多分あんまり楽しくないので、「役に立つ~~講座」とか「ためになる~~講座」とかにしようとも思ったんですが、冷静に考えたら「いや役にも立たんしタメにもならんか…」と思い直したので、結局このタイトルに落ち着きました。
(「役に立つ」とかは読者の方・受け手次第ですけど、「楽しいかどうか」は最悪自分次第ともいえるので。)
というわけで、楽しくいってみましょう、タンパク質3分クッキング!
♪テケテッテッテッテッテ(↑)、テケテッテッテッテッテ(↑)、テケテッテッテッテッテテーレテーレー(↓)、チャッチャッチャッチャ!
(キユーピー3分クッキングのテーマより)
…って、そもそもいきなり何だよ、って話なんですけど、前回の世界一甘い物質の記事で、いつも的確で鋭いご質問をいただけるアンさんから、これまた良いご質問を複数いただいていました。
その中の1つに、「ソーマチン、家庭では作れないけれど、紺助さんは作れるん
質問なんてなんぼもらってもいいですからね、ありがたいことですよ本当にね。
…というわけでまずはそのご質問、「君は激甘タンパク質ソーマチンを作れるのか?」という点に関しては、ズバリ、「Yes!!」となります。
207個のアミノ酸がつながった分子であるソーマチン、これを作るやり方は色々ありますが……僕ならそうですね、生物、特に、大腸菌の力を借りて作製します(…というか、生命科学・生化学などを専攻したことのある人なら、みんなそうします)。
…と詳しい説明に移る前に、まず、「タンパク質はアミノ酸がつながったものだ」という話を聞いて恐らく多くの方が思い浮かべるのではないかと思われるのは…
「アミノ酸をつなげる凄いマシーンみたいなのを使って、アミノ酸を1つ1つ分子レベルでつなげていく」
…みたいな感じの方法だと思うんですけど、残念ながらこれは現実的ではありません。
理由は単純、人類の叡智の結晶であるタンパク質合成装置より、神の創りし生命機構の方が、(少なくとも今の科学技術では)遥かに優れているからです。
もちろん、生物の力を借りる方が手間はかかるので、アミノ酸数個とか10個程度であれば、人工のタンパク質合成装置でアミノ酸をつないでやることも可能…というかむしろその方が断然楽で早いので、そういう短いタンパク質なら、マシーンで人工的にアミノ酸をつないで合成することもあり得ます。
(というか、こないだの記事でLifeteinという会社の話をしていたように、そういうサービスを提供している会社が世の中にはいくつもあるので、そういう会社に、作りたいモノのアミノ酸の順番を伝えて、「合成よろしく!」と注文を出すだけですね。
先述の通り、僕も実際にお願いしたことがあります。)
でも、アミノ酸200個をつなぐとかになると、最早人類の力では太刀打ちできません。
簡単にいえば、技術の限界ですね。
こっちが本題ではないですが、これもタンパク質の作り方の一種なので簡単に説明しておくと、タンパク質合成装置では、「片一方の腕をふさいだアミノ酸」を次々とつなげていく、という上手い方法がとられています(理由は後述)。
言葉だけでは説明が難しいですが、こういう具合です。
まず一番最初は、樹脂入りの容器に1つ目のアミノ酸を大量に加えることで、可能な限り樹脂にアミノ酸をつなげてやり、つなぎ終えたら使われなかったアミノ酸を洗い流し(樹脂につながったものは洗い流されない)、その後、ふさいでいた1番アミノ酸のもう一方の腕を開放します。
そして次に2番目のアミノ酸(これも、片一方の腕はふさいであります)を大量に加えて、「1番アミノ酸がつながった樹脂」に可能な限りこの2番アミノ酸をつなげます。
十分な時間つなぎ終えたら、使われなかった2番アミノ酸を洗い流し、ふさいでいた2番アミノ酸のもう一方の腕を開放して、続いて3番アミノ酸をこの「2番アミノ酸までつながった樹脂」につなげて……ということを延々と繰り返すわけですね。
最後目的の長さまでつないだら、樹脂から切り離して合成完了、お好みのアミノ酸がつながったタンパク質ゲットだぜ!…と、そういった流れです。
一方の腕をふさいだアミノ酸を用いるのは、そうしないと、例えば「2番アミノ酸をつなげようとするときに、2番アミノ酸同士がつながっちゃう」という予期せぬ事態が起こってしまうからですね。
(タンパク質にも方向があるので、例えていうなら「右手と左手しかつながらない」形になっています。
なので、最初樹脂からは例えば左手(に対応する官能基ですが)が出ていたとすると、「左手をふさいだ1番アミノ酸」を加えてやることで、「1番アミノ酸同士は絶対につながらないけど(右手しかフリーじゃないので)、1番アミノ酸と樹脂は手をつなげる」という状況を作り出せるわけです。
その後、1番アミノ酸の左手を開放してあげて、同じく「左手をふさいだ2番アミノ酸」を加えることで、確実に1番と2番だけが手をつなぐ、って形になるんですね。
言い換えると、両方の手が空いているアミノ酸を加えると、加えたアミノ酸それ自身が手をつないじゃうから、1つ1つつなげていきたいのにそれは困る、ってことなわけです。)
…うーん、文字だけではややこしすぎる!
