続・質問への回答:なくなっちゃったらどーなるの?!

まぁただの「アミノ酸話」でお尋ねいただいた質問を中心に、自分で作った想定質問も交えてお送りするだけですが、質問もつまっているので、ガシガシ回答へと参りましょう。

Q4. お酒を分解してくれるタンパク質は517種類ものアミノ酸が結合してできてるとのことだけど、それはつまり、そもそも517種類のアミノ酸が体内にあるってことだよね?それは、なくなったりしないの?なくなったらどーする!?

A4. そこは微妙に勘違い!例のお酒分解酵素ALDH2517個アミノ酸が結合してできてるけど、実はほとんどが同じもので、合計20種類アミノ酸しか存在しないのです。

もちろん、いっぱい使われているアミノ酸もあれば、あんまり使われてないアミノ酸もあるけど、どれだけ巨大なタンパク質でも、わずか20種類のアミノ酸からできています。

ALDH2に使われているアミノ酸の内訳は、こんな感じでした。

(出てくる順番に)
メチオニン 10、ロイシン 37、
アルギニン 25、アラニン 55、
フェニルアラニン 25、グリシン 48、
プロリン 25、セリン 23、
チロシン 28、グルタミン 26、
バリン 46、アスパラギン 21、
グルタミン酸 27、システイン 9、
イソロイシン 25、トリプトファン 7、
ヒスチジン 6、アスパラギン酸 28、
リシン 29、チロシン 17

最少のヒスチジンは517アミノ酸中6個、最多のアラニンで55個も使われている感じですね。

そんな感じで、どれだけ巨大なタンパク質でも、たった20種類のアミノ酸からできています。

たった20個のものを組み合わせて、髪の毛(ケラチンなど)ができたり、目玉(クリスタリンなど)ができたり、お酒を分解する酵素ができたり、他にはクラゲが海の中でぼんやり光るのとか、あれも実はタンパク質が光ってるんですが(GFPという、研究者の間でドチャクソ有名でよく使われるタンパク質。これの発見で、下村脩さんが2008年にノーベル賞を受賞しました)…

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下村さんのWikipediaより、光るクラゲ

全く同じ20種類しかないものをただつなげていくだけで、髪になったり目玉になったり肌になったり爪になったり筋肉になったり酒を分解したり油を分解したり、あまつさえ光ったり、そんなことある?どんな有能なレゴブロックよ?……と思うんですが、マジで現実にあり得てるから困る、スゴすぎるぜタンパク質!…ってなもんなわけです。

質問に戻ると、もちろん、「タンパク質を作るのには使われない」アミノ酸も体内にはあるので、「体の中にあるアミノ酸は20種類のみ」というわけではありませんが、まぁ多分体の中で使われているのは、合計100種類もないと思います。

…が、たとえ20種類とかそこらでも、「なくならないの?」というのはごもっともな質問です。

もちろん、使えばなくなりますよね。当たり前です。ものを作ったら、その材料は減っていきます。

じゃあ何でなくならないの?というのは、これはもう当たり前すぎる話で、食事をしているからの一言に尽きます。

僕たちは食事をすることで、外からタンパク質つまりアミノ酸を補給することができるんですね。

逆にいえば、タンパク質を作る材料=アミノ酸がなくなっちゃわないように、常に、毎日食事で栄養補給をし続けている(する必要がある)という風にもいえましょう。

結局、生きるというのは、タンパク質を合成し続けるということに他ならないんですね。


では、アミノ酸がなくなっちゃったらどうなるのか?

もちろん、完全になくなることなんてあり得ないんですけど(アミノ酸が0=タンパク質が0=皮膚が存在しない・筋肉が存在しない・骨が存在しない・血液が存在しない=人間の形を保っていない!)、体の中で使えるアミノ酸が減ってきたら(そして、それなのに食事によって必要なアミノ酸が全く供給されてこなかったら)、自分の持ってるタンパク質を分解して、アミノ酸をゲットすることになりますね。

タンパク質はもう何度も書いてる通りめちゃくちゃ色んな機能を持つバラエティ色豊かで有能なヤツですが、酸素を運ぶヘモグロビンのような、不足したら即命の危険につながるやつら以外にも、とりあえず少しぐらい減らしても生きるのには問題ないものもあるわけです。

