病気と遺伝(遺伝子)について

染色体や、伴性遺伝の遺伝病・筋ジス(DMD)に関して、毎度専門に近い立場(まぁ筋ジスの専門とかでは全くないですけど、似たような生命科学系として)にいると見落としがちな鋭く本質的なご質問をいただけるアンさんから、質問をいただいていました。

「実際、自分も最初に聞いた頃はそんなことを疑問に思ってたわ!」 という話ですし、恐らく多くの方も気になってらっしゃるかもしれない疑問点と思われるので、改めてQ&Aで紹介させていただこうと思います。

アンさん、いつも本当にどうもありがとうございます。

Q1.  筋ジスについて、デュシェンヌ型だとか、福山型だとか、異常が起こる遺伝子っていうか染色体すら違うのに、同じ「筋ジストロフィー」っていう病名なのはなぜ?


⇒筋ジスは、まぁ他の病気で例えていえば、原因が違っても熱が出て体がだるくせきも止まらないみたいな症状を総合して「風邪」と呼んでるように……とはまぁ少し違うかもしれませんが、ジストロフィーという単語がそもそも「栄養失調」やそれに伴う「萎縮」的な意味の単語なので、固有名詞ではなく一般病名的な意味合いになってる感じです。

つまり、日本語で「筋萎縮症」といってるようなものですね。

ジストロフィン異常が原因の萎縮症もあれば、フクチン異常が原因の萎縮症もある、って話といえましょう。

もちろん、どんな人でも加齢とともに筋肉は萎縮…まではいかなくとも縮小したり減少したりするわけですが、そういうのは筋ジストロフィーとは呼びません。

ただのWikipediaからの引用ですが、定義としては、

遺伝性疾患である。

・骨格筋がジストロフィー変化(筋電図や、一部生検を採って染色するなどをして、目で見て判断)を示す。

…の2点を満たすものを筋ジスと呼んでいるようです。

また、筋ジスの中にはさらに、進行性(幼少期は、重篤な症状までは示さない)と先天性(出生時から筋低下を示す)とがありますが、まぁそういう詳しい分類まで覚える必要はないでしょう(一応、進行性の代表がDMD、先天性の代表が福山型ですね)。


ちょうどこの点に関連して、もっと根本の部分に関する質問、「そもそも遺伝病とは?」というものもいただいていました。

ご紹介させていただきましょう。

Q2.筋ジストロフィー」は遺伝病なんだよね?そもそも、「病気」というのは、親からの遺伝ではないとしても、必ず遺伝子に異常が起こっているものなのか?

また、遺伝性の病気=親からの遺伝だとして、親からの遺伝以外は遺伝子に何かが起こることはないのか?…いやでも、以前「異常遺伝子の由来は、親からの遺伝だけじゃない」という話もあった気がするけど、あれは何のこと?

そもそも、遺伝子って、(病気のものでも)もってても発症しないこともあるんでしょ?(←筋ジス患者の母親とか。)それでも、子に病気が遺伝してしまう場合もあるって話だったけど、それって、絶対に遺伝だってわかるのか?親からの遺伝以外で変異したかもしれない可能性はゼロ?DNAを調べればわかるとかそのレベル?

さらに、「どの遺伝子がこうだからこれがうまく作用しなくて結果そんな症状になる」みたいな原因が解明されてない病気とかもあると思うんだけど、その場合でも、遺伝によるものかどうかとか、わかるのか?

書いてて自分でもややこしくなってきてしまったが、疑問点を大まかにまとめると、以下の2点…
「親からの遺伝以外の遺伝子の変異は遺伝病なのか?」
「親からの遺伝によるものでない病気の場合は(原因でなく結果としてでも)遺伝子は全く関係ないのか?」


⇒いただいた質問はやや改変して紹介させてもらってるので、もしかしたら意図されていた疑問から少しずれている可能性もあることにご注意いただきたいのですが、まずは病気全般から…。

病気には、「遺伝性の疾患」と「遺伝や遺伝子とは関係ない病気」の2種類があります。この内、前者の「遺伝性の病気」は、当然、遺伝子に異常が起こって引き起こされる病気ですね(っていうかそういう風に名前をつけてるだけだから当たり前すぎますが)。

例としては、これまで何度も触れていた筋ジスや、あと他にも高校生物で必ず触れる代表的な例として、同じく伴性遺伝の例で血友病、一方、常染色体上の遺伝子の例では、フェニルケトン尿症鎌状赤血球貧血症なんかが、どの遺伝子が原因かが完璧に判明している歴史ある症例なので、よく知られていますね。

じゃあ逆に、「遺伝や遺伝子とは関係ない病気」とは何か?

