カットして、エネルギーをゲット

サプリとして一時代を築いたCoQから派生して、呼吸の話へと逸れていたのが前回の記事(↓)でしたが……

 

con-cats.hatenablog.com

 

…「呼吸」の分子レベルでの反応(「酸素を吸って二酸化炭素を吐く」という小学生レベルの話ではなく、有機物の分解にまで着目した、いわゆる内呼吸)についてグダグダと見ていたら時間が無くなってしまった結果、詳しい代謝経路に入る前の中途半端な形になってしまっていたので、早速続きから参りましょう。

 

ちょうど、「呼吸とはATPという分子を合成するのがその最重要目的である」みたいなことまで触れ終えていたわけですが、まずはそのATPについて……

 

ギリギリ↑のリンクカードのアイキャッチ画像サムネイルでも表示されている通り(ちょっと見切れてますが)、ATPの特徴は、リン酸基が3つ(分子の構造式でいう、左半分)つながっているというもので…

(その「リン酸基」については、まぁ画像にある通りなんですが、「リン酸」がH3PO4という化学式で表されるものになりますけど、他と手をつなげる状態のものが「官能基」なので、「リン酸基」であれば「H2PO4ー」と表される感じですけど、まぁ複雑すぎるので単に「P」(太字・大型文字;英語なら「ピー」ではなく「フォスフェート」って呼ばれるパターンですね)とか、もうちょい詳しくかつ一行で書くなら「>P(=O)−」みたいに表されることもありますけど、いずれにせよ酸素や水素はともかく、P=リンが主役のカタマリだといえましょう)

…DNAの成分塩基としても使われている「アデニン」と、5角形の糖「リボース」と、そして「リン酸基」が3つつながってるってことで、トリプルのTを使ってATPになるわけですけれども……

ここで、Pが2つなら「ダブル」(まぁ生化学的な接頭辞では「di」ですが、同じDですしね)でADP、Pが1つだと、「モノ」(モノレールとかモノクローム(白黒)とかでも使われる、mono=1ですね)でAMPと呼ばれるということも、それぞれまたこの後チラッと出てくる形になるため、一応触れておくとしましょう。

 

で、このリン酸基同士のつながりを形成している結合を「高エネルギーリン酸結合」などと呼んでおり、あらゆる細胞は、

「何かの反応を起こすために、エネルギーが欲しいな」

…と思ったとき、このATPのP結合を1つ切ることで、例えばちょうどこないだ簡単に触れていた筋肉の運動(アクチン・ミオシン各フィラメントの滑り運動)を起こしたり、原子と原子の結合を新たに作り出すあるいは切断することで化学反応を起こしたり(例:アミノ酸を延々とつなぎ合わせてタンパク質を作る工程など、要は「体を作る」のにも多量のATPが必要です)…などといった、パワーを必要とするあらゆる生命活動で使われるエネルギーをゲットしているのです……なんてことまでは、前回の記事で書いていた話でした。

 

まぁもちろん、ATP以外のエネルギー源を使っているものも少数あるっちゃあるんですけど、大多数の酵素・生体分子が使っているのがATPなので、「ATPはエネルギーの通貨である」なんてこともよく言われているわけですけど、要は細胞が何か特別なことをしたいときは、「金を払う」ならぬ「ATPのリン酸結合を切る」形でその生体反応・活動をやらせてもらっていると、そういえるわけです。

(そして、そのお金を作っているのが呼吸であると、そういう話になっており、「生きるためには金を稼ぐ必要がある」のが人間であるのと同様、「活動するためにはATPを作る必要がある」ってのが細胞・生命だともいえましょう。

 何事も、誰かに何かの仕事をしてもらうためにはタダではいかない、ってことですね。)

 

