一歩ずつ振り返りながら、少しずつ確実に進んでいこう

前回の記事でようやく染色体が23種類2本ずつ存在してるという話にたどり着いたので、いただいていた関連質問の方を改めてチェックしていきましょう。 

Q1. 人間のDNAを60億塩基というのに対して、ひとつのタンパク質(お酒の分解酵素)とかの遺伝子をいう時には1本あたりの数(1551塩基)でいうのが、とてもわかりにくく、イメージがわきづらい。1番染色体が2億4895万塩基というのも、1本あたりでいいのか?(2億4895万/30億?それとも2億4895万/60億?)
何か、イメージしやすい方法があれば、よろ。

⇒このご質問、何度かいただいていたのにずっと触れていませんでしたが、人間のDNAが60億塩基とか30億塩基とかいってるのに対し、お酒遺伝子が1551塩基とかいうのがイメージしづらいというのは、結局数が違いすぎて、つながりが見えてこない…ってことですかね?
(後で気付きましたが、ご質問のポイントは、恐らくそこではなかった感じですね。後ほどそちらの本来疑問に思われている点についても触れますが、この点も案外イメージを抱きづらい原因になっていると思うので、想定質問の一環として、まずちょっとこちらに触れてみようと思います。)

一言でいえば、1551塩基とか、もちろんもっと小さいものも大きいものも沢山ありますけど(10万を超える数の塩基で指定される巨大タンパク質とかもあります)、大小さまざまな遺伝子が23種類の染色体の決まった場所に乗っていて(前回も書きましたが、例えばお酒分解遺伝子ALDH2は、12番染色体111766933番目の塩基からが陣地です)、もちろんまだ役割などの詳細は不明な部分とかもいっぱいあって、それら全部を合計すると、ちゃんと60億塩基(まぁ60億は2セット分を見ているので、それだけで人間の設計図一通りが揃ってる一式だけで見たら、30億ですけど)になる、という、何の捻りもない、そのまま素直に考えてOKの話になっています。

ただ、「1つの遺伝子が、たった1551塩基…大きいやつでも、10万塩基とか……遺伝子は全部で2-3万あるっていってたけど、一番大きいので10万塩基なら、合計30億にまっったく全然届かなくね?大部分がまだ不明ってこと?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

これ、数の隔たりが大きすぎるのには、1つ大きな理由がありました。

実は1点肝心な所を省略していたというか、話がややこしくなるだけだと思ったのでこれまで一切触れていなかった所があるんですけど、「遺伝子」つまりDNAの情報には、「タンパク質の中身(アミノ酸の順番)を指定する所」の他に、「この遺伝子はいつどこでスイッチを入れるか?」といったことを指定している部分とか、「実際のタンパク質合成反応を行うために必要になる領域」とか、そういう「その他の役目をするための情報」も存在していまして、正確にいうと、ALDH2遺伝子のサイズは、1551塩基ではないのです。

もちろん、遺伝子の中で一番重要な役割といえる「タンパク質の設計図=アミノ酸の順番指定」という部分は1551塩基で間違いないんですが(まぁ、終わりを指定する停止コドンも重要なので、それを入れたら1554ですけど)、その前後に、(1つ上の段落でも書きましたが)「いつどこでこの遺伝子のスイッチを入れるか」を指定している制御領域や、「タンパク質合成マシーンが実際に召集されて、アミノ酸をつなぐ反応を始める準備をする部分」「どのコドンからアミノ酸を読み始めればいいか教えてくれる部分」とか、他にも停止コドンの後で「タンパク質合成マシーン、ここまでお疲れ様、ここで終わりだから、もういなくなっていいよ。解散!」ということを指定している部分などなどが存在し、これらを足すと、なんと、ALDH2の遺伝子は、合計50600塩基にもなるのです!

いきなり増えすぎぃ!という感じかもしれませんが、そういう合成量の調節領域とか、合成マシーンの準備部位とかがないと、冷静に考えたらどうやって必要な時に必要な細胞だけでタンパク質を作ってるんだ、そもそもどういうメカニズムで作ってるんだ、って話にもなるので、逆に、「言われてみれば、確かに、そういうのも要るわな…」と思っていただけるのではないかと思います。

ちなみにこの話をまだ出していなかったので、「1551塩基の長さになってないじゃん」と思われるかなと思ったため、前回は、ALDH2遺伝子の場所について、「12番染色体の111766933文字目の塩基から始まっている」としか書いていなかった感じでした。

正確にいうと、12番染色体の111766933から111817532番目の塩基が、「ALDH2遺伝子」としてデータベースに登録されています。

この50600文字の中に、

ALDH2タンパク質合成のON/OFFを指定する制御領域」
「(一番肝心の)ALDH2アミノ酸の順番のレシピ」
「実際にタンパク質を合成するときに必要な領域(合成マシーンの集合場所・解散場所として使われる所などなど)」

…といったALDH2を合成するために必要な全ての情報がバッチリ含まれているということですね。

実際この全情報込みの50600塩基のDNAを、例えばシャーレで培養している細胞に取り込ませてやると、ALDH2のタンパク質がポコポコ作り出されるようになるのです!

