前回の記事では、お役立ち情報交換掲示板・BioTechフォーラムの情報をお借りしながら、フェノクロでおもむろに登場してくるフェノール以外のやつら…クロロホルム・イソアミルアルコール・8-HQという試薬の役割について触れていました。
あまりハッキリとは触れていなかった話として、(引用していたポストに書かれていいた気もしますが)混合試薬の「フェノクロ」ではなく「フェノールのみ」で抽出するということも、「伝統的にそうやられていたから、そうする」以外にも、実は積極的な意味がなくはない話でして……
せっかくなのでまた一つ、トピック自体が中々面白かったフォーラム記事を引用させていただきましょう、こちらのトピ(↓)で、ラスト1つ前の23番でAPさんがお書きになっているように……
フェノール単独で抽出することはあります。たとえば、ゲルから切り出したDNAを精製するとき、アガロースを除くのにはPCIは有効ではなく、フェノール単独で抽出します。
…そう、クロロホルムを加えない「フェノールのみ」を用いた場合、「多糖類を非常に効率よく除くことができる」ということが知られており、まぁあんまり多糖類を積極的に除きたいこともイマドキあんまりないですけど、そういう目的があれば、クロロホルムを混ぜない、フェノール単独を用いることもあるし、実験工程として大いに意味があるものだ、とそんな形になっています。
しかしこのトピックも、あんまりちゃんと物事をきちんと理解できているとは思えない、質問者である学生のぺぇさんに、先輩研究者の方々がいくつか叱咤を加えている感じですけど…
(1ページ目最下部の、5番・うさんのコメント、
いかに用意された試薬、キットを使って何も知らないで実験をしてきたか、ただそれだけです。
…とか、まさに学生時代の僕にとっても耳が痛い話です(笑))
…まぁ、こういう嫌味のような苦言を呈するだけの行為を良く思わない人もいるかもしれないものの、正論ではあるし、僕はもし自分が言われたら、心から納得するし大いに反省材料として活かしたいと思える気がします。
…とはいえまぁ、この手の学生をバカにするのは研究者の悪い癖ともいえて、そもそもこの「う」さんも、一番最初に質問者をいじめておきながら、上の方で、
不毛です。雑談を楽しむということなら、他で。
これ以上、質問者をいじめなくても。
…とか書かれており、そのまた上で「おぉ」さんが「いや、うさんが一番いじめてらっしゃるのでは…?」的な感じで、この投稿他を引用しつつ「???」マークを投げていて笑っちゃいましたが(笑)、まぁ特に今の時代は厳しく当たるよりも優しく当たる方が良いとされていますし、突き放すような言い方は、僕も学生にしないように気を付けている感じではありますね。
…と、こちらはもう15年も前のトピックでしたが、ちょうどぺぇさんはアメリカの大学で学ぶ医学生だったようで、「日本の学生はまだマシで、アメリカの学生は与えられたものを使うだけで、本当に何も考えてませんよ」的なことも書かれていましたけど、これはそうですねぇ……
…まぁ、僕自身全く何も考えていない学生だったので偉そうなことは一切言えませんけど(笑)、正直「国による差」ってのはそこまで感じませんが、全体の傾向としてはやっぱり、学生の質が年々ヤバくなってる気がするのは、実際そうかもしれません(笑)。
以前、何かの記事で「大学生のレベルの低さ」的な話として、「少なくとも、アカデミック(=学術研究機関)の構成員として言うのであれば、大学生は本当に赤ちゃんレベルの存在、何者でもありません」と書いたことがありましたが…
(まぁ「何かの記事」っていうか、こちらですね↓)
…これは残念ながら本当にそうで(まさしく自分もそうだったから、自信をもってハッキリ断言できる話です(笑))、もちろんごく一部、その世代を代表するような有能な人のような例外は当然あるものの、全体として平均的な話を語れば、大学生なんてマジで何も分かってない赤ん坊レベルでしかないのは、まさにそう言えるのが現実です。
よく、「アメリカの大学は卒業するのが大変、めちゃくちゃ勉強させられる」とかいう話を聞く気がしますけど、まぁ一応内部にいる立場から言わせてもらうと、正直、「いくら何でもあり得ないでしょ…」ってレベルで、何も自分の学部専攻の内容を分かってないまま普通に卒業してく学生なんて、死ぬほどいくらでもいまくりますよ(笑)。
まぁそういうことを言い始めたらマジで老害化の始まりで、あまり良くないというのは重々承知ではあるものの、実際年々学生の質が下がっているというのは、直接面倒を見ている立場からしても、ハッキリと感じ取れるように思えます。
公平を期すために改めて自分も込みで言いますと、僕が学生の頃、少し年上の共同研究者の方と自分の指導教官の教授と、合計数名で食事に行く機会がありましたが、その先輩研究者の方の一人が、教授に向かって…
「ちょうど旧課程から新課程に変わったぐらい…大体共通一次がセンターになったぐらいですかね、本当に目に見えてハッキリと学生のレベルがガクッと下がりましたよね」
…とおっしゃられていた場面があったんですけど、自分で言うのも何ですが、僕はそれは心から同意で、
「自分たちの上の世代の方と比べて、俺らは何かアカデミアを志す者として、あまりにも未熟なのではないだろうか…?」
…なんて思っていましたけど、僕個人的にはやっぱり、課程どうこう以外にも、娯楽の発達が大いに関係しているように思えてなりません。
我々より上の世代は学生時代にまともなゲームとかもまだない時代だったのが、僕らは子供の頃からファミコンがあっていつまででも、複数人でも一人でも遊べる環境になりましたし、それに加えてその後とうとうインターネットという、無限時間溶かし装置が出てきて、さらにはスマホでそのアクセスも容易になった……ということで、正直ぶっちゃけ、
