付録の章の続き、今回は、キャラクターの関係性についての分析のようです。
大変面白そうですね。
画像は記事内に存在していたので、今回のトップ画像はそちらという形でいきましょう。
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That Type of Girl(そっち系のひと)
志村貴子『青い花』に関する考察
著/フランク・へッカー 訳/紺助
(翻訳第40回:239ページから242ページまで)
付録2:登場人物の関係性
前述の登場人物索引は、『青い花』に登場するキャラクターのガイドとして機能するだけでなく、この漫画の別の側面を分析するのにも役に立つ。例えば、ある登場人物が作中でどの程度頻繁に出てくるか、そのキャラが他の登場人物とどのように関係しているか、そしてその関係がどの程度強く描かれているか、といった分析である。付録1の登場人物索引は読みやすさのために短縮してあるが、こういった問いかけに対する分析を行うために、省略なしの完全版の索引を用いることとした*1。
まず最初に思い浮かぶ質問はこんなものであろう:『青い花』では、各登場人物がどの程度他より目立って描かれているのか?例えば、あきらよりふみの方が登場回数が多いのか、あるいはその逆なのか?また、京子についてはどうだろう?ふみとあきらに比べて、どれくらいの頻度で登場するのだろうか?こういった疑問には、各登場人物が登場するページ数を数え、最も多くのページに登場するキャラクターを確認することで答えていくことができる*2。
分析の結果、ふみとあきらはほぼ同じ頻度で作中に登場し、ふみの方がやや優勢であることが分かった。この二名は、全体の約半分に登場している。次に目立つのは京子で、全体の約四分の一、つまりふみやあきらの半分程度登場する。恭己は全体のおよそ六分の一ほどのページで登場する。それ以外の登場人物は皆、10ページに一回未満の割合での登場である。(1〜2ページしか登場しないキャラもいる。)*3
また、索引を用いることで、登場人物同士の関係も分析することができる。ここでは特に、二人の人物が同じページに登場する場合、その二人を互いに関係があるとみなすことにした。
この基準は誰が見ても同じになるような、完全なものではない―例えば、あるページには、ある登場人物の集団が登場するコマが一つか二つあり、その後、別のキャラクターが登場するコマに移行することがある。しかし、そのような例が比較的少ないのであれば(私はそう思う)、この方法によって見出された「関係」は、漫画の中の実際の関係に比較的近く対応することになるであろう。この登場人物索引には、82名の「登場人物」が存在する。(「藤が谷の初等部児童たち」のような集団に対応する項目もある。)もし各登場人物が少なくとも一度は他の登場人物と一緒に登場するとしたら、作中で描かれる「関係」は3000を超えることになる。しかし実際には、ほとんどの登場人物は、同一ページで数名のキャラと一緒に登場する程度である。登場人物がセットで1ページ以上に登場する例は400にも満たないので、この漫画で描かれる「関係」の数は、あり得るパターンの十分の一程度に過ぎない*4。
また、どの登場人物が他のキャラと関係を持っているかということに加えて、その関係が漫画の中でどの程度重きを置いて描かれているかということも知りたいと思う。この、二人の関係の重要性を示す代用指標として、二人のキャラが一緒に登場するページの数を用いることとする。
ご想像通り、ふみとあきらの関係が、最も優勢で重きを置かれたものであることが分かった。この二人は、作中のほぼ三分の一のページで一緒に登場している。また、あきらと京子並びにふみと恭己の関係がそれに続く優勢度を占めているものの、作品全体の内、十分の一以上を占める関係性は他に存在しなかった*5。
最後に、『青い花』の複数の登場人物たちの間に広がる関係性も、図の形で表すことができる。これもまた、登場人物が互いに何らかの関係を持つことを示す代理として、一つのページに一緒に登場した数を用いる。このようなグラフの作り方は色々と考えられるが、最初に示したグラフは、その一例である*6。
しかし、『青い花』の完全な「社会的グラフ」は、作中で表現され得る全ての人間関係を抜きにしても、あまりに乱雑すぎて読みにくい。従って、上のグラフでは、作中で目立つ(つまり、登場するページの数が多い)上位16名の登場人物間の関係だけを示している。また、各登場人物のラベルの大きさは、それぞれの登場人物の優勢度に関係しており、予想通り、あきらとふみが最も突出した形で登場していた*7。
各登場人物の結び付き方は、その関係の優勢度を反映しており、より強い関係を持つ登場人物同士はより近くに配置されている。ふみとあきらの関係が最も顕著であるため、グラフ上でも近くに表示されている。
実線は上位20%、破線は下位80%に位置する関係優勢度を表している。また、優勢度の高い関係ほど、線が太くなっている。
あきらとふみ以外にも、他より優勢度の高い関係性のクラスターが存在している。あきらと母および兄;ふみと母;京子と康;モギーとポンとやっさん;恭己と京子とふみとあきらなどである。また、あまり目立たないが、恭己、和佐、各務先生という関係もある。
こういったクラスターは、漫画を読んだ人なら誰でも直感的に理解できるだろうが、より正式な分析によって確認することは有用であろう。また、このような分析によって、一見して必ずしも明らかではない他の登場人物間のクラスターを明らかにしたり、『青い花』に関する他の事柄を発見したりできるかもしれない―例えば、直接的にはつながっていない登場人物をつなぐ関係性の連鎖などだ。しかし、更なる分析は、私が今回の分析に用いたコードを再利用したり、応用したりできる他の人に任せるとしたい。
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非常に楽しいデータでした。
なんと、あーちゃんよりふみちゃんの方が、微妙~に登場ページ数が多いんですね…!