そういうものの内、全身の至る所にあって使いやすいという点からも、代表的なものは筋肉でしょう。

つまり、アミノ酸が不足すると、筋肉など(生命を維持する上では)割とどうでもいいものが分解されて、もっと重要なヘモグロビンとかインスリン(血糖値調整)とかシトクロム(呼吸からエネルギーを生み出すのに必要)とか、生きる上でめちゃ大切なタンパク質を合成するために、アミノ酸が供給されることになります。

だから、ボディービルダーの方(のみならず、筋トレを頑張っている人)は、自分の筋肉が勝手に分解されてしまわないように、たっぷりタンパク質・アミノ酸を摂取しまくる必要があるんですね。

筋肉自体の維持にも当然アミノ酸が大量に必要ですから、筋肉を増やせば増やすほど、体全体で必要なアミノ酸の量もガンガン増えていって、それを維持するのに必要な食事も大量になっていく…というのは、全くもって容易にイメージできることかと思います。

増大した筋肉を維持するのだけでもめちゃくちゃコストがかかりますから、運動量や摂取タンパク質量から総合的に鑑みて、体内に不必要と判断された筋肉はすぐに不良債権的な扱いになり、あっさりと分解されてしまうわけです。

鍛えれば筋肉は増やせますが、無限に増やし続けることが物理的のみならず生理的にも難しいのは、そういう理屈もあるってことですね。


ということで、「アミノ酸は、なくなったりしないの?」というご質問に対する答は、そんな感じでしょうか。

元々は「500種類以上もアミノ酸があるなら、何かの間違いで1つぐらい足らなくなったりしないの?」という意図のご質問だったのかもしれませんが、幸いタンパク質はたった20個のアミノ酸でできてますからね、どんなタンパク質にも、基本的にどのアミノ酸も全種類含まれていますから、しっかりタンパク質を摂っていれば、特定のアミノ酸がなくなってしまうなんてことはないでしょう。


また、いくつかのアミノ酸は、別のもの(似た形のもの)から自分で合成することも可能です。そういうものは、足りなくなったら、(筋肉を分解とか自己犠牲しなくても)別の豊富にあるアミノ酸などから合成して補充することはできますね。

逆にいえば、「自分では決して合成できないので、絶対にそのアミノ酸そのものを摂取しなければいけない」というものも存在します。

それが、恐らくどこかで耳にされたことがあるでしょう、必須アミノ酸と呼ばれるグループですね。

具体的には、20種類中、以下の9種類必須アミノ酸です。

スレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、リシン、ヒスチジチン、メチオニンフェニルアラニントリプトファン

一応、この9種類を大量に飲み続ければ理論上アミノ酸が足らなくなる事態には決してなりませんが、いうまでもなく、わざわざ似てるものから合成するより直接そのものを摂取した方が余計な手間もなく使えますし、別に非必須アミノ酸をあえて避けるメリットも一切ないので、普通に肉魚豆牛乳といったタンパク質を普通に摂取するのが最善でしょう。

先ほども書いた通り、アミノ酸の欠乏を心配する必要は、豊富な栄養に恵まれている現代人の生活においては、皆無といえるように思います。

Q5. 「タンパク質に使われるアミノ酸は20種類のみ」って、何で言い切れるの?お前はこの世に存在する全部のタンパク質を見たのか!?

A5. 全部は見てないし、こないだも1回チラッと書いた通り、まだ何かの生物が持つ未知のタンパク質とかはいくらでも存在すると思うけど、それもほぼ間違いなく、20種類のアミノ酸からのみできていると断言できます。

なぜならば、「タンパク質の合成方法」から考えて、絶対にそうならざるを得ないとしかいえないからです。

つまりこういうことです。

DNAが「『タンパク質を作るための、アミノ酸をつなげる順番』の設計書になっている」と以前書きましたが、これは、

「1つ目はメチオニン、2つ目はロイシン、3つ目は…うーん、アルギニンをつなげよう!4番目はそうだな、ちょっと奇をてらって、誰も使ったことのない、ナイギニン(=今作った、架空の「ない」アミノ酸)でもくっつけてみよっか!」

