大切な方のニコチン

前回の記事では、呼吸反応の最初のステップである「解糖系」の途中に出てくる重要物質、「グリセルアルデヒド 3-リン酸」(G3P)を、次のステップの物質に変換するための酵素であるGAPDHについて、このタンパク質は呼吸をする(反応を進める)上で極めて重要であり、生きている細胞であれば必ず合成されているものだからこそ、生体分子解析の比較対象=コントロールとしてよく用いられるのです……ということ、そしてそういう物質のことを「ハウスキーピング遺伝子」などと呼んでいます…なんてことをツラツラと語っていました。

(「タンパク質」は、DNAが3文字1組で指定する暗号=コドンでその配列が指定されるものであり、その文字列の並びそのものを「遺伝子」などと呼んでいる感じですね。)

 

これに関して、まぁあまりにも細かすぎて触れる意味もほぼないんですけど、逆に僕自身、専門としている立場でありながら何気に知らなかった話が調べていたら一つあったので、自分自身の備忘録を兼ねて、ちょっくらその話に脱線してみようかと思います。

 

こちら、日本の生命科学系研究の試薬(主に酵素類)で抜群のシェアを誇る我らがTaKaRaバイオが「ハウスキーピング遺伝子」についてまとめられている記事を目にしたのですが……

 

www.takara-bio.co.jp

 

…前回、「ハウスキーピング遺伝子」には色々あり、何を自分の実験で使うかはまぁお好みでしょう、などと書いていたわけですけれども、それに関し、その「選び方」についての簡単な説明をくれているのがこの記事ですが……

 

従来、ハウスキーピング遺伝子としては、GAPDH やβアクチンがよく用いられてきましたが、近年、これらの遺伝子も実験条件によっては変動するケースがあることが報告されています。 

 

…と、そんな記述が見つかりました。

 

これに続く説明文では、

 

1種類のハウスキーピング遺伝子では正確な補正を行うには不十分であり、現在、もっとも信頼性が高いとされている補正方法は、複数のハウスキーピング遺伝子を用いる方法です。

 

…などとありまして、生体分子解析の「比較対象」として用いるハウスキーピング遺伝子ですけれども、どうやら必ずしもハウスキーピング(=「細胞の活動そのものを家事のように常日頃管理している、常時一定の量が存在して働いているもの」を指してそういう単語が使われているのでした)的な挙動を示すとはいえないということが近年判明したとのことで、「1種類のコントロールを使うだけでは信頼性が足りません、複数示すようにしましょう」というのが令和時代の今推奨されている正しい姿勢のようですけど……

 

コントロールはあくまで比較のために示すものであり、重要なのは「自分の見たい遺伝子」の方ですから、まぁ正直メインかサブかでいったらサブ的な存在であり、そんなのを何種類も毎回チェックするとか面倒の極みですから、ぶっちゃけ、僕は複数のハウスキーピング遺伝子を解析するとか、面倒くさすぎてやりたくないにも程がありますね(笑)。

 

まぁ本当はコントロールこそ大事で、そこを軽視するやつの実験なんて信頼に足らないものだと言えますからそれは研究者として最悪の姿勢なんですけど(笑)、まま、大量のサンプルの解析をする際…例えば100サンプルあったとしたら、見たい遺伝子と、コントロールとしてのハウスキーピング遺伝子とで200個の解析で済む所が、もう1つコントロールを追加するとなると300個の解析を行わなくてはいけないわけで…

(まぁウェスタンブロットのように、各サンプルをゲルで流すだけならそこまであまり手間は変わらないこともあるものの、その他の解析で、例えば遺伝子ごとに別のチューブで反応を進める必要がある場合なんかは、単純に全く同じ反応をもう1セット余計にやらなければいけなくなることもある感じです)

…これは流石に、

「いや、1種類のコントロールでもまぁ、安定した結果は得られてるから……複数とか、勘弁しちくり~」

…と思えてしまうのが正直な意見かもしれません(笑)。

 

しかし、「ハウスキーピング遺伝子の量が安定しないこともある」ってのはあんまり聞いたことがなかったのですが(まぁ、たま~に、細胞とかによっては安定しないこともありましたけど、その場合は単純に補正をかける(=GAPDHの量に応じて、測定する量を変える=GAPDHを揃えたうえで、改めて見たい遺伝子を測定する、みたいな)形で進めることが多いです)、不安定になる例として、具体的には一体どんな話があるのでしょうか…?

