青い花の同人誌『That Type of Girl』日本語訳その26:温泉回

今回で英語版第三巻パートにあたる残り2セクションを終えようと思っていましたが、案外2つ目のがかなりのボリュームで、こりゃちと長すぎるな…となったので、やっぱり1セクションずつで二回に分けさせていただきましょう。

 

-----Frankさんによる今回の章のタイトル解説・訳-----

"Hot springs episode": このタイトルは、「エピソード」という語を「ある出来事」という一般的な意味で使用しており、ここでは特に、ふみが旅館の風呂で気を失い、日向子に話しかけるという一連の出来事を意味している。

また一方、ここでは「episode」を「あるアニメのエピソード」という特別な意味でも使っており、この場合は高校生が温泉 (onsen) を訪れるアニメ的エピソードを指している。欧米のファンは、こうしたものを、アニメの「the hot springs episode」(温泉回)、「the beach episode」(ビーチ回)などと表現する。

日本のファンにも同じような表現があるかどうかは分からないが…(もしあったとしても、その用法での言葉遊びが日本語で通用するかどうかは分かりかねる)。

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まさかの、「温泉回」的な言い回しが、英語にもあったとは…!

Frankさんは日本語にあるのかどうか不安がっていましたけど、むしろこれは、多分日本のオタク的言い回しが、英語のアニメファン界隈にも広がったんじゃないかって気がしますねぇ~。

辞書にもちゃんと定義されていて笑いましたが……

www.weblio.jp
…って、こないだの「洋モノ」「和モノ」然り、このWeblio辞書ってよく検索でトップに出てくるのでオンライン辞書の重鎮かと思ってたんですけど、案外そういう現代用語の基礎知識的なものも網羅してる俗な辞典、って感じなんですかね…?


ちなみに、当然日本語でも「温泉回」「水着回」などいう感じで色々使われますが、似たフレーズで僕が一番印象に残ってるのは、何のアニメか覚えていませんけど(そもそもアニメ自体は観たことなく、知ってるのはこの言い回しだけ)、「謎のサッカー回」という言い回し、これがめっちゃ面白くて「○○回」と聞くとついつい思い出しちゃいますね。


基本的に人気テコ入れとかネタ切れでやむなく受けのいいテーマを…というニュアンスも若干漂うのが「○○回」ですけど、記憶にある限り、全くサッカーやスポーツと関係ないアニメでいきなりみんなでサッカーを楽しむ回が差し込まれたという、マジで謎過ぎて笑えてくるやつなんですけど、僕が見たのはまとめサイトでしたし(タイトルが面白そうすぎて、知らないアニメだけどクリックしました(笑))、かなり話題になってたので流石にネットに情報は残っているでしょう……検索したら(「謎のサッカー回」というキーワードだけで(笑))、当然出て来ましたね!

detail.chiebukuro.yahoo.co.jp
謎のサッカー回は、『交響詩篇エウレカセブン』というSF・ロボットアニメで唐突に挟まれた謎回だったということで、ちょっと興味が出て来たというか、どんな唐突さだったのか、正直観てみたくはありますね(笑)。
(まぁそれ抜きにしても、割と名作っぽいので、いつか鑑賞してみたい限りです。)

 

…と、今回の本題のセクションはやや短め(次が2倍ぐらい長い)だったのでしょうもない雑談に逸れちゃいましたが、タイトルに戻ると、まぁ「温泉回」という語は「特定の出来事」という意味を内包しているわけではないのでダブルミーニングにはあんまりならないですけど、「温泉回」は全てを包含しますからね、今回のタイトルは「温泉回」一択といえましょう(笑)。


画像は……あぁーっと、日本語版6巻のお試し読みは結構なページ数が用意されており、まさかの温泉回・裸のあーちゃんやふみちゃんが出てくる場面まで公開されてるぅ~!

…とはいえやっぱりその目玉シーンは、無料お試しで消化するようなものではなく、ちゃんとお手元に本を用意してご覧になっていただきたい神々しいものですから、貴重なシーンを恥ずかしげもなくペタペタ張るのは控えるといたしましょう。

ま、僕ももう、裸を見てキャッキャするような男子中学生なんかではありませんからね、このブログは、もっと真摯に真面目にやっていきたいわけですよ(こないだ伊豆の踊子の裸シーンを熱心に探してたやつの言う台詞かよ(笑))。


そんなわけで、今回は日本語版6巻表紙画像=英語版3巻の裏表紙掲載の画像を拝借させていただきましょう。

英語版3巻裏表紙、https://www.amazon.com/dp/1421593009/より

正直、初めてこの表紙を見た時は「誰やこいつら?!井汲さんとあーちゃん…じゃなくねぇか…?新キャラか!?」と思ったんですが、まさかの、若い頃のヒナちゃん織江お姉ちゃんだったんですね!

