ライオニゼーション!

改めて簡単に前回のおさらいをしておきますと、

「女性はX染色体を2本持つが、細胞の1つ1つは完全ランダムに、どちらか一方だけが機能している(他方は不活化されている)」

 

…ということで、実は女性の体というのは、「父由来のX染色体が機能している細胞」と「母由来のX染色体が機能している細胞」がランダムに並んだ、モザイク状に細胞が集まってできた形になっていると言えるのです……なんて話でした。

 

もちろん、「どちらのX染色体が選ばれるか?」は発生の初期に決まるので、ある細胞が分裂してできた部分はそれなりに近い位置にまとまって存在することが多いため、そこまで「モザイク状」というよりも、牛や三毛猫の柄のようにある程度それぞれの細胞は大きなカタマリとなって密集していることが多いわけですけど、いずれにせよ、女性の体は、

「ここがお父さん由来だね、こっちはお母さん由来だね」

…と、完全に2種類の違う細胞に分かれていると、そうなっているわけですね。

 

(何かその言い方もキモいですが(笑)、実際、前回の分かりやすいイラストでも示されていたように、例えば同じ「爪」という部位でも、親指はお父さんのX染色体が機能している一方、別の指の爪(どころか、同じ親指でも別の箇所とか)であればお母さんのX染色体が機能している……なんて形になっているわけです。)

 

とはいえしかし、三毛猫の例とは違って、女性の体を見ても、別に2種類の細胞が存在しているようには全く見えません。

それはなぜかというと、単純に「X染色体上に、『見た目でハッキリ分かる違いを産み出す遺伝子』が乗っていなかったから」という話に尽き、言い換えると、「遺伝子の違いが見た目として現れる形にはなっていないため」という一言が、その理由になるわけですね。


言うまでもなく、猫の毛色の遺伝子のように、「体の色に影響を与える遺伝子」がもしもX染色体上に乗っていたとしたら、女性は皆(…いや、「皆」ではなく、その遺伝子をヘテロに持っている=「父と母から別の形質を示す遺伝子を受け継いだ人」限定ですけどね、正確には)、身体がまだら模様になっていたということで……

…まぁもしそうだったら、それはそれでまた今とは違った価値観・美的センスが人類に育まれていたとは思いますけど、それがいいか悪いかもともかく、実際の人類はX染色体上に、「見た目に違いを及ぼす遺伝子」をほぼ全く持っていなかった、って形になっている(ゆえに、見た目ではモザイク状に細胞が集まっていることは全く分からない)という話でした。

 

(ちなみに「ここがお父さん、ここがお母さん由来だね」とか先ほど書きましたけど、見た目はもちろん、触って分かるものでもないですし、さらに言えば、細胞を取ってDNAを調べても、不活性化されているだけでDNA自体は存在していますから、DNA分析をしても分からない話になっています。

 とはいえもちろん、不活性化された側のDNAからは「RNA→タンパク質という流れが進まない」という違いは確実にあるので、RNAの発現量とかをチェックして、それを父親のRNAと比べる(母親の場合、どちらのX染色体(本人から見て、母方の祖父か祖母か)が本人に受け継がれるのかはランダムなので、そこと比較しても一発では断定できませんから、父親のRNAを使う方が賢いでしょう)……とかすれば一応分かるかもしれないものの、そんなことする意味は皆無ですね(笑))

 

実際のX染色体上には、こないだも書いていた通り、約800(約1000とする文献もありますが、まぁヒトゲノムが完全に解読された(=ヒトの持つDNAの並びが完全に解明された)とはいえ、「どこからどこまでが何の遺伝子か」という点まではまだ完全には分かっていない感じです)の遺伝子があるということで、「X染色体には果たしてどんな遺伝子が乗っているのか?」も気になるところですけど……

(今まで出てきた例としては、異常になると筋肉に問題が発生してしまう「ジストロフィン」というタンパク質の遺伝子や、色を判別する「オプシン」というタンパク質を作る遺伝子なんかを話に出したことがありました)

…まぁそれもまたいつか機会があったら見てみるとして、まずはその「X染色体の不活性化」についてもうちょい深入りしてみるといたしましょう。

 

この「X染色体の不活化」、英語では「Lyonization」と呼ばれるわけですけど、日本語ではそのままカタカナに読み下しただけで「ライオニゼーション」とも呼ばれ、あえてもうちょい日本語にすると「ライオン化」ともいえるわけですけど、この言葉の意味は一体……?

一応、「lysis」で、これは生化学・医学の分野でよく用いられる語であり「溶解」「消散」といった意味の言葉なので、それと語源が同じ言葉なのかな?…と僕はずっと(今調べてみるまで)思ってたのですが、なんと!

 

この現象を発見したのが、イギリスの遺伝学者、Mary Frances Lyonさんだそうで……

 

en.wikipedia.org

 

…まさかの、ただの人名!

