引き続き「泌尿器系を色々知っておこう」シリーズ、前回は「Cystoscopy」、いわゆる膀胱鏡検査に関して、どんな検査器具なのかを中心に見ていたわけですが、何となく胃カメラとかも最新の知見を見てみたかったものの、特に似たような話しかなさそうですし、やはりとりあえずは泌尿器系の記事を見ていこうと思います。
今回も、以前見ていた記事で何度も登場していた、やや見慣れない名前といえましょう、「骨盤臓器脱(こつばん・ぞうきだつ)」という症例について、どんなものなのか気になったのでこちらさんにご登場いただきましょう。
骨盤は既に骨盤底筋の話などで何度か出ていましたpelvic、臓器・器官がorgan、そして脱腸とか脱肛とかみたいな、生体の一部が飛び出ることをprolapseというので、英名はそれらを単純に並べただけの形ですね。
基本的には圧倒的に女性に多く見られる、婦人科系の病気の一種ともいえるようですけど、あくまで骨盤内の臓器の飛び出しであるため、男性にもなくはないようです。
早速参りましょう。
Pelvic Organ Prolapse(骨盤臓器脱)
骨盤臓器脱(POP)とは、骨盤内の筋肉の衰えにより、骨盤内の1つあるいはそれ以上の臓器(vagina(膣)、uterus(子宮)、bladder(膀胱)、rectum(直腸))が垂れ下がる病気です。より重篤な場合には、臓器が他の臓器の上に、あるいは体の外に向けて隆起します。かかりつけの医療従事者が、臓器の脱出を修復し、症状を緩和するための治療を勧めてくることがあるかもしれません。
概要
骨盤臓器脱とは何?
骨盤臓器脱(POP)とは、骨盤底(骨盤内の臓器を支える筋肉、靭帯、組織の集まり)が弱くなりすぎて、臓器を正しい位置に保持できなくなる状態のことを言います。骨盤底筋は、膣、子宮、膀胱、直腸などの臓器を支える強力なスリング(=ハンモックや抱っこ紐のような、物を引っ掛けるための器具全般のこと)のような役割を果たしています。これらの筋肉が緩みすぎたり、損傷を受けたりすると、支えている臓器がずれてしまうわけです。
POPの軽症例では、臓器が下落することがあり得ます。重症になると、膣の外側に臓器がはみ出し、隆起が生じることがあるかもしれません。
骨盤臓器脱は、尿失禁や便失禁とともに、骨盤底障害のひとつです。こういった他の障害は、時に、POPと一緒に併発することもあります。
(※各症例の日本語名は、以下の段落参照。最上部が正常な女性、そこから6つ女性の症例が並び、下2つが正常な男性と直腸脱の例ですね。)
骨盤臓器脱にはどんな種類があるの?
脱出の種類は、骨盤底のどこが弱く、どの臓器が影響を受けているかによって異なります。
- 膣前壁脱 (Anterior vaginal wall prolapse)(dropped bladder; 膀胱下垂とも): 膣の上の骨盤底筋が弱くなると、膀胱がずれて膣の上に隆起してくることがあります。このタイプの脱出は膀胱ヘルニア(cystocele)とも呼ばれます。膣前壁脱はPOPで最も一般的なタイプです。
- 尿道裂(Urethrocele):骨盤底筋が弱くなると、おしっこを膀胱から体外に運ぶ管(尿道)が垂れ下がることがあります。尿道の下垂はしばしば膀胱下垂を伴います。
- 膣後壁脱(Posterior vaginal wall prolapse)(dropped rectum; 直腸下垂とも): 膣と直腸の間に位置する骨盤底筋が弱くなると、直腸が膣の後壁に隆起することがあります。このタイプの脱出は直腸ヘルニア(rectocele)とも呼ばれます。
- 腸ヘルニア(Enterocele): 骨盤内の筋肉が弱くなると、小腸が膣の後壁や上部に隆起を引き起こし得ます。
- 子宮脱(Uterine prolapse)(dropped uterus; 子宮下垂とも): 骨盤底が弱くなると、子宮が腟内に下がってくる可能性があります。
- 膣穹窿脱(Vaginal vault prolapse): 骨盤底筋が弱くなると、膣の上部(膣穹窿)が膣道に落ち込むことがあり得ます。
骨盤臓器脱の影響を受けるのはどんな人?
