今回から、めちゃくちゃナイスなご視点からの質問を含む、いただいていたコメントの方に順次触れていくといたしましょう。
『放浪息子』の英語版で中澤先生が発した「Nakazawa speaking.」に端を発する、電話応答での英語表現について色々見ていた一連の記事に対してのコメントですね。
コメントはどれも、例によって毎度大変丁寧なメッセージをいただけるアンさんからのものになります。いつも本当にありがとうございます。
コメントを受け取った後の記事で間接的に触れていた話もありますし、いただいたメッセージの内容全部に触れるわけではないですが、話が広がりそうなものはありがたく、逐一取り上げさせていただこうと思います。
既に結構な量があるのですが、順番に……
まずは、説明にまた質問系フォーラムサイトを引っ張ってくるのが良さそうであり、Q&Aの引用紹介をすることで結構な分量になりそうなネタから始めさせていただきましょう。
前々回の記事で触れていた、Wordreference.comの「電話―That's me / This is him /It's me」というスレッドについていた回答に関するものですね。
この記事に送られてきたコメントの中に、「これ(以下に貼る2つ目の回答)が、意味分からなかった」という旨のご質問がありました。
改めて、関連レスをコピペしておきましょう。
zaffy(ポーランド人):
では、以下の2つのパターン、プラス「It's I.」が選択肢として取れるってことなのかな?
A: Can I speak to Paul Smith?(ポール・スミスさんと話せますか?)
B: This is he. How can I help you?
B: Speaking. How can I help you?
B: It's I. How can I help you?
dojibear(カリフォルニア州フレズノ在住・英語(アメリカ北東部)話者):
B: This is Paul. Who is this?
B: Speaking. Who is this?
「I」も「he」も使う必要はないんだ。君は名前を知っているんだから。
このdojibearさんの説明を丸っとコピペされて、全体を指して「これは意味が分かりませんでした」とおっしゃられていたのですが、恐らく、日本語訳した部分は特に分からないということはなく、英文が「は?」という感じなのではないかと思います。
(一応、最後の文については、dojibearさんは返答として2例を挙げられていたんですが、「名前を知ってるんだから」というのは1つ目の例に関してのみで、2つ目の例文では名前が名乗られていないものの、まぁ色々見た限り、言いやすいこともありこれが一番よく使われてそうな応答なので、言いやすい返事の例としてついでに挙げられたのかな、って気がしますね。)
これ、当初このブログ記事を書いている時、「触れようかな」と思って、日本語訳も併記せずそのままにしておいた結果、そのまま何も触れずに忘れてしまっていたんですけど、ここでの疑問点は恐らく、
「『This is Paul. Who is this?』という文だと、『こちらはポールです(*)。こちらは誰ですか?』と言っているように思えて、意味不明すぎ」
…って話ではないかと思います。
(*注:電話対応の流れ的に「私がポールです」の方が文脈上正しい返答ですけど、今はthisを対応させるために分かりやすくそう書いてみました。)
ちょうど同じスレッドのネイティブによる他の回答でもタイプミスと思しき点があったので、一瞬「間違いでは?」と思えるかもしれないんですけど、こんな単純な文でそれも2回も連続でミスするわけはなく、これはズバリ、この形で、「私がポールです。そちらは誰ですか?」という意味になるという文だったんですね…!
結局の所、改めて、「電話の『this』はちょっと特別なんだ」って話になると思うんですが、ちょうどこれに関して、またも非常~に面白く濃密な説明がなされているフォーラム記事があったので、そちらのやり取りを丸っと翻訳紹介させていただくといたしましょう。
今回はWordreference.comではなく、StackExchange.comの英語学習者フォーラムからの紹介ですが……
こちらは、回答以外にもコメントが付けられるタイプのフォーラムのようで(ちょうど、「はてな」っぽいシステムでしょうか)、回答も分かりやすい説明でしたがコメントにも非常にナイスな説明が多かったので、サイトで表示されている通りの順番で、質問→コメント→回答という流れで引用しておこうかと思います。
npst(質問者、恐らくドイツの方):
電話のやり取りで、こんな風に始まる例があると思うんだけど…
\リーンリーン/
アリス:Hello, who is this?(もしもし、どちら様ですか?)
ボブ:Hey, Bob here. Is this Alice?(やあ、ボブだよ。そちらはアリスかい?)
アリス:Yes, indeed.(うん、そうだよ。)
ちょうど、学校で、自分の近くにあるものにはthisを、遠くにあるものにはthatを使うことを習ったんだ。
ここで「who are you」ではなく「who is this」を使うのは、何か理由があるんだろうか?
この方が丁寧に聞こえるとは思うんだけど、どうしても文法的にぎこちない感じがしてしまうんだ。
(コメント1)
J.R.(上位0.1%に位置する、超高評価回答者):
「Who is this?」は慣用句的表現で、「Who is on the other end of this phone conversation?(この電話通話の、相手側にいるのは誰ですか?)」と尋ねる方法なんだよ(あるいは、より堅苦しく表せば、「With whom am I speaking?(私が会話している相手はどなたでしょうか?)」となるね)。
面白いことに、電話では「Who's this?」と言うんだけど、玄関先では「Who is it?」(あるいは、「Who's there?」)と言うね。
npst(質問者、J.R.さんへの返信):
そう、その「面白い」部分が、この質問をするきっかけだったんだ :)
Damkerng T.(上位0.65%の超高評価回答者、このコメントへの返信):
目隠しをされたと想像してみよう。そして誰かがあなたの肩に触れ、「大人しくしろ」と言ったとする。君はどちらの質問をするだろう:「Who is this?」か、それとも「Who is that?」かな?
