混ぜるな危険

今回もまた、ベーシック(塩基)な話にまつわるご質問に触れていく形です。


例によってこちらもアンさんよりいただいていたコメントからの抜粋ですが、何度か書いていた通り、ご質問をいただいてから既にその後別口で触れていた話を含む場合もある感じになっています。

ちょうど特に今回のご質問なんかは、こないだ平衡の話(→お酢も、お酒も同じだよ)で既に見ていた話になりますけれども、せっかくなので復習がてらこちらも見ていこうと思います。

 

水でない液体…エタノールが例に挙がっていましたが、エタノールはpH9.4が中性で、酸性でもアルカリ性でもない…っていうか、エタノールにも酸性エタノールアルカリ性エタノールがあるということですよね?

うーん…何もピンときませんねぇ。とりあえずエタノールは忘れます笑

 

⇒まさにこれはこないだの酢酸やエタノールの中性について見ていた記事で説明していた話で、簡単にまとめると、例の「分かれたイオンそれぞれの濃度の積」は、平衡を形成している物質であればどれも一定の値を取るわけですけど、その値が、「25℃の水」でたまたま10-14だった=中性の水のpHは7になる(水素イオン・水酸化物イオンがそれぞれ等量=10-7ずつ含まれるので)…というだけで、酢酸やエタノールの「イオン積」はそれとは全然違う値であり、「分かれたイオンが等量=中性」のときの水素イオン濃度は、10-7 Mではない(エタノールの場合、10-9.4 M)というそんな話だった感じですね。

(あんまり簡単にまとまってませんが(笑))


ちなみに「エタノールにも酸性エタノールアルカリ性エタノールがあるのか?」という点については、これはまぁ何とも難しい所ですけれども、もちろん例えばエタノールに塩酸をドボドボ追加すれば、その溶液はかなり酸性になるため、いわば「酸性エタノール」と言えるわけですけれども、その実態は単純にエタノールと塩酸が同じ容器に存在しているだけで、正直それを「酸性エタノール」と呼んでいいのかどうかは甚だ疑問符がつくポイントかもしれません。


元々エタノールはこないだ見ていた通り、溶液内の分子がほとんどイオンに分かれておらず、水視点でいうと中性pH 7の物質であるため、基本的に酸や塩基とは反応しません。

(塩酸という液体を加えたら、混ざりはするけど単純に同じ場所に共存しているだけだといえますし、他にも、代表的なアルカリである水酸化ナトリウム、こいつは粒状の物質ですけど、これをエタノールの中に投げ込んでも、恐らくほとんど溶けないように思います。)


というかその「水視点でいうとpH 7」という表現も例によって「何やねんそれ」って話かもしれないんですが、結局この世界を構成するほとんどのもの(特に液体)は水であるので、「pH」といったら、「水素イオンと水酸化物イオンの平衡から考えられる、あの、いわゆる『pH』」と考えるのが普通であり、そう考えると、水基準のイオンバランスを念頭に置いているのに、水酸化物イオンを持たないエタノールのpH(水素イオン濃度)を指して酸性もアルカリ性もないでしょう…といえる話でもあるかな、と思います。

(こないだ見ていた通り、「中性のエタノールのpHは9.4」といえるわけですが、これは「水素イオンとエトキシドイオンのバランスを考えたpH」(=これを「エタノール視点での…」とか書いていました)のことであり、水視点のpHとは最早全然関係ない数値といえるわけですね。)


なんともややこしいですが、基本的には割と重要ではない(というとアレですが、「エタノールの液性を意識する必要のある場面はほぼない」って感じですね)ので、まさに忘れるのが吉かと思います(笑)。

 

では続いてのご質問に参りましょう。

 

必ずしも酸性=悪というわけではないというのは、わかりました。

胃の中もビオレも、周りの環境に合っているからOKということですね。なるほど…!という感じです。


ちなみに(ちなんでない気もしますけど笑)、「混ぜるな危険」は、酸性の洗剤と塩素系の洗剤を混ぜると有毒ガスが発生するという認識ですが、それって、水素イオン濃度による酸性とアルカリ性(塩基性)と、何か関係ありますか?

「酸とアルカリを混ぜると中和が起こり、塩(えん)が生まれる」ということですし、塩素系の洗剤っていうのがアルカリ性なら、発生する有毒ガスが塩…?となると、塩って有毒なの?っていう感じですけど…

まぁ、妄想の範囲です笑


⇒酸性が悪者うんぬんは、こないだの「周りの環境次第」という話以外にも、「酸性食品アルカリ性食品」なんてのも割とよく聞きますね。

とはいえこれは健康科学・栄養学独特の考え方で、信頼性に欠けるとまでは決していわないものの、厳密な議論は(他の多くの健康科学同様)やや難しい所もあるんじゃないかな、って気は個人的にするかもしれません。


Wikipediaにバッチリ記事があったので、気になる方はそちらを参考にしていただければと思いますが……

ja.wikipedia.org

基本的には、その食品そのもののpHはほぼ全く関係なく、「食品に含まれるミネラルのバランスを考慮して、消化した時に体内でどちらの方にpHが傾きやすいか?」というポイントで分類されているものですね。

具体的に一番よく聞くのは、梅干しは大量のクエン酸を含むなどそれ自身は当然酸性ですが、この観点の分類的には「アルカリ性食品」に属す食べ物になっている……という、まさかの酸っぱい代表の梅干しがアルカリ性食品であるという意外な感じです。