とはいえこれはどう考えても意図したものではなく、たまたま数えたらそうなっただけだと思うので、青い花はやはりあーちゃんふみちゃんのダブル主人公とみなすのが王道にして正道といえましょう(←あーちゃん派の意見(笑)。もしあーちゃんが上回っていたら、「やっぱり青い花は、あーちゃんの物語だったんだよ!(ナ、ナンダッテーッ」と調子に乗っていたと思われます(笑))。
記事中の脚注にもリンクがありましたが、そのリンク先にも、詳細データとともに分析にまつわるもうちょい細かい面白そうな話がまだいくつか載っていたので、本書を終えたら、またまた「おまけのおまけ」として、そちらにも触れさせていただきましょうか。
一応、登場回数上位16位は画像の通りで、17-20位まで掲載の表がありましたが、そちらは姿子さん、織江さん、公理さん、加代子さん(京子の母)と続く感じで、もうかなり脇役感はあるかもしれませんね。
またその内この分析ページに触れる際、改めて色々見させていただこうと思います。
*1:Frank Hecker, “Relative Prominence of Characters and Their Relationships in Takako Shimura’s Sweet Blue Flowers,” RPubs.com, March 7, 2022, https://rpubs.com/frankhecker/874648. 省略なしの登場人物索引は本書の公開ソースリポジトリで公開されている;詳細は奥付参照。
*2:この分析では、各巻の表紙および巻頭2ページのカラーカバー、並びに各エピソード冒頭付近の、物語に関係のない扉絵ページなどは省いている。また、各巻に収録されている人物紹介やあとがきのページも考慮に入れていない。
*3:Hecker, “Relative Prominence of Characters.” 全体の内、ふみは52.1%、あきらは49.4%、京子は23.1%、恭己は16.5%のページ数で登場する。「中央値のキャラクター」は、わずか7ページ、つまり作品全体の約0.5%にしか登場しない。
*4:Hecker, “Relative Prominence of Characters.” 理論上、索引に含まれる82名の登場人物は、他の81人の誰かと一緒に同一ページに表示される可能性がある。この2つの数字の積は6642である。しかし、重複を避けるためにこの数字を2で割らなければならないので、3321通りの「関係」が考えられることになる。本索引によると、少なくとも一つのページで一緒に登場する登場人物たちの数は350例である。したがって、作中で実現されているのは、可能性のある関係性の内、わずか11%となる。
*5:Hecker, “Relative Prominence of Characters.” ふみとあきらは30.3%、あきらと京子は9.7%、ふみと恭己は8.8%の割合で一緒に登場する。
*6:Hecker, “Relative Prominence of Characters.” こちらのグラフは,フラクターマンとレインゴールドの力学的アルゴリズムによって作成され,ノードとエッジの優勢度は,それぞれ登場人物とそのペアの登場ページ数の対数で計算されている。 Thomas M. J. Fruchterman and Edward M. Reingold, “Graph Drawing by Force-Directed Placement,” Software: Practice and Experience 21, no. 11 (November 1991), 1129–64, https://doi.org/10.1002/spe.4380211102
*7:グラフを作成したプログラムにより、各ラベルは、可読性を高めるために一定の最小サイズより強制的に大きくなっているため、登場人物間の優勢度の差は、ラベルの大きさが示すよりも更に顕著になる。