逆にいうと、1551塩基の「タンパク質のレシピ部分」だけを細胞にふりかけても、絶対にALDH2タンパク質は作り出されません!
ON/OFFスイッチや、沢山のパーツから成るタンパク質合成マシーンが集まって準備するための領域がないので、合成を始めることができないからですね。

…ただもちろん、ALDH2は基本的に肝臓で合成ONになるタンパク質ですから、例えば50600塩基のDNAを取り込ませても、それが目の細胞だったりしたら、合成スイッチがONになってくれませんから、タンパク質はほとんど全く産み出されないでしょうね。

でもあくまで条件は整っているので、スイッチさえ入ればALDH2のタンパク質が作られる状況にはなっている、ということです(逆に、レシピ部分1551塩基だけのDNAだと、肝細胞とか正しいものに入れても、絶対にそのDNAからALDH2は合成されない)。


…ということで、今までアミノ酸を指定する、タンパク質の長さの3倍のDNAを「遺伝子」と呼んでいたこともあった気がしますが、正確にはそれは「遺伝子の一部」であったことにご注意ください、という話でした。

(でも、遺伝子で一番大事なのは当然アミノ酸の順番を指定しているレシピ部分ですから、ここだけを指して「遺伝子」と呼ばれることも、カジュアルな場面ではまぁなくもないですね。
 もちろん正確には、「(アミノ酸の)コード領域」みたいに呼ぶ方が正しい感じではあります。)

ややこしいのでずっと話に出さずに保留してましたが、逆に「1551と60億?その差は?」と思われてたかもしれないので、もっと早めに触れてても良かったかもしれませんね。


…という所で、いただいた質問から派生した想定質問に答えてみましたが、先ほど最初に書いた通り、元々のご質問は多分そういう「長さにギャップがありすぎて分かりづらい」ということではなく、「たまに60億、たまに30億で、ごっちゃになってるのが、ややこしすぎる」って意味の話だったのかもしれませんね。

ということで、そちらに話を移行しましょう。

その辺、実は割と適当に書いていたので(「30億と書いてるときは全遺伝子一式のみに着目してて、一方60億と書いてるときは、それが2セットあることをいってるんだろうな…と自動的に読み取ってください」みたいな、無責任な読者の想像お任せ・丸投げのクソスタイル(笑))、それが混乱の原因だったかもしれませんね。

結論としては、基本的に遺伝子を語るときはそれだけで話が完結する、一式最少構成の方を考えますから、「ALDH2アミノ酸を指定するレシピ情報は、1551塩基」と書いた場合は、当然、1551/30億の形になっています。

ただし、何度か書いている通り、人間は父と母からヒトを形成する全遺伝子を一式ずつ受け取りますから、ALDH2遺伝子は誰でも2つもっていることになり、1つの細胞の中に「ALDH2アミノ酸指定レシピ情報」は、1551×2=3102塩基存在する感じですね。

これだと当然、3102/60億の形になりますが、約分すると結局1551/30億で同じことになっています。

分かりやすいイメージとしては、2つのものを同時に考えているとき(=2つもっていることが重要になるとき)は、必ずちゃんと2つセットで遺伝子を書いている、って点を意識してもいいかもしれません。
(見方を変えれば、個人レベルで遺伝子の影響を語るときは、必ず2つセットで考える必要がある、ということ。)

例えば血液型なら、父から遺伝子A(9番染色体から、父方祖父/父方祖母由来の2本の内、どちらか1つだけが代表で選ばれる)、母から遺伝子Oを受け継いだ結果、自分のもつ遺伝子型はAO(=自分は、9番染色体を、血液型遺伝子としてAを持つものOを持つものの、2つもっている)で、表現型はA型になる、とか、そういう感じです。

ちょうど似たようなご質問が残っていたので、後ほどこの辺は改めて触れるとしましょう。


結局、根本のイメージとして一番大事なのは、やはり「30億文字で1セット=人間の遺伝子が一通り全部揃っている」って所かもしれませんね。

そのイメージがあれば、父からも母からも一通り人間を構成する遺伝子を全て受け継いでいる=人間は、どの遺伝子も実は2つずつ、同じものを重複して持っているという、これまた重要なイメージにつながると思います。