これはぶっちゃけ、健康な人が日常でかかるほとんどの病気がそうだといえましょう。

例えばインフルエンザとかは、遺伝子とはほぼ全く関係ない病気です。

発症の原因は、単純に、インフルエンザウイルスに感染してしまっただけですね。

この場合、遺伝・遺伝子はほぼ関係ありません(=どんな遺伝子を持ってる人でも、一定以上のウイルスに曝露されると発病。インフルは、ごく少量のウイルス粒子でも発症につながるといわれてます)。

…まぁ、「ほぼ」って何だよ、やっぱ例外があるのかよ、って話かもしれませんが、言い訳しておくと……
例えば全く同じことをしても(真冬の湖に飛び込むとか)、風邪を引く人もいれば引かない人もいるのと同様、インフルエンザにかかりやすいかかりにくいも恐らく若干の個人差はあって、「その個人差を生むのは、遺伝子なのではないの?」といわれたらそれを完全に否定することはできないので、あくまでも断言を避けただけですね。

間接的に若干の影響はあるかもしれないので「ほぼ」と書いたものの、直接的には、インフルエンザにかかるかからないには、遺伝子は全く関係ありません

活きのいいインフルエンザウイルスを大量に集めた塊でもぺロリといけば、どんな健康体の人でも、確実にインフルエンザにかかることができます!

他の例だと…まぁこれは病気というより怪我かもしれませんが、遺伝子は全く関係ない日常生活で病院に行く必要が生まれる例といえば、骨折とかもパッと思い浮かびました。

骨折は骨が折れるほどの衝撃を受けたら骨が折れる(これも当たり前すぎる、そのままですけど)というだけで、遺伝子とは直接は全く関係ない病気ですね(まぁ改めて、これは病気ではなく怪我かもしれませんけど)。

もちろん、骨を作る遺伝子というのは存在しますし、遺伝子によって折れやすい骨・折れにくい骨の人は確実にいると思いますが(もちろん、遺伝子よりも、運動量とか、栄養状態とかの方がより大きな影響があると思いますけどね)、どんなに健康な人でも、全力で走っている自転車で壁に激突とかしたら骨が折れますから、こういうのを遺伝病とはいわない、という話ですね。

…ですが、高齢になるとともに骨の密度が減ってきて骨が折れやすくなってしまうことで有名な骨粗しょう症、こちらは、明らかに「なりやすいなりにくい」に個人差があるものですから、こういうのですと、「遺伝子も密接に関連している病気」に分類されますね。

ただし、遺伝子が全てではなく、食事や運動といった生活習慣で十分予防も可能なタイプなので、遺伝的因子と環境因子の相互作用により発症する、多因子遺伝病といえましょう。

検索してみたら、骨粗しょう症の遺伝子について、ほんの2年前に、理研が新しい関連遺伝子を発見した、というニュースも目に付きました↓。

www.riken.jp

なので、何となく発症に大きく個人差がありそうなものは、基本的に遺伝性疾患の側面がある、といえるかもしれませんね。
(家族や親戚・先祖の既往歴が密接にかかわるタイプの病気は、確実に遺伝性疾患の一種といえましょう。)

ただし、クドいですが、こちらは筋ジスと違って遺伝子に異常があったら必ず発症するわけでも、遺伝子に変異がなかったらどんなにふざけた生活を送っても絶対に発症しないというわけでは決してないので、純粋な遺伝病というより、まさに環境因子も大きい「多因子遺伝病」といえる感じでしょう。


ご質問の方に話を戻すと、改めて、まずは「病気って、親からの遺伝ではないとしても、必ず遺伝子に異常が起こっているものなのか?」という点…。

病気は、必ずしも遺伝子が原因であるとは限らないし(どんな遺伝子の人でもインフルにかかる)、「病気になったら、必ず遺伝子に異常が起こっている」 ということも一切ありません

例えば風邪を引いた人の場合、「遺伝子が何かの原因で異常になってしまったから風邪を引いた」なんてことはありませんし(単に、「乾燥と低温で、のどが炎症を起こしてしまった」みたいな理由)、「引く前と引いた後で、遺伝子が変わってしまった」なんてこともありません、ということですね。