 

要は、例えば宍戸さんが発見された何らかの生命現象を「宍戸化」みたいに名付けて、英語だと「Shishidation」みたいになり、語源を気にする学生が「日本語でshishiはライオンのことだそうだ。なぜライオン?」と謎に思ったのとほぼ同じ形だということで、(まぁ、そこまで調べたなら、「Shishidoが人名」ってのにはすぐ辿り着くと思いますけどね(笑))これは実に意外でした。

 

この辺の学術用語に自分の名前を付けて後世に残そうとすること、有名なのでいうと葉緑体ミトコンドリアといった細胞の中の小器官の1つ、「ゴルジ体」なんかは、まぁ「ミトコンドリア」も我々にとっては謎の文字列すぎて特に違和感はないものの、これはカミッロ・ゴルジさんが発見して自分の名前をつけたものになっています。

 

ja.wikipedia.org

 

細胞の中でそれなりに有名な部位だけあって、日本語でもご本人のウィ記事が存在しましたが(ライオンさんはなかったですけど)、もうちょいマイナーな所では、同じく細胞内にある一区画として、「カハール体」なんてのもありますが、こちらもカハールさんは日本語ウィ記事が存在しましたね。

 

ja.wikipedia.org

 

あとは普通に「川崎病」なんかも、普通に発見者である川崎さんの名を取ってつけられた名前ですが……

ja.wikipedia.org

 

(全然関係ないですが、大学生の頃、同級生の医学部の友人が偉大な医学者である川崎さんの自宅だかを訪問して話を聞きに行ったことがあったらしいのですが、まぁ2020年にご逝去された故人の話を又聞きで勝手にするのも良くないかもしれないものの、その人は「めっちゃ偉い人なのに、普通に女好きの、ただのスケベジジィだった(笑)」と言って笑っていました(笑)。

 とはいえ別に深刻な話ではなく、当時でももう80間近だったわけですし、「めっちゃ親しみやすいおじいちゃんだった」というポジティブな感じで話していたというフォローもしておきたい限りですけれども、まぁセクハラとかは近年本当に問題になっているものの、個人的には偉ぶって近づきがたいような人よりも、気軽に医者の卵的な学生を呼んで話をしてくれるような親しみやすい人(川崎さんは、医学部に入った学生の希望者を呼んで話をするという企画を毎年やられていたようです。件の友人は男性なので、女学生だけを集めて…ってわけではないこともしっかり記述しておきたい限りですが)の方がいいですし、いずれにせよ下町育ちの気さくなおっちゃんであったのは間違いない感じですね。)

 

…と話は脱線ネタからさらに逸れてしまったものの、そういう「自分の名を残す」的なこと、まぁ僕は別にそんな発見をすることはまずないですけど、仮にしたとしても、自分の名前を付けるとかよぉできんなぁ…って思えてしまいます。

別に付ける人を悪く言う気持ちは1ミリもないし実際全くネガティブな印象もないんですけど、自分なら絶対にしない、って話ですね。

 

特にアメリカの場合、大学の(に限らずどこでもですが)建物や、建物の中の1つの部屋(人が集まるホールや会議室)とかでもそうですけど、大学関係の功労者のみならず、多額の寄付をした人の名前がついていることなんかが非常に多いんですけど……

(最近は日本でも野球場なんかでよく見る「命名権」みたいなものですね。まぁこれは広告的な扱いで数年単位で変わることがあるので、永久に名前が刻まれる建物や部屋とはちょっと違いますが…

 例えば、パッと検索して出てきたハーバード大学生寮なんかは……

en.wikipedia.org

「〇〇ホール」のほとんどが(由来が書かれていないものもありますけど)人名由来で、由来も書いてあった寮のひとつ、「Canaday Hall」なんかは、当時存在していたジープ企業Willy社の社長Ward M. Canadayさんにちなんで名付けられたとありますね。恐らく多額の寄付をされたのでしょう。

 こういった建物に限らず、大きめの会議室とかは、人名がついていることが本当に多いです。)

……って、よく考えたら別にアメリカに限らず、日本でも「安田講堂」とかありましたし、特に安田講堂の場合は、ご本人の死後に名付けられたということで(参考:安田講堂のウィ記事↓)…

 

ja.wikipedia.org

 

…必ずしも本人がしゃしゃり出てきて「俺の名を付けろ~」と押し付けたわけではないかもしれませんが(笑)、まぁ僕は本当に奥ゆかしさを尊ぶというか、自分の名前がずっと呼ばれ続けることになるとか、お金払ってでも「やめていただきたい」と辞退したい限りですね、まぁ、心配しなくても、「逆に金払ってもお前の名前が残ることなんてないから安心しろ」って話かもしれませんが(笑)。

 

……と、あまりにもどうでもいい名前ネタだけで時間切れとなってしまいました。

ライオニゼーションの中身については、また次回に持ち越しとさせていただきましょう。

 

アイキャッチ画像は、ライオンおばさんを使おうとも思いましたがWikiPリンクにサムネイルが表示されていたのでまぁいいとして、ライオニゼーションの象徴ともいえる三毛猫の写真が関連ページに掲載されていたので、こちらをお借りしようと思います。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/X染色体の不活性化より

猫画像は正義ですね!

(まぁ、こういう縦に長いタイプの画像は、アイキャッチになると真ん中が表示されて多分猫はフレームアウトしてそうな気もしますが(笑))


猫だけに「ライオン化」のライオニゼーションについてでした。

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