「働かない」のと「存在しない」のは違う

前回は、具体的な数字を使ったX染色体不活性化時期の推定と、不活化メカニズムに関する研究紹介の2点をまとめていたのですが、記事初稿、ここ最近はギリギリの時間で一通り書き終えてアップし、その後しばらく別の作業に追われてしまって放置して、時間ができたら推敲作業…って流れが多いんですけれども、昨日もアップ後しばらくして読み直してみたら、どっちの話もあまりにもめちゃくちゃ分かり辛い記述すぎて我ながら笑っちゃいました。

 

まぁ笑い事じゃなく、「説明が下手すぎで読むだけ時間の無駄」な内容だったため大変恐縮しきりなのですが、(正直そこまで変わっていないかもしれないものの)多少書き直しておいたので、前回の記事アップ後、即目を通されて意味が分からな過ぎた方は、再チェックしていただけるともしかしたら多少の改善があるかもしれません…と案内させていただこうかと思います。


とはいえ、説明の仕方自体、特に初稿は支離滅裂だった点もあるものの、内容自体もやっぱりもう「細かすぎてどうでもいい」の極みだったかもしれません(笑)。

 

そんなわけで前回話に出していた「Xist」という遺伝子うんぬんについては、説明もかなりざっくりで何のこっちゃという内容だったかもしれないものの、こちらはもう深入りは避けてその辺にしておき……とはいえ何気にこの遺伝子単独のウィ記事があったため(↓)、こちらにもより網羅的な説明が記述されていましたから、興味ある方はこちらをご覧いただけると理解が深まるかと思います…と丸投げさせていただくといたしましょう。

 

ja.wikipedia.org

 

ちょうどこのウィ記事にもちょろっと記載がありましたが、もうひとつ、この「X染色体」関連の話で触れてみようと思っていた脱線ネタに、「ターナー」と呼ばれる症例があったのでした。

 

今回はそちらに触れてみようかと思います。

 

話は単純で、女性は父親と母親からそれぞれ1本ずつ受け継いだX染色体を合計2本持つわけですが……

 

(っていうかそもそものその辺の話もあまりきちんと説明せずにずっと語っていましたけど、人間…というか有性生殖をするどの生物もそうですが、通常存在する細胞は同じ遺伝子を2つずつ持つ状態(これを専門用語では「2n」と書きます)で、体細胞の遺伝子は2nになってるわけですが、生殖細胞、雌なら卵細胞、雄なら精子ですけど、この細胞だけは特別で、「減数分裂」という特別な、分裂後に染色体の数が維持されず、通常の半分の状態になるという反応を経る結果、他の細胞と比べて半分の遺伝子しか持たない、いわゆる「n」の細胞になっています。

 この「n」の精子と「n」の卵細胞が受精して、「2n」の受精卵となり、たった1つの細胞である受精卵はその後何百回何千回と細胞分裂を繰り返し、最終的に60兆個ほどの細胞=成体になるというのが生物になるわけですけれども(もちろん生殖細胞以外は、全部「2n」の遺伝子持ちです)、減数分裂を経て「n」になった生殖細胞は、全ての染色体が、自分の父由来のものか母由来のものかどちらか1本ずつ選ばれる形になっています。

 1番染色体から22番染色体までの「常染色体」が22本、そして「性染色体」としてX染色体かY染色体かが1本の、合計23本ですが、それぞれ「父母どちらから受け継いだ染色体を自分の生殖細胞に持っていくか」は、完全ランダムです。

 なので、1/2の23乗の確率で、「片方の親の染色体のみ」が選ばれることもあり、その場合は、

「自分の子が、完全に自分の父or母(生まれてくる子から見たら祖父or祖母)一方の遺伝子のみを持っていて、選ばれなかった方とは事実上(遺伝子的には)一切の血のつながりがない」

…という現象も起こり得るわけですけど、まぁそれは極めて小さい確率ですし、その場合でも生まれてくる子の半分は自分のパートナー(=夫 or 妻)の遺伝子を持っているわけで、「生まれてきた子が、父方の祖父に完全に生き写し」みたいなことにはならないんですけどね。

(もちろん、「この子は本当にお祖父ちゃんそっくりだね」となるとは思いますが…)

 とはいえ、2の23乗って計算したら838万8608ですから、何気に838万8608人に1人は、「父方母方どちらかの祖父母の一方とは、遺伝的なつながりが完全にない子」が生まれてくるということで、これは案外高い気もします。

…しかしもちろん、親子(孫)のつながりなんて遺伝子だけではないですし、言うまでもなく、それはあくまで「祖父母⇔孫」の関係であり、「親子」の関係なら、必ず半分は自分と同じ遺伝子を持つのも間違いなく、改めて家族のつながりは「血」(遺伝子)だけではありませんから、仮にそうでも何も問題ない話だとは思います。)

 