…と書くと、「『のどが炎症を起こした』というのは、遺伝子がおかしくなったわけじゃないの?」と思われるかもしれませんが、例えば思いっきり車にぶつかったら骨が砕けるのと同様(これを「遺伝子が異常だったせいで折れた」と思う人はいないはず)、劣悪な環境で組織が炎症を起こすのは、基本的には細菌やウイルスが悪さを起こした&免疫系がそれを退治することで舞台が戦場のように炎上した結果のものであり、別に遺伝子がおかしくなったとか変わったとかいうわけではありません。

…ただ、インフルエンザの場合、「遺伝子が変わる」わけではありませんが、かかる前と後であなたは確実に生まれ変わっており、ウイルスに感染した結果として、「免疫を獲得」します。

同じ型のインフルエンザにかかることがなくなるというのは、この、免疫によるものだという話ですね。

ただし、免疫を獲得しても、別に自分のもつDNA遺伝子が変わったわけではなく、なんていえばいいでしょうね、「そのインフルエンザウイルスに対する抗体を作るスイッチが入った」とでもいえば分かりやすいでしょうか。

…う~ん、何か話をややこしくしてるだけかな…?

まぁ、分かりやすくいえば、とりあえず、遺伝子自体は変わってません、でOKですね。


続いて、「親からの遺伝以外は遺伝子に何かが起こることはないのか?」ですが、これは、ズバリいえば「あります(ただし、確率は小さい)」ですね。

「親から正常遺伝子を受け継いでも、子が生まれて成長していくどこかのタイミングで、子供の細胞の中で異常遺伝子に変わってしまう」こともありますし、「親自身が正常遺伝子しかもっていなくても、生殖細胞が作られるときや体内で保存されている間に(=親の細胞の中で)、異常遺伝子に変わってしまう」ということも、当然あります。

(後者の場合は、ある意味「親から子供に異常遺伝子が遺伝した」となりますが、親自身の遺伝子が遺伝したわけではないですね。まさに、「突然変異」です。

 また、前者の場合は、親から遺伝したわけでは全くないので、これを「遺伝性疾患」というのも少し変な気がしますが、実際遺伝子の関わる病気には違いないので、原因が親からの遺伝ではなくても、「遺伝性疾患」と呼ばれるように思います。
 まぁ、そういう意味では「遺伝子疾患」の方がいいのではないか、って気もしますが、こんなのは単なるネーミングの違いだけですしね、あまりこだわらなくても良いポイントでしょう。)


話に聞いただけではイメージが浮かびづらいと思うんですけど、結局、遺伝子はいついかなるタイミングでも変異してしまう可能性があるのです。

というか、実際、ミス&エラーで頻繁に変わっています。

だから、「また後出しで、微妙に今までの話変更かよ!」となってしまって恐縮ですが、全身の何十兆個とある細胞の全てが同じ自分の遺伝子DNAを持ってると以前書きましたが、正確には、何らかの外的要因(紫外線や放射線を浴びすぎたとか)で、チョコチョコっと違うDNAになってしまっている細胞も、体内には普通に存在するわけです。

ただ、あまりにもヤベぇエラーとかですと、細胞の中には速やかにエラーを修復するメカニズムがあるので、正常なものに直されるか、簡単には直せないようなあまりにも大きい異常だと、その細胞は責任もって自殺して消え失せるなどして、そのエラーは体内から排除されます。

だから、自分が自分じゃなくなってしまうような変異は、基本的にはありません。

だけど、どうでもいいエラーについては見過ごされることもあるでしょうし(もちろん、基本的には常に修復されますけど)、何せ全部で30億文字もありますから、全細胞の全DNAが1文字の違いもなく完全に一致しているなんてことは、むしろ珍しい(というかあり得ない)でしょうね。
(でも、当然、他人のDNAと比較すれば、圧倒的に「ちょっと違っても、私のDNA」と言い切れるぐらいに、違いは少ない。)

その辺の、エラー修復とかのメカニズムや病気との関連についても、話せば長くなりますが、いつか触れる機会があれば見ておきたいですね。
(ただ、かなり複雑すぎるし、必要な前提知識も多くなるので、入門には向かない話かもしれません。)

 
…というところで、まだご質問の完全に途中で、続きはまだまだありますが、既に大分長いため、あんまり一気にまくし立ててもワケ分からんくなるのがオチですから、めちゃくちゃ中途半端ではありますけど、続きは次回にまわそうかと思います。

今回の部分でも、不明な点・よく分からん点などありましたら、どなたでもご指摘いただけると大変嬉しく思います。

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