最後の光

前回は余談でCDのレーザーとかの話をしていましたが、余談の本題である光としてのレーザーに戻っていきましょう。

暗闇で色とりどりの光が線となって現れるあのレーザー光の画像を見ると、やはりコンサート会場とかが思い浮かぶのではないかと思います。

先述の通り、軌跡の見えるレベルのレーザー光はエネルギーが強大で大変デンジャーな代物なのですが、ちょうど、iPhoneのカメラにレーザーが直撃してぶっ壊れる瞬間を公開してくださっているツイートがあったので、百聞は一見にしかずということでご紹介させていただきましょう。

こんな感じで、想像より遥かに甚大な威力をもつレーザーですから、ライブ会場とかでは観客にレーザー光が当たることは決してないように調整されているわけなんですけど、「あれ、でもコンサートって、観客もよく光る棒もってなかったっけ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

もちろんレーザービームではないものの、オタクの必須アイテムともいわれる光る棒・いわゆるサイリウムサイリウムは商標名なので、一般名としてはケミカルライトとのこと…と思いきや、商標登録されているのはサイリュームなので、権利侵害にあたらないため汎用されているようです)がそれですね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/ケミカルライトより

そしてこれこそが、光ネタの最後、電気を使わずに光を放つことのできる、化学発光という仕組みを用いたものになります。

例によってせっかくなので、クッソつまんないにも程がありますが、サイリウム内部で起こる分子レベルのメカニズムを垣間見てみるとしましょう。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/シュウ酸ジフェニルより

サイリウムにはシュウ酸ジフェニル(カルボキシ基-COOHが2つつながった分かりやすい形のものがシュウ酸で、フェニル基はもうずっと前に見ていた通り、ベンゼン環のことなので、シュウ酸とフェニル基が2つで、案外簡単な構造です)と過酸化水素が分かれて混入されています。

棒の中に分けて入られているものをぺキッと折ることで両者を混ぜると、シュウ酸ジフェニルが過酸化水素により酸化されて、C-Oで四角い構造を取った物質になりますが、これは構造的にかなり無理があって不安定な物質なので、すぐに自発的に二酸化炭素に分解されます。

このときに生み出されるエネルギーが、同じく本体に混ぜてある蛍光物質(dye)に伝わり、この蛍光が励起されて(dye*)、光を放つという仕組みです。

(ジフェニルの部分はフェノールになるので、使用済みのサイリウムにはフェノールが含まれるんですね!フェノールの危険性を知っている立場からしたら大丈夫なのか?とも思えますが、ごく低濃度しか含まれないので、安全上は全く問題がないようです。)


そう、化学発光といいつつ、結局蛍光色素の光にすぎないわけですが、そもそも蛍光とは何なのか?

最後にこれに触れようと思ってこの話をしてみた次第です。

まぁそんなに面白くもないんですけど、蛍光と聞くと恐らく、言葉の響きとあとは蛍光マーカーとかからの印象で、「明るい色のもののことなのかな?」と思われることがほとんどではないかと思いますが、科学的な定義としては全く異なります。

蛍光というのは、「ある波長の光を吸収して、別の波長の光が出される」ことで生み出される光のことを指します。

先ほど何気なく出していた「励起」というのがそれで、蛍光物質の特徴というのは…

・ある波長の光を浴びせると「励起状態」という不安定な状態になる

→この励起状態から、より安定な、光を浴びせる前の状態(基底状態)に戻るとき、特定の波長の光が放たれる

…というメカニズムになっているわけですね。


まぁ大して面白い話でもないので深追いする程のものでもないですが、最も有名な蛍光物質の1つで、何度か記事でも触れたこともあったGFPなんかですと、その「励起させる波長の光」と「放たれる蛍光の波長」はそれぞれこんな感じ(↓)ですね。
(これはTaKaRaバイオの販売している、微妙に改変を加えたAcGFPとやらですが、まぁGFPと同じです。)

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https://catalog.takara-bio.co.jp/product/basic_info.php?unitid=U100004883より

左側のExcitation(励起)というのが吸収スペクトルと呼ばれるもので、GFPというのは475 nmの青い光を頂点に、その周辺の波長の光を強く吸収して励起し、励起したあとは、右側のEmission(放出)グラフにある通り、505 nmを頂点とする緑色の光を放つようになっているということですね。

他にも個人的に身近な蛍光としては(まぁ自分に身近なだけで、自分以外の方にはどうでもいい例でしかないんですけど)、これまた既に何度か触れていた、DNAをアガロースゲルで検出する際のエチブロ、これも、「紫外線で励起されて、オレンジ色の蛍光を放つ」という、いわゆる蛍光の一種なんですね。

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なぜか岡山大学が公開されていた、FUJIFILM製マニュアルの、DNA-エチブロの蛍光吸収スペクトルより

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前貼ったのとはちょっと違う、エチブロ染色ゲルの画像・Wikipediaより

蛍光色素の一番のポイントは、励起→蛍光という流れはあくまでエネルギーの変換というか移動なので、基本的に必ず「吸収される励起光より、放射される蛍光発光の方が、長い波長の光になる」ということが挙げられます。

改めて、短い波長の光の方がエネルギーが大きいので、エネルギーのロスなどを考慮すると、長い波長で得たエネルギーを短い波長の光に変換するなんてことは不可能だからですね。