…と、余談がまためちゃくちゃ長くなりましたが、ズバリ、「女性はX染色体を2本持ち、その内1本は不活性化されて機能しなくなる」という話だったわけですけど、じゃあ「X染色体なんて2本いらなくない?初めから1本でいいじゃん」とも思える気もしなくもない話になるわけですが、これは面白いことに、そうはなっていないんですね。

 

その辺の話に触れてくれていた記事が、ちょうどライオニゼーション(X染色体不活性化)について書かれた、以下の東邦大・理学部生物学科所属、後藤友二さんによる解説記事にまとめられていたので、こちらから説明文をお借りしてみるといたしましょう。

 

www.toho-u.ac.jp

 

雌は本来XXですが、X0(エックス・ゼロと言います。Xを1本しか持たないという意味です)はどうなるでしょうか?不活性化によって活性Xは1本になるため、X0もXXと差は生じないはずです。実際、マウスの場合はその通りで、X0マウスは正常で、仔も生みます。しかし、ヒトでは事情が異なります。ヒトの場合X0は9割が流産で失われ、わずかに生まれてくる子は重度の障害を伴います。ターナー症候群と呼ばれるこの染色体異常症の顕著な特徴の1つに『二次性徴の欠如』があります。女性としての性成熟が停止してしまうのです。活性Xは、XX個体もX0個体も1本のはずなのに、どうしてX0にだけこのような異常が出るのでしょうか?

 

…とあるように、これは「ターナー症候群」と呼ばれる形の、染色体異常症となることが知られています。

 

ja.wikipedia.org

 

21番染色体が3本あると「ダウン症」となるのはこないだも話だけ触れていましたが、逆にX染色体が欠けた場合、X染色体なんてどうせ1本は不活性化されるのに、こちらも残念ながら正常な発達ができなくなってしまうんですね。

 

上記ウィ記事によると、新生児女子のおおよそ2500人に1人の割合で生まれるそうで、ダウン症よりも珍しい症例となっているわけですけれども、興味深い点としては、先ほど東邦大学の引用にもあった通り、「マウスだと完全に正常」って点もあるようです。

(まぁマウスの場合、しゃべれないしヒトよりも細かい違いが分からないので「完全に正常」なのかはハッキリしないかもしれないものの、少なくとも「高い確率で流産」とか「発達が遅れる」といった症例はないみたいです。)


その違いについては、ヒトではライオニゼーションにおいてマウスにはない機能が存在し、まぁ上記引用記事の続きをご覧いただければ書いてある通り、実は人間では15%ほどの遺伝子が不活性化されたX染色体からも作られ続けており、「正常な女性として発達するためにはその遺伝子が必要」というのがその仕組みなわけですけれども、

「じゃあ男は(「不活性化X染色体」を持たないので)その15%が不足してるのに、なぜ大丈夫なの?」

とも一瞬思えるものの、まぁ男性は、その分Y染色体で作られる遺伝子(タンパク質)があれば問題なくなっているのでしょう。

(そんなこと言ったら、「女性はY染色体上に乗っている遺伝子が一切存在しないのに全く問題なく健康に生きられている」とも言えますもんね。

 要は「多すぎても少なすぎても異常型を示してしまう」のが生物の遺伝子なわけですけど、人間は、上記の量(女性:X染色体1本分+不活性化からさらに+15%、男性X染色体1本分+Y染色体1本分)がちょうど正常な発達につながるようになっている形というわけです)

 

…と、その辺の仕組み、およびその他の染色体の違いの話にもちょっと逸れてみたかったのですが、またしても時間切れとなってしまいました。

まぁまとめとしてはざっくりと、「働かないのと存在しないのとは違う」といいますか、何気に「不活性化される」といっても「一切働かなくなる」ではなく、人間の場合「一部は働いている」というのが実際の所というのが今回のポイントだったわけですけれども、若干悪趣味かもしれませんが、ターナー症候群の女性はどんな風な感じなのか、僕は見たことがなかったこともあり、日本語版には染色体一覧の画像しかなかったものの、英語版には代表的なターナー女性の写真が掲載されていたため、最後にお借りさせていただこうかと思います。

https://en.wikipedia.org/wiki/Turner_syndromeより

まぁこのサムネイルではかなり小さいですが、リンク先の画像をクリックすれば拡大された写真も見れましたけれども、普通にみんな可愛らしい女の子で、見た目では全然分からない感じだといえましょう。

 

東邦大の記事では「二次性徴の欠如」とありましたが、他には「低身長」「無月経」という症例も特徴的とあるものの、それ以外は目立った違いもなく、思春期になるまで気付かれないこともあるとのことですね。

「それは良かったです」と言うのもあまりにも無神経な人間な気がして憚られますが、現代では成長ホルモンの投与による低身長への対策や、性ホルモンの投与による性腺の発達寄与等、有効な治療法もあるということなので、ターナー女性もほとんど問題なく生活を送れるという記述も目に付きました。


医学の発展で、染色体の分配異常などで生じたハンディキャップを全く意識しなくて済むような世の中になってくれることを願う限りです。

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