三毛猫のオスは珍しいですよ、的お話

伴性遺伝の例として、筋ジス(DMD)や色覚異常なんかに触れていましたが、もう1つ、とても身近で面白い伴性遺伝の例が存在します。

それが、ヒトではなく、ネコ

ペットとして世界中で人気のネコの遺伝子は、人間ではあまり研究が進んでいない、見た目に関する遺伝子なんかでも、よく研究されているのです(人間より子の数も多く、ライフサイクルも早くて、研究しやすいという理由も恐らくあることでしょう)。

機能・仕組みがほぼ完全に分かっているものとして、ネコの毛色の遺伝子9種類、その他毛の長さ尾の種類(有無)を決める遺伝子も、数種類程度存在しています。

これ、高校生物でも遺伝の章の最後あたりにチラッと触れるのですが、めちゃくちゃ面白いことは面白いんですけど、まさかの9種類が複雑に絡み合って決まっている衝撃のややこしさで、「遺伝、完全に理解した」と謎の自信をもった学生を奈落の底に突き落とす、イヤらしい題材なのです(笑)。

ただ、ややこしいけれど、本当に面白いので、一覧にしてまとめてみようかなと思ったら、こちらの記事↓が、既にほぼ完璧に網羅してくださっていました。

asamomiji.jp

遺伝子同士の関連性等の上手なまとめは↑の記事をご覧いただくとして、一応9種類の毛色遺伝子に触れるだけ触れてみると、基本的に「強い遺伝子」の方から、

(白)、(オレンジ・茶)、アグーチ=1本の毛が縞模様になる=毛根・中間・毛先で濃淡部分が異なる、横断歩道みたいな感じの毛)、(黒)、(カラーポイント=耳とか、手足の先端とかのポイントで発色。アルビノにも関連)、(タビ―=縞模様・ぶち・トラ・サバ)、(シルバー)、(色を薄くする)、(スポッティング=強さに応じて白いスポットが生まれる)

…となっています。

まず毛色を決める遺伝子で最上位に位置する支配的遺伝子が、White=白のW遺伝子ですね。

こちらは白の優性(顕性)遺伝で、1つでもW遺伝子をもてば(つまり、WWでもWwでも)、他にどのような毛色遺伝子を持とうとも、真っ白いネコになることが確定します。

つまり、白くない全てのネコは、この遺伝子は、白くするタイプではない劣性(潜性)の遺伝子w(小文字)を両親から受け継いで、wwとなっているということですね。

「え?1つでも持ってたら白猫が確定って、そんな強い遺伝子なのに、あんまり白猫って見かけなくね?」と思われるかもしれませんが、これは、「優性(顕性)であることと、その遺伝子をもっているネコの割合の大小とは全く関係ない」ということを示すいい例かもしれませんね。

例えば、適当な数字ですけど、W遺伝子をもってるネコが100匹に1匹とかだったら、W遺伝子がどんなに強い遺伝子だろうと、ほぼ全てのネコはwwという遺伝子型をもってることになりますから、白猫の割合は小さいままなんですね。

支配的な遺伝子・優性の遺伝子が、必ずしも支配的な割合を占めることになるわけではないという好例でした。
(↑のページにもあるとおり、W遺伝子は難聴とも関連が深いとされており、むしろ、優性なのに、生きるうえではやや不利に働いてしまう遺伝子という感じですね。)


そして続いてのOrange=茶(オレンジ)のO遺伝子ですが、まず先ほど(たった今ですけど)のおさらいをしておくと、W遺伝子が、1つでも大文字の方を父か母から受け継いでいたら、このO遺伝子が何であろうと関係なく、必ず白猫になります。
(なので、真っ白い子猫の父猫か母猫は、必ず白猫なんですね。wwの親からW遺伝子は受け継げないので。)

ということで、まず前提としてW遺伝子をwwという遺伝子型でもっているネコちゃんであるとした上で、そこにさらにO遺伝子(O=茶(オレンジ)、o=黒)が…

・OOだと、茶(オレンジ)

・Ooだと、黒混じりの茶(オレンジ)

・ooだと、黒

…という感じになります。

実際は、↑の参考ページの説明にもあるように、さらにA(アグーチ)遺伝子の有無で、黒部分が真っ黒かキジネコ(っていわれてもあんまりイメージ付かなかったので、Wikipediaのキジトラ画像参考↓)っぽい感じかにも別れるようですが、まぁ基本的にはOとoを1つずつもつことで「2色混じり」になると考えて問題ないでしょう。

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(参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/日本猫より、いかにも猫な猫、キジトラ)

そして、このO遺伝子こそが、X染色体上に乗っているんですね!

