遺伝子治療について、ごくごく簡単に分かりやすく…

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ここ何回かでまた唐突に、不倫遺伝子にはじまりDNA親子鑑定やら色々生命科学系ネタに触れていましたが、その辺の、「仮に不倫遺伝子もちだと診断できたとして、だから何なの?遺伝子は変えられるわけ?」みたいな点に最後、難しい話はなるべく抜きに分かりやすい説明を加えてみることで、一連の話題に幕を降ろすといたしましょう。


といっても本当に、専門的なことを述べてもクッソつまんないにも程があるので、ここはやはり全く専門外・何の知識も興味もない方にも読んでいただけた意味があるように、みんなが抱くであろう疑問点を挙げて、それを解消する手助けになりそうなポイントから始めてみるとしますか。


まずその普通に誰しもが思うであろう気になる点は、先ほども書きましたが、

「例の検査キットで診断したら、オレは嫌婚遺伝子もちと出た。実際あんまり結婚したくない。しかし彼女が結婚したがってるので、遺伝子で性格を変えられるなら変えてみたい。どうやったら遺伝子を変えられる?」

…と思ったときにそれが可能なのかどうか、って話ですね。
(まぁそんな人が実際にいるかどうかはともかく(笑))


まぁ結論からいうと、重病の遺伝子疾患ですら現状根治にはつながっていないことからも明らかかと思われますが、たかが嫌婚遺伝子のたった2塩基(→「結婚したくない性格」になるのは、AVPR1A遺伝子の中の繰り返し配列のある領域(RS3)内の、たった2塩基が変わったことが原因でした)のみを変えるのは、現在の科学技術では、残念ながらほぼ不可能ですね。

…ま、最新の科学技術の力をもってすれば、理論上可能っちゃ可能ですが、それをするリスク・リワード比というか、費用対効果も含め、そんなことは現実的に実施不可能である、といえましょう(理論上うんぬんとかについて、詳しくはまたいずれ後述)。


「…っていうかそもそも、何をもって治療成功なわけ?あの検査キットでは、口の中を綿棒でこすったものを会社に送ったんだけど、オレは口の中の遺伝子が嫌婚遺伝子ってこと?結婚したがらないのは、この口のせいなのか!口の細胞さえ取っ変えれば、遺伝子も変わるんけ?」

…とも思われるかもしれませんが(思わないかもしれませんが(笑))、これはそうではないんですね。


以前書いていた分子生物学入門シリーズ・遺伝編あたりで何度か触れていましたが、結局人間には細胞が60兆個とか、より最近の説では37兆個とかいわれているみたいですけど、全ての細胞は、全く同じ、自分自身を形成する遺伝子の全て(全遺伝子を総合して、「ゲノム」と呼びます)をもっていまして、DNAの長さでいうと、60億塩基(父から30億・母から30億ずつですね)の全てが、どの細胞にも含まれていることになります。


だから、検査キットでは採取しやすく、DNAの抽出が容易で分析もしやすい口の中の細胞を使って分析されたわけですけど、実際そこで判別された遺伝子は、全身全ての細胞で、全く同じものが格納されているということなんですね(あなた自身の細胞であれば。別の人はその人自身の遺伝子を全細胞がもっている、ってわけです)。


ではなぜ僕達の体は、口は口だし、筋肉は筋肉だし、内臓は内臓になっているかというと、結局、どの細胞も全ての遺伝子を格納してはいるんですけど、「どの遺伝子のスイッチが入るか」が細胞によって完全に異なっているという話に過ぎないんですね。

筋肉の細胞は、「動く分子」ことアクチンやミオシンというタンパク質を作る遺伝子のスイッチがガンガン入っているし、目の細胞はクリスタリンといった眼球を構成するタンパク質の遺伝子なんかがビシバシONになっている、そういう感じなわけです。


翻って嫌婚遺伝子ことAVPR1Aがどこで盛んに機能しているかというと、その辺の情報も様々な偉い人の解析によって明らかにされています。

こちら、何度もお世話になっているNCBI遺伝子データベースから、AVPR1A遺伝子の発現レベルを組織ごとに解析したデータですが…

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https://www.ncbi.nlm.nih.gov/gene/552より

この遺伝子は、バーが突出して高いことからも明白なように、一番左側のadrenal=副腎で一番強くスイッチが入っていることが分かりますね!