今回の温泉回では、この二人も大活躍です。

ヒナちゃん&お姉ちゃんの、妙齢のゴールデンお姉さまペアと温泉とか、行ってみてぇ~!俺も混ぜてよ(笑)(…って結局男子中学生レベルの思考じゃねーか(笑))。

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That Type of Girl(そっち系のひと)
志村貴子青い花』に関する考察

著/フランク・へッカー 訳/紺助

 

(翻訳第26回:147ページから149ページまで)

温泉回

第一巻の『嵐が丘』公演後と同じく、藤が谷の生徒たちは『鹿鳴館』公演後の学校の休みを利用して、束の間のバカンス旅行に出かけることとなった。今回は、大野春花の力添えで、温泉旅館を経営している春花の祖父母が、孫の春花と、藤が谷だけでなく松岡の友人たちも含めて皆を喜んで招待してくれた(『青い花』(5) pp. 139-41、(6) pp. 16-18/SBF, 3:141-43, 3:196-98 )。

 温泉 (onsen) 巡りは、高校を舞台にしたアニメや漫画の定番だ。ここでは大抵、ティーンの少年たちが、風呂に入っている同級生の少女たちを一目見ようと、様々な策略を巡らすおふざけ的な展開が許容されている。通常、少女たちの裸には都合よく配置された湯気が渦巻いている―その湯気は時々、アニメのDVDやブルーレイディスクの発売時には、不思議な力で消えていることもある。

 この『青い花』でも、志村は『マンガ・エロティクス・エフ』の読者(そして我々)にある種の「ファンサービス」を提供しているが、このエピソードの意義は、単なるちょっとした興奮以上のものにあると私は考えている。志村はふみの裸体を描くが、それはあきらの視点から描かれているのだ(『青い花』(6) pp. 24-6/SBF, 3:204-6)。

 あきらは、ふみが千津と性的関係を持ったこと、およびあきらと肉体関係を持ちたいと語っていたのを聞いている。しかし、それが意味する現実を、あきらはこれまで突きつけられてこなかった。あきらの気恥ずかしさや戸惑いの裏に、女性の身体に肉体的な魅力を感じている自分がいることに気付いたあきらの姿を感じ取ることができるといえよう(「ご ごめ ごめん  ふみちゃん きれいだから みとれちゃったの」)。しかし、その気持ちをどうしたらいいのか、あきらにはまだ分からない。

 ふみにもあきらの裸を見る機会はあったが、ふみにとってそれより重大な出来事は、温泉に長くつかりすぎて、風呂上がり、のぼせるほどに湯あたりしてしまったことである。ベンチで倒れている所が、付き添いの山科日向子と大野織江の目に留まった(『青い花』(6) pp. 34-7/SBF, 3:214-17)。

 ふみは藤が谷に通っていないため、日向子のことは知らない(彼女もふみを知らない)。しかし、春花と友達になっていたことから、春花の姉の織江に恋人がいることを知っており、その恋人が日向子であることをふみは察知する(『青い花』(4) p. 150/SBF, 2:330)。そのため、ふみは、比較的見知らぬ人にあたるが、ふみが経験していることを理解し親身になって聞いてくれるかもしれない人に、相談を持ちかける機会を得たわけである((6) pp. 38、45-7/3:218, 3:225-27 )。

 エリカ・フリードマンは、百合の主人公にとって重要なのは「安定した(レズビアンの)関係にある成人女性の例…(中略)…アドバイスをもらえる人、それから…(中略)…ロールモデル(が身近にあること)」と指摘している*1。ここでキーワードになるのは「安定した関係」である。言い換えると、日向子には既にパートナーがおり、ふみに対して恋愛感情や性的関心が全くないのである。このことは、他の百合作品やエス作品が、年上の女性が年下の女性を求めて誘惑するのとは明らかに対照的である。

