何てこった!女性にも不倫遺伝子があっただなんて…!

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前回は、AVPR1Aとかいう不倫遺伝子(前回の論文では「嫌婚遺伝子」の方が適切でしたが)の中に特別なタイプ(334という名前の遺伝子配列)が含まれていると、男性が特定のパートナーとつがいになることを嫌うようである、という研究を紹介していました。


特にその効果は334タイプを2つ(人間には同じ遺伝子が2つある…父由来のと母由来。その両方が334タイプということですね)もつ人で強くなる(統計学的に有意な差で)ということでしたが、僕はまぁ何の信憑性もない自己申告ですけど、334タイプ遺伝子を1つも保有しないタイプだと思われるので、自分の子供は絶対に「334タイプ2つ保有者」にはならない(なれない)という形になります。

ちょうど、僕は血液型がO型なので、子供は絶対にAB型になれないというのと同じ話ですね。


ということで、もし「浮気遺伝子」や「嫌婚遺伝子」みたいなものが本当にあるのだとすれば、そんな具合で、一応浮気しやすさや結婚に積極的かどうかみたいな性格も、遺伝するという仕組みであるといえましょう。

結局、性格というものは環境要因も大きいですが、遺伝子だって(当たり前ですけど)性格の決定に何らかの作用はあるということですね。


そう、前回の論文では「統計学的に、『この遺伝子をもつ人は結婚したがらない』ということはほぼ確実に断言できる」という説がデータで示されていたわけですけど、もう少し調べてみると、他にも面白い話が見つかりました。

前回は、「嫌婚遺伝子に334配列をもつと結婚に消極的になるのは、男性のみ」とされていたのですが、「女性はどうなの…?そういうの、ないのかな…?」と好奇心で深追いしてみた所、スゲェそれっぽいタイトルの論文がありましたね…!

それがこちら…

pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
「Genetic influences on female infidelity and number of sexual partners in humans: a linkage and association study of the role of the vasopressin receptor gene (AVPR1A)」

…というタイトル、訳して

「女性の不倫および性的パートナーの数への遺伝的影響:バソプレシン受容体 (AVPR1A) 遺伝子の役割との関連に関する研究」

…という感じですけど、やっぱりあるんじゃないですか!

この研究での解析対象は、英国の1600人以上の双子(改めて、この手の研究は双子研究が多いですね)の女性とのことですが、遺伝子と不貞行動との間に、一体どんな関係があるんでしょうか?!


と、ワクワク期待しながら中身を読んでみたんですけど、この論文は2004年とやや古いもので、まだ一遺伝子解析のテクニックがそこまで発展していなかった時代ということもあり、大まかに「染色体のこの辺の違いが、行動に影響を及ぼしていそう」ぐらいのデータしかないやや物足りない論文でした。

一番インパクトのある図で、このぐらい…

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上記論文・図1より

23番までの染色体(=遺伝子の乗った巨大DNAですね)それぞれについて、遺伝子が違うと、性的な行動(不倫経験や、正パートナー以外と性的関係をもったことのある人数)にどの程度の違いが生まれるか?…を示したグラフですが……

一応この解析から、

「女性の性的パートナーの人数は、7番染色体の遺伝子(が最高で、他にも3番や20番も。黒いバーが高いやつですね)の違いが関係していそうだが、それと比べると、貞操観念(不貞行為の有無)の方は、あまり遺伝子の違いによる影響はないようである」

…という結論がいえるようではあるものの(この次の図で、「7番染色体の特にどの領域が一番関連性が大きいか?」ということを示してくれていましたけど、あくまで『この辺』程度の話で、具体的な遺伝子の特定にまでは至っていませんでした)、やっぱりズバッと「この遺伝子がさぁ、こうなるとさぁ、不倫するらしいよ」みたいな話じゃないと、面白くありませんね。

(まぁ、その話も、ぶっちゃけいうほど面白くも何ともありませんけど(笑))


…って、あれ?

論文タイトルから推察するに、例の前回登場した嫌婚遺伝子AVPR1Aについて述べてくれとるんちゃうんけ?…と思えましたが、全遺伝子の網羅的解析までは行われていないものの、特定の遺伝子の比較分析は2004年ならもう余裕で可能であったので、この遺伝子だけ特別しっかり調査がされていたようです(図はなく、本文中の文による記載のみでしたが)。

(なお、なぜこの遺伝子だけピックアップされていたのかというと、どうやらヒト以外の哺乳類で、このAVPR1A遺伝子が性的活動に影響を及ぼすことが既に知られているという背景があったようですね。
 前回の論文も、それに基づいてこの遺伝子に着目していたのでしょう。)


…しかし、結果はなんと、「不倫経験も性パートナーの人数も、どちらもAVPR1A遺伝子による有意な影響は全く認められなかった」という、クッソつまんない結論になっていました…!


タイトル詐欺にも程がある!


…っていうかぶっちゃけ、そもそも最初論文にあたる前に調べたニュース記事では、「このAVPR1遺伝子は、女性の不倫にも影響」って見た気がするんだが……と思って再度調べてみると、より最近の論文が見つかりました。


それが2015年に発表された、似たような研究のこちら…

www.sciencedirect.com
「ヒトの不貞交配に関する遺伝学的解析:遺伝率、男女間相関、およびバソプレシンオキシトシンの受容体遺伝子について」というタイトルのこの論文で、改めてズバリ、前回の嫌婚遺伝子ことAVPR1Aの影響が語られていましたよ。


早速まとめの表を抜粋させていただくと…

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上記論文・補足表より

左半分が女性のデータ、右半分が男性のデータで、それぞれ、AVPR1A遺伝子の特定の部分の違いごとに、不貞経験あり・なしの割合が掲載されていますけど、例によって、「その割合の差が、統計学的に有意な違いなのかどうか」というのはP値を見ることで判別可能であり、P値が0.05未満の遺伝子タイプ=「この遺伝子が違うと、不倫しやすくなる!」というタイプを、赤で着色しておきました(合計5つ)。

そう、一目見て明らかなように、「遺伝子が違うことで、不貞経験有無の差が明らかに生じた」というのは、なんと女性のみに見られたことだったのです!
(男性では、全ての遺伝子変化でP値が0.05より大きく、多少の違いは「偶然だぞ」の一言ということ。)


(一応もうちょい詳しく説明しておくと、各遺伝子パターン(一番上のrs10877970など)には3つずつ項目がありまして、rs10877970ならC:CとC:TとT:Tなわけですが、これは、一番下のやつが多数派のパターン(この例だと、T)で、このTが特定の人でだけCに変わっていることがあるんですけど、一番上は父母由来のどちらの遺伝子でもCになっている人、真ん中が、どちらか片方の遺伝子だけがCに変わっている人ということですね。
 なので、もし3項目中、上に行くほど不貞行為経験率が上がったら、「この遺伝子の文字が変わると、不貞行為に影響がある!」と結論付けられるわけです。)


P値が一番小さい、すなわち、最も強烈な影響があった遺伝子の変化は、一番下のrs1587097というやつですね。

(こちらは、元々Cですが、これが父母どちら由来の遺伝子もTに変わっていると、不貞経験なしの割合が0.3%に対し、不貞経験ありの割合が5.4%と、実に18倍も不貞経験ありの人の割合が増えているわけですね!
 遺伝子のたった1文字が変わるだけで、割合的に不貞経験者が爆増する、というお話です。)

改めてこいつがどこにあるかをゲノムビューアーでチェックしてみると…

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rs1587097周辺の遺伝子配列(NCBIのビューアより)

まぁこんなの見ても別に何が分かるわけでもありませんが、この図は前回も見ていた、12番染色体・AVPR1A遺伝子近傍の配列の拡大図ですね(もちろん、前回のRS3という繰り返し配列とは別の場所)。

上図のハイライトされたCが問題の「不倫遺伝子」といえる配列の問題塩基で、ここがTになっている人は、多数派であるCの人よりも不貞行為の経験割合が多いと、少なくともこの論文のデータからはそういえるわけです。

 

しかし、先ほどの表をよく見ると、前回登場の「RS3」という繰り返し配列も登場していましたが、前回の論文では「男性で、夫婦の絆に影響大」だったのに、今回の調査では、男性での影響、全くナシ!(笑)

もちろん、調査の方法や研究対象が違うだけともいえるかもしれませんが、正直ぶっちゃけ、「何やねんそれ、言ってること微妙に違うじゃん」と思える気もしちゃいますね…。


そもそも最初に目にしていたニュース記事(↓)でも同様のことがいわれており…
(最初の記事、何かリンクカードのタイトルが実際のページのタイトルと違いますね…。リンク先は問題ないですが…)

www.fatherly.com

blogs.scientificamerican.com

「この手の行動生物学データの再現性には、疑問符がつくことが多く…」「ニューヨークタイムズのような由緒正しき出版社でさえも、この手の誇大見出しニュースが続いているのである…」とか書かれていますけど、個人的にも正直、この手の研究の結果は、やっぱりちょっと断言するのは難しいよな…、って気がしちゃいますね。


とはいえ、調べていたら、この論文を元に、面白い商品が開発されているのも発見してしまいました。

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https://www.genexdiagnostics.com/product/female-infidelity-gene-avpr1a-test/より

先ほどの表の5つの遺伝子変化が存在するかどうかをチェックする「女性用不貞遺伝子検査キット」で、テストされた女性がどの程度「不倫しやすいか」が分かるという、「余計なお世話過ぎる(笑)」を通り越して、「それ人権的なもの大丈夫なん…?」とも思える検査キットですけど、まぁ、専門家に近い立場からすると、こんなものぁあんまり信用ならないでしょう(笑)。


もちろん、キットで自分の遺伝子配列をチェックすることは十分可能ですが(詳しく見ていないので、本当にこのキットだけで判別できるかまでは確認していませせんけど…)、仮に「遺伝子が不倫タイプ」と判定されても、それが即「その人は不倫します」とは、やっぱり決していえませんしね。

人の性格は、遺伝子のみならず環境にも影響を受けますし、そんな単純なものではないのです……という分かったような結論を投げることで、時間不足により、またもうちょい次回へ続く…とさせていただきましょう。

(なお、キットは149ドル=1万5000円以上もしますが、僕なら、試薬の実費150円とか(流石にもうちょいかかるか(笑))で、気になる方がいらっしゃったら検査をしてあげてもいいと思えるぐらいですね(笑))


もうあんまりネタもないですが、次回は「遺伝子は変えられるの?」的な話に、ごくごく軽~くサワリだけ触れてみようかな、と思っています。

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