。
 有名な合金も高校化学で習い、案外身近な物質について知れて面白い点ではあるんですけど、まぁ今回は特に触れないでおきましょう。)

銅イオンがあると水溶液が青くなるので非常に分かりやすいわけですが、必ずしも金属イオンの全てに色が付いているわけではありません。

そこで、何か謎の液体を渡されて、「ここにいくつかの金属が含まれています。何が入っているのかを当ててください」ということが、まぁ現実で必要になることがどれだけあるかはともかく(水質汚染検査とかで、無機質のチェック項目としてはあるかもしれませんが)、受験や、化学の講座なんかでは非常に良い理解度を問える問題になっており、頻出しているわけですね。

まぁ覚え方や実際の方法は検索すればいくらでも見つかるので細かくは見ていきませんが、ちょうどこんな感じ(↓)ですね。

検索したら、教科書出版社の啓林館の解説ページがヒットしたので、解像度の悪い図でしたが引っ張らせていただきましょう。

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http://www.keirinkan.com/kori/kori_chemistry/kori_chemistry_n1_kaitei/contents/ch-n1/3-bu/3-2-E.htmより

このように、金属イオンが特定できる各種試薬を順番に加えて、一つずつ沈殿が生じるか、それとも何も生じないかを確かめながら成分を調べていくことを定性分析と呼んでいますが、これは大学前期過程の理系一番ハードな必修講義・基礎実験というものでみんなやらされるもので(恐らくどの大学でもやるのではないでしょうか)、個人的にはとても強く印象に残っています。

(今はまたちょっと変わってるかもしれませんが、僕が学生の頃は)これよりもっと沢山の候補の無機化合物からいくつかの物質がランダムに加えられた水溶液が学生一人一人に与えられ、各々知恵を絞って、全部当てるまで帰れません!という地獄のような実験でした。

当然、受験勉強としてこの辺の知識は覚えているわけですが、頭の中・紙の上で覚えた知識と、実践として、現実世界でこの目で見ながら手を動かして調べていくこととは結構大きな隔たりがあって、僕は基礎実験のこの回は結構泣きそうになりながら、ほぼビリケツグループになるまで残った記憶があります。

まぁ言い訳すると、ちょうど一番難しいパターンの混合物に当たってしまって、なかなか決定的な判別が付かず、段々使える溶液の量も減ってきちゃうし、最後の2つがどうしても分からん、もう次間違えたら試薬もなくなっちゃうし、ヤベェ~もうどうすりゃいいのか分からんちんだ…!!……となっちゃった感じですね。

この基礎実験という講義(というか実習)は、毎回「試問」という形で、実験後、別室で待ってる担当教官から簡単な口頭試験みたいなのを受けてパスしないといけないんですけど、この実習は学籍番号順に座ってやる形なんですが、結局、隣の学籍番号の、そこまで仲良かったわけではないけれどすごく親切なタイプのクラスメイトが(彼ももう大分時間がかかっていたものの、それ以上にドツボにはまってやばい状況になってた僕を見かねて)、試問にいったときに、チェックリストに書かれていた僕の混合物の正解を見てきてくれて、戻ってきたら「紺助くんのやつ、あと悩んでるのは、○○イオンだったよ」と教えてくれた…という、あからさまなカンニング行為で手助けをしてくれて、ラスト1つの同定をして(答から逆算して、それが確実に同定できる判定を行って)難を逃れたという苦い思い出がありますねぇ~。

そんな実験というか実践が苦手なタイプなのに、何だかんだ研究職についているというのも不思議なものです。

…という、今回は全く中身には触れず、学生時代の思い出をふと思い出したので、ちょっと触れてみました。

ちなみに、無機物・金属イオンの定性分析同様、有機化合物の方も似たような物質の分離・分析の話があり、有機の場合、定性分析というより系統分離と呼ばれることの方が多いイメージもありますが(まぁ単なる思い込みかもしれませんが)、系統分離の図でいいのはないかと検索してみたら、Amazonにて、高校生が便利に使えそうなクリアファイルが売られているのを目にしました。

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https://www.amazon.co.jp/グローバルサイエンス-クリアファイル-系統分離-~ダブルポケット-A4サイズ~/dp/B01N6QKPCQより

宣伝するわけでもなんでもないですが、こういうのもいいですね!


…と、しょうもない思い出話のみで今回は終わってしまいましたが、次回は物質の分析系の話多分ラスト、これまた極めて高等な検出技術を、深入りせず、ごく簡単に紹介して終わろうかと思っています。

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