男女を問わずPOPを罹患する可能性がありますが、女性または出生時に女性に割り当てられた人(AFAB)の方が、危険性は遥かに大きくなります。男性や出生時に男性に割り当てられた人(AMAB)は、膀胱や直腸が下垂することがあり得ます。
骨盤臓器脱はどのくらい一般的なの?
約3%から11%のAFABの方が、POPに罹患しています。POPを含む骨盤底障害のある人の約37%は、60~79歳です。半数以上が80歳以上です。POPは必ずしも症状を引き起こすわけではありません。そのため、症状緩和のために医療機関を受診していない人の間で、POPがどの程度一般的であるかを知ることは難しいです。
症状と原因
骨盤臓器脱の症状は何?
最も一般的な症状は、ちょうど膣から何かが落ちてくるような、膣の中での出っ張りを感じることです。その他の症状には以下が含まれます:
- 膣の出っ張り、膨満感、圧迫感。
- 骨盤内の膨満感、圧迫感、痛み。
- 腰・背中下部の疼痛や苦痛。
- 性交時の圧迫感、打撲感、痛み(性交困難症)。
- 一日を通して悪化する、出っ張りや圧迫感。
- 咳をしたり、長時間立ちっぱなしでいると悪化する出っ張りや圧迫感。
- おしっこやうんちをするために、飛び出た臓器を指でずらさなければならない状態。
- 膣の点状出血。
症状は脱出の部位によって異なります。かかりつけの医療従事者に症状を伝えることで、骨盤底が最も弱っている場所の特定につながります。
ストレス性尿失禁、切迫性尿失禁、便失禁は、類似の危険因子を共有しているため、しばしばPOPと併発します。症状には以下が含まれます:
- 咳をしたり、笑ったり、運動したりする際におしっこが漏れる(ストレス性尿失禁)。
- コントロールが難しい形で、頻繁におしっこがしたくなる(切迫性尿失禁)。
- 便秘や、うんちのタイミングをコントロールできない(便失禁)。
骨盤臓器脱の原因は何?
骨盤底は様々な理由で弱くなります。骨盤底が弱いと、脱出の可能性が高くなります。
- 経腟分娩は、POPの発症に関連する最も一般的な要因です。経腟分娩を複数回こなしたり、双子や三つ子を産んだり、平均より大きな胎児(胎児巨大症)を身ごもったりすることは全て、POPにつながるかもしれない骨盤底筋の損傷発生確率を上げてしまいます。
- 加齢は、骨盤底筋を含め、筋力の低下を引き起こし得ます。要因の一つは、エストロゲンの減少です。更年期には、体内でのエストロゲンの分泌が減少します。この減少により、骨盤底を支える結合組織が弱くなる可能性があります。
- 体が重いとPOPの危険性が高まります。臨床的に太りすぎの人や肥満の人は、標準体重内の人よりもPOPを発症しやすいことが研究で示されています。
- 長期間の腹腔内への圧力は、骨盤底筋を酷使することになり、筋力の低下を引き起こし得します。慢性的な便秘、慢性的な咳、頻繁に重いものを持ち上げることは全て、POPを発症する可能性を高めます。
- POPの家族歴があると、自分もPOPを発症する確率が高いかもしれません。POPの遺伝的要素に関する研究は現在進行中ですが、骨盤底が弱い体質を受け継いでいる可能性はあり得ます。
- コラーゲン異常は骨盤底の結合組織を弱め、POPを発症する可能性を高める可能性があります。エーラス・ダンロス症候群のような結合組織障害を持ち、かつ関節の動きが大きい人は、POPを発症する危険性が非常に高くなります。
診断と検査
骨盤臓器脱はどうやって診断されるの?
診察の際、担当医が症状を確認し、骨盤の検査を行います。検査では、脱出の最大レベルを確認するために、緊張状態およびリラックス状態で、咳をするよう指示されるかもしれません。また、横になっているときと、立っているときで検査をする可能性もあります。多くの場合、骨盤の検査だけで脱出と診断されます。
それ以外の検査には、以下のようなものが含まれ得ます:
- 膀胱機能検査では、POPによく見られる排尿障害の徴候があるかどうかを調べます。これには、膀胱や尿道の中を見ることができる、膀胱内視鏡検査が含まれるかもしれません。また、膀胱と尿道におけるおしっこの貯留と排出の状態を見るために、尿流動態検査を行うこともあります。
- 画像検査により、骨盤腔内の観察を可能にします。脱出の程度を調べるために、骨盤底超音波検査やMRI検査を行うことがあるかもしれません。画像検査は複雑な症例を除き、あまり行われません。
骨盤臓器脱の病期分類システムとは何?