「そりゃこんだけ楽しいもんが溢れてたら、勉強なんてできませんよ」
…と心の底から思えるほど、学生の学問的な知力・思考力が年々下がっていくのは必然に思えてなりません。
もちろん改めて、そんな中でも大変優秀な学生はいますし、全てがネットやスマホのせいなわけもないですけど、平均でいえば、どう考えても何というか学問的な考察力忍耐力その他色々は下がっている気がするなぁ、と、特に客観的なデータは出せないですけど、少なくとも主観的にはヒシヒシと感じる次第です。
(そしてこれも言うに及ばずな点として、「ネットの普及のおかげで伸びた力」というのも、大いにあるとは思います。)
何か話が大いに逸れてしまいましたが、とはいえ僕自身ヤベェレベルの何も考えてない学生だったのが、曲がりなりにも研究者として普通に働いている感じなので、勝手に学生時代の知識や考察力で適性とかそういうのを判断するのも早計といいますか、そもそもそんなのは他人が決めつけていい話でもないとは思うんですけれども、まぁ全体的に、集団を見て一般的に言えば、みんな隙あらばスマホポチポチなのは国を問わず世界レベルでそうだと思うので、今後学術・技術その他一定の知的活動が必要となる様々な分野において、色々難しい面も出てきそうな気もする……とは思えると言えちゃうかもしれませんね。
(とはいえ逆に、有効に使えば知的活動においてさえネットの力もポジティブな方向で素晴らしく作用し得るのは間違いないので、優秀な子は周りを出し抜くチャンスにも思えますけど、まぁ別に自分一人だけが走ってもそれは何というか社会全体として上手くいくことにはなってませんし、難しさがあることには変わりない気もします。)
だから「ネット・スマホは悪魔の発明だ」と言っても今さらどうしようもないというか何も解決しませんし、実際ネットは本当に面白いし便利だからそれはそれで素晴らしいとは思うんですけど、人間には一定期間集中して勉強する期間も必要っちゃ必要なので、その意味で誘惑が多すぎる今の子は可哀想な気もする…ってのが一番僕自身の感覚に近いかもしれません。
…と、本当に全く関係ない話に逸れてしまいましたが、せっかくなのでもう1ネタBioTechフォーラムからお借りして、ちょろっと脱線ネタに触れて今回は終わろうと思います。
こちらのトピックで、またまたAPさんが書き込まれていますが、酸化防止剤としてフェノクロ溶液に加える8-HQは、「2-メルカプトエタノール」を加えるという方法もあることが紹介されていました。
まぁAPさんは「やったことない」と書いていましたし、他の書き込みにもあるように、この試薬は(以前このブログでも触れたことがあったと思いますが)まさに硫黄臭、ぶっちゃけていうと圧倒的な大便臭(強烈なおなら臭?)がするもので、あまりにも臭すぎるためわざわざフェノールに使ってる人は見たことないですけど(色もつくし、別に8-HQで十分ですしね)、今回触れたかったのは、APさんの同じ書き込み、「Molecular Cloningでは2-MEを入れるようになっています」という点でした。
何度か「僕の細かい実験系豆知識の仕入れ先はBioTechフォーラムがメインです」などと書いていましたが、ここに書き込まれている諸研究者の方々の情報仕入れ先・最も信用できるソースの一つに、Molecular cloning、通称「モレクロ」という本がありまして……
…発売はいつの間にかもう10年以上も前のようですが、最新の第4版は3冊セットで、合計295ドルもするようですけど、一般図書館にはあまりないかもしれないものの、大学図書館なんかには大抵所蔵されているもので、まさに生命科学実験のバイブルともいえる素晴らしい本になっています。
とはいえ、ちょうど最新版が12年も前ということで、何気にインターネットの発達に伴い、こういった成書の立派な書籍というのは役目を終えつつあるといえるのかもしれませんね。
(ネットで、最新の知見を含んだ丁寧なマニュアルが、結構公開されているので。)
ただ、僕も(所有はしていないものの)実際図書館で手に取ることもありますけど、これは本当に良い本で、残念ながら日本語訳は存在しないですが、研究者ならまぁ英語を読むのも必須であるので、生命科学系の大学生には大変オススメの教科書といえる気がします。
実際の実験の流れに親しむのに打ってつけで、各種知識もバッチリ取得できる感じだと思います。
ちなみに、生命系の学生に薦められる本として、しばしば「THE CELL」という分厚い、広辞苑を一回り二回り大きくしたような本がありますけど、あれはぶっちゃけゴミですね(笑)。
なぜあれがバイブル扱いされてるのか分からない、ただ網羅的なだけで面白くも分かりやすくもないカス本なので、「ザ・セル」を買うぐらいなら(まぁセルは日本語訳もあるので、大学一年生が気合いを入れて買うのにちょうどいいのかもしれませんけど、確実に本棚の肥やしになるだけだと思います(笑))、「モレクロ」を買うことを強くお勧めしたい限りです。
(セルの日本語版は、翻訳にもコストがかかっているので、何気にモレクロ3冊と同じぐらいの値段がした気がしますしね。
…まぁ、円安に伴い、流石に今の為替での295ドルよりは、日本語版セルの方が安いような気がしますが…)
…という感じで、今回は完全に脱線ネタとなってしまいました。
引き続きまたフェノクロに戻っていこうと思いますが、次のステップでまたどうでもいいネタが一つ浮かんだので、多分次回もほとんど本題とは関係ない脱線ネタを見ていく感じの予定です。