逃げ道があれば軽くなる

それでは前回やや途中状態で終わってしまっていた「鳥かごの中の鳥の重さ」問題について、もうちょい気になる点を深追いしていこうかと思います。

 

「秤の上に置いた密閉した箱の中に、鳥が一羽、地面の上で羽根を休めている。

 この鳥が地面(箱の底面)から飛び立って空中で完全に静止していたら、秤が示す重さはどうなるだろう?」


という有名な問いかけで、これは一瞬、

「そりゃあ鳥の分減るんじゃないの?だって鳥は箱から離れて浮いてるんだから、重さがかかるわけなくない?

…あれ、でもそうすると、鳥の重さはこの世のどこに消えたことになるんだ…??」


みたいに思えるわけですが、この考え方は根本から間違っていまして、鳥が浮いて、一見箱とは全く触れていないように見えても、実は「鳥が空中に浮いている=空気を下に送ることで揚力を得ている」と言えますから、その送られた空気が実は、箱を下向きに押す力を生み出し、箱の重さ(=秤を押す力)は鳥が底面に立っていても空中に浮かんでいても、全く変わらないという話になっている、ということでした。

 

まぁ実は厳密に言えば、鳥は羽ばたかないとホバリング(その位置を維持)できませんし、羽ばたく際に発生する力は一定ではなく、箱を押す力もその大きさに波があるわけですけど、「平均したら、鳥の体重と同じだけの力がかかっている」って形になるわけですね。


…というか更に厳密に言えば、飛び立つまさにその瞬間や、上向きに加速しているときなんかは、体重より大きな力が下に加わることになるので、秤の示す数字は逆に重くなるともいえる感じとすら言えます。

(これは、体重計の上で屈伸運動とかジャンプをしたら針がブレブレになる(って、今時アナログ体重計もないと思うので、「針」というか「数字」かもですが(笑))のと同じことですね。)


これは結局、「運動している物体は、一方向に力が加わり続けており、釣り合いが取れていない状態」であり、「力を検知する」性質のある秤が指す数字は決して安定しない…というのと同義であり、秤が一定の数値に落ち着くためには、「系に働く力が安定している」こと、すなわち「静止していること」が重要であり…

(まぁ、水平方向の力は影響を与えないので、より厳密には「鉛直方向の力が一切働いていない」になると思いますが)

…その意味で、羽ばたかなきゃいけない鳥はあんまりいい例ではなかったともいえるものの、まぁドローンなり、特に動きがなくその場で静止しているものを考えればその辺もっとスッキリした議論になるかもしれません(とは言っても、ドローンだって普通にプロペラが回ってるわけですけどね)。

 

…と、正直ここまでは前回も既に触れていたポイントでさして気になる点でもなかったように思えますが、この「浮かんでいる鳥の重さも、秤にはかかってくる」という話を聞いて感じる大きな疑問としては、

「いや待てよ、浮いてる鳥の重さも下にある体重計にかかる、ってことなら、例えば別の鳥がその箱の上を飛んで通過した場合、その鳥の重さが体重計にかかってくるってこと?

 っていうかそんなこと言ったら、家の上空、完全に真上を飛行機が飛んでいったら、飛行機の重さが自分にかかってくるってこと?そんなわけなくない?」


…という点があるようにも思えるんですけど、これはもちろん、そうではないんですね。

 

そのポイントは「密閉した箱」という部分にあり、改めて、「密閉した箱の中で鳥が飛んで浮かんでいる以上、箱全体の重さは変わらない」という話で、その理由はもちろん、「鳥が浮かぶ揚力と逆方向の下向きの力が箱にかかるから」というものだったわけですが、その下向きの力は「空気の流れ」だったということで、「空気が逃げない」ということが何よりも大切な前提条件だったわけです。

 

したがって、密閉された箱ではなく、スカスカの単なる檻、こんな感じの鳥かごの中みたいな状況であれば(↓)…

https://www.irasutoya.com/2013/11/blog-post_6981.htmlより

…実は鳥が羽ばたいて浮かんでいる際、その鳥かご全体の重さは、「鳥かご+鳥」よりもかなり小さくなっていることでしょう。


これは結局、「下向きの力を生むはずの空気の流れが、環境が開放されているせいで外部に漏れてしまうため」であり、もちろん一部の力はそのまま真下に向かって体重計を押すことで重さとして感知されるものの、多くの力は四方八方へと広がって逃げてしまうわけです。

(これも、「場が開放されてたら、力ってそんなすぐ広がるものなの?」と思える気もするものの、例えば数十cm先に向かって息をフーっと吹きかけてもほぼ全く息は届かないですけど、ストローを使ってストローの中に息を吹きかければしっかりと息の風が届いて、数十cm先でも吹き出した風の力を体感できる……という状況を考えれば一目瞭然かと思います。)