(コメント2)
James Waldby - jwpat7(上位3%に位置する高評価回答者):
個人的には、「Who is this?」は実質的に「Who am I?」と同じだとみなせてしまうので、代わりに、「Who's calling, please?」と言うことをオススメしたい。
Tristan(上位17%の高評価回答者、このコメントへの返信):
というか、全体的にぎこちない感じがするよね。
そんな風に電話を始める人は聞いたことがない。
anongoodnurse(上位14%の高評価回答者、このコメントへの返信):
この電話のやりとりは、私にとっても奇妙に聞こえたので、付け足したい。
通常、電話に出た人は、「Hello...」とだけ簡単に言うか、あるいは「Hello; (this is) Alice speaking.(もしもし;(こちら)アリスですが)」と名乗ることもあるかもしれない。
そうすると、続いて電話をかけてきた人が名乗るので、会話が成立するんだね。
名乗らない人はあまりいないと思うけど、名乗らないときは、「Who is this?」か、もっと丁寧に「Who am I speaking to?(私が話しているのはどなたでしょう?)」(本来はwhomなんだけど、日常会話ではこれでOK)、あるいは、「May I ask who's calling?(どちら様でしょうか?)」と言って、完全に全く問題ないよ。
(コメント3)
The Photon(上位2%に位置する高評価回答者、当時とユーザーIDが変わっているようで、どの人に向けて返信しているのかは不明(恐らく一つ上のanongoodnurseさんに…?)):
Susanさん、もしwhomを使うなら、語順も変えた方がいいかもしれないね:「To whom am I speaking?」と。でも学習者に向けては、もしアメリカ英語を学んでいる人であれば、whomは完全に無視して、whoだけを使うのが良いね。
(コメント4)
user230(退会済み):
個人的にはもっと丁寧に、「May I ask who's calling?」などと言うことをお勧めするけど、それはあくまでも丁寧さを理由とするもので、「Who is this?」だと誤解する人がいるかもしれない、という理由では決してないよ(正直言って、そんな人がいるとは思えない)。
(回答として投稿された書き込み)
Mari-Lou A(上位0.89%の超高評価回答者):
確かに、「this」と「that」は、距離の関係で相対化される語だね。でも、電話通話の場合、その距離は隠喩的なものになるんだ。
電話の場合、「this」は話している相手になる、っていうことだよ。
もし、電話の後ろで誰かが話しているのが聞こえたら(つまり、相手方の電話口からも遠く離れた声)、「Who's that?(その声は誰?)」と言うことができるけどね。
npst(質問者、この回答への返信):
この回答は、なぜ「that」ではなく「this」なのか、上手く説明してくれているね。
でも、もし実際に直接顔を合わせてる人で、その人が誰なのかわからない場合、決して「Who is this?(こちらさんは誰ですか)」なんて聞かないと思うんだ。
なぜ電話ではこれが一般的なんだろう?(どなたでも自由に答えを広げてね :))
…と、残念ながら最後の質問者さんの疑問から話が広がることはありませんでしたが、やっぱり改めて、「電話の応対文は、時に特殊」の一言に尽きそうですね。
いずれにせよ、めちゃくちゃ分かりやすい回答&説明群でした。
僕も、電話口でのthisは本当に特別なワードで、「Who's this?(相手に向かって、「どちら様ですか?」)」と言うことがあるのは知っていましたが、最初の方のコメントの「玄関口だと、これは『Who is it?』になるけどね」というのは、非常~に面白いと同時に、今まさに書いた通り、やはりどんなやり取りでも、場面場面に応じて、言い回しに対して特別な使い分けがあり得るんだという、とてもいい例に他なりませんね。
この辺も本当に理屈ではなく、「誰も理由は知らないけど、なぜかみんなそう言う。そんなこと考えたこともなかったけど、そう言われれば実際、俺もそう使い分けとる」という話なんだと思います。
何か日本語でこれに当たるいい例はないかな…と考えてみましたが、これはまぁ結局こないだの「は」と「が」みたいな、「ルールは明文化できないけど、ネイティブなら無意識に絶対使い分けできてる」パターンになるだけのような気がするので、似たような話になっちゃいそうですね。
(例えば敬語として頭に付ける「お」と「ご」とか、絶対に「おあいさつ」ではなく「ご挨拶」と言えるし、「ごはなし」ではなく「お話」などなど、これもルールなんて全く知らんけど、なぜか誰でも正しく使い分けできる例の筆頭ですね。
実際ルールはありますが(和語には「お」、漢語には「ご」が付くのが原則)、そんなルールなんて実際使うときはぶっちゃけ一切意識しませんし、そのルールの例外語ですら正しく使える以上(「ゆっくり」という和語を、そのルールに従って「おゆっくり」などと言う人は誰もいない)、もうこれは「経験上身についてる」の一言かと思います。
「電話口で『Who's this?』って、何か聞く」っていうのも、それに近いものだといえましょう。)
…その辺の「使い分け」に関して、もうちょい話を広げてみようかとも思いましたが、脱線しすぎですし、またいつか似た機会があったらいずれ……にいたしましょう。
いただいたご質問はまだまだ面白いものがあるので、次回以降も続けて見ていこうと思います。
(例によって、アイキャッチ画像は、また「何か笑えた」いらすとやの電話イラストより……デカすぎでしょ(笑))