乱視や弱視といった視覚異常の話から、前回は、視覚自体は正常であることが多いけれど、外見的な症状が顕著なこともある斜視について見ていましたが、今回はそこで挙げられていた視覚異常の一種をまた見てみようかなと思います。
それが、ダブル・ビジョンこと、複視!
上記リンクカードのサムネイル画像だと分かりにくいですが、物が二重にずれて見えてしまう症状ですね。
思いっきり目をこすった後とか一瞬なりがちなものではありますけど、症状として恒常的に(というか、自然発生的に・頻発して)起こることもあるもののようです。
名前に関しては、「ダブルビジョン」であれば下手したら小学生でも分かるぐらいに分かりやすいものですけど、こちらも専門の一語があるようで、Diplopiaとも呼ばれるものですね。
例によって語源だけ紐解いておくと、「dipl-」がdoubleという意味の接頭辞で、「opia」がこないだも見ていた「op」関連で「視覚の・目の・光学の」という意味、つまりvisionという意味ですから、結局double visionという全く同じことをカッコつけて一語に合成して言っているだけなのでした(笑)。
それでは今回も早速参りましょう。
複視(二重の視覚)(Diplopia (Double Vision))
複視は通常、一時的な問題ですが、より深刻な健康状態の兆候であることもあり得ます。複視は大抵、体や目における他の問題や症状によって引き起こされるものです。そのため、視覚の変化に気付いたら、すぐに目の検査を受けることがとても大切になります。
概要
複視とは何?
複視とは、二重の視覚すなわち二重に見えることを意味する医学用語です。複視は、1つの物体を見ているときに2つの像が見えることとして定義されます。
複視は通常、一時的な問題ですが、より深刻な健康状態の兆候であることもあり得ます。新しい眼鏡が必要となるといった単純なことが原因であっても、二重に見え始めたら、直ちにかかりつけの医療機関で目の検査を受けることが肝心です。
単眼性複視 vs 両眼性複視
担当医が、ご自身の罹った複視を、単眼性(片目)か両眼性(両目)かに分類することでしょう。単眼性複視は、一度に片方の目のみを使って物を見る場合に起こります。影のように見えることがあるかもしれません。両眼性複視は、両目を同時に開いているときに起こります。片方の目を覆うと消えます。
単眼性複視の方が一般的で、通常は深刻さの度合いが低いです。両眼性複視は通常、目の位置がずれているか、他のもっと深刻な基礎疾患が原因で起こります。
水平複視 vs 垂直複視
両眼性複視の場合、複視は垂直方向(上から下)か水平方向(横から横)のどちらかに現れます。どちらの複視になるかは、複視を引き起こしている原因や、どのように(またはなぜ)目の位置がずれているかに応じて決まります。
複視はどんな人が影響を受けるの?
複視は誰にでも起こり得ますが、60歳以上の成人に最も多くみられます。
複視はどのくらい一般的なの?
何らかの形態の複視を経験することは、極めて一般的です。年間80万人以上の方々が、複視が原因で医療機関を訪れています。また、救急治療室(ER)にかかる最も一般的な理由のひとつでもあります。毎年約5万人が、複視が原因でERに入っています。
複視は身体にどんな影響を与えるの?
複視が身体に及ぼす最も明らかな影響は、二重の視覚そのものです。身体的な症状に加え、何かが視覚に影響を及ぼすというのは怖いことだと言えましょう。良いニュースとしては、複視の90%近くは一時的なもので、長期的または深刻な健康への影響はないということが挙げられます。しかし、複視は奥行き知覚を低下させ、運転や歩行を困難にすることがあり得ます。
症状と原因
複視の症状は何?
複視は、物が二重に見える以外にも、以下のようなその他の症状を伴うことがあり得ます:
- 頭痛
- 吐き気(胃のむかつきや不快さ)
- めまい
- 痛み(目を動かしたときを含む)
- 片眼または両眼の視界の、ぼやけや不明瞭さ
何が複視を引き起こすの?
複視には様々な原因が考えられます。最も一般的な原因には以下が含まれます:
単眼性複視
両眼性複視
その他の症状による複視
複視は、体や目におけるその他の問題や状態によって引き起こされることがしばしばあります。そのため、視覚の変化に気付いたら、すぐに目の検査を受けることがとても大切なのです。
複視と重症筋無力症
重症筋無力症の患者さんは、一日中悪化し続ける筋力低下に苛まれます。これは眼筋(目とまぶたをコントロールする筋肉)にも影響を与え得るもので、複視を引き起こすことがあります。
複視と眼球突出
眼球突出とは、片方または両方の眼球が自然な位置から膨らみ出ている状態です。突出した眼は通常、バセドウ病や甲状腺機能亢進症といった甲状腺の問題によって引き起こされるもので、複視を伴うこともあるかもしれません。
複視と円錐角膜
円錐角膜は、角膜(光を通す透明な部分)の形が崩れることで起こります。通常、角膜は丸い形をしていますが、円錐角膜になると角膜が円錐のように外側に膨らみます。この歪んだ形が、複視を含む視覚の問題を引き起こすわけです。
複視と回転性めまい
回転性めまいとは、周囲の環境がぐるぐると回っているような感覚を伴う状態です。通常は内耳に問題があるために起こります。しかし、複視がひどい場合は、回転性めまいも一緒に感じることがあるかもしれません。複視も回転性めまいも、通常、体内の他の問題に由来する症状です。
複視と糖尿病
糖尿病を患っている場合、体は食事から摂取したブドウ糖を適切に処理および利用することができません。糖尿病は目にダメージを与え、複視のような症状や、糖尿病性網膜症のような深刻な問題を引き起こす可能性があります。
診断と検査
複視はどう診断されるの?