ちなみに、ヒトは46本(22対の常染色体と、1対の性染色体)の染色体でしたが、ネコは38本(18対の常染色体と、1対の性染色体)になっています。

ただ、性染色体がXY方式であることは、ヒトと同じですね。

(触れたことがありませんでしたが、性染色体には、メスXX・オスXYのタイプ(大部分の哺乳類がこれです)以外にも、オスの方が同じ染色体を持つタイプ、これは文字を変えてZとWで表されますが、多くの鳥類やヘビなんかに見られる、オスZZ・メスZWのZW方式なんてのもあります。
 ちなみに、他にもマイナーなものとして、オスが染色体を1本しか持たないタイプ、これは血液型のO型みたいに、存在しないものをOと呼んで、XOタイプ(メスXX・オスXO(Xが1本のみ);多くの昆虫類がこれ)や、メスがWをもたないZOタイプ(オスZZ・メスZO;これは結構珍しく、ミノムシとかが該当するそうです)も存在します。)

猫の毛色のO遺伝子に話を戻すと、だから、X染色体を1本しかもたないオスは、基本的にこのオレンジ色遺伝子の持ち方は、XOYXoYかしかないので、Ooが揃った黒混じりの茶=二色猫にはなれない、ということだったわけですね。


そして、三毛猫に関する遺伝子はもう一つ、S遺伝子をもつことによって白斑が入ることで、見事、茶・黒・白の三毛猫が完成するわけですね。

Wikipediaの三毛猫の画像があまり可愛くなかったので、検索して出てきた極めて可愛い画像を、「ペットのおうち」サイトからいただきました。

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https://www.pet-home.jp/cats/tokyo/pn318925/より

白・黒・茶のバランスが絶妙、これはいい子(当然メスです)!

里親決定、何よりですね。


三毛猫の遺伝子についてまとめると、

ww(白以外の、他の毛色の効果が出現!)

XOXo(茶・黒が出現!性染色体がXXなので、メス!)

SSSs(白ぶちが出現!SSだと白の割合が大きくなる)

…というものを揃えてもっていなければいけない、ということでした。


ということで、オスはO遺伝子を2つもてないから三毛猫になれないことは明らかなんですが、あくまで「珍しい」のであって、現実的にはオスのミケもごく稀に存在することが知られています。

代表的な例は、染色体の配分ミスで、性染色体をXXYと3本ももつことになってしまったパターンですね。

人間でもこの事象は知られており、クラインフェルター症候群と呼ばれています。

この辺の染色体にまつわる話もまた別の機会にみてみようと思っていたのですが、XXYをもつ三毛猫の場合、生殖能力を持たないといわれているので、一代限りのオスミケになります。

他にも、「X染色体上に乗っているはずのO遺伝子が、何かの原因で別の染色体に移動した」というパターンもなくはないようですが、これも非常に小さい確率であり、その分別の遺伝子が欠けてしまっている可能性が高いですから、こちらも、何らかの異常が出てしまう可能性がそれなりにあると思われます。

あとは、発生の途中、初期段階で、たまたまO遺伝子に突然変異が入ってちょうど都合よくo遺伝子に変化し、途中から体内の細胞の一定の割合がoになった、みたいなパターンもまぁ理論上はあり、これならば他に遺伝子異常は全くないので健康なオスミケとなるものの、しかし、偶然O遺伝子だけに変異が入るというのも考えづらく、「変異を起こす可能性がとても高い環境にさらされた(めちゃくちゃ放射線を浴びまくったとか)」と考える方が普通ですから、その場合、やっぱり色々な遺伝子が変異してしまってる可能性があるので、若干健康性に不安は残りますね。

結局、どうしても「何らかの異常」が起こらないと発生し得ない珍しい個体ですから、ミケのオスは貴重であり、また同時にちょっと病弱な可能性が高いといえてしまうかもしれませんね。

割合としては、クラインフェルターの子が生まれるのは約3万匹に1匹ということで、世の中にネコが何匹いるかを考えたら、案外結構な数がいる可能性もあるっちゃあるともいえるかもしれません。
(ただ、特に野生だと、やはり健康に不安がある可能性も高く、生き延びることが難しい場合もあるので、野良のオスミケとかは、本当に珍しいのではないかな、と思います。)

しかし、その希少性から幸運の象徴ともいわれているらしいですから、一度は目にしたい、ミケのオス!…って感じかもしれないですね。


一方、その他の毛色遺伝子に関しては、「この遺伝子は存在せず、別のこの遺伝子があった場合に、その遺伝子の力を弱める遺伝子」とか、もうややこし過ぎて笑えてくるレベルのものもありますが、遺伝子の関係性についてのまとめは最初に貼ったサイトを、一方、見た目の方のまとめは、こちらのサイトがとても丁寧にまとめてくださっているので、参考になると思います。

www.konekono-heya.com
興味のある方はご覧になってみると、とても楽しめるのではないでしょうか。

 

そういえばこのブログのアイコン、婚活をもじってコンキャッツ→紺の猫にしてましたが、紺っぽく見える猫はいるけれど、実際は黒遺伝子Bが色素を薄める遺伝子Dの影響で薄まって藍色に見えるという感じで、「青毛遺伝子」というのはないんですね。

ブルーローズ(青いバラ)というのが「不可能」の代名詞であるように、古来より、青という色は生き物が作ることが極めて難しい色とされてきたのです(人工的にも合成が困難で、青い絵の具は、古い時代においてはとても高価だった、という話も聞きますね)。

…と思ったら、近年、遺伝子工学の発達により、とうとう可能になったということで、青いバラ花言葉が「不可能」から「夢 かなう」に変わったという、素敵すぎる話を見たことも、ふいに思い出しました。

tenki.jp
…青っていうより、これは紫では…?とうっすら思わなくもないですが、まぁそんな野暮なことはともかく、不可能だったことが可能になるというのは本当に夢がありますね。

動物の遺伝子改変は倫理的な問題があるのでなかなか難しいでしょうが、健康面に問題のないオスミケの誕生(要は、クラインフェルターの、望まない症状の根治)が可能になるとか、色々と、今後の技術の発展を楽しみにしたい限りです。


次回は、また最近の話に関していただいていたご質問に触れてみようかと思っています。

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