 

タカラの記事では特に具体的な記述がなかったのですが、GAPDHに関して検索していたら、むしろタカラの記事よりこちらが先に見つかっていました、ハイクオリティな抗体を作るので有名な…

(抗体というのは、タンパク質検出技法であるウェスタンブロットなんかでよく使うものですけど、今でも動物に注射して作る・あるいは細胞に培養させて産み出すこともありますけれども、いずれにせよ生物に作らせるのが基本なので、上手い下手…ってわけでもないですが、作製者によって質に差が出やすい製品になっているのです。)

…と、補足が長くなったので仕切り直すと、高品質な抗体を作ってくれる会社として名高い、アブカム社の記事(ただ、アブカムは品質はいいですけど、お値段も張ることが多いので、僕はあんまり使ったことがないのですが…)に、関連の記述がしっかりと明記されていましたね(↓)。

 

www.abcam.co.jp

 

…まぁあまりにも細かい話になりすぎるのであえて細かい部分までの引用はしないものの、上記記事の「新たに見出された GAPDH の役割」としてまとめられている段落にある通り、2010年前後の論文をメインに、GAPDHには解糖系以外でも、ストレス応答や細胞死への誘導なんかにも関与していることが分かっていたそうで、特定の疾患をもつ患者の細胞ではGAPDHの合成が多くなったり少なくなったりする可能性も大いにあり得る…と、今ではそんなことが知られているようです。

 

僕はGAPDH抗体なんかも頻繁に使っていたくせしてそんな情報を全然追えていませんでしたが、まぁ、もしも「あまりにも細胞ごとにハウスキーピング遺伝子の量が違いすぎる、これじゃ比較対象として使えないよ…」という場面に遭遇することがあったら、この情報を思い出して都度対処しようと思えました…という形で、割と入門者向けの記事ではあまりにもどうでもいいレベルの脱線話を〆とさせていただこうと思います。

(まさしく、時間がなさすぎるための、単純な記事水増しでした(笑)。)

 

…と、今回もまたとみに時間がなく、記事タイトルにまでしたのに次のネタには深入りするまでの時間が全然ない感じで恐縮なのですが、アイキャッチ画像を捻り出すべく、名前だけ紹介だけして「詳しくは次回へ続く…」とさせていただこうかと思います。

 

次のネタとしては、G3Pから1,3-BPGへと変換する過程、例の細胞呼吸をまとめた一枚絵を改めてお借りしますと……

 

https://https://ja.wikipedia.org/wiki/細胞呼吸より

…左側・解糖系経路のちょうど真ん中、フルクトース 6-リン酸が真っ二つに分かれて2分子のG3Pとなり、そいつがGAPDHの力で1,3-BPGに変換されるステップでの話なのですが、ちょうど、両物質をつなぐ矢印の脇に、

2 NAD+ ⇒ 2 NADH

という変換も描かれているのが目に付くのではないかと思います。

 

この「NAD」(NADH)も、呼吸で出てくる超絶重要分子の一つでして、詳しくは上述の通り次回に持ち越しとするものの、こちらさんの名前がズバリ、「ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド」という、無駄に長いので普段呼びでは当然「エヌエーディー」と略称アルファベット表記がなされる、こんなやつなのでした(↓)!

https://ja.wikipedia.org/wiki/ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドより

 

そう、ニコチンという名がある通り、構造の一部にタバコでおなじみ、ニコチン類似構造(まぁ類似というか、名前の区切りとしては「ニコチンアミド」なので、ちょっと変形されたニコチンですね)を含むわけですけど、まぁ正直、ニコチンとは別に何の関係もありません(笑)。

 

単に、生きるために必須な呼吸に関与してくる、なければ生きていけないレベルの大切な分子だといえましょう。

 

そして、画像では別称の欄も開いておきましたが、別名(まぁ正直、そんな別名で呼ばれてる所は見たことないものの)「補酵素I」とある通り、むしろ補酵素の一種なんですね。

ぶっちゃけそこまで細かく見る意味も皆無なものの、果たしてこいつは何者なのか、次回軽~く触れてみようかな、と思います。

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