エライザとウェスタンの違い、補足

「白い粉があったとして、それが何かどうやって判別したらいいのか?」という話から、まずはやはり興味深いのは有機物ということで(…って、無機化学の研究をされてる方にブチ切れられるかもしれませんが、やはり有機物の方が日常身近なものとして、道端に落ちている可能性が高いので)、タンパク質やDNA・RNAといった核酸や糖などの代表的な有機物判別法から見ていました。

この内特に生体内であまりにも重要な役割をもっているDNA・RNA・タンパク質の3つについて、サザン・ノーザン・ウェスタンブロッティングという各種検出法がありますなどと前回触れていたのですが、グダグダ書いていた割に、いくつか触れようと思っていて忘れていた点があったので、細かい点ですが改めて補足しておきましょう。

まず、ウェスタンとELISAという2つの似たような方法を紹介していたんですけど、あまりにも似ている手法すぎるので、「いやこいつらは何がちゃうねん」と思われる方もいらっしゃったのではないかと思います。

どちらも「検出したいタンパク質に、そいつを特異的に認識する抗体を反応させてやることで、その存在量をチェックする」という実験であり、感度アップや利便性を考えて抗体を2つ使うことまで一緒なのに、何でわざわざ違う名前で呼ばれているのか、って点が、案外謎に思える点かもしれません。

まぁ一番大きな違いは、ウェスタンはまず「手持ちのサンプル(検体)をゲルに流して、タンパク質の大きさで分ける」というステップがあるので、ウェスタンはサイズ情報も含めた知見が得られるため、情報量が多い、ってことが挙げられますね。

例えば、何かの薬剤を投与したら、「検出したいタンパク質のサイズがいきなり変わっていた!」なんてことがあるかもしれません。

具体的には、その薬剤によって、一部分が欠けたタンパク質が合成されるとか、逆に糖がくっつくとかそういう何らかの分子修飾がなされてサイズが大きくなるとか、そういうことも実際無きにしも非ずで、ウェスタンならそういう新しい発見につながる(かもしれない)ような違いも検出可能だということですね。
(一方ELISAは、サイズ情報が一切なく、「サンプル中に標的タンパク質があるかないか」を見るだけです。)


(タンパク質の大きさ(検出されるバンドの場所)が変わる例として、よく知られているのは、タンパク質のリン酸化をバンドの移動度の違いで検出する、こんな感じの実験が挙げられます…

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Phosphorylation of Hdmx mediates its Hdm2- and ATM-dependent degradation in response to DNA damageより

…「*」がついたものがリン酸化されたバンドで、少し移動度が違いますね。
 NCSという薬剤を加えることで、正常型(WT)のサンプルではリン酸化されたHdmxが生まれる一方、403番目のセリンがアラニンに変異したS403Aという異常細胞では、リン酸化が見られなくなった…みたいな感じですね。
 こういうリン酸化状態の違いといったタンパク質の (量ではなく)「質」の変化は、ELISAでは違いとして見ることが難しいといえましょう。)
 

「なら、そんな情報量の少ないELISAの存在価値は?」ってなると思うんですけど、まぁこれは単純に、より簡単にできてサンプル数をこなすのが容易、ってことに尽きますかね。

先述の通りELISAは96ウェル(96穴)プレートとかで一気に大量のサンプルを処理可能ですが、ウェスタンはゲルで流す必要があるので、なかなか100サンプルとか一気に処理するのは大変です(不可能ではないですけどね)。

あと他には、ELISA生のサンプルを添加しているけど、ウェスタンでは(ゲルに流すときに)タンパク質を変性させているという違いも、あるっちゃあるといえる感じでしょうか。

ウェスタンの最初のステップ、電気泳動というのは、以前の記事で何度か名前だけは触れていましたが(脂肪の話とか可愛い名前の化合物の話とか)SDS-PAGEと呼ばれるもので、これはSDSことドデシル硫酸ナトリウムことラウリル硫酸ナトリウム、いわば洗剤とタンパク質を混ぜることで、タンパク質の構造を崩した状態で流す感じになっています。

初めて習ったときは、「えぇ~、タンパク質を今から分析するのに、構造を破壊しちゃうのぉ?」と疑問に思ったものですが、別に構造を崩すだけで、アミノ酸のつながり自体はそのままなので、特に問題はないんですね。

むしろ、タンパク質というアミノ酸の鎖が、ぐしゃっとボールみたいに縮こまるのではなく、構造がほどかれた形になるので、抗体が認識して結合する上では、SDSで変性していた方がむしろ理想的な感じになっているともいえます。