 例えば、日向子のふみに対する振る舞いを、吉屋信子の『黄薔薇』における葛城みさをの礼子に対する振る舞いと比べてみるとよい。飾り立てられた言葉と最後の失恋によってあいまいになっているが、『黄薔薇』は、要するに、教師が自分の年齢と立場とを利用して、自分の担当の年下の生徒と恋愛関係を結ぶという物語なのである*2

 しかし、日向子は、ふみに対して、以前他の生徒に対して取ったような良心的な態度を繰り返し、教師が生徒に対して取るべき振る舞いをしている(『青い花』(3) p. 167/SBF, 2:167)。(このことは、『青い花』の他の登場人物にも当てはまる:例えば、各務先生と恭己のように)。作中では、日向子がふみにどのような助言をするかについては言及されていないが、日向子はふみに二つの重要な質問を投げかた:「万城目さんはその子(あきら)とどうなりたいの?」「恋人になりたい?」。言外に秘められた思いは、「あなたとあきらは、織江と私のようなカップルになりたいの?」というものであろう(『青い花』(6) p. 63/3:243)。

 日向子と織江が高校で同学年であり、織江が年上の姿子に片思いしていたのが終わった後に交際を始めたことは以前見ていた通りである(『青い花』(3) pp. 160、163-4、168/SBF, 2:160, 2:163-64, 2:168)。ふみはこのことを知る由もないが、二人の状況は、ちょうど、ふみが恭己と別れた後のあきらとふみの状況に似ているといえる。

 しかし、ふみは、日向子と織江が、卒業後も関係が継続している二人の女性であることをまさに目の前で見ており、このことはふみに影響を与えている。このエピソードが終わって次の場面で、ふみは日向子と織江のことを思い出し、自分もあきらとともに、同じような関係になりたいと考える。あきらが起きていることに気付かず、自分の気持ちを声に出してしまい、あきらからの返答に逆に驚くこととなる。あきらのふみに対する気持ちは、ふみのあきらに対する気持ちとは違うが、そこには何かがあるのだ。その何かは、あきらにデートをしたいと思わせ、二人の関係が次にどこへ向かうのかを探ろうと思わせるほど大きな意味を持つものであった(『青い花』(6) pp. 66-76/SBF, 3:246-56 )。

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

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いやぁ~、大変重要な回で、それこそ漫画の方は特に何度も読み返したくなってしまいますね!

…とまぁ中学生レベルの冗談は抜きに(もちろんサービスシーンどうこうはなしでも、読み返したくなるのは本当ですが)、軽く読んでいた時はそこまで意識もしなかった気がするものの、ヒナちゃん先生と織江お姉ちゃん(まぁ登場回数的にやはりヒナちゃんがメインではありますけど)の存在・頼れる大人(もちろん百合カップルという面も込めて)がいてくれるという事実は、この作品において非常に意味があり、かけがえのないキャラクターということができましょう。

(なお、上では「お姉ちゃんズに混ざって温泉行きてぇ~」とか書いてましたが、これは話を盛り上げるためにややネタで書いている向きも多分にあるので、話半分に受け取っていただければ幸いです(…地味に、あんまり温泉に進んで行きたいと思う方ではない、インドアマンってのもありますしね。まぁ、実際あの二人と温泉に行くとかなったら、それはやぶさかではないですけど(笑))。)


そんなわけで魅惑の温泉回、画像もなしに恐縮でしたが、今更ですけど改めて、単行本をお持ちでない方はぜひぜひお手に取っていただきたい限りですね…!

これだけの深くしっかりした考察がなされるに値する、素晴らしすぎる作品であることはもう語るまでもないことといえましょう。

次回からも恐らく考察話はますますハイボルテージになっていくと思われますが、じっくりと楽しませていただこうと思います。

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*1:Erica Friedman, Review of Yagate Kimi ni Naru, vol. 3, by Nio Nakatani, Okazu (blog), January 26, 2017, https://okazu.yuricon.com/2017/01/26/yuri-manga-yagate-kimi-ni-naru-volume-3-%e3%82%84%e3%81%8c%e3%81%a6%e5%90%9b%e3%81%ab%e3%81%aa%e3%82%8b

*2:Yoshiya, Yellow Rose, chap. 2. 葛城は22歳であり、初めての教室担当で17歳の礼子と出会う。物語が始まったとき、葛城は既に大人であるわけだが、吉屋は繰り返し彼女のことを少女と呼ぶことで、その印象を軽くしている(例えば、「この少女みさを」のように)。