前回のアミノ酸記事の続きとして、20種類のアミノ酸でも順番に見ていこうかな、と考えていたのですが、毎度ご丁寧なコメントをいただけるアンさんから、「質問いいですか?」というメッセージをいただいていました。
質問されるのが三度の飯より好きな僕ですからね(いやそれはちょっと嘘かもしれないですけど(笑))、これは大変ありがたいことこの上ありません。
また、アンさんはこの手の話には全く詳しくない素人・アミノ酸に関してはモグリだということですので、これはちょうど、そういったあまり詳しくない方が気になりがちな質問にもなっているのではないか?ということで、これは記事として紹介して回答してみるのも多くの方にとって役に立つに違いない……と思って、今回まとめさせてもらうことにした次第です(アンさんからは了承済み)。
なお、アンさんのプライバシー保護(?)のためといいますか、「どんな質問をされたのか」というのもある種の個人情報ですから、そこを守るため、個人的に「こういうことも気になる人がいるのではないか?」といういわゆる想定質問、および、「昔の自分はこういうことも気になっていたな」という自己問答も、適宜こっそり織り交ぜていこうと思っています。
(もちろん、質問の文章・口調とかも変えてあります。)
では、Q&Aで質問に答えてみるとしましょう。
Q1. アミノ酸は酸っぱいの?
A1. 名前からして、「酸」で終わっているので酸っぱそうな印象ですが、別にスッパくはありません。
そもそも「酸っぱい」というのは、文字通り「酸」なので、これは何に由来するかといいますと、恐らく100%全員が言葉自体は知ってらっしゃる「酸性とアルカリ性」の、酸性のものを口にしたときに感じられる感覚なんですね。
で、「アミノ酸」というと「『酸』って文字で終わってるし、酸性じゃねーの?」と思われるのもやむなしなのですが、実は、前半の「アミノ」というのは、こちら「アルカリ性」を意味する言葉の一種になっているのです。
つまり、「アミノ酸」という単語自体は「アルカリ・酸」という感じであり、名前全体ではアルカリと酸がつぶしあって中性になってますから、名前そのものは、全然酸っぱい性質を表してすらいなかったんですね。
ちなみに「アミノ」は「アンモニア」に近いことからも分かるとおり(いやあんまそうでもないけど(笑))、アンモニアに由来するものになります(アンモニアがNH3、アミノが-NH2といった感じ)。
「アンモニア」が水に溶けるとアルカリ性になるという小学校で習った知識、覚えてらっしゃるでしょうか…?
もう二度と出てこないので、別に全然覚えてなくてもいいです、さぁ、忘れて!(いや無理に忘れなくてもいいですけど(笑))
とまぁそんなわけで、名前的には実は酸っぱくなくても納得なんですが、前回書いた通り、「アミノ酸」というのはあくまでグループ名で、このグループには、「タンパク質で使う組」というクラスに、20人のメンバーが所属しているのでした。
なので、正確には、「アミノ酸は酸っぱくない」というのも厳密には正しくなくって、より正しくは、「酸っぱいものもいるけど、ほとんどは酸っぱくない」になる感じですね。
詳しくは各アミノ酸を見るときにまた触れられればと思いますが、目ざとい方であれば、前回名前を挙げたとき、2名だけ、「○○酸」で終わるやつらがいたのを覚えてらっしゃるかもしれません(唯一漢字が使われていた所なので目立ってましたしね。アスパラギン酸とグルタミン酸です)。
水に溶けた時に酸性を示すアミノ酸は20種中この2つだけなので、あえていえば、その2つが酸っぱいともいえますが、もちろん若干の酸味もあるといわれていますけど、実はもっと違う味がすることで有名なのでした(特にグルタミン酸)。
詳しくはそれもまたいずれとして、とりあえず、その2つ(グルタミン酸は酸性物質だけどほとんど酸っぱくないので、実質アスパラギン酸の1つのみ)以外に「酸っぱいアミノ酸」は存在しないので、総合すると、アミノ酸は全く酸っぱくなく、むしろ甘いものの方が多く、ほんのり苦いものもあり、そしてうまいという、「子供にも親しみを持てるように、アミノ酸ではなく、『アミノアマイウマイ』とでも改名してはいかが?」と思える味になっている感じですね。
Q2. 言葉だけで説明されても、目で見ないと分かんねーぞ!結局、アミノ酸ってどんな姿形してる奴なんだよ!!
