エネルギーにまつわる脱線話も、そろそろネタが尽きてまいりました。
とはいえもう1つだけ、ふと浮かんだ気になる点があったため、そこだけ触れてもう一記事だけ見繕ってみようかと思います。
こないだのクレアチンサプリの記事で、クレアチンの摂取は「筋肉パワー(瞬発力)の増大」のみならず、「脳の健康・機能改善にも良い」という報告がされています…などという記述がクリーブランド・クリニックの解説ページにあったんですけれども、まずそもそもの話として、クレアチンは筋肉で主に機能するものであり、脳はそこまで瞬発力を必要としないものですし、「脳が使えるエネルギーはブドウ糖のみ」というのはよく聞く話ですから、脳にもクレアチンはあるのだろうか…?……ということが僕自身、個人的にも気になって調べてみたところ……
「creatine abundance human brain」(「abundance」は生化学系で非常によく使われる単語で、「豊富さ、(ある場所での)存在量」を意味する、要は「特定の器官や組織にどのぐらい存在するか」という意の語ですね)といったキーワードで検索してみた結果、↓に全文リンクを貼った、「Sports Medicine(スポーツ医学)」という雑誌に掲載されたレビュー論文がヒットしてきまして……
…こちらを参考にしてみますと、実験的に計測された脳におけるクレアチン濃度(クレアチンと、活性型といえるクレアチンリン酸も含む)は4-5 mMということで、まぁ「M(モーラー)」という単位もよぉ分かりにくいかもしれませんけど、これは「mol/L」のことであり、「1リットル当たりのモル数」を意味しますから、脳1リットルに、4-5ミリモル程度のクレアチンは、普通に存在していたということになるんですね!
まぁ例によって「モル」とか聞いてもあんま意味が分からんわけですが、何度か説明していた通り、これは「ダース」という単位が「12個」を意味する単位でしかなかったように、「mol(モル)」という単位は「約6000垓(がい)個」という、数があまりにも大きすぎて結局分かりづらいものの(ちなみに、6の後に0が23個続く数ですね)、いわば個数をまとめて数えやすくしただけの、ある意味個数の一種でしかない単位であり、それを踏まえて計算してみると……
クレアチン1モルの重さは、分子に含まれる原子の数から計算出来て…というか検索すれば普通にヒットしてきて、約130グラム、リン酸がついたクレアチンリン酸の方は約210グラムになるということで、まぁ多分リン酸化されていないものの方がちょっと多いのではなかろうかと仮定し…というより単純に計算しやすくするために平均150グラムであるとすると、脳1リットルには4ミリモルのクレアチンがいるということでしたから、ズバリ、150 (g/mol) × 4 (mol/L) = 600 ミリグラムのクレアチンが存在すると、そういう話になるようです。
なお、人間の脳の平均容積は1.2~1.5リットルぐらいらしいので、まぁ実際の脳には↑で求めたのより1.5倍ほど含まれていると考えて、1グラムいくかいかないかぐらいのクレアチンが、脳にも存在しているということが分かりました。
(ちなみに、個数でいえば4-5 mMが1.2-1.5 L程度ということで、まぁ5ミリモル程度とすると、実際の脳には約30垓個、「垓(がい)」という単位が身近じゃなさ過ぎてなんのイメージも湧きませんが(笑)、まぁ書き下せば3の後に0が21個、3000000000000000000000個ぐらいのクレアチン分子が存在していると、そんな感じですね。)
ちなみに、クレアチンの本丸といえる筋肉には、先ほどのスポーツ医学誌記事によると35-40 mM含まれているということで、約10倍ぐらい沢山存在している(もちろんそれは「同じ大きさ(1リットル)あたり」ですから、筋肉は脳よりもっとずっと体内に沢山存在していますから、トータルの量だと100倍以上はくだらないレベルでいっぱいある感じですね)わけですけど…
…いずれにせよ脳にもクレアチンは存在しており、存在している以上使われているのも当然で、サプリにも効果はありそうだ…とそんな話にもつながるわけですけど、とはいえやっぱり脳がメインで使う栄養源はブドウ糖=グルコースなので、脳をフル回転で使いたい際は、しっかり糖分を摂取するのが効果的だといえましょう。
…と、そんな脳内のクレアチン濃度の細かい数字とか、自分で書いておいてなんですがクソつまんないにも程がある話を新年早々まとめてしまって大変恐縮ですけれども、本当に気になるのはそちらではなく、記事タイトルにもした「脳はどのぐらいのエネルギーを使うんだろう?」という点にあったのでした。
ちょうどその疑問に関して浮かんでいた話として、漫画『DEATH NOTE』で世界一の天才探偵・エルが、「頭を使えば甘いものをいくら食べても太りませんよ」とか言いながら、板チョコばりぼり・デザートガツガツ常時食べ続けている…なんていう描写が思い浮かんだんですけれども、果たしてこれは本当なのか……??