 

上空の飛行機の重さを、我々は生活している中で全く感じないのも同じ理由で、飛行機が下向きに出している力は、(仮に飛行機の真下にいても)我々の元へ届く頃にはもう四方八方へ雲散霧消しており、全然感じない、ってのがその理由なわけですね。

 

(逆にいえば、別の方向へ漏れてしまう前、例えば目の前で上空に上がっているヘリコプターを、ヘリポートのすぐ真下で見ているような場合、これはめちゃくちゃな風が上から吹いてきて、結構な力を感じることになる……というのも想像に容易いといえましょう。)

 

もちろん力の漏れ方は「どれだけ密閉されているか」次第なので、密閉されている限り、「箱の中で鳥が浮遊している状況」では、何度も書いている通り「箱+鳥」と全く同じ重さを示すわけですが(改めて「羽ばたきの振動を無視して、平均を取れば」でもありますけど)、この箱の天井のフタを開けてやったら、それだけでいきなり空気の逃げ道が発生して秤が示す重さは軽くなり、さらに横の壁も全面取り払ってやったら、空気はもっといろんな方向へ逃げやすくなるためもっと軽くなることでしょう、って話に尽きる感じになっているんだと思われます。

(実際に実験したことがないので「どの程度変わるか」とは言えませんが、理論的にそうなってる、って話ですね。)

 

また、前回、「風呂に張った水に浮かんだ場合、風呂桶全体の重さには、自分の体重もかかってくる」と書いていましたけど、そう聞くと、「風呂にはフタしてないんだから、これは密閉されてないじゃん!」と思われるかもしれないものの、これも当然、別に問題ありません。


まぁポイントは「密閉」というより「力が逃げずに伝わるか」に尽きるということで、液体は気体よりも遥かに秩序だった物質であり、重力のおかげで「上向きに拡散する」ということがないですから、フタがなくても一定の形を保てるものであり、それゆえ、水面にかかった力もどこか別の場所へ逃げてしまうことがなく、全て風呂の底、体重計と接している面に伝わると、それだけの話なんですね。

 

改めて、どんなに大きい箱でも密閉している限り「鳥の体重を支えるだけの同じ力が底面にかかる」のは間違いなく…

(仮に空気の流れが分散して箱の壁に当たることがあっても、そこで発生する「下向きの力」を合計すれば、鳥の体重に一致します。

 そうじゃなければ、鳥はその場で停止することが絶対にできないので……「力の釣り合い」ですね)

…逆に、小さな鳥かごでも、スカスカの開放状態なら、鳥が飛んでいる最中の「鳥かご内部の重み」は減少するという、「たかが壁の有無で重さが変わってくるなんて面白いね」と思えますが、あくまで「空気の流れが生み出す力」が「重さ」であることを鑑みれば、それは至極当然な話だといえるように思います。

 

…何かあんまり大した補足にもならなかった気もしますが、あぁあとは、「密閉された箱の中で鳥がホバリングしている」という状況であれば、その箱全体の重さは「箱+鳥」になるわけですけど、しかし、仮に鳥がいきなり死んで、浮かんでいる所から自由落下するとどうなるかといいますと……

これはズバリ、「鳥の重さは、鳥が死んでから箱の上に落下するまでの間、無視される」ことになるんですね


そう聞くと、これは一瞬「鳥の生き死にでいきなり箱の中の重さが変わるのぉ?変なの~」と思える気がしますけど、

「力を生み出す空気の流れが、全てを決めているのである」

というポイントさえ押さえていればこれも納得のいくもので、下向きの力である鳥の羽ばたきが無くなった以上、箱にかかっていた重みがなくなるのは至極当然のことなんですね。

(そして言うまでもなく、羽ばたきをやめて墜落している鳥が箱の底にまで着地したら、また鳥の体重がかかります。)

 

更に言えば、かなり大きな箱で、鳥が逆に「下向きに加速する形で飛んでいる」状況であれば、その羽ばたきで生まれる力は上向きになりますから(=その反作用で生じる下向きの力を、鳥自身の加速に使用)、そういう状況ですと、箱にかかる重さは、鳥の重さを無視できるのみならず、場合によっては「箱単独よりも軽くなる」なんてこともあるかもしれませんね。

改めて、「重さ」として台秤が量っているのは「秤の表面にかかる力」に過ぎませんから、鳥が上向きの力を作って箱を持ち上げる方向の空気の流れを生み出すなら、箱は軽くもなる、って話でした。

 

という所で、謎の脱線回が続いていますが、一連の慣性力の有名ネタにもう一つぐらい触れて、またフェノクロ・エタ沈の方に戻っていこうかなと思っています。

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