「この白い粉は何物か?」という話に始まり、「特定の標的分子(自分の興味ある生体分子、DNAやRNAやタンパク質)がサンプル内に存在するか?」という話(ウェスタンブロッティングなど)を経て、今回はさらにそのモノを詳しく分析する技術、具体的には配列解析について紹介してみようと思います。
高分子の配列を読むことをsequencing(シーケンシングとかシークエンシングとか呼ばれる)といいますが、これも改めて、DNA・RNA・タンパク質=生体高分子3兄弟の配列を読むための技術となっています。
これらは決まった構成単位の物質が連続でつながってできた分子であり(DNA・RNAなら4種類の塩基(A, C, G, TかU)、タンパク質なら20種類のアミノ酸)、その配列が大いなる意味をもつので、配列を読む価値というか意義が極めて大きいわけです。
(逆に、多糖とか、グルコースがひたすらつながった物質みたいなものの配列を読む意味はまるでない(というか配列など存在しない)感じですね。)
シークエンス反応については、DNA・RNA・タンパク質の物質ごとに結構異なる技術が開発・発展・利用されてきましたが、やはり生命反応(遺伝情報)の出発物質であるDNA塩基配列の解析が歴史も古く、日常的にも多用されているものなので、今回はDNAシークエンシングから見ていくとしましょう。
黎明期には様々な工夫を凝らした手法が開発され、そのどれもがよく考えられたもので全体の解析技術発展に大いなる貢献をしてきたといえますが、その中で特に発展性もあり利便性も高かった結果生き残って、今現在最も使われている手法は、「サンガー法」と呼ばれるやり方を応用したもので、こちらはフレデリック・サンガーさんという偉大なる化学者が開発した技法となっています。
仕組みの話の前にそのサンガーさんについて少し触れておくと、「世界で唯一、ノーベル化学賞を2度受賞した人」というタイトルをもっている時点で、凄さは一目瞭然でしょう。
まぁ「個人でノーベル賞を2度受賞した人」は他にもいるのですが(合計4人)、化学賞2度がサンガーさんのみということですね(ちなみに、団体を含めたら、赤十字が3度受賞しているようですが、個人は2度が最多)。
調べていたら面白かったので、ちょっとまた脱線してみましょう。
その4名は、キュリー夫人(物理学賞と化学賞)、ポーリングさん(化学賞と平和賞)、バーディーンさん(物理学賞と物理学賞)、サンガーさん(化学賞と化学賞)となっており、何気に、全員異なる賞の組み合わせだったんですね。
そして、生理学・医学賞を受賞した人で複数受賞した人はまだいないのも面白いポイントでしょうか(文学賞は自然科学の賞とは性質が違うし、経済学賞は公式にはノーベル賞と認められていないそうで、これもやや毛色が異なるうえ歴史も浅いので、これらが複数受賞の対象になったことがないのはまぁそうかな、とは思えますが)。
ちなみにノーベル賞は実は重みみたいなものがあって、単独受賞と共同受賞では少し重みというか意味合いが変わってくるなんてこともいわれているのですが(まぁ別にそんなことあんまりいわれてはいませんが、現実的な話でいうと、賞金とかも共同受賞だと山分けになりますしね。しかも、貢献度に応じて分配も変わります)、それぞれの受賞状況を見てみたら、複数回受賞者の中にも若干の差があった形になるようです。
まずは我らがサンガーさん、彼の一度目の受賞は、何と、貫禄の単独受賞!
「インスリンの全アミノ酸(51個)の配列と構造を決定した」という、世界で初めてタンパク質分子のアミノ酸配列を完全に解明したという功績で、これは文句なしの偉大なる金字塔ですね。
まだDNA二重らせん構造が解明されるより前、分子生物学の時代が幕開けすらしていない、1958年のことでした。
一方二度目の受賞が、今回のネタ元の「DNAの塩基配列の決定」に関する功績で、1980年の受賞でしたが…
こちらは、3名での共同受賞で、「組換えDNAを用いた遺伝子工学の基礎を築き上げた功績」でバーグさんが半分、残りの半分をギルバートさんとサンガーさんで分け合ったということで、こちらは0.25の受賞ということになり、サンガーさんのノーベルポイント(何だよそれ(笑))は、合計で1.25となりました。
(ちなみに、DNAシーケンシングの歴史で習うのは、黎明期の技法としてサンガー法とマクサム・ギルバート法という2つのものがあるのですが、マクサムさんだけノーベル賞からはぶられていて(まぁ、3名までなので仕方ないのかもしれませんが)、ちょっと可哀想ですね)。
さぁ、他の複数受賞者のノーベルポイント (NP) やいかに?!
古い方から順に見ていきましょう。
まずは、この名を知らぬ者はいない、世界初のノーベル賞を2度受賞した人物であると同時に初の女性ノーベル賞受賞者、キュリー夫人として知られる、キュリーさんですね。
1回目は、放射性物質に関する研究で、1903年にノーベル物理学賞を共同受賞…
(ちなみに、ノーベル賞は1901年からなので、これは第3回という、かなり初期の頃の話だったんですね。)
こちらは、ベクレルさんが半分、残り半分を夫のピエール・キュリーさんと分け合う形で0.25ポイントの受賞ということで、これでノーベルポイント単独トップの目はついえたかに見えましたが…
2回目は、ラジウムとポロニウムの発見で、1911年にノーベル化学賞を…
単独受賞!!