ここで、「なぜリン酸結合を切るとエネルギーが得られるのか?」という点が気になるポイントかもしれませんが、まぁこれはそうですね…

…厳密に語るにはやっぱり、大学教養課程で習う熱力学で習う、例の何度かどっかの記事で話に出したことがあった気もする、エンタルピーやエントロピー、そしてそれらをまとめあげて導かれる自由エネルギーについての見識が必要になるので、詳しくは省略させていただきますが、まぁ分かりやすく例えていえばそうですねぇ……

…ちょうど、ビヨーンと伸びるタイプのゴムを引っ張った状態で、ゴムを真ん中でチョキンと切ってやれば、「バチン!」と端を持っている人にダメージを与えるのは想像に容易いと思うんですけど…

(完全に単なる例え話なので、実際の分子のメカニズムを反映しているわけではないことにご注意いただきたいですが…)

…それと似たような感じで、ATPのリン酸結合をチョキンと切断してやれば、そこで「ゴムがバチン」みたいな「エネルギー」が発生する感じになりまして、細胞や生体分子はそのエネルギーを(ゴムパッチンで「痛ぇな!」みたいになるだけではなく(笑))、様々な運動・反応に有効利用できるようになっている…と、そういう話なんですね!

 

ちなみに、高校生物でATPについて学んだとき、死ぬほど分かりやすくまた面白い授業をしてくれることに定評のある僕の高校の生物の先生(ちなみに、僕が生命科学を専攻する道に進んだのは、まさにこの先生のおかげです)が、

 

「ATPのリン酸結合は『高エネルギー』なんていわれてるけど、実際の結合自体は別に高エネルギーではないからね。

 実際はもっと他の結合の方がもっと大きいエネルギーを持ってるんだけど、そういうのはエネルギーが大きすぎる=安定しすぎてて、切ることすらできないんだ。

 要は、ATPってのは、程よい加減のエネルギーを有してるから、切断も容易だし、同時に切ることで得られるエネルギーもちょうどえぇ塩梅だから、エネルギーを得るために使われてる、ってわけだね。

 だから、『高エネルギーリン酸結合』ってのはあんまりいい表現じゃくて、本当は『ちょうどえぇ加減エネルギーリン酸結合』みたいに考えた方が適切っていえるよ」

 

…などと教えてくれたことが今でも印象に残っていますけど、これはまさにその通りで、ちょうどゴムの例もそのまんま使えますが、例えばゴムよりも鉄の棒とかの方がはるかに強い結合といえるわけですけれども、ゴムは簡単に切れるけれども、鉄の棒だとそう簡単には切れないんですね。

逆に、細い糸でつながったようなものは、ゴムよりも簡単に切れる(まぁハサミを使えば似たようなもんかもしれませんが、物質の強度として)弱いつながりですけど、これは逆に結合が弱すぎて、切ってもまともなエネルギーすら発生しないということで、「ちょうど切りやすく、また生まれるエネルギーもそれなりに大きい」ということから、ATPのリン酸結合が、生体内で使う上でドンピシャ便利なものであった……と、そういう話になっている感じだといえましょう。

 

(まぁ鉄の棒の場合は、別に張力が発生してるわけじゃないので、仮に切断してもゴムよりエネルギーが発生するわけではなくない?…という話でもありますが、改めてあくまで例え話、って感じでご容赦いただければと思います。)

 

中途半端な例え話ではなく、より厳密に自由エネルギーの変化を知りたい方は(そんな人いないと思いますけど(笑))、検索したら非常に簡潔にまとまっていたPDF記事(年代が明記されていないのでいつの記事かすら不明ですが、巻号から恐らく1974年の『化学と生物』誌の「量子生物学の窓」というコーナーの記事かと思われます)が出てきました(↓)…

 

ATPの 高エネルギー結合

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kagakutoseibutsu1962/12/4/12_4_259/_pdf/-char/jaより、PDF形式の記事)

 

…こちらがそのPDFファイルで公開されている記事リンクになりますけど、やはり「ATPは高エネルギー結合ではない?」という節で、具体的な数値とともに、「ATPのリン酸結合の持つエネルギーは、そこまで特別ではない」ことが述べられていますね。