A2. 白い粉だよ(笑)。
ただ、砂糖や塩みたいなさらさらパウダーもあれば、片栗粉みたいな、何というかちょっとネトッとしたしっとり粉(何て表現すればいいのか、語彙力の敗北…。塩とは違い、容器や指に跡が残る感じ)みたいなのもあるし、粒々じゃなくて何かマグマみたいな見た目(もちろん熱くもないし赤くもないけど)の柔らかい塊みたいな感じのやつもいるし(まぁ、それが片栗粉にも近い感じ?でも、ちょっとキラキラしてるので、それとは違うんですけどね…。…っていうか、料理しないから、粉もんで上手く例えられない…!)と、触感は様々ですね。
そしてもちろん、その粉はアミノ酸が沢山集まったものであって、アミノ酸1つ1つは、当然、目で見えないぐらい小さいです。
最小のアミノ酸であるグリシンは、1個の重さが、約1.25×10-22グラム(分かりやすく書くと、0.000000000000000000000125グラム。…軽すぎぃ!ホコリか!!)で、逆にいうと、グリシン1.25グラムは、100垓(がい=億・兆・京の次)個のグリシンが集まってできている、ってことですね。多すぎぃ!!
…といっても、これも知らねぇ単位すぎてやや分かりにくいのでもう少し分かりやすくいうと、1000億個のグリシンを1セットとして、それを1000億セット集めて、ようやく1グラムになるという感じですね。結局桁違いすぎて分かりにくすぎ・ヤバすぎぃ!!
Q3. アミノ酸は体の中で何らかのタンパク質になるってことなら、アミノ酸を体内に入れるのと、タンパク質を(サプリとか、食品ででも)体内に入れるのは、結果同じってこと?同じなら、アミノ酸をあえて摂取するメリットは何?出来上がったタンパク質でいいじゃねーか!!
A3. 直接的な答ではないですが、順番に話を広げて、目的の答にたどり着くようにさせていただきましょう。
まず、タンパク質というのはアミノ酸が何十個何百個とつながったものなので、デカブツすぎて、基本的にそれをそのまま使うことは、人間には難しいことが多いんですね。
順にその理由を説明しますと、まず1つ、タンパク質は同じ名前で同じ機能を持つものでも、実は、生き物によって微妙に使われているアミノ酸の種類・並び方が違うのです(もちろん同じ機能を持つ分子なので、そこまでは違いませんが、違う生物同士で完全に一致していることの方がむしろ珍しいぐらいです)。
例えば、僕たちは鶏肉を食べますが、ニワトリの持つ(=ニワトリが自分の体内で作る)酒飲み用酵素ALDH2のアミノ酸配列を確認してみた所、人間のALDH2と、大体85%の一致率でした。
例の前回触れていた、この酵素の中で一番重要な504番目のE(グルタミン酸)(これがK(リシン)になったら、いきなり酵素が使い物にならなくなる重要なアミノ酸)は、トリさんでも同じグルタミン酸だったのでそこはセーフでしたが、トリさんのALDH2は、15%も我らが人間様のとは違うアミノ酸が使われているので、もしかしたら人間の肝臓ではちゃんと思うように働いてくれない可能性もあるわけですね。
(もちろん実際に実験したことはないので、現実でどうなのかは分かりませんけど、上手く使えない可能性もある、ということです。)
しかしそれよりも!
仮に、トリさんの酵素がヒト様の肝臓でも使える優れものだったとしても、そこには問題があるのです。
人間が、自分のものではないタンパク質をいきなり体内に入れたらどうなるか、ご存知でしょうか?
恐らくいわれたらどなたでも「あぁ、聞いたことあるわ」と思われることでしょう……免疫という、これまたマジでスゴ過ぎワロタとしかいえない、めっちゃくちゃよくできた素晴らしすぎる仕組みで、全力で排除を試みるように、僕たちの体はできているのです。
なぜそんな風にできているのか、ですって?
だって、自分にとって未知のタンパク質ですよ?
タンパク質は、前回も書きましたけど、色んな機能を持つスゲェやつなんですよ?
もしもそいつがヤベェ毒を垂れ流してくるとか、病気を引き起こすようなヤベェすぎるヤツだったらどうするんですか!!