担当の医療従事者が、複視とその原因となっているその他の疾患を診断してくれます。健康診断を行い、眼科医や検眼医といった目の専門家に診てもらうように指示されることがあるかもしれません。
この症状を診断するために、どんな検査が行われるの?
単眼性複視の場合、眼を検査する以上の追加検査は恐らく必要ないでしょう。両眼性複視の場合は、以下のような画像検査が必要になることがあるかもしれません:
- 磁気共鳴画像法(MRI)
- CT(コンピュータ断層撮影)スキャン
- 血液検査
これらの検査は、目とその周辺の全体像を捉えてくれます。また、骨、脳、または脊椎の問題を特定するのにも役立つことでしょう。
管理と治療
複視はどう治療されるの?
複視の治療方法は、何が原因となっているかによって異なります。複視の原因と、それを改善するために何が必要かについて、かかりつけの医療従事者にご相談ください。
複視の症状にはどう対処すればよい?
担当医の指示に従ってください。複視を矯正するための治療法には、しばらくの間片目を覆ったり、特殊なコンタクトレンズを装用したりするものがあります。担当医が、複視の解消を含め、症状に対処するためのあらゆる方法を順に説明してくれることでしょう。
治療後どのくらいで良くなるの?
何が複視を引き起こしているのかによって異なります。複視の中には、自然に治るケースもあれば、担当医が治療法を処方した後に良くなるケースもあります。
目の問題を解決するために手術(例えば白内障の除去のため)が必要な場合は、良くなるまでに数週間かかることがあるかもしれません。
予防
複視はどう予防できる?
複視を特別に予防する方法は存在しませんが、目のケアをしっかり行い、定期的に医療機関を受診することが、痛みやその他の症状を引き起こす前に問題を発見するための最善の方法です。以下のステップに従って、目の健康を保ちましょう:
- タバコを吸わない。
- 一日中、電子画面を見ることから離れ、目を休めてあげる。
- 仕事、スポーツ、その他の活動のあらゆる場面で、適切な保護メガネやゴーグルを着用する。
- 1~2年ごとに(またはかかりつけの医療従事者が推奨する頻度で)眼科検診を受ける。
見通し/予後
複視がある場合、何が予期される?
複視がある場合、それは短期的な問題であると考えてもらって構いません。
複視はどのくらい続くの?
複視のほとんどのケースは、一時的なものです。実際、複視は自然に治ることもあり得ます。複視に複数回見舞われたり、あるいは起こったり消えたりする場合は、一過性(または間欠性)複視の可能性があるかもしれません。複視が自然に治ったとしても、かかりつけの医療機関を受診するようにしてください。
仕事や学校にはいつ復帰できるの?
複視がある間は、仕事や学校を休む必要があるかもしれません。視覚が損なわれている間は、自分自身や他人を傷つける可能性のある、車の運転やその他いかなる活動もすべきではありません。
複視の見通しはどんなもの?
複視の見通しは非常に明るいです。ほとんどの方々に、長期的な影響はありません。複視を引き起こしている原因によっては、日常生活の調整が必要になることはもしかしたらあるかもしれません。
受け入れる
セルフケアはどうすればよい?
視覚の変化について、必ずかかりつけの医療従事者に伝えるようにしてください。眼鏡やコンタクトレンズを使用している場合は、担当医が必要に応じて処方を調整できるように、定期的にかかりつけの眼科を受診するようにしましょう。
いつ医療機関を受診すべき?
視覚の変化に気づいたら、すぐに医療機関を受診してください。新しい眼鏡が必要というような単純なことでも、より深刻な状態でも、症状が悪化するのを待つことなく、眼のチェックを受けましょう。
ERにはいつ行くべき?
複視が数時間経っても治らない場合、または痛み、めまい、脱力感、ろれつが回らない、もしくは錯乱といったその他の症状のいずれか1つでもある場合は、救急治療室(ER)にかかりましょう。複視は、動脈瘤や脳卒中といった深刻な問題の最初の兆候である可能性があります。
医師にどんな質問をすべき?
- 私の複視の原因は何ですか?
- この症状はいつまで続きますか?
- 専門医に診てもらう必要がありますか?
- どのような検査が必要ですか?
クリーブランド・クリニックからのメモ
目に異常があるのはどんな時でも怖いもので、複視に見舞われている時は特にそうでしょう。複視が何か深刻な症状の兆候であることはありますが、ほとんどの場合、一時的な問題です。しかし、視力があることを当たり前だとは決して思わないでください。視覚の変化に気付いたり、何かおかしいと感じたら、直ちにかかりつけの医療機関に相談しましょう。
それ自体はすぐに収まることが多いとはいえ、深刻な症状の予兆であることが多い点や、そもそも視界がダブって見えること自体、結構恐ろしいものですね。
いざなってしまった場合、いわゆる「正常性バイアス」みたいなもので、どうしても「大したことないはず、気のせいだ」と見過ごしたり無視したりしてしまいがちですが、「絶対に軽視してはいけない」と心に留めておきたい限りです。