骨盤臓器脱定量化(POP-Q)システムは、脱出がどの程度軽度か重度かに基づいてPOPを分類します。段階は0から4まであります。ステージ0は、臓器が全くずれていないことを意味します。ステージ4は完全脱を意味します。完全脱は最も重度の脱出です。臓器が体外にまで隆起してしまうこともあり得ます。
脱出の種類と脱出の程度によって、治療法が決められることになります。
管理と治療
骨盤臓器脱はどうやって治療されるの?
どのような外科的処置であれ、リスクを伴ったり合併症を引き起こしたりする可能性があるため、通常は、非外科的な処置がPOP治療の第一選択肢となります。そういったより保存的な治療の効果がない場合は、手術を勧められることがあるかもしれません。
非外科的治療
以下のような治療法が含まれます:
- 膣ペッサリー: 取り外し可能なシリコン製の器具を膣に挿入して、落ち込んだ臓器を固定する。
- 骨盤底筋体操(ケーゲル体操): 骨盤底を強化する運動。かかりつけの医療従事者が理学療法士を紹介してくれ、個々の筋肉の強さを検査するとともに、その筋肉を鍛えるための標的エクササイズを指導してくれることも可能です。
外科的治療
保存的治療を行っても症状が改善しなく、また、出産を希望しない場合には、手術が選択肢になり得ます。手術後の出産は、脱出が再発するリスクを高める可能性があります。
手術には2種類あります: 閉塞手術と再建手術です。閉塞手術は腟壁を縫い締め、臓器が外に抜け出るのを防ぎます。再建手術では、骨盤底の弱くなった部分を修復します。
- 膣閉鎖術は、膣を短くする切除手法です。体外に臓器が隆起するのを防ぎます。再建手術ができないほど虚弱で、もう挿入セックスを望まない場合に良い選択肢です。
- 膣壁縫合術は、膣前壁脱かつ/または膣後壁脱を治療します。膣壁縫合術では、担当医が膣を通して手術を行います。溶解可能な縫合糸で膣壁を補強し、膀胱と直腸を支えます。
- 仙骨膣固定術は、膣穹窿脱と腸ヘルニアを治療します。腹部を切開する場合もあれば、腹腔鏡と呼ばれる侵襲の少ない手術を行う場合もあり得ます。手術の際は、担当医が膣壁に手術用メッシュを貼り付け、それを尾骨に装着します。このメッシュが、膣を元の位置に持ち上げます。
- 子宮温存術は、子宮脱を治療します。担当医が子宮頸部と膣に手術用メッシュを貼り付け、尾骨に装着して子宮を所定の位置に持ち上げます。子宮温存術は、子宮を取り除くこと(子宮摘出術)をしたくない場合の選択肢です。
- 子宮仙骨靭帯固定術または仙骨棘靭帯固定術は、子宮脱または膣穹窿脱を治療するために自分自身の組織を使用します。膣壁縫合術と同様、手術は膣から行われます。手術中、担当医は膣の上部を骨盤内の靭帯や筋肉に、溶解可能な縫合糸を用いて接着させます。このタイプの手術は、固有組織修復法と呼ばれることもあります。
POPの手術を受けている間、担当医が追加の処置を提案することがあるかもしれません。例えば、骨盤底筋にアクセスして修復するために、子宮摘出が必要となることもあり得ます。ストレス性尿失禁など、POPに伴う他の症状も、手術中に治療可能なことがあります。
予防
骨盤臓器脱はどうやって予防できるの?