そういうのは、速やかに体の中から除いてやらないと、下手したらマジであっさり死んでしまいます。
だから、見知らぬ物質が体内に潜入してきたら、とりあえずぶっ壊すようにしておく必要があるんですね。
なので、トリさんのタンパク質(酵素)を何らかの方法で体内に直接届けても、鳥公のタンパク質なんて人間様にとっては異物でしかありませんから、免疫系によって排除されてしまう可能性が高いのです。
免疫系によって排除されるだけならまだしも、あまりにも何度も、あるいは大量にその異物が体内に入ってくるようだと、免疫系が暴走し、色々ヤベェことが生じるようになります。
代表的な例が、みなさまご存知、アレルギーですね。
自分が作ったわけではないタンパク質が体内に入ってくると、「敵だ!殺せ!!」と免疫系が発動、ほんのわずかな量であればあっさり鎮圧可能ですが、あまりに量が多かったり長い間ウロウロされたりすると、戦争状態になりまさに爆発炎上……
場合によってはカユイカユイとか肌真っ赤っ赤とか、それだけで済むならまだしも、重くなると命の危険にまでなり得る状態になるわけですが、これらを総称して、我々はアレルギー反応と呼んでいるわけですね。
アレルギーに注意する必要があるというのは、恐らくご理解いただけることでしょう。
日常的な例でいえば、花粉症もアレルギーの一種です。
自分以外のタンパク質(この場合、花粉)に長時間接触してしまうとどうなるのか……現代人はみんな知っているので、最早語る必要もないでしょう。花粉、おぉコワイコワイ…(まぁ、アレルギー反応としては、軽微なものなんですけどね。命に別状はないわけですし)。
…と書くと、「いやいや待て待て、俺らは毎日鶏肉を食いまくってるじゃないか。普段からめちゃくちゃ鳥のタンパク質を摂取しまくってるけど、一度も『っべー、トリさん食っちまった、カユイカユイ(笑)』とかなったことねーぞ!俺の免疫とやらは死んでるのか!?」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
もちろん、健康な人で免疫系が完全に崩壊している人は絶対にいませんので、そこは大丈夫です。
(免疫系が完全に死んでたら、普通の生活をしているだけで、体の中にカビが生えたりして即お亡くなりになります。それだけ免疫というのは重要だということですね。)
ではなぜ僕たちは鶏肉という異物を食べても平気なのか?
それは、僕たちは、ものを口から食べているからなんですね。
口から食べたものは、喉をおりて食道を通り、胃腸で消化される…ということを知らない方はいらっしゃらないと思います。
そう!
消化というのは、食べたものをズタズタに(まぁズタズタには歯とかで既にしていますが、分子レベルでズタズタにするという意味で)ぶっ潰して、自分に使える形にまで落とし込む行為であるといえるんですね!
(ちなみに、消化をしてくれるのも、当然、その役割に特化したタンパク質=消化酵素と呼ばれるやつら(トリプシンとか、リパーゼとか)がメインで働いています。タンパク質 is GOD!)
例えばアミノ酸が500個つながっているタンパク質ですと、その中にはどうしても「自分にはない部分」が存在し、そこが免疫反応を引き起こしてしまうというのは上述の通りでした。
しかし、消化することで、これがアミノ酸1つ1つにまでバラバラ、あるいは長くてもアミノ酸数個がつながった状態にまで分解されるとどうでしょう。
「アミノ酸数個がつながったもの」は当然自分の体内にも元から存在する馴染みのものですから、これは何の問題もないわけです(免疫系は、当たり前ですけど、自分を形成する要素に攻撃することはないようにできています。当たり前だけど、賢い!!)。
なので、僕たちは、食べたものは基本的に、免疫反応を引き起こすことなく、無事血となり肉となり骨とする(そして、血液や肉や骨の重要成分のほとんどは、タンパク質です)ことができるわけなんですね。
(もちろん、ものによって、そして人によっては、口から食べたものであってもアレルギー反応を引き起こすこともあるのは周知の事実です。
僕はアレルギーが専門でもないですけど、アレルギーを引き起こしやすい食品とかは恐らく、免疫反応を暴走させやすいタンパク質が多い、という感じなのでしょう。
触っただけで肌から吸収されやすく、体内にいとも容易く侵入してくるとか、消化する途中段階のものが異物として認識される形で残りやすいとか、そういう感じでしょうかね。)
ということで、そういった話から、タンパク質として摂取するのとアミノ酸の形で摂取するのとには違いがあるということがお分かりいただけたと思います。
タンパク質として摂取しても、結局、一度アミノ酸にまで戻さないと、人間はなかなか上手に使えないんですね。
「…ん?でも、トリのタンパク質が免疫どうたらで直接使い辛いのは分かったけど、同じ人間用の酵素なら、使えるってこと?ってことは、ベストは、人肉……」みたいに思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、まぁ人肉はともかく、今の技術なら、別の生物(菌類や細菌類)にヒト用の酵素を作らせることもできるので、それを使うのは良いアイディアといえそうです。
(ちなみに、菌類や細菌類には、簡単な仕組みのものがなくはないですが、ヒト様が使うような高等な免疫機構は備わっていないので、そういう微生物にヒトのタンパク質を作らせることは、余裕で可能になっています。)
それがまさに、消化酵素を含んだ胃腸薬とかですよね。口から飲んで、胃腸に直接酵素を届けて、その摂取した酵素たちに頑張ってもらおう、という魂胆です。
ただ、各種酵素は前回も書いた通り持ち場がありますから、必ずしも無傷で目的の場所に届けられるとは限らないのです(繰り返しですが、タンパク質はデカイので)。
つまり、例えば主に肝臓で働く酒飲み用酵素ALDH2を大量に飲んだとしても、肝臓に届く前にデカイ酵素は胃腸で消化されてしまい、ズタボロになってしまって、ようやく肝臓に着いた頃にはもうお酒を分解できる形ではなくなってしまっていた……なんてこともあるかもしれません。
(改めて、僕はALDH2の薬理作用とかの専門家でもなくその辺は詳しくないので、もしかしたら実際は口から飲んでも十分届くのかもしれませんが、あくまでも、そういうこともあるでしょう、という「例」ですね。)
結局、簡単に摂取・吸収できるのはやはり口からになるので、口から飲む以上、胃腸での消化を避けては通れないんですね。
…ということを総合してご質問に戻りますと、 一見「タンパク質を摂る方が話が早いじゃん」と思うかもしれないんですけど、結局は口から飲む以上、タンパク質は一度アミノ酸にまでバラバラにされる=食べ物として摂取したタンパク質を直接使っているわけではないので、言うほど話が早いわけではないのでした、というので回答になっている感じでしょうか。
ただ、同じく質問にあった「アミノ酸を直接摂取するメリットは?」というのは、まぁ消化の必要がないので速やかに体内でタンパク質合成用の材料として使える、ってこともあるかもしれませんが、健康な人であればタンパク質の消化なんて楽勝でガンガン行われますから、それは大したメリットではないかもしれませんね。
むしろ、サプリ的にアミノ酸を摂る場合、一種類のもの(まぁ複数種類あっても、あくまで特定のもの)を摂ることになるので、「特定のこのアミノ酸を多めに摂りたい」という目的ではメリットがあるかもしれませんが、正直、何事もバランスよく摂ってこそだとも思えますしね…。
これも、タンパク質の形で(=肉とか豆とか卵とか、普通の食べ物を食べる形で)摂るので良いというか十分であって、あんまりメリットでもないのかな、って気もします(あくまで栄養学が専門ではない、一個人の想像というか意見)。
タンパク質なんて普段の食事に大量に含まれますし、逆にいえばアミノサプリに含まれる量なんて肉から得られるアミノ酸の量に比べたら微々たるものともいえますから、メリットデメリットでいえば、普段タンパク質が含まれる食事をしっかり食べれば十分、アミノ酸のサプリメントとかは(デメリットは別にないけど)あえて意識して摂らなくてもいいんじゃないかな、って思えます(改めて、あくまで素人感想)。
もちろん、「タンパク質が足りてない!」「沢山筋肉をつけたいから、もっとタンパク質を!」と思える方であれば、サプリやドリンクなど摂りやすい形でアミノ酸を積極的に摂るのは、補助的に栄養を強化するという意味で、大いにメリットがあるとはいえましょう。
というところで、実はまだ全くいただいた質問は終わっていないのですが、流石に長くなりすぎたので、続きは次回にまわさせていただこうと思います。
…う~ん、何というかこう、無駄に長ったらしくなっちゃいますねぇ…。
ただ、その分、一応疑問はつぶせてる形にはなっていると思うのですが、読んでいて「?」と感じる所や、追加で気になる点等ございましたら、どなたでもお気軽にご質問いただけると大変嬉しく思います。
(なお、かなり分かりやすさ優先でざっくばらんに解説してるので、多少の厳密さを犠牲にしている所も若干あることにご注意ください。もちろん、全くの間違いを記述していることはないはずですが、やや誇張したり、学術的ではない子供向けっぽい分かりやすい表現になってたりという点も、なくはない感じです。)
Q&A、次回へ続く…。