一応、分かりやすい解説記事とかもありますが、これはこれで分子構造とかが出てきてちょっと分かりにくい感じもするものの、興味ある方はご覧になってみるといいかもしれません。
検索してトップに出てきた解説記事のリンクを貼っておくとしましょう。
(ちなみに、記事のタイトルにもなっている通り、アミノ酸がつながったものをペプチドと呼んでいます。
基本的に、長く大量にアミノ酸がつながったものは「タンパク質」と呼ばれますが、アミノ酸10個とかその程度のものはいわゆるタンパク質っぽさもあまりないので、「タンパク質」ではなく「ペプチド」とか「オリゴペプチド」とか呼ばれることが多いですかね。
でも、あくまでも厳密ではない、慣用上の呼び名なので、どう呼んでも伝わるっちゃあ伝わるし、アミノ酸10個のものをタンパク質と呼んでも問題ないとは思いますが。)
いずれにせよ、口では「1番アミノ酸と2番アミノ酸をつなげてやる、つなぎ終わったら洗い流して…」と簡単にいったものの、現実的に、この手の化学反応を100%の効率で起こすことは不可能なのです。
恐らく今の技術では良くて99.5%とかの効率だと思いますが、99.5%と聞くと相当えぇやん、とは感じるものの、この効率の反応を例えば200回繰り返すと、果たして「全部のアミノ酸が思い通りにつながった」ものは、全体の何パーセント存在するでしょうか?
これは当然、99.5%の200乗になるので、計算すると…
なんと、たったの36.7%!
1回1回は99.5%というかなりの高効率でも、ごくわずかなエラー率が何度も積み重なると、半分以上、大多数が望みのタンパク質ではない、不完全なものが出来上がってしまうんですね。
これでは使い物になりません。
(というか、長くなればなるほど、合成中のタンパク質自体が折りたたまれたり変な構造を取ったりして(高分子は、特有の構造を取るものです)、つなぎ効率はどんどん落ちていくため、99.5%でずっといけるとも全く限らないでしょう。)
一方、例えば10アミノ酸をつなぐ程度の話なら、99.5%の10乗は95.1%なので、ほとんど全部が望みの完全長タンパク質となり、ごく一部不完全なものを除いてやれば(=完成品の精製)、無事、商品として納入が可能なブツができあがるというわけですね。
…と、そんな感じの流れが、今現在のタンパク質(ペプチド)の合成の仕組み(人間の力のみでの場合)でした。
…っべぇ~、案の定、全く楽しくも何ともない話になってしまった…!
本当はそのまま大腸菌の話にいこうと思いましたが、長くなりすぎるとつまらなさに拍車がかかるだけなので、次回に持ち越そうと思います。
まま、この方法では長いタンパク質は作れませんし、楽しくないのもそのせいだった、ってことにしておきましょう(笑)。
あぁ、一応、現実的な話として、どのぐらいの費用がかかるのかという少しは面白そうな点にも触れておきますと、検索したらヒットした株式会社ベックスというバイオ関連企業が、価格表を公開してくれていました。
www.bexnet.co.jp
上のページにある通り(価格は改定されるかもしれませんし、画像としての掲載は控えておきますが)、10アミノ酸の合成で、目的の全長ペプチドが95%以上含まれるように精製までお願いすると、5ミリグラムのお届けで6万5000円、たくさん欲しいから50ミリグラムとかお願いすると16万円と、まぁ大体このぐらいの金額ですね。まあまあ、スタンダード。
ベックス社では、29アミノ酸まで定型フォーマットでの依頼が可能で、それより長いのは要相談、って形のようです。
大体そのぐらいの長さがやっぱり今の技術の限界で、200アミノ酸をつなげて作るのとかは、現人類の力・人の手では土台不可能、ここは、大腸菌先生の力を借りなくてはいけない話になってくるのです…!
…というところで、そのお話、楽しいタンパク質の作り方講座本編は、次回へ続く…!