POPの原因の多くは自分ではコントロールできません。しかし、危険性を減らすために、健康的な習慣を身につけることは可能です。
- 骨盤底筋体操を毎日行う。骨盤底の筋肉をコントロールすることで、臓器をより強く支えられるようになります。
- 健康的な体重を維持する。自分にとって健康的な体重とはどのぐらいか、かかりつけの医療従事者に相談しましょう。
- 便秘を予防する。慢性的な便秘は骨盤底筋を緊張させます。食物繊維の多い食事を選び、水分を十分に摂ることが便秘予防に役立ちます。
- タバコを吸わない。喫煙は慢性的な咳の原因となり、腹腔を過度に圧迫して骨盤底筋を緊張させます。
- 物を持ち上げるときは骨盤底を保護する。重いものを持ち上げるときは、手伝ってもらいましょう。一人で持ち上げるときは、お尻から膝を曲げてしゃがむことで、可能な限り背筋を伸ばした姿勢を維持しましょう。持ち上げ中に決して体幹を捻じらないでください。体の位置を正しくすることで、腰の怪我を防ぎ、骨盤底も守ることができます。
見通し/予後
骨盤臓器脱がある場合、予後はどうなる?
予後は、脱出の状態(場所、重症度)およびご自身の目標(子供を持ちたい、挿入性交渉を続けたい、侵襲の少ない手術を受けたい、など)によって異なります。脱出の状態が治療の選択肢にどう影響を及ぼすかについて、かかりつけの医療従事者に相談しましょう。治療の利点によってどのように目標を達成できるかを話し合い、目標の達成を妨げる可能性のあるリスクについても尋ねてください。担当医との正直な会話を通じて自分の希望を明確にすることで、POPに関する経験はより良いものになるでしょう。
脱出を放置するとどうなる?
脱出を放置すると、症状が悪化する可能性があります。かかりつけの医療従事者が状態を観察し、生活の質に悪影響を及ぼすほど脱出が進行している場合には治療を勧めることがあるでしょう。
受け入れる
医療従事者にどんな質問をすればよい?
- 私はどのタイプのPOPですか?
- 手術をしなくてもPOPの症状に対処することは可能ですか?
- 私のPOPを治療するには、どのような手術方法がありますか?
- 私が選択できるPOP手術の成功率はどのくらいですか?
- 手術によって全ての症状が緩和される可能性はどのくらいありますか?
- 手術にはどのような副作用がありますか?
- 治療は性生活に悪影響を及ぼしますか?
その他のよくある質問
骨盤臓器脱の最も一般的な症状は何?
ほとんどのPOP患者さんは、膣の出っ張り、膨満感、圧迫感で、何かが抜け落ちるような感覚を訴えます。症状は、ご自身の脱出のタイプや重症度によって異なります。
骨盤臓器脱はどうやってチェックするの?
膣の圧迫感や膨満感などの一般的な症状、または失禁に関する問題は、脱腸の徴候かもしれません。かかりつけの医療従事者が、骨盤の検査でPOPを診断することが可能です。
骨盤臓器脱は治る?
治療により、治せます。軽度のPOPであれば、臓器を正しい位置に保持できるように筋肉を鍛えることが可能でしょう。再建手術は骨盤壁の弱点を補強し、臓器が元の位置に戻るようにしてくれます。
脱出を押し戻してやることは可能?
より重度の脱出の場合、うんちやおしっこをするために、飛び出た臓器を押しつけなければならないかもしれません。この処置は一時的なものです。脱出がそれほど酷い場合は、かかりつけの医療機関で治療を受けてください。
クリーブランド・クリニックからのメモ
骨盤臓器脱は、ご自身のボディ・イメージやセクシュアリティを傷つけてしまいかねないものです。自分の人生を最大限に生きることを妨げる症状を引き起こすこともあり得ます。しかし、POPは受け入れなければならないものではありません。POPの症状がある場合や、骨盤底が弱っている疑いがある場合は、恥ずかしがらずにかかりつけの医療従事者に相談してください。脱出を治し、生活の質を改善するための医学処置や医療機器、さらには生活習慣の改善なんかを提案してくれますよ。
想像以上に長かったので、またまた予定していた時間に間に合いませんでした。
とはいえ、長いだけあって、というか泌尿器科の世界代表レベルであるクリーブランド・クリニックだけあって、とても丁寧で詳しい説明になっていましたね。
どうやら女性でもかなり高齢にならないとそこまで心配はないようですが、それでもどんな年齢性別でも体の中で一部の臓器が落ち込んで出っ張ってしまうことはあるようなので、直接的な予防は一切なくほぼ運次第ではあるものの、ならないよう気を付けたい限りです。
これに限らず、「重いものをもつときの姿勢」は、本当に重要ですね…!