 

ただ、この解説記事によると、そもそも「ちょうど良い塩梅のエネルギーを持つ」わけですらなく、「エネルギー的にはかなりしょぼい値しか持っていない」というのがポイントのようですけど、それなのになぜATPがデカイ顔して生命反応のあらゆる場面に顔を出してくる超メジャー分子になっているかといいますと、ATP分解に必要とされるマグネシウムイオンの存在がキモであると、どうやらそんなことが書かれている感じのようです。

 

正味複雑すぎる話なので深入りは避けたい所ですが、究極的には「これを使うのが一番便利だったから、大腸菌から人間まで、あらゆる生物は活動するためにATPからエネルギーを得る形に落ち着いた」っていえる話であり……

…まぁその仕組みとかについては我々普通に生活するだけの一般人には正直どうでもよく、「呼吸ではATPを作り、我々はそのATPをスパッと切ることで、生きるためのエネルギーを獲得している」ってことを抑えておけば十分な話ではないかという気がします。

 

(というか、むしろそんなこと言ったらその話すら普通に生きて生活する上ではどうでもよく(笑)、ちょうど一連の分子レベルの四方山話を書く上で毎度書こうと思ってた点ですけど、ミクロのレベルのそういうATPとかアセチルコリンとか酵素タンパク質とか、そういうのを知ったところでマジで1ミリも実際の生活が良くなることはなく、本当に現実的に暮らしていく上で特に何の役にも立たないムダ知識でしかないんですけどね(笑)。

 それを知ったところでダイエットが効率的になるわけでも筋トレ効率が上がるわけでも別段なく(まぁ、自律神経系のバランスを意識するのとかは、睡眠の質や精神状態の改善に意味があるかもしれないものの…)、単なる雑学でしかないわけですが、「無駄な教養こそ、人生に彩りを与えてくれる…」と、強引にそうポジティブに考えていきたいものです(実際は別に彩りとかが生まれることもない気もするわけですが(笑))。)

 

…と、結局、予定していた詳しい呼吸経路の紹介にたどり着く前に、今回はATPの話だけで終わってしまいました。


呼吸の続きは次回に持ち越すとして、アイキャッチ画像ネタもなかったので強引にもう1つ画像を使えるネタを書いてみますと……

DNAという分子は、A, C, G, Tの4種類の塩基が何千何万、時には何億もつながってできている(ヒトの場合、1番染色体が約2億5000万塩基)と何度か書いているわけですけど、まぁ以前もこの話は分子生物学入門シリーズの最初の方で触れたことがあった気がするものの、アイキャッチに使ったことはなかったと思うので今回はその「DNAヌクレオチド同士のつながり」、専門用語で「ホスホジエステル結合」をペタッと貼って終わりとしましょう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/ホスホジエステル結合より

まさにこの通り、DNAというのは、前回から見ていたATPのリン酸基が2つ外れて、リン酸基1つの状態のものがつながった形になっていまして、五角形のリボースから出ている「5'」の位置の炭素からつながっているリン酸基が、次の五角形のリボースの「3'」の位置の炭素につながる…という順番も決まって並んでいるもので、この画像だと下から上にDNAの塩基(ヌクレオチド)が並んでいる形ですね。


ちなみに4種類の塩基の内、この画像でつながっているのは下からA-Tになりますけど(その前後は、点線で省略されている)、いわば、リン酸が1つの状態のものが延々とつながっている感じですから、この場合は

「…-AMP-TMP-…」

というDNAの鎖が表示されていると、そう言える形になっているといえましょう。

(まぁ、「AMP」や「CMP」は、「他とつながったもの」ではなく、「単独で存在している分子」を指して言うので厳密にはAMPではないんですけど、形としてはまさにAMP・CMP・GMP・TMPがズラーっとつながった感じになっているのがDNAだと、そう言える感じですね!)

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