RNAを読むには?

これまで主にDNAの配列の読み方について見てきましたが、サンガーシークエンシングに始まり、NGS(次世代シークエンス)としてイルミナシークエンスなんかにもチラッと触れてみたとともに、第4世代に挙げられていた、ナノポアを用いたRNA-seq(これ自体がある意味テクニックの名前として使われている特別な用語で、Wikipediaにも項目がありますね)と呼ばれるRNAのシークエンシングなんかも、(名前を出しての紹介程度でしたが)ちょろっと垣間見ていました。

DNAやRNAの配列解読はそんな感じでやられるということで、続いてはタンパク質の配列について……と思いましたが、RNAについて少しだけ補足しておきましょう。


RNAの配列解析は、先述のNanoporeとかの次世代シークエンス技術で、大規模に、高速で、大量の配列を同時解析するのが普通なわけですが、これはやっぱり1分子(一種類)のRNAを読みたい場合なんかには大仰すぎるしコストも高くつくしで、気軽には行えないわけです。

DNAのように、もっとお手軽に自分の読みたい特定のRNA分子を、さくっとAUGGCC…みたいに読むことはできないのでしょうか?

実はこれはできません
(いやまぁ技術を駆使すればできなくはないので、「やられていない」の方が正確かもしれませんが。)

理由は、まぁDNAを読む技術の方が圧倒的に便利で発達しているので、RNAの配列が読みたい場合でも、RNARNAのまま読むのではなく、そのRNADNAに戻して、そのDNAをサンガー法などで読む方が断然楽だから、ということに帰着する感じでしょうか。

具体的には、RNAを鋳型にしてDNAを合成する酵素が世の中には存在するので、それを使う形ですね。

この反応は逆転写と呼ばれており、使うのはそのまんま「逆転写酵素」と呼ばれる酵素になりますが、仕組みはDNA合成酵素と全く同じで、プライマーをRNAに結合させて、dNTPを1つずつプライマーに付加して伸長していく…というそれだけです。

こないだソーマチン遺伝子で使った図を流用し、そのままテンプレートDNAをRNAに変えた形にしてみると、こういうことですね。
(DNAとRNAの区別をするために、DNAの各塩基はdNの形にしてあります。)

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この図のように、逆転写酵素は、RNAを鋳型にしてDNAを合成していく酵素であり、合成中はRNA/DNAの二本鎖が生じる形ですね(なお、鋳型がRNAである点以外、以前の図と全く同じです。反応チューブ内にdNTPがある限り、dNTP連結反応は延々と、RNAの端っこまで進んでいくのも同じですね)。

ちなみにこの辺の話は、またいずれしようと思ってるんですけど(というか、ずーっと前にしていた、アミノ酸から始まってDNAやRNAの話になっていた一連のシリーズの続きとして、もう下書きメモ記事として用意していたぐらいですが、ちょうどその記事にいく予定のときに、分子の構造について語る有機化学講座を始めてしまい、その後ずーっと戻れずに今に至るという感じでした(笑))、高校生物とかでは「DNAは二本鎖、RNAは一本鎖」と学びますが、別にDNAは一本鎖にもなれるし、RNAは二本鎖にもなれます

ただ、普通の状況(細胞内とか)だと、DNAは必ず相棒鎖がそばにいるので二本鎖になり、RNAは普通はピッタリ結合できる相棒鎖がいるわけではないので一本鎖として存在していることが多い、というそれだけなんですね(詳しくはいずれまたの機会に触れましょう)。


(なお、逆転写酵素は、DNAを鋳型には使えないし、NTP(デオキシではない、RNAの構成要素であるヌクレオチドを取り込むこともできません
 微妙な違いでしかないのに、絶対に、RNAしか鋳型にせず、dNTPしか取り込まないのが、逆転写酵素なのです。