…みたいに、ランダムにアミノ酸の名前をポンポン挙げているのではなく、そこには厳密なルールがあるのです。

これは高校生物で習う話になりますが、DNAというのは、3つの分子で1つのアミノ酸を指定することが分かっています。

そして、タンパク質が20種類のアミノ酸がつながってできていたように、DNAは、わずか4種類の分子がつながってできています。
(なので、DNAもタンパク質と全く同じで、1つのブロックがひたすらつながった形のものになっている=高分子なんですね。)

こちらはアミノ酸と違って、恐らく聞いたことない名前だと思いますが、そのDNAを構成する4つの分子とは、

アデニン (A)、シトシン (C)、グアニン (G)、チミン (T)

の4種類になります。

ちょっとややこしいかもしれませんが、改めてまとめると、

DNAはたった4種類の構成ブロックしかなく、そのブロックを3つ並べたものが、1つのアミノ酸を指定している

…という形になっているわけですね。

つまり例えば、DNAの一番最初がA、次にT、その次にGがつながっていたら、これはATGという並びになりますが、このATGはメチオニンを取り込む」という決まりになっているのです。

誰が決めたかは知りません。ルールというのはそういうものです。

神様が決めたともいえますし、「517個のアミノ酸をあの順番で並べると、お酒を分解する酵素爆誕する」というのと全く同じで、「何か知らんけど、この世界はそういうふうにできている」ともいえましょう。

そして、このDNAの鎖が、ATGに続いて、TTGCGCとつながっていたとすると、メチオニンの次に、TTGで指定されるアミノ酸=ロイシンが、その次にCGCで指定されるアミノ酸=アルギニンが、順番につながっていく…という仕組みってことですね。

ちなみに、ATGTTGCGC…は、例のお酒飲み用酵素ALDH2の最初の12個のDNAの並び順です。
(もちろんこの後517番目のセリンを指定するTCAまで、517×3=1551個のA/C/G/Tがズラ~っと並んでいます。この1551個の塊を、僕たちはALDH2の遺伝子」と呼んでいるんですね。)

この「アミノ酸3文字指定」は、人間のみならず、鳥さんも、豚さんも、それどころかミジンコや大腸菌みたいなゴミカス同然の単細胞ですら同じルールに従って、同じアミノ酸が指定されているのです。

このDNA3文字を、遺伝暗号=「コドン」というので、そのルールは、以下のコドン表という形でまとめられます。

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見やすくまとまっていた、高分子学会の子供向け記事より

左が1文字目、上で2文字目、最後右から3文字目を選ぶことで、その3文字がどのアミノ酸を指定しているかが分かる優れものです。

ATGであればメチオニン、TTGであればロイシンという感じですね。

このように、4種類の文字が3つ=合計64通りの指定方法がありますが、全てどのアミノ酸を指定するかが決まっているので、「ん~、ここで意表をついて、ナイギニンをひとつまみ(笑)」とか勝手なことはできないようになっているんですね。

一応、ごくごく一部、微妙にこのコドン表とずれるルールを使っている生物もいますが、それでも、ちょっと指定ルールがずれているだけで、20種類のアミノ酸のどれかを指定することには違いありません(そして、「停止」とあるように、「アミノ酸の取り込み、終わりです!」という命令も、ちゃんと存在します。面白いですね!)。
(更にいうと、微っ妙~に違う形のアミノ酸システインが、ほんのちょっとだけ変わったセレノシステインというもの)が、ごくごく一部の特別な細菌に、ごくごく特殊な状況だけで使われていることも知られていますが、特殊な例として今回は無視しましょう。)

もし、このルールを完全に無視して、全く違う未知のアミノ酸・ナイギニンを使っている生物(未知のアミノ酸じゃなくて、知られているものでも、この20種類とは全然違うもの)を見つけたら、世紀の大発見、ノーベル賞級の偉業といえましょう。

人間から大腸菌まで皆このルールに従っているし、これまで見つけられた生物が作るタンパク質数万数十万種類は全てこのDNAのルールに従い、20種類のアミノ酸のみで作られていますから、基本的に「生物の作るタンパク質は、20種類のアミノ酸でできている」と断言して構わないと思われる、という感じですね。


…と、わずか2質問のみと、相変わらず遅々として進みませんでしたが、個人的にはこういうことを語るのも結構面白いので、いただいた質問を順に、嬉々として進めさせていただこうと思います。

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