正直、「んなわけねーだろ(笑)」と思えるものの、「でも、エルが言うなら…」と、学生時代、エルの座り方(椅子の上に体育座りみたいなアレ)をしてパソコンに向かうことの多かった僕なんぞは、少々気になってしまったわけです(笑)。
まぁこちらもせっかくならちゃんと専門家が査読して正当性があるというお墨付きが与えられた学術論文に当たってみたいわけですが、何気に先ほど引用した「Heads Up(ヘッズアップ=「注目!」的な意味)」で始まる論文にもちょろっとあったものの、実はそっちは今記事を書きながらチョロっと見てみただけで深くは読んでおらず、先に別個調べていたものがあったので、そちらを参照してみますと……
…まず最初の情報ソースとして、伝統と格式のニュース雑誌「TIME」の記事に、ドンピシャなものが見つかり(↓)…
…この中で、参考文献として「PNAS」という、生命科学系研究者御用達の格式高い科学研究雑誌に掲載された論文記事が引用されていたため(実際の論文リンクは↓)、まぁ信頼度は十分といえましょう……
そもそもTIMEの記事はこの論文の著者である神経科学の大御所・ライケル教授にインタビューをしたものであり、論文ではなく記事の方を翻訳引用させていただくと……
脳は人の総体重のわずか2%を占めるに過ぎないが、体のエネルギー消費の20%を占めていることがライケル教授の研究で判明した。
つまり、典型的な1日の間において、人間は考えるだけで約320キロカロリーを消費することになる。精神状態やタスクの違いは、脳のエネルギー消費に微妙な影響を与える。「もし人間をスキャナーに入れて、テレビの前にいるときやクロスワードをやっているときに(脳で)何が起こっているかを調べたとしたら、負荷の高いタスクを与えると脳の活動は変化し、より多くのエネルギーを使うことになるでしょう」と教授は語る。
しかし、もし考えることでやせることを期待するのなら、それは運が悪かったとライケル教授は言う。脳は多くのエネルギーを消費するが、凄まじい精神的作業中の脳の活動やエネルギー消費の変化というのは、微々たるものなのである: 「脳の活動全体を考えれば、5%程度の変化でしょう」と教授は語った。
…ということで、まぁ結論ズバリが明確に書かれていますけれども、脳は、その大きさ自体はもちろん体の中でそれほどデカくはないものの、エネルギー消費でいえば、実に全体の五分の一もの量(エネルギー消費=ATP消費量ですね)を使っているということで、これ自体は結構なものになるわけですが、しかし、
「どれだけフルスロットルで思考を巡らせようと、高々5%程度余計にエネルギーが使われる程度」
…だということで、逆にいえばそれだけ普段からボケーっと何も考えず鼻ほじってるだけでもエネルギーは消化されているという、脳の基本性能の凄さの裏返しかもしれませんけれども、まさにカロリーでいえば、普通に過ごすだけで1日320 kcalを使う一方、全力でウンウン唸りながら物事を考え尽くしても、その5%増える程度、単純計算でおおよそ15-20 kcalの消費とかそこらであり、こちらメタラボによる食品カロリー表(PDF)を参考にしてみると(↓)…
一番近いので言えば、まさかの「たこのスライス・2キレ」程度のクソザコレベルな消費エネルギーでしかないということで、マジで「考えること」でのダイエット効果はほぼ無に等しく、「ほんならもう何も考えんでえぇわ、ボーっとして生きよ」とすら思えてしまう話だった感じですね(笑)。
ということで、エルはホラ吹き野郎というか、コーヒーに砂糖をマシンガン投下とかして常にチョコレートをペロペロしていながらあんな痩せ型だったのは、こっそり筋トレをしていたからに違いない…という謎考察も捗る話ともいえるのかもしれません(笑)。
あぁ、まぁフィクションのしょうもない話はともかく、しかし、「将棋棋士が、対局を終えるとげっそりと、何キロも体重が落ちる」なんて話は実際よく聞くんですよね。
とはいえこれも、実際の研究データからはそこまでの熱量消費はないと断言できると言いますか、質量保存の法則的に、排泄とかをしない限り体重が突然落ちることなんて実際ありませんから、↓の知恵袋なんかでも言われている通り、まぁそれは都市伝説的なものの一種で、実際は水分が失われたとかそういう間接的な要因にすぎないのではないか、ってのが真相なのかもしれませんね。
とはいえ棋士のエネルギー消費が尋常じゃないのは間違いなく、実際「考えすぎると、とても疲れる」というのは我々自身、現実として経験していることですし、真のカロリー消費量についてはともかく、気分的にストレス緩和にもつながりますから、疲労を感じたら栄養補給と休息を十分とるようにしましょう、という無難な結論で今回も一区切りとさせていただきましょう。