そして基本的に、酸性食品に分類されるもの(上記記事によると「肉類(豚肉、牛肉、鶏肉など)、魚類、卵、砂糖、穀類(米、酢、小麦等)など」と、正直魅力的なやつらばかり(笑))は健康に良くなく、アルカリ性食品(野菜とか梅干しとか、クッソしょぼいやつら(笑))をなるべく多く摂りましょう、という、まぁ何となくそりゃそうでしょうね、としかいえない形の話ですね。


僕は栄養学はモグリなのでまぁそれはその辺にしておくとして、続きの「ちなみに」以下の話、これはナイス「ちなみ」ですねぇ~(笑)


「混ぜるな危険」、これは日常に化学が根ざしている大変良い例だといえましょう。

 

これは重要な話&それなりに分かりやすい話(高校化学の範囲)なので、検索いただければ解説記事はいくらでも見つかると思いますが、ご質問のポイント「酸性の洗剤と塩素系の洗剤を混ぜると有毒ガスが発生する→水素イオン濃度による酸性とアルカリ性(塩基性)と、何か関係あるのか?」という点を踏まえて見ていくと……


まず答としては、「関係は若干あるっちゃあるけどそれは間接的なもので、直接的には関係ない」という感じになります。


ズバリ、「酸性の洗剤と塩素系の洗剤を混ぜると有毒ガスが発生する」のはまさにその通りなのですが、ここで関係してくるのは、実は酸塩基による中和反応ではなく、名前は似ているけれど全く別物の、酸化還元反応なんですね!


とはいえ、塩素系の洗剤はアルカリ性であることが多く、実際混ぜることで中和反応も起きているわけですけど、有毒ガス、この場合ズバリ塩素になりますが、塩素系洗剤から単体の塩素を発生させるというのは、中和反応では不可能で、塩素原子が酸化還元されなくてはいけない、という話になっています。


最も一般的な成分でいえば、塩素系漂白洗剤としては次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)に、トイレ用の酸性洗剤として塩酸(HCl)なんかが使われるわけですけど、これらの反応は総合するとこうなります。

NaClO+2HCl → NaCl+H2O+Cl2


ズバリ、アルカリの一種である次亜塩素酸ナトリウムと、代表的な酸である塩酸とが反応して、顔馴染みの塩化ナトリウムNaClという塩(えん)が中和反応で生じているわけですが、いうまでもなく、お塩自体は全く無害です。


ここで問題なのは気体の塩素Cl2であり、こいつが発生するのは、いわゆる酸化還元反応によってであり、あくまで中和自体はこの部分には無関係という形なわけですね。


酸化還元については、これも高校理論化学の大きな壁で、「電子のやり取りが行われる」「酸化数が変化する」という特徴があって解説するにはそこをどうしても避けて通れず、ベーシックな話で分かりやすく説明することは到底不可能であるため、流石に今回は省略させていただきましょう。


「酸性・アルカリ性」というのと「酸化・還元」というものについては、これはあまりにも字面が似ていることもあり、ごっちゃになっている方も多いように思えますが……

一応、「酸化還元反応を引き起こすために、溶液が酸性条件である必要がある」みたいな話も多々ありますし、基本的には酸性物質が酸化剤として作用することが多く、一方、塩基性物質は還元剤として働くことが多いので、その意味では間接的に「酸性アルカリ性も、(多少は)酸化還元に関わっている」といえなくもないですが、とはいえこれは全く絶対的なものではなく、例えば硫化水素は水に溶かすと弱酸性を示しますがこれは還元剤としても働きますし、(多少傾向として関連はあれど)「酸性・アルカリ性」と「酸化力・還元力をもつ」というのは完全に別個な概念になっているという方が正確ですね。

(そもそも「酸性・アルカリ性」は溶液の状態であり、「酸化・還元」は物質の変化なので、指しているニュアンスというかもの自体も全く異なるものとなっています。)

 

…うーん、せっかく触れていただいたものの、ちょっと時間もスペースもなくあまり深入りはできなくて残念ですが、これはナイスな脱線ネタでした。


最後のご質問、「塩って有毒なの?」は、とりあえずこの洗剤2種の混合で発生する塩(えん)は、まさかのご家庭で使うお塩でしかないので無毒極まりないんですけど(笑)…

(とはいえ、よく考えたら食塩も、体重60 kgの人で、わずか30 g程度摂取するだけで死に至る可能性もあるため、案外危ない物質とは言えるかもしれません……まぁ「お塩が危険!」なら、水も危険だし、この世に危険じゃないものなんてなくなりますけどね(笑))

…一応、塩(えん)にも普通に毒物は存在します。

 

一番有名な所でいえば、シアン化水素酸と水酸化カリウムが反応することで生じる………と、以前話に出したこともありますが、この2つの名前でどんな塩かは推測が付くでしょうか?


この辺の楽しい有機化学講座シリーズの記事(↓)で取り上げたこともありましたが…

con-cats.hatenablog.com

生じる塩であるシアン化カリウム、これはズバリ青酸カリですね!


いうまでもなく、こいつは探偵ものでおなじみ、わずか0.2グラムほど経口摂取すると死に至る、とんでもねぇ毒物として有名な化合物といえましょう。


塩も一枚岩ではないので、必ずしも毒性をもつわけではないけれど、微量で猛毒の毒劇物も普通に存在している、という感じですね。



…という感じで、割と面白い部分でしたが説明は端折らせていただくことになった酸化還元系のネタをメインに、今回も割といい分量になっていました。


またいつかタイミングがあったら、酸化還元のメカニズムも触れてみたいなぁ、と思えるものの、とりあえずここでは保留で次回はまた続きの質問を見ていこうと思います。


アイキャッチ画像は、そのまんま混ぜるな危険のいらすとをお借りしましょう。

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