そこを抑えておけば、ご質問の1番染色体の話のスッキリした解釈にもつながりそうですね。

染色体1本はそれだけで全てを含んでいるという話なんだし、父からも母からも全く同じものを1本ずつ受け取っているということなんだから、1番染色体は1本が2億4895万塩基であって、それが2本あるということなので、細胞の中には1番染色体としては合計4億9790万塩基(ただし、あくまで2億4895万×2)が存在している、ってことですね。

(いやまぁ「半分の1億2447.5万塩基が遺伝子一式で、それを父と母から1つずつ受け取ることで、『1番染色体は2億4895万塩基』って書かれていた可能性だってあるじゃん」って話なので、ちゃんとハッキリ書いてくれないとスッキリしないアヤフヤな感じになってしまうのは、当然の反応だったともいえますけどね。)


まぁ、この「同じ遺伝子が2つずつある」というのが、遺伝学を異様にややこしくしている最大の原因ではないかと思います。

「一通り全部が備わってるのに、2つ持ってる?一式あれば、人間の全部のタンパク質が作れるって話なのに?なら1つでいいじゃん!…っていうか設計図が2つあるんなら、2人できちゃいそうな気がするじゃん!もうワケワカメだよ!!」

…とか思えてしまうのが混乱の原因になってるのも分かりますが、でもまぁそうじゃないと生物の多様性が生まれない(そういう形だったからこそ、生物には多様性が生まれて、ここまで発展してきたのは間違いない)ので、これはある意味必須の条件というか、オスとメスがつがいで子を産む生物というのはそういうものなので仕方ない点だ、といえましょう。
(「遺伝子一式が2つあるなら、自分の中に2人の人間ができちゃうのでは?」というのは、まぁ何といいますか、1つは予備とでもいいますか、2つの合計でちょうど1人ができるようになってる、みたいなイメージでしょうかね…?)

 

関連して、先ほど「また後で」と書いていた、「同じ遺伝子が2つずつ」という点を抑えれば多分スッキリできると思われる質問も、この機会に抑えておくとしましょう。


Q2. 例えばお酒分解酵素の1510番目のGがAに変わっていればお酒が弱いっていうアレ、父由来の染色体にある1510番目と、母由来の染色体にある1510番目、2つあるよね?どちらかがAならば、弱くなる可能性もあるし、弱くならない場合もある、ってこと?
他の例だと、筋ジスのあの停止コドンになるアレも、母由来の方が変異してて、父由来の方が変異してなかったら、発病する可能性はあるし、しない場合もあるってこと?もしも母からもらったのが変異してない方だったら、母親は筋ジスでも、自分は絶対に筋ジスにならない…?


⇒この辺も、何気に誰しもが感じるのに、なあなあのまま放置されていることが多い、素晴らしい質問ですね。

結局、遺伝子は同じものが2つある(もちろん、「同じ」とはいっても、全体的な枠組みが同じなだけで、数塩基レベルでは違いがあるからこそ、個人差につながっている点に注意)ということを抑えれば割とスッキリイメージがつく話で、あとは遺伝子型と表現型との関係によって全てが決まる、という話になる感じですね。

改めて、遺伝子は2つで1セット(=アルファベット2字で表される、遺伝子型)であり、お酒分解酵素は、EE型、EK型、KK型の3パターンの遺伝子型があることを思い出せば一発解決でしょう。

まず復習ですが、ALDH2にはお酒に強いE型遺伝子(1510番塩基がG、結果として指定されるアミノ酸がE(グルタミン酸)になる)と、弱いK型遺伝子(1510番塩基がA、結果アミノ酸がK(リシン)になってしまう)とがありますが、どちらも「ALDH2を指定する同じ遺伝子である」ことには変わりありません。

DNAの1510番がGだと、分解能力が強い『タイプE』、1510番がAだと分解能力がなくなってしまう『タイプK』になるというだけで、あくまでもどちらもALDH2を作り出す、同じ遺伝子だということには注意が必要ですね。
(ややこしいですが、「同じ遺伝子だけど、違うタイプ」ということ。混乱の1つの要因は、この「同じ」という言葉が、完全一致を表してはいないことにあるのかな、って気もしてきました。
 ちなみに正式用語では、この違うタイプを「変異体」といいますが、まぁ別に「タイプ」と呼んでも何でもいいでしょう。)

で、父親母親両方から、どちらか1つずつのタイプの遺伝子が乗ってる染色体(おさらい:この遺伝子は、12番染色体に存在してましたね)だけをもらい、結果、自分のもつ12番染色体は、EEか、EK(どちらかの親から、弱いKタイプを受け継いでしまった)か、KK(両方の親から、弱いKタイプを受け継いでしまった!)かの、3パターンに分かれることになります。