(抗体というのは基本的に、タンパク質の一部しか認識していません。具体的には、6~10アミノ酸とかそれぐらいのつながりを認識して、その数アミノ酸の部分とガッチリ結合する感じです。
 要は、その認識部位さえ見つけられればそれで抗体はそこにくっつくことができるので、構造がほどかれて認識部位が露出されている変性状態の方が、むしろ逆に抗体のアクセスが容易になるとすらいえるわけですね。)

それに関連して、前回の記事最後に「WBで使える抗体なら、ELISAでも多分使えるでしょう」などと書いていましたが、冷静に考えたら、必ずしもそうではなかったかもしれません。

つまり、ELISAはタンパク質特有の構造を取ったままの、いわば生の分子をそのまま添加して抗体と反応させてやるので、例えば調べたいタンパク質の「抗体によって認識される部位」が、複雑な構造を取った結果、内部に隠れて表に現れていない…なんてパターンもあるかもしれませんから、「WBで使える抗体はELISAでも使える」とは限らなかったかもしれませんね(改めて、ウェスタンでは構造がほどかれた状態のタンパク質が存在するので、抗体のアクセスが容易なので)。
(もちろん逆に、生のタンパク質が特別な構造を取った結果、「本来アミノ酸の配列的には離れているけど、その構造でのみごく近くに存在するアミノ酸」を認識する抗体もあるかもしれないので、そういう場合は、「変性させたタンパク質では認識できない」という逆のパターンもあると思いますが、基本的にほとんどは配列的に連続したアミノ酸が認識されるので、あまりそれはないように思います。)

「それじゃあELISAの方が実際に存在しているタンパク質に近い形ってことだし、ELISAの方がより現実に近いものを見ているのかな?」(言い換えると、「ウェスタンは、タンパク質の構造を破壊しているとのことだから、何か自然ではない、人為的なものを見ている可能性もある?」)って気も一瞬しますが(しないかもしれませんが)、これは別にそんなことはなく、そもそもこれらの実験は「抗体とタンパク質の相互作用を見たい」ではなく「抗体を使ってそのタンパク質の存在量を見たい」でしかないので、どちらもちゃんと実際にそのサンプル中に存在するタンパク質を検出していることには変わりありません。

結局、その実験で使える抗体を買って反応させるわけですから、どんな形のタンパク質であれ、それを認識するツールを使って、ちゃんと存在量に応じた検出ができる、ってことですね。
(もちろん、「このタンパク質と結合する新しい分子を探したい!」という実験なら、SDSで変性させたタンパク質を使うのはご法度というか無意味ですが、何度も書いている通り、ウェスタンやELISAというのはそういう新しいものを発見するための実験ではなく、単に存在の有無を確認する検出実験でしかない、ということなわけです。)


あと最後、ELISAとは関係ない全然違う補足として、サザン・ノーザン・ウェスタンと見ていましたが、サザンブロッティングはあまりされることがないかな、という気がします。

(まぁ僕のやってる研究分野がそうなだけで、DNAゲノミクスとかを専門にされている方からしたら「いやサザンもやるから(笑)」といわれるかもしれませんが)

一応その理由としては、生体分子の流れというのはDNA→RNA→タンパク質という感じというのは何度か書いていたんですけど、結局、DNAがレシピであり、それを元にRNAが作られ、さらにRNAを使ってタンパク質が作られる…という形になっているわけで、DNAはあくまで参照されるものであってそこにあり続けることが基本で、作ったり分解されたり調節されたりというのは、基本的に下流に位置するRNAやタンパク質がメインといえるんですね。

だから、生体内で存在量が頻繁に変わるのはRNAやタンパク質であるともいえるわけで、そんな理由から、やっぱりノーザンやウェスタンに比べると、サザンはそんなにやられることはないんじゃないかな、って印象が個人的にはあります(実際僕自身、サザンはやったことがありません。もちろん、サザンブロットがこれら3兄弟の元祖であり、代表ともいえるのは間違いないんですけどね)。

ただ、ノーザンや下手したらウェスタンも、最近はさらにより優れた検出技術も開発されてきており(例えばRNAの検出なら、リアルタイムPCRとか)、ノーザンブロッティング自体もあまりやられなくなってきているともいえますが、でもまぁ古典的にして極めて強力な検出技法として(ゲルを使う方法は、サイズも同時に確かめられるという他にはない強みもありますしね)、開発から30年以上の時を経て、今でも世界中多くの研究室で、日々盛んに行われている実験です、というお話でした。

 

…と、今回は、次のネタに進もうと思っていたら(出だしも、ようやく次のネタに進む予定だったので、まとめっぽく始めていたわけですが)、まさかの補足だけでクソ長になってしまいました。

次回、「ただの存在の有無の検出」からもう一歩進んで、「配列を読もう」的な内容を見ていこうと思っています。

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