♪テテーン(ファンファーレ)、サンガーさんとキュリーさん、1.25 NPで、まさかの同率1位!
まぁ、小学生でも知ってるキュリー夫人と同じポイントですからね、これはやはり、サンガーさん(この名を知ってる小学生は絶対に1人もいませんが)の偉大さが透けて見える形となったということでしょう。
キュリー夫人は女性初・夫婦同時受賞初・複数受賞初・(その後娘のイレーヌ・ジョリオ=キュリーさんも化学賞を受賞して)親子での受賞初…と初物尽くしですが、サンガーさんは2回目の受賞までの間隔が4人全員の中で圧倒的に長く開いていますから(22年ぶり2度目の受賞、ものすごいカムバック賞っぷり!)、それだけ長く科学に貢献したということで、むしろサンガーさんの方が凄いといえましょう、キュリー夫人が何ぼのもんじゃい!(お前はサンガーファンクラブ会員か何かか(笑))。
では続いてはポーリングさん、初めての受賞は、1954年、化学結合および分子の構造解明に関する研究で…
まさかの、単独受賞!
これは、マリー・サンガー連合に、恐るべき強敵現る、か…??
なお、この業績は有機化学入門でずっと語っていた二重結合やら何やらの話で「詳しくは電子の軌道がからんでくるキモい話なので省略しましょう」といっていたそのキモい部分(sp混成軌道など)であり、量子力学と化学とを橋渡ししたマジモンの偉大な業績、しかもそれ以外にも生体分子の結晶構造解析(タンパク質のαヘリックスとβシートという基本構造の発見など)にも多大なる貢献をしたなど、ポーリングさんは多分野にわたる学際的な活躍をした、真の天才といえましょう。
(Wikipediaによると、「史上最も偉大な20人の科学者」でアインシュタインさんとともに20世紀から選ばれた唯一の科学者とのことですね。
しかしキュリー夫人もそうですが、偉人のWikipedia記事はあまりにも読み応えがあって面白いです。)
さて、ポーリングさん二度目の受賞はといいますと、1962年に、核兵器への反対運動で、平和賞を…
単独受賞!!
合計ポイント数は、堂々、2.0 NP!
ぐわぁ~、マリー・サンガー連合が敗れたぁ!!
…と思ったものの、ノーベル平和賞は、別名ドーデモえぃわ賞とも呼ばれているように(呼ばれてません(笑)。今勝手に作りました(笑))、これは常に物議を醸し続けているカスみたいな賞ですからね、個人的裁量で、ノーベル平和賞にはx0.2の重率ポイントが課せられます!
したがってポーリングさんの実質ノーベルポイントは1.2 NP、はいマリー・サンガー連合の勝ちぃ~!!
ポーリングさん、涙目敗走、顔真っ赤(笑)。
これに懲りて、もうノーベル平和賞とかいう意味不明な賞は廃止して、数学賞に変更することを強く推奨します(冗談)。
ちなみにノーベル賞に数学賞がないのは、ミッタク・レフラーさんとかいう数学者に恋人を寝取られたため、ノーベルさんが数学界隈を憎み、怨み、忌み嫌っていたからという逸話がありますが、ぶっちゃけ平和賞とかいう意味不明な賞があるのに数学がないとか謎にも程がありますし、その説は100%そうではないにしろ、実際ある程度それもあったに違いないといわれているようですね(Wikipediaにも1章丸々記述あり)。
まぁその辺の平和賞ディスりは冗談ですけど、ポーリングさんが究極の天才であったことに異論はないものの、やはり自然科学の賞を2度の方がインパクトは大きいかな、という気が個人的にはします。
最後はこの中では完全にマイナー(いや、物理専攻の方からしたら、サンガーさんの方がよっぽどマイナーかもしれませんが)、物理学賞を2度受賞した、バーディーンさんですね。
等分貢献度で、ショックレーさん、ブラッテンさんと共同受賞…
そして2回目は、1972年、超伝導の理論で…
これまた同等貢献度で、クーパーさん、シュリーファーさんと共同受賞ということで、バーディーンさんのNPは0.66…と、まさかの割り切れない形に!
果たして単独受賞1回の人より低くなるこのノーベルポイントという数字に意味があるのかという議論も噴出しそうですが、半導体と超伝導って、物理専攻じゃなくても凄さを知ってるめちゃくちゃ有能な研究ですし(今日(こんにち)のパソコンもスマホも、これだけ小型化されて高機能になっているのは、ほぼ完全に半導体のおかげと断言できます)、やっぱり機械的な応用にも直結する物理学ってのはカッコよくてナイスですね(小学生並みの感想)。
そんなわけで、研究に貴賎はないので、NPとかいうクソみたいな指標で序列を付けるのはやめましょう(いや、いきなりやり始めたのはオメーだろ(笑))。
受賞が1度だろうと、それどころか受賞などに縁がなかろうと、多くの研究者が日々色々なことを考えて実験・実践をしており、世界が少しずつ発展していっている……そんなようなことを面白いと思ってもらえたら、研究をやっている者の端くれとして、嬉しい限りですね。
…ってな所で、DNAシークエンス技術を見てみようと思って始めた記事でしたが、例によってクッソしょうもない余談だけでいい分量になってしまいました。
DNAシークエンスの仕組みについては、また次回見ていくと致しましょう。