 ちなみに、「DNAを鋳型にDNAを伸ばす」(DNAポリメラーゼ)、「DNAを鋳型にRNAを伸ばす」(RNAポリメラーゼ)、「RNAを鋳型にDNAを伸ばす」(逆転写酵素)がこれまで出てきましたが(RNAポリメラーゼは名前が一瞬出てきたぐらいでしたけど)、残る1パターン、「RNAを鋳型にRNAを伸ばす酵素」はどうなのかというと、何気に「存在しない」と習ったこともある気がするんですが、実はこれも存在します
 ただ、基本的な分子生物学実験で使われることはほとんどないマイナーな酵素で、僕も使ったことはありません。
 これを使えばRNARNAのまま読むこともできるのでは?とも思えますが、別にそうするメリットは何もないので(DNAは二本鎖なので安定・扱いやすい・増やしやすい…と、良い点しかないので)、RNAを読んだり増やしたりしたい場合は、よりよく研究されて幅広く使われている逆転写酵素を使う、という感じなわけですね。)


こうして逆転写してできた一本鎖DNAをサンガー法で読みたいわけですが、逆転写してできたDNAは量が少なく、業者の求める量に届くほど十分には作れないことが多いため、大抵の場合、更に改めてDNAを増やすステップが必要になります。

その方法は、PCRか、あるいはプラスミドに挿入してクローニングするかといった形になりますが、まぁその辺は今改めて詳しく見る必要もないでしょう(PCR自体は、またいずれちゃんと見ておきたい話ですしね)。

なお、業者に頼む蛍光ddNTP法ではなく、古典的サンガー法である「4種類の異なるチューブで、RIラベルしたプライマーを使って、ゲルで見る」というやり方はできないの?と思われるかもしれませんが(別に思われないかもしれませんが)、これは普通にやられていますし、実際僕自身やったこともあります。
(先ほどの図=逆転写ステップで、dNTPとddNTPを混ぜて、逆転写の伸長を途中で止めるという方法。)

といってもメチャ長いシークエンシングゲルに流して配列を読むとかそういう意図ではなく、特定の塩基まで伸びたプライマーがゲルの中でどの場所に現れるかを見るためのもので(…って何のこっちゃって話かもですが、要は「配列を読むのがメインの目的ではない」ということ)、RNAの配列を読みたいなら、やっぱり普通は逆転写後、DNAを増やして、業者に頼むやり方をするように思います。


ただ、基本的に生体分子の流れはDNA→RNA→タンパク質なので、特定のRNAの配列を知りたいということはそもそもあまりなく、配列が気になる場合はDNAを見れば分かるし、何か遺伝子を導入したい場合は基本的にDNAを加えるし(だから、DNAの配列をチェックすればOK)……という感じで、「RNAの配列を読む」という需要がそもそもそこまでなかったのが、RNAシークエンスが最近まで全然使われなかった(発展していなかった)理由かもしれませんね。
(もちろん技術的な限界もあったと思いますが、それ以上に、DNAシークエンスほどの需要もなかったという意味で。)

しかし、最近は設計図であるDNAと、最終プロダクトであるタンパク質の間のRNAも結構注目されてきており、これを生物の全遺伝子単位で解析したい、的な需要も多く、RNA-seqとかが一気に発展してきた、という流れですね。

今後ますますRNA-seqによる新しい知見も得られていくことでしょう。


…ということで、タンパク質の配列解析について書こうと思っていたんですが、RNAについての話で割と長くなってしまったので、今回はここまでにしましょう。

DNAシークエンシングは、仕組みもそれなりに単純で結果の解釈も分かりやすい(ゲルのバンドパターンや、色を見るだけ)ので、書いててまぁ書き甲斐はありましたが、NGSに始まり、RNA-seq、そして次回以降のタンパク質の配列解析は、仕組み(&結果の解釈)が複雑すぎて入門的記事で分かりやすく説明することなど到底不可能ということもあり、正直、何かいきなり書いてて面白くなくなってきちゃいましたね。
(まぁ、面白いと思ってたのは自分だけで、多くの方にとっては、最初から全く面白くなかったよ、という感じかもしれませんが(笑)。)

今回の記事も、特に目新しい話もなかったので、イマイチ筆が進みませんでした(とかいいつつ、結局ダラダラ長くなってますけどね(笑))。

とはいえまぁせっかくなので、また詳しい話には立ち入らず、触りだけどんな感じの技術でアミノ酸配列が見られているのかについて、次回簡単にまとめてみると致しましょう。

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