必ず、短い波長で吸収したエネルギーは、より長い波長で微妙に小さいエネルギーの光へと変換されるわけです。


なので、こないだLED電球が蛍光塗料を使っているという話があったんですが、そこで使われる光は、かなり短い波長である青色の光を発する青色ダイオードが使われているということだったんですけど、その理由がまさにこの性質によるという話なわけです。

短い波長の青色光からは、より長い波長の緑や赤の光を生み出せますが、逆は難しいということです。

青色ダイオードが発見されるまでは、より長い波長の緑や赤といったダイオードを蛍光物質に当てても、青い光を得ることはできなかったということになるわけですね(その結果、光の三原色RGBの内で青が欠けているため、自然な白い光を生み出すことが不可能だった、ということ)。


関連して、励起前と励起して放たれる光の色は異なりますから、サイリウムの光らせる前の製品の色は、基本的に出す予定の光とは若干違うのではないかと思います(使ったことないので分かりませんが)。

吸収波長と蛍光波長がそんなにずれていない場合は、似たような色かもしれないですけどね。

一般的にというか理論的には、吸収波長と蛍光波長がずれているほど、エネルギーの差が大きいので、光も明るくなるんじゃないかな、という気がします。


…と、そんなわけで、蛍光というのはそういう性質の物質なので、蛍光ペンはただ明るいだけで、正直全然蛍光ではない気がするけど……というのも個人的にはその辺の話を学んでから感じることかもしれません(まぁ、最も広い意味では、蛍光は「明るく放たれる光そのもの」を指す言葉でもあるみたいですけどね)。


あとついでに関連する話として、「蓄光」というのも、割と身近でなじみのある現象かと思われます。

蓄光とは、その名の通り、光をある程度の間蓄えて、周りに光源がない状況でもしばらくの間ぼんやり光り続ける現象のことですね。

一番身近でよくあるのは蛍光灯かな?

多くの蛍光灯には蓄光性をもつ顔料が塗られているので、電気を消しても、しばらくの間ぼんやりと光っているのが印象にある方は多いのではないかと思います。

一番メジャーなのは「ホタルック」の製品名で、確か僕が子供の頃はまだなく、あるときから急に普及し始めて「おぉ~、こりゃすごい、電気を消したのに本当にちょっと光ってるね!」と子供心に感動したものですが、これは目の錯覚を利用とかそういうのではなく、いわば励起状態から基底状態に戻るのに時間のかかる物質が塗られているので、電気ONの間に蓄えられたエネルギーがゆっくりリリースされて光っている、という仕組みなわけですね。

まぁ蛍光灯以外にも、もっと昔から、何か暗闇で光る骸骨のおもちゃとか、より実用的なものとしては、蓄光含量が針に塗られている時計とかもありますね。

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https://ja.wikipedia.org/wiki/蓄光より

この画像にもある通り、昔は蓄光物質として、放射性物質であるラジウムが用いられていました。

光の話最後はこのラジウムに関する衝撃的な話でしめようと思いますが、ラジウム・ガールズという社会問題をご存知でしょうか?

Wikipediaにも項目がある通り、放射性物質の危険性がまだ知られていなかった時代のこと…

塗装作業を行う工員として、推定4,000人がアメリカやカナダの複数の会社によって雇用された。各工場の工員たちは、塗料は無害だと説明されていた。また、時間と塗料を節約するために、ブラシの先を整える際には口を使うように指導されていた。彼女たちは致死量のラジウムを摂取した。 

というヤバすぎる作業の結果、工員の女性たちの多くが貧血、骨折、あごの壊死、骨肉腫の発症など、もちろん一部の方は死亡するなど、大きな社会問題となり、これがきっかけに放射性物質の危険性が人類に知られるようになったともいわれている重大な事故(事件)ですね。

っていうか、仮に無害でも、口を使ってブラシを整えるとか、不衛生すぎておかしいだろ(笑)と思えてしまいますが、それは衛生観念が発達した現代だからこそいえる話かも知れず、こういう犠牲もあって世界はより良いものになっているといえるのかもしれません。


さほど面白い話でもありませんでしたが、以上、蛍光・蓄光サイリウムの話でした。

あと他にも蛍光といいつつ、ホタルの光はいわゆる「蛍光」ではなく、ルシフェラーゼという酵素がルシフェリンという物質を酸化することで光が放たれているのでこれは少し違うもの……とかいうことも触れようかと思いましたが、まぁそんな大した話でもないのでどうでもいいでしょう(っていうかその一言で終わりですしね)。

あぁ、書き忘れてましたが、サイリウムの色が違うのは、結局棒の中に違う種類の蛍光色素が含まれているからで、シュウ酸ジフェニルの酸化・分解で生まれたエネルギーを励起エネルギーとして、色素ごとに違う波長の蛍光が出される、という感じですね。

ちなみに混ぜたら終わりの1回使い切りのサイリウムとは違うペンライトは、これは普通に小型懐中電灯の一種ですね。

恐らく今時のものはLEDが使われており、スイッチ一つで色の切り替えも可能なものが多いのではないかと思います。

僕はライブに参加したことはないですが、サイリウムも、昨今の社会状況で、もう大観衆による感動的な光の輝きを生み出せないかもしれないのはちょっと残念ですね。

またいつか元に戻ることを願ってやみません。


…ということで、次回はビタミンAの話に戻りましょう。

…何か、正直今さらな気もしてきましたし、ぶっちゃけ細かく物質を見てもまるで面白くないので、ビタミン話はごく簡単に終わらせちゃいたいですね。

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