ここで重要なのは、この内、EKは、大多数の日本人が持つパターンですけど、「弱くなるかもしれないし、ならないかもしれない」ではなく、「少しは飲めるけど、弱い」表現型になるわけです。

(ちなみにいうまでもなく、12番染色体がどちらも「E型ALDH2遺伝子の乗っているもの」を受け継いでいたら、その人はEEなので、お酒にめちゃ強のザルに、逆に両親どちらともから「K型ALDH2遺伝子の乗っている12番染色体」を受け継いだ場合は、1滴もお酒が飲めない完全下戸になりますね。)

これは決まっています。必ず、酒に強いのと全く飲めないのと、ちょうど中間の性質になるのです。

ただし、そうはならない遺伝子もあるのが、やっかいな所なんですよね。

例えば遺伝の話で一番有名な表現型、えんどう豆の丸かシワかの表現型は、丸遺伝子Aとシワ遺伝子aが、AAなら当然丸いマメ、aaならシワのマメになるのはいいとして、Aaという遺伝子型になった場合、これは、必ず丸になることがメンデルによって確かめられました。

基本的に遺伝学ではこのパターンになる(違う遺伝子が揃ったら、どちらか一方の表現型のみが出る)ことが多いので、これを優性の法則(用語が変わって、今は顕性の法則)と呼んでいますが、現実的には違うパターンも多いということですね。

(なので、いうなれば、お酒分解酵素の話は、ある意味遺伝の法則の例外。)

ちなみに血液型、これも結構特殊な例で、こちらはABO・3つのタイプが関与する複雑なパターンですけど、AOならA型、ABならAB型…というのは、もう何度も書いているので説明不要でしょう。


ご質問に戻ると、例えばBOという遺伝子型をもったら、「BになるかもしれないしOになるかもしれない」ということは絶対になく、必ずB型になるように、お酒の場合も、EKとなったら、「弱いかもしれないし弱くないかもしれない」ではなく弱いです。

「なぜ?」というのは、究極的には「そうなってるから」としかいえませんが、まぁ一応原理的には、遺伝子というのはずーっと言ってる通り結局タンパク質を指定しているものでしかありませんから、正常なタンパク質を作る遺伝子と異常なタンパク質を作る遺伝子が揃ったときに、必要なものが足りるか足りないかで決まっているんでしょうね。

正常なものを作る遺伝子が1つでもあれば十分なら、えんどうの丸シワみたくなる(Aが1つでもあれば、丸くなるのに十分なタンパク質が作られる)、一方、お酒遺伝子の場合は、Eが1つでは十分なお酒を分解する量の酵素が作れず、EEと2つもってる人に比べてお酒に弱くなる、という形なのでしょう。

ちなみに血液型も、作られるタンパク質に着目するとその原理が明らかで、遺伝子Aというのは、赤血球に、A抗原と呼ばれるタンパク質を作る遺伝子であり、遺伝子BはB抗原を作る遺伝子、そして遺伝子Oは、「何も作らない」ことを指定している遺伝子なのです。

なので、AOという遺伝子型の場合、「A抗原+何もなし」で、その人の赤血球にはA抗原があるのでA型と同じ、OOという遺伝子型の場合、「何もなし+何もなし」で、その人の赤血球は抗原なしでこれがO型、ABという遺伝子型であれば、「A抗原もB抗原も同時に作られる」ので、AB型という血液型になる、という話なんですね。

分かりやすい!

…って、文だけだとやっぱり分かりづらいので、図の方がいいですね。

例によってWikipediaより抜粋しておきましょう。

f:id:hit-us_con-cats:20210523064536p:plain


最後まとめますと、結局、ポイントとして抑えておくといいのは、

『父と母から、「基本的に枠組みとしては」全く同じ遺伝子セットを一式受け継ぐので、1つの遺伝子は必ず2つずつ存在する。

……しかしそれはあくまで「遺伝子という枠組みが同じ」なのであって、その中身を具体的に覗いてみると、実は違い(個人差)がある。

どのタイプの遺伝子を受け継ぐかは、親からどういうタイプの遺伝子が乗った染色体をもらうか次第!

例えばALDH2の例なら、1510番がAに変異しているものは「K型」と呼ばれるタイプの弱いALDH2遺伝子で、それをいくつ受け継いだかによって、酒が強い弱いという表現型が決まってくる』

…という話ですね。

ちなみに、筋ジスについては……実は若干更にややこしい点が絡んでくるので、改めてまた別の機会に触れてみようと思います。


これで大分スッキリされてのではないかと思いますが、どうでしょうか。

あとまだ放置されている質問として、

Q. 父からの30億と母からの30億は、混ぜこぜになってる?その辺のイメージが、やはりまだなお持てない!

…というのもありますが、スペースの都合で、筋ジスやこちらも含め、また次回見てみるとしましょう。

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