まぁ、そもそもAVPR1Aというのはバソプレシン受容体のことで、バソプレシンは腎臓での水の再吸収などに働くホルモンですから、当たり前っちゃ当たり前の話なんですけどね。
(あ、でも、腎臓自体=kidneyでは、そんなにスイッチが入っていない感じですか。意外です。)


改めて、どの細胞も全く同じ、あなた自身を形成するヒト遺伝子DNAを1セット(まぁ父母由来で2セットという方が正確かもですが)丸々もっているわけですけど、どの遺伝子のスイッチが入るかは、組織・細胞によって異なっており(というか、それが違うからこそ、異なる組織・細胞になる)、男性の嫌婚遺伝子や女性の不貞遺伝子が存在し得るこのAVPR1Aという遺伝子は、副腎で一番強くジャンジャンスイッチが入っている、ということですね。

なお、遺伝子のスイッチが入ると作られるのはRNAでしたから(遺伝子DNAからmRNAが合成される)、上のグラフはRNAの存在量を元に測定されたものだったという感じでした。


ということで、もしも「嫌婚遺伝子」である、繰り返し配列RS3領域が「334タイプ」という名の2塩基変化(おさらい:この嫌婚遺伝子は、「RS3にある2箇所のGがCに変わってしまった」というものでした)を含むものに変わってしまったものを、多数派の(=多くの人のもつ)配列であるGに戻すことが技術的に可能なのであれば、「結婚はイヤ」という性格を矯正するためには、そもそもスイッチの入っていない口の細胞とかはむしろほぼどうでもいいので、やはり、特に遺伝子スイッチが盛んに入っている、副腎の細胞がもつ遺伝子を変えてやる必要がある、といえましょう。


そうすると「じゃあどうやって副腎の遺伝子を変えるの?副腎に遺伝子改変薬だかなんだかを直接注射するとか?」と思われるかもしれないわけですけど、まぁこれは特定の2塩基だけを変えてやること以上に、現在の技術では「副腎の細胞のみの遺伝子を変える」ってのは難しいですね。

この334タイプの嫌婚遺伝子を通常のG塩基に戻すなんてのは、「できれば副腎の細胞を狙いたいけど、他の所が変わっても別に全く問題ない」ともいえますから(変えても「意味がない」だけで、特に悪いこともまずない)、もしやるならば多分、「静脈注射とかして、全身の細胞にくまなく行き渡らせる」という戦略を取るんじゃないかな、って気がします。

血液は全身を巡っていますから、血液に乗せれば、当然目的外の細胞にも届けられるものの、お目当ての副腎にも薬が届いて、遺伝子が改変されることを期待したい…って形なわけですね。


…と、「いやだから、遺伝子を変えるってどうやってさ?!薬とかいってるけど、どういう薬なん?その2箇所のC塩基とやらが、ダルマ落としみたいにカチーンとGに入れ替わってくれるわけ?」といった疑問を筆頭に、まだまだ説明足らずで、今回はぶっちゃけADPR1A遺伝子が副腎で多くスイッチONになっていること以外何も触れられなかったも同然なしょうもない記事になってしまいましたが、またしてもちょっと時間がないもので、続きは次回へ持ち越しさせていただきましょう。

うーん、正直本当に引っ張るほどでもない話ですけど、まま、ネタもないし、むしろこれでも記事が長すぎるぐらい(長いだけで、浅いというか密度は薄いですけど(笑))ので、1記事を軽量化した方がきっと読みやすいでしょう!…と開き